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サプライチェーンで進む「日本レス化」を防げ
目覚めよサプライチェーン
2017年3月22日(水)
牧野 直哉
(写真:つのだよしお/アフロ)
3月15日、一部の新聞が、シャープが液晶テレビの亀山工場での生産を2018年に終了させると報じた。同日シャープ首脳は、亀山工場で生産した液晶パネルを使って、80型以上の大型液晶テレビの生産体制を維持する方針を明らかにし、国内生産の撤退を伝えた一部新聞の報道を否定した。このニュースが大きく報じられた背景には、すべての日本企業が抱え、根本的に解決しなければならない問題がある。グローバルに展開するサプライチェーンにおける「日本レス化」だ。
アメリカも直面した問題
サプライチェーンから「レス化」される問題は、何も日本にだけ起こっているわけではない。アメリカのトランプ大統領も、サプライチェーン上におけるアメリカ国内にある様々なリソースの位置づけが弱まっている状況にストップをかけようとしている。アメリカはITの進化によって新興企業が次々と誕生し、もっともグローバルサプライチェーンの恩恵を享受してきた国だ。
しかし、自国以外の安価な労働力に代表されるリソースを活用して発展した結果、国内消費を支える中間層の仕事が奪われ、失業率の上昇によって購買力が減退した。企業は減退した消費者に応えるために、より安さを求めて更に安い人件費の国へと進出する。グローバル化とは、企業展開の自転車操業の様相を表しているかのようだ。走り続けないと、企業の発展はストップしてしまうのだ。
働き方改革の影で欠かせないこと
同じく国内の高コスト化によって、中間層の所得水準の低下に悩む日本。現在具体化しつつある「働き方改革」で実現を目指す様々な施策によって人件費負担がアップし、高コスト化を是正するより拍車をかける可能性がある。それでもなお「働き方改革」を推し進めるのは、人々が使えるお金と時間を増やし、個人消費を喚起した結果で実現する日本経済の浮揚だ。しかし、想定されるプロセスには、極めて実現の難しい課題が山積みしている。中でも、国内に存在する企業のリソースを、サプライチェーンの中でどのように維持・活用するかが最大の課題である。
冒頭の例でシャープは、80型以上の大型液晶テレビの生産体制を亀山工場で維持するとしている。JEITA(電子情報技術産業協会)が毎月発表している薄型テレビの2017年1月の国内出荷実績を参照すると、販売全体に占める50型以上のテレビの出荷数割合は18%となっている。売れ筋はひとつ小さいカテゴリーの37型から49型だ。亀山工場で生産する80型は、価格.comでも1台130万円以上(3月22日現在)、1インチ当たり単価でも60型と比較して5倍以上の販売価格だ。現時点での価格から判断すれば、80型より大きなテレビを亀山工場で生産する決定は妥当かもしれない。
しかし、2014年以降同社を襲った経営危機は、想定よりもはるかに速いスピードで起こった液晶テレビの価格下落によって、莫大な投資の回収が大きな負担になったのが1つの要因だ。今後80型以上のテレビの価格が現状を維持するのか。それとも、より小さなサイズと同じインチ当たり単価に近づいてゆくのか。今回報じられた内容を否定したシャープは、亀山工場で生産する妥当性を追及し、より高い付加価値を創出して価格維持に努めるか、価格競争に勝ち残る妙案を見つけなければならない。シャープが構築する液晶テレビのサプライチェーンで、亀山工場が生み出す価値を維持・拡大しなければ、今回の報道がいつか到来する未来を予見する記事になってしまう。
サプライチェーン上で不可欠な役割とは
シャープに限らず、高い人件費で悩む日本国内の工場が、サプライチェーンの中で自社の役割を維持するのは至難の業だ。外国為替レートが円高から円安基調へと移行した2014年以降、円安によってドル評価したときの日本の人件費負担が相対的に減少した。この環境変化によって日本国内に生産回帰の期待が高まった。
しかし、ただ人件費が安くなったからといって、海外へ流出した工場が国内へ戻ってはこない。国内へ工場を回帰させるには、サプライチェーン上でどのような価値を生み出すか。国内工場に従来にはなかった新たな価値が必要だ。事実、サプライチェーンから日本がレスされないように、必死に踏ん張っている例もある。
