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自動運転とAIの到来が描く「製造業に不都合な未来」
IoT時代、「移動する体験からライフスタイル」が変わる
BY 朝岡 崇史
NVIDIA(エヌビディア)のジェン・スンファンCEO(2015年2月28日撮影)。NVIDIAは今年のCESで、AI搭載の自動運転車の動画を紹介し話題になった。 Photo by BagoGames, under CC BY 2.0.
2017年CES――自動運転車とAIが市場を席巻する
2017年1月5日に米ラスベガスでスタートしたCES(家電見本市)。今年のハイライトは何と言ってもショーの主役の交代劇である。2017年はスマートフォンやウエアラブル端末が失速し、自動運転車と人工知能(AI)の存在感が一気に高まった年として長く記憶されることになるであろう。
そして同時に、一昨年のCESのパネルディスカションでシスコシステムズCEO(当時)のジョン・チェンバースが予言した「IoTによる破壊的イノベーション(Disruption)が、自動運転車とAIの融合した領域で確実に起きる」ということを、世界中の人々の脳裏に強く焼き付けることになったのである。
参考:「巨大企業をなぎ倒していくIoTの凄まじい衝撃」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47868
まず、自動運転車については、2010年に米フォード・モーターが基調講演を行って以来、アウディなどの自動車メーカー、自動車関連のサプライヤーの出展が加速する傾向にあった中で、今回は実に145社もの企業がブースを設営した。
ちなみに自動車メーカーで完成車を展示した9社のうち3社は、トヨタ、ホンダ、日産の日本勢である。
また、AIについては、GPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)の有力ベンダーNVIDIA(エヌビディア)のジェン・スンファンCEOが基調講演(キーノート)を行ったことが特筆される。
シリコンバレーのサンタクララに本拠を置くこの企業は、どちらかといえば、Xbox(2001年)やPlayStation 3(2004年)にGPUを提供したゲーム機向けチップベンダーとしてのイメージが強かっただけに、余計にそのインパクトは大きかったわけである。
NVIDIAのプレゼンテーションでは、
・インテリジェントマシン用に特化したAI「Xavier(ザビエル)」搭載の自動運転車「BB8」(著者注:『スターウォーズ』に出てくるボール・ボットの愛称)の動画紹介
参考:AI「Xavier(ザビエル)」搭載の自動運転車「BB8」の動画
・アウディとの提携による、2020年を目標にしたAI搭載の自動運転車の開発
参考:CES会場でデモ走行が行われていたアウディQ7ベースの自動運転車
・地図データ提供パートナーとして欧米で圧倒的な勢力を持つHEREに加えて、中国の百度(Baidu)、日本のゼンリンとの提携
などが、これでもかと言わんばかりに発表されたのである。
著者は、昨年5月に発刊した『IoT時代のエクスペリエンス・デザイン』(ファーストプレス)の中で「IoTという破壊的イノベーションの中で勝者になるには、自前主義を捨てて、積極的なオープンイノベーションを指向すべきである」と書いた。
すでに表明されていた自動車部品メーカーのボッシュやZFとの提携も含めて、NVIDIAの一連の積極的な攻勢は、業界の垣根を超え、自動運転車とAIの融合で新たに立ち上がる巨大マーケットのルールメーカーとして「勝利の方程式」を地で行っているように映る。
自動運転車とAIの関係
それでは、自動運転車とAIの関係はどんなものなのだろうか。AIが自動運転車に提供する機能的な価値として重要なものには2タイプあると考えられている。
ひとつ目は「人間の代行として認知・判断・操作を司る機能」、そして、ふたつ目は「人間の思考や行動をアシストするHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)としての機能」である。
前者については、平たく言えば自動車の運転を人間に代行して行う機能であるが、「自動運転化5つのレベル」を中心にウエブ記事や新聞紙上などですでに多くが語られているので、今回は割愛する。
今年のCESでフィーチャーされたのは、後者の機能、すなわちAIが人間との対話(自然言語)によって自動車の運転に関する機械的な操作を行ったり、人間に心理的な不安を与えないようなメッセージを発信したりする、HMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス)としての機能である。
トヨタ自動車の「Concept-愛i」に搭載されている「Yui」、ホンダのEVコミューター「NeuV(ニューヴィー)」に搭載されているソフトバンクとの提携によるAI、日産自動車によるマイクロソフトのAI「Cortana」への対応など、日本の自動車メーカーの取り組みが注目されたと言える。
昨年のCESでフォルクスワーゲンがコンセプトカー「eBuddy」で行った人間とAIとの対話型のデモ、同じく昨年に発表されたフォードによるアマゾンのAIアシスタントサービス「Alexa(アレクサ)」対応などと考えあわせると、人間とAIとのインターフェイスとしてはボタン操作やジェスチャーではなくて、自然な会話による音声コマンドになっていくことはほぼ間違いがないだろう。
これらは、先述したNVIDIAのBB8のデモ映像自動運転車に搭載されるAIのHMIとしての機能を随所に表している。しかもそれは遠い未来の話ではないのである。
AIがもたらす真の破壊的イノベーション
ここで想像力を大きく働かせなければならないことは、AIが自動運転車という閉じた空間だけで人間をアシストするのではない、ということではないだろうか。
今回のCESで、NVIDIA以外に基調講演(キーノート)に加わって注目されたもうひとつの企業に、米アンダーアーマー社がある。
CEOのケビン・プランクは「自社のスポーツウエアやシューズにセンサーチップを搭載し、それらから得られたライフログ(お客さまの生体データ)をAIと連携させることによって、フィットネスとウエルネスの総合サービスを提供する企業へ進化する」という趣旨のプレゼンテーションを行った。
また、今年のCESでも自動車関連以外のさまざまな企業のブースで登場頻度の高かったアマゾンの「Alexa(アレクサ)」のデモビデオには、お客さまのライフスタイルの断片が描かれる。AIは生身の人間のように「身近にいて愛着を感じる存在」として描かれていることに留意していただきたい。
参考:Introducing Echo Dot
優れたAIはショッピング、コミュニケーション、エンタテインメント・・・たった1台で(それを1台と呼ぶのがふさわしいかどうか疑問だが)人々のライフスタイルの全てを変える。
つまり、ある程度、AIが成熟した段階では、自動運転車のAI、ウエルネスのAI、ショッピングのAIというのが別々に存在すると考えるよりは、単一のAIが擬人化されたエージェントのような形でひとりのお客さまのライフスタイルにずっと寄り添い、人生のあらゆる局面をアシストする状態をイメージする方が自然であろう。
別の表現で言えば、自動車での移動の中から始まる体験が、やがてライフスタイル全体を覆い尽くすようになる。
必然的にマーケティング視点で考えた時、マーケティングに与えるインパクトも甚大だ。
お客さま個人の行動データは、自動車での移動にまつわるデータだけにとどまらず、生活にまつわるさまざまなデータが(ウエブの閲覧履歴やSNSのデータなどセカンドパーティ、サードパーティデータといわれるものも含めて、ある特定のIT企業によって)お客さまのIDに紐づけて集約されるようになる。
そして、DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)に蓄積されたデータをAIが統合・解析して、お客さまの嗜好性に合ったレコメンドや改善提案の形でフィードバックされるというスタイルが確立されて行く。
例えば、自動運転車での移動をイメージすると、AIと対話することで明日の晩に飲むワインをAIのレコメンドに沿って注文したり、見逃した人気ドラマをAