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世界ではいま、「インフレの芽」が徐々に育ち始めている 今後の重要ファクターはやはりあの男
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51258
2017.03.20 真壁 昭夫 信州大学経済学部教授 現代ビジネス
3月15日、米国の中央銀行である連邦準備理事会(FRB)は、予想通り0.25ポイントの利上げを実施した。
それと同時にFRB関係者は、2017年にあと2回の利上げの可能性を示し、イエレン議長も12月から見方に変化がないと強調した。FRBが先行きの利上げを急がない姿勢を示した結果、金融市場はFRBがややハト派的なスタンスを取っていると見たようだ。
過去の物価上昇局面に照らしてみると、FRBはもう少し利上げに積極的になってもよいかもしれない。
会合後に公表された連邦公開市場委員会(FOMC)参加者の政策金利予想の分布図(ドットチャート)では、金利上昇を見込む参加者も増えた。実際、世界的に物価は上昇し始めている。
それでも、タカ派姿勢をオブラートに包むように、FRBは市場が目先の利上げを期待しすぎないよう配慮している。
■物価が徐々に高まる可能性
大局的に世界経済を見渡すと、徐々にインフレ上昇の萌芽が膨らんでいる。
ここ一年ほどの世界経済の動きを思いかえしてみよう。
昨年の上旬、世界経済の先行き期待は低下した。原油価格の下落や欧州の大手金融機関の株価下落などが世界各国の景況感を悪化させた。金融市場では先々、世界の需要が低迷し物価も上がりづらい環境が続くとの見方が増えた。
しかし、昨年の夏場を境に、状況は変化してきた。
中国では財政出動による景気刺激策から、生産者物価を中心に物価は上昇している。中国経済の安定を受けて、韓国などアジア新興国の物価も上向き基調だ。
11月の米国大統領選挙以降は、先行きへの期待が高まり、石油輸出国機構(OPEC)の減産決定から原油価格は上昇した。その結果、ユーロ圏ではECBが物価水準の目標とする2.0%まで消費者物価が上昇している。
今後も物価が緩やかに上昇する可能性はある。特に中国は、秋の党大会に向けて財政政策を軸とした経済安定を重視する。
米国では、労働市場が完全雇用に近づいている。その中でトランプ政権は雇用の増大を目指している。不透明感はあるものの、トランプ政権がインフラ投資などを本格的に進めると、労働、資源への需要は一段と逼迫するだろう。
こうした中、ECBの関係者からは物価上昇への警戒から金融緩和を縮小させる考えが示され始めた。中国人民銀行は、米国の利上げを受けた人民元相場の下支えのために短期資金の供給に用いられる金利を0.1ポイント引き上げた。
このように、徐々に各国の金融政策は物価上昇を警戒し始めている。金融緩和から金融引き締めへ、金融政策の軸足が移る可能性は高まっている。
■ドル円相場に影響を与えるトランプリスク
昨年12月のFOMCの時点に比べ、世界的に物価上昇期待は高まっている。米国経済も好調だ。理論的に考えれば、FRBはより積極的に利上げを進めることができるはずだ。
問題は、積極的な利上げ姿勢を示すと、ドル買いが増えることだろう。基本的に、米国には緩やかなドル安が重要だ。そのため、FRBは慎重な利上げスタンスを示さざるを得ない。
こうした見方がドルの上値を抑えている。1月半ば以降、ドル/円はおおむね112円〜115円50銭のレンジで推移してきた。
米短期金利の上昇から日米の金利差が拡大して為替レートが115円台に入ることがあっても、すぐにドル売りが仕掛けられる展開が続いている。1ドル=120円台が視野に入り始めると、米国の政府関係者がドル高を牽制するとの観測も多い。
重要なファクターはトランプ政権の政策運営だ。まず、早いタイミングでインフラ投資を進められるかがポイントだ。
その上で、トランプ政権がグローバル経済の安定を重視し、米国の企業の生産性向上をサポートすれば、世界経済全体が持ち直す可能性はある。
それは、米国がドル高への抵抗力とつけるためにも欠かせない。ただ、トランプ政権の肝は保護主義政策だ。インフラ投資が一時的に景気を押し上げても、それ以上は見込みづらい。
冷静に考えると、ここから米国経済がさらなる長期的な回復に入るのは期待しづらい。ドル高に加え、金利上昇は住宅投資や耐久財消費を落ち込ませる要因だ。そのため、FRBはトランプ政権の政策を見ながら、後追い的に金融政策を進めざるを得ない。
この結果、依然として、米国の利上げは物価上昇に後れを取りやすい。こうした見方が正しいとすれば、一時的にドルが上昇することがあっても、それは長続きしづらいだろう。
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