国内生産回帰で見えた変化
2015年に日本国内への生産回帰の機運がにわかに沸き起こった。当時大きく報じられた企業の共通点は、サプライチェーンにおける自社の国内工場の役割を再定義する動きだ。キヤノンの場合、当時国内と海外の生産比率40対60を3年かけて逆転させる計画を公表した。国内の生産比率が40%から60%へ拡大すれば国内雇用が増える、そう考えるのは早計だ。キヤノンが増やす20%の国内生産の目玉は「無人工場」にある。人件費の変動による影響を減少させ生産の国内回帰を実現させる。
TDKでは、秋田の工場をグローバル展開に必要なノウハウの開発と蓄積を行う「マザー工場」として位置づけた。これまで日本国内の生産で培ってきたノウハウを使って、更に高い生産技術を獲得するための拠点にするのだ。
両社の場合、取り組みは違っても根底にある考え方は共通している。サプライチェーンに、国内のリソースを従来とは違う方法で組み込み、あるいは活用する点だ。生産方法を見直して、サプライチェーンに直接組み込める拠点か、サプライチェーンの高度化をサポートするノウハウを生み出す拠点の違いだ。国内の拠点をサプライチェーンに積極的に組み込むには、明確なビジョンに裏打ちされた取り組みが不可欠だ。新たな取り組みには、様々な障害やリスクがある。しかし、自ら違いを打ち出した行動こそ、競合他社と比較した優位性の源泉になるはずだ。
キヤノンやTDKが実践している無人工場や高度な生産方法の適用範囲が広がれば、現在の新興国の経済が発展し人件費が高騰しても、相応のアウトプットが可能になる可能性が出てくる。自転車操業的なグローバル展開を終演させるためにも、人件費が高騰し生産リソースを海外へ移転させる場合、日本をコピーするだけではダメなのだ。日本が経済的に発展し人件費アップによって労働者の生活が豊かになるプロセスは、新興国でも同じように発生する。であるならば、今日本で起こっている問題は、将来的に現在の新興国で同じように発生する。また別の新興国を探すのか、それとも新たな生産方法で乗り切るのか。現在の場所にとどまって、難局を乗り切る方法論があってもよいはずだ。
働き方改革が労働者におよぼす影響の本質
変化する経営環境に適応するために、企業で働く労働者にも変化が必要だ。働き方改革の本質は、単位時間当たりに創出する付加価値アップだ。今の同じ業務内容で、残業時間が減って、給料がアップするはずがない。同じ仕事だったら、給料は減少するだろう。今まで1時間かかった仕事を30分でやるための方法論の発見や、仕組みの構築が不可欠である。1時間かかっていた仕事を10分でできれば、1/6の人件費の国と競争できる。そういった競争力を維持できる新たな労働の姿を生みださなければ、真の働き方改革は実現しないのだ。
経営環境の変化によって、これまで企業はより人件費の安い立地を求めて海外進出を繰り返してきた。海外進出して収益をあげ日本企業として生き残る手段もあるだろう。しかし、進出先は有限だ。日本は人口が減少するといっても、最新の推計では2060年に8674万人もの人々が暮らす国だ。安い人件費で雇い入れられる労働力を求め続ける自転車操業のグローバル展開に終止符を打つためにも、国内のリソースを活用する道を探ることこそ今、日本企業に求められ、サプライチェーンの日本レス化を防止する手段となり得るのだ。
このコラムについて
目覚めよサプライチェーン
自動車業界では、トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車。電機メーカーでは、ソニー、パナソニック、シャープ、東芝、三菱電機、日立製作所。これら企業が「The 日系企業」であり、「The ものづくり」の代表だった。それが、現在では、アップルやサムスン、フォックスコンなどが、ネオ製造業として台頭している。また、P&G、ウォルマート、ジョンソン・アンド・ジョンソンが製造業以上にすぐれたサプライチェーンを構築したり、IBM、ヒューレット・パッカードがBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を開始したりと、これまでのパラダイムを外れた事象が次々と出てきている。海外での先端の、「ものづくり」、「サプライチェーン」、そして製造業の将来はどう報じられているのか。本コラムでは、海外のニュースを紹介する。そして、著者が主領域とする調達・購買・サプライチェーン領域の知識も織り込みながら、日本メーカーへのヒントをお渡しする。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/258308/032100072/?ST=print
佐川だけじゃない。運送会社の「駐禁地獄」
物流パニック
94人の運転手を抱える運送会社が年49回の駐車違反も
2017年3月22日(水)
大西 孝弘
佐川急便では、2016年度、駐車違反の身代わり出頭事件で106人の従業員が立件された。94人の運送会社で年49回の駐車違反の取り締まりを受けたケースもある。法令順守と現実の配送業務の狭間で、運送会社は苦しんでいる。
佐川急便が駐車違反で揺れている。
2016年度、駐車違反の身代わり出頭事件で、106人の従業員が立件された。100人を超える従業員が立件されるのは異常事態だ。
駐車違反問題は配送会社の経営課題となっている(写真と本文は関係ありません)
同社は東京都23区内に配送関連の営業所が32カ所ある。そのうち、9カ所で身代わり出頭が発覚しており、問題が会社全体に広がっている。
駐車違反の取り締まりを受けると運転手が出頭して納付するか、所有者が反則金を納付しなければならない。佐川急便ではペナルティーとして内勤に異動となるケースがあるため、それを避けるために、知人などに身代わり出頭を依頼していたようだ。同社の従業員は、犯人隠避や同教唆の疑いで逮捕されている。
佐川急便は昨年12月、以下のコメントを出した。「今後、同様の事案が発生しないよう全社一丸となって再発防止に取り組むとともに、従業員教育の再徹底を図ってまいります」。
身代わり出頭は許されない行為ではあるが、佐川急便は自転車や台車ではなくトラックで宅配するケースが多いため、駐車違反の対象になりやすい事情がある。
そして、営業用トラックの駐車違反は、佐川急便だけでなく多くの運送会社が悩んでいる問題でもある。
駐車違反の罰金が年100万円以上に
酒類の集配を担うワタコー(東京・葛飾)も、駐車違反に苦しんでいる運送会社だ。同社は2006年度以降、駐車違反の件数が増え、多い年では49件の駐車違反を受けている。
同社は94人の運転手と100台ほどのトラックを抱える。大型車の駐車違反の罰金は2万1000円であり、年49回の違反では100万円以上の負担となる。
渡邊直人社長は「1度の違反で1日の運賃がほぼ飛んでしまう。経営の大きな負担になっている」と話す。また、後述のように“狙い撃ち”される恐れがあるため、駐車違反になったトラックについては稼働を減らすケースがあり、まさに「駐禁地獄」のような状況だという。
ワタコーの従業員は、こうしたトラックに乗って東京の繁華街に酒類を届けている
同社は東京の銀座、赤坂、六本木の酒屋や飲食店に酒類を配送している。いずれも繁華街のど真ん中に立地しており、駐車スペースがほとんどない。
飲食店に酒類を運んでいる間に、駐車監視員によって、配送トラックに駐車違反のステッカーを貼られることが多い。同じルートを回っているため、狙い撃ちされるケースもあるという。
例えば銀座でのこと。トラックから降りて、ビルの中の飲食店に酒類を届けるためにエレベーターに乗り、外を見た時にトラックに近づく駐車監視員の姿を確認。慌てて戻ったものの、駐車違反を回避することはできなかった。
道路交通法では運転手がそのクルマを離れていて、直ちに運転できない状態にあるものを放置車両とし、駐車違反の対象としている。
同乗者が運転できる体制でいれば違反にはならないが、2人の配送体制にすれば人件費が2倍になってしまう。また、1日40〜50件を回るため、1件ずつ配送先から離れた駐車場に停めるのは業務効率や採算性を考えると現実的ではないという。
当初はダッシュボードの上に、配送先とすぐに戻る旨を書いた紙を置いていたが、“抑止効果”はほとんどなかったという。
「大前提として駐車違反による交通事故を減らすことには協力したい。しかし、繁華街に酒類を届けるという業務内容からして、現実的には抜本的な対策を取るのが難しい」と渡邊社長は語る。
東京都トラック協会が緩和を要望
駐車違反は運送会社にとって共通の悩みとも言える。
東京都トラック協会が会員各社を対象に実施したアンケートでは、2014年に駐車違反の取り締まりを受けた企業は825社で、回答のあった企業の約半数だった。
東京都トラック協会は「日常の集配業務に大きな支障を来す状態が続いている」として、東京都議会や警視庁などに営業用トラックに対する駐車規制の見直し、緩和を訴えてきた。しかし、状況はほとんど変わっていない。
東京都の荒川区、世田谷区、杉並区、足立区の4地域の商店街連合会と、「駐車規制緩和区間」の設置などに関する協議会を開催したこともある。
実際に、警視庁は荷さばき車両に配慮した駐車規制緩和区間などを設けている。しかし、運送会社からすると区間が限られており、根本的な解決には至っていない。
駐車場がないコンビニの納品も問題あり
実は、コンビニエンスストアへの納品も駐車違反のリスクが高い。郊外や地方のように駐車場があるコンビニは問題がないが、都心部のコンビニには駐車場がない。
店の前にトラックを停めて納品するケースが多いが、厳密にとらえれば、駐車違反の可能性がある。
これまでは業務用の配送トラックや個人宅向けの宅配トラックが駐車違反で問題となってきた。今後はコンビニ向けがクローズアップされるかもしれない。
駐車違反は重大事故の原因となるため、取り締まりは不可欠だ。駐車違反と物流の効率化をどのように両立すべきか。まだ、解は見出せていない。
情報をお寄せください。
物流現場の労働負荷が高まっています。
ネット通販が急増する一方、働き手が増えず、物流インフラを支えることが限界に近づいています。賃金や労働環境はなかなか改善しません。こうした物流現場の実態が分からなければ、社会的な理解は進まないのではないでしょうか。
そこで「日経ビジネス」では、読者の皆様からの情報をお待ちしています。宅配や倉庫など物流現場の実態や、物流パニックへのご意見など幅広い情報をお寄せ下さい。
アクセス先 https://aida.nikkeibp.co.jp/Q/R028400d5.html
取材源の秘匿は報道の鉄則です。そのため所属機関のパソコンおよび支給された携帯電話などからアクセスするのはおやめください。
郵送でも情報をお受けします。
〒108-8646
東京都港区白金1-17-3
日経BP社「日経ビジネス」編集部「物流パニック取材班」
※送られた資料は返却しません。あらかじめご了承ください。
このコラムについて
物流パニック
物流の現場が悲鳴を上げている。ネット通販の急増で宅配便の取り扱い個数が急増するなか、人手不足が深刻で宅配現場の労働負荷が急速に高まっている。長距離のトラック運転手が不足しているため、荷物の幹線輸送も維持が難しい状況だ。
一方、物流需要の急増はビジネスチャンスでもある。ネット通販の拡大に対応して、物流倉庫の建設ラッシュに沸く。人工知能やロボットの活用で、効率的な物流システムを構築する動きも進んでいる。
経済の大動脈である物流の現場は今、どうなっているのか。課題の検証と共に各社の取り組みを追う。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/030300119/032100006/
営業に効く「妄想力」は小説の悪役に学ぶといい
お悩み相談〜上田準二の“元気”のレシピ
2017年3月22日(水)
上田 準二
コンビニ大手ファミリーマートで発揮した優れた経営手腕のみならず、料理、読書、麻雀、釣り、ゴルフと、多彩な趣味を持つ上田準二さん。ユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長を退任し、取締役相談役となった今だから語れる秘蔵の経験や体験を基に、上田さんが若者からシニアまで、どんな悩みにも答えます。上田さんの波乱万丈の人生を聞けば、誰もがきっと“元気”になる。連載4回目の相談は、営業がうまくできないという、25歳、男性会社員の悩み。
悩み:営業に配属されて3年ですが、未だに取引先の懐に飛び込めません
私は理系で、研究職や開発職を志望していたのですが、なぜか営業に配属されてしまい、既に3年が過ぎました。しかし、未だに取引先と親しくなれず、接待の飲み会でも話を盛り上げることができません。当然、営業成績も伸びません。自分なりに業界のことを勉強したり、足繁く取引先を訪問したりしているのですが。ここで逃げたら負け犬になるので、もうすこし頑張りたいのですが、どうしたら取引先の懐に入り込めるのでしょうか。
25歳 男性(会社員)
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。趣味は麻雀、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。(写真:的野弘路)
大竹剛(日経ビジネス):研究職を志望していたのに営業に配属となり、さぞかし、戸惑ったことでしょうね。営業成績が上がらなければ、なおさらでしょう。それでも、「ここで逃げたら負け犬になる。もう少し頑張りたい」と、前向きです。上田さん、こんな部下がいたら、どうやって励ましますか。
上田準二(ユニー・ファミリーマートホールディングス取締役相談役):ぜひ、頑張ってほしいですね。前回も少し話しましたが、僕は伊藤忠商事に入社して2年目に、大阪に配属になりました。初めての営業です。当時、まだマーケットが小さかった輸入牛肉の販売で、ほとんどが新規のお客さん。ホテル、レストラン、スーパーでも輸入牛肉はなかなか置いてない時代でしたから、もうほぼ全部が新規の取引先ですよね。だけど相手があっての取引だから、とにかく手当たり次第、営業に行きませんでした。でも、それはうまくいきませんでしたよ。
大竹:手当たり次第、行ったんですか。
上田:ええ、手当たり次第。ただし、ちゃんと企業情報だとかで、どれだけの取扱高があるかとかは、もちろん調べましたよ。食肉市場に行って、東京なら芝浦の食肉市場のような場所ですよね、そこには大手の食肉問屋がみんな競りに来ているわけです。だいたい、そこでたくさん競り落としているのは大きな会社の社長さんだろうと見当を付けて、勝手に名刺を出して、手当たり次第に「社長!」と声を掛けていまいた。
大竹:相手が誰だろうと「社長」だなんて、ずいぶんと適当ですが、なんだか上田さんらしい。
上田:そうそう、もう口癖になっちゃった。しまいには、お客さんなら誰にでも、「社長さん、元気ですか」と聞くようになっちゃた。
それでも、相手はものすごく怖い人も多いわけです。強面で、何を言っても、うんともすんとも言ってくれない人も多かった。話を聞いてくれても、そんなものはうちは取り扱わんと、けんもほろろで、うまくいかない。今回、悩みを寄せてくれたこの方は、今、ちょうどそんな段階だと思うんですね。
まずは、もう少し頑張って、毎日、取引先のところに行ってみてください。セールストークができなくても、とにかく行ってみてください。
大竹:とにかく行くんですか。ネットもスマホも普及しているのに、あまり合理的な営業には思えません、と若者には支持されなそうです。
上田:いいから、とにかく会いに行くんですよ。しまいには、お客さんの方から、「お前、何を言いたいんだよ」と言ってくる。こうなったらもう、そこから話が進みますから。
それともう1つ、営業はとにかく自分がいろいろな売り込みの資料を作って持っていくでしょう。それを一方的にしゃべって、こうだ、こうだと。それで分かってくれる人もいるかもしれませんが、だいたいはそれだけでは、長い付き合いに発展しない。まず聞き上手にならないと。
大竹:売りたいものを売り込むより、まずは聞くことが大事だということですか。
上田:その点で、僕みたいな東北出身者は聞き上手なのよ。田舎人は聞き上手だから。
ずっと無視されていたのに、「何しに来た」と言われたのなら、相手が自分に関心を持ってくれた証拠。何の話で来たのかというポイントを伝えたら、きっと、相手はいろいろと話してくる。そうなったら、チャンスですよ。相手が話し始めたら、それを途中で遮って、「私の方の条件はこうです」みたいなことは言ってはいけない。営業とは、そういうことではないの。「俺のところはこんなにこんなに困っているんだ」とか、何だかんだ従業員の問題とか奥さんとの関係とかまで話してくれるまで、とにかく聞く。
そこまで話してくれるようになると、今度は向こうから電話がかかって来ますよ。今日、来てくれと。しまいには奥さんからも電話がかかってくるようになる。「うちの主人はこの1週間、ずっとヒステリー状態です」とか。「従業員もピリピリしていますから、上田さん、来てくれませんか」とか。特に商談がなくても、そう言われれば、まあ、行きますよね。そうすると向こうはいろいろ話しかけてくるわけですよ。ときには夫婦関係の悩みまで。
大竹:でも、そこまでプライベートなことを話してもらうように聞き上手になるのも、なかなか難しいですよね。記者の私も、常に苦労してます。
上田:四の五の言わずに、とにかく聞く、聞くんですよ。でも、聞き方ってものもある。例えば僕だったら、「社長さん、それはこうじゃないですか?僕だったらこう思いますけどね」とか、自分だったらこう判断するということを、さりげなくポンポンと打ち返すんです。そうすると、相手はすっきりするんですよ。僕の言ったことを参考にするかは別にして、とにかく合いの手を入れて全部吐き出してもらう。社長にとって社員や家族は常に身の回りにいる存在だから、判断基準の幅は狭いんです。全く違う立ち位置からの意見を聞くと、「なるほど」と思ってくれることもあるんですよ。
大竹:私だったらこうします、と言うときに、何か気の利いたことを言わなきゃと悩んでしまいそうです。
上田:そんな必要は、まったくない。見当はずれでも、とんちんかんのことを言ってもいいんです。仕事上の自分の判断や思い込み、それから家庭の問題にしたって、全く別の意見が出てくると、自分だけで凝り固まっている価値判断でやっていたのが、必ずしもよくはないというようなことを感じるはずなんですよ。
大竹:病院でいうと、セカンドオピニオンみたいな感じですかね。
上田:ただし、何でもいいと言っても、何も考えていない奴は何にも言えないですよね。そこで大切なのが、読書ですよ。僕は本が好きだったから、本を読んで心に響いたことが頭の中の引き出しにたくさん入っている。本といっても、ビジネス書や学習書ではないですよ。主には小説です。小説のタイトルとか作者とかをしっかり記憶しているわけではないけれど、そこで心に残っていたものがぱっと会話の中に出てくると、相手に響くこともあるわけです。「上田、それは違うぞ」と言われても、またそれに対する意見も引き出しの中から浮かんでくる。なんぼでも出てくるんです。
読書の蓄積は大きいですよ。100冊の本は100人の人生、1000冊の本は1000人の人生を経験すると言いますよね。生きている間に経験できる人生には限りがあるけれども、本だったら100冊は100回の人生、1000冊の本を読んだら1000人の人生を体験できる。主役だけじゃなくて脇役まで入れたら、1000人じゃきかないですよ。
だいたい読書をするときは、主役に自己投影することが多いですよね。歴史上の偉大な人物だとか、芸術家、科学者、哲学者、いろいろありますね。でも僕は、成功していく主人公の話より、どちらかというと脇役、特に挫折していく敗残者とか悪党とかに自己投影するんです。
悪党だったら、こいつは悪党やな、だけど、こんな考えでやったら、いずれにこういう結末が来るぞとか。
大竹:だんだんと、上田さんが悪人顔に見えてきました。。。
上田:僕はやっぱりそういうのが好きなんだよ。脇役もこういう考え方をしたら、これよりも成功する、上に行けたはずだとか、ここの部分がターニングポイントだったなとか。脇役に自己投影しながら、やっぱりこういうふうになってはいけない、何で相手が勝利者なんだろうかとか、そういうのを常に考えながら本を読む。脇役における喜怒哀楽、哀愁、失恋とかが好きなんです。
大竹:本を読んだ時の妄想が、取引先の悩みを聞いた時に生きてくるんですね。
上田:妄想しておくと、会話の中に何か出るんですよね。ただ、そんなことはなかなか難しいよと、相談してきた彼は言うかもしれないですよね。だから、大切なのは、まずは気の利いたことを言えなくてもいいと、開き直ることです。とにかく、相づちを打つ。「それは困ったものですね〜」とか、「そこまでご苦労されたんですか!」とか、「それは本当にうまくいったんですね」とか。これだけでも、相手は営業マンに対して親近感、信頼感を持ちます。
「いや、社長さん、すごいですね。そんな大変だったんですね。今も大変なんですよね。だけど、それほど大変なものを抱えながら、これだけの経営実績、事業を拡大していったのは、社長さん、すごいですね」
こんなこと言われた方は、自分はダメだな、ダメだなと思っていたけど、俺にはそういうことを抱えても、これだけやっているんだ、という元気が湧いてきますよ。もっと頑張ろうと思って、前向きに、気が大きくなってくる。そういう時を見計らって、「ところで、来月の牛肉は何トンにしましょう」と聞けば、「おお、50トン。どーんと買ってやるで」となるわけです。
大竹:乗せといて、気持ち良くなったところで、初めて、営業マンとしての本題を切り出す(笑)。
上田:人聞きが悪い!乗せるんじゃなくて、寄り添うの。必死に営業をしに行って、取引条件をだーっと、とにかくしゃべって取引が成立すると思ってはダメ。競争相手だっていっぱい来ているわけだから。だいたい条件というのは、競争相手とそんな大きな差はないものなんです。例えば、保険の勧誘は自宅まで来て、何かとわーっといろいろしゃべるでしょう。でも、しゃべった内容を聞いて、そこに加入するかという判断するというのはまずあり得ないよね。結局、そこで加入するかは、この人がどれだけ自分の質問に答えてくれたかどうか、自分が気にしていることに答えてくれたかどうかでしょう。
だから、質問者の彼には、まず一生懸命、相手に会いに行くこと。そして、だーっと説明して商売を取ろうと思うのではなく、相手に寄り添う。ビジネスの話だけではなくて、相手が穏やかな気持ちになって、自分に心を開いてくれるような関係を築く。それには、とにかく話を聞いてあげる。相槌を打つ。これから始めたら、商売はうまくいくと思いますよ。じわじわと、焦ってはいけない。営業は、ただしゃべればいいというものじゃないよ。
読者の皆様から、上田さんに聞いてほしいお悩みを募集しています。仕事、家庭、恋愛、趣味など、相談の内容は問いません。ご自由にお寄せください。
>>お悩みの投稿<<
*この連載は毎週水曜日掲載です。
このコラムについて
お悩み相談〜上田準二の“元気”のレシピ
コンビニ大手ファミリーマートで発揮した優れた経営手腕のみならず、料理、読書、麻雀、釣り、ゴルフと、多彩な趣味を持つ上田準二氏。ユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長を退任し、取締役相談役となった今だから語れる秘蔵の経験や体験を基に、上田氏が若者からシニアまで、どんな悩みにも答えます。上田氏の波乱万丈の人生を聞けば、誰もがきっと“元気”になる。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/skillup/16/022100017/030300006/
「男女平等の流れに反する」 原告男性が会見
2017/3/21 23:40
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原告の堺市の男性(70)は21日、記者会見し、「男女平等の流れに水を差す判決。非常に残念だ」と肩を落とした。
堺市立中学の教員だった妻(当時51)はストレスでうつ病を発症し自殺した。男性は年齢要件で遺族補償年金を受け取れず、「妻の働きが評価されていない」と感じて訴訟を起こしたが、敗訴が確定。「明らかに法の下の平等に反する規定を最高裁が合憲とした」と司法判断を批判した。
21日の判決は、現在の社会情勢を踏まえても、夫に先立たれた妻をより手厚く支える規定が合理的だと判断した。男性の代理人弁護士は「法律ができた当時は夫が家計を支えていたが、今は夫婦のあり方が様変わりしている」と指摘。立法による対応を求めた。
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO14328370R20C17A3CR8000/
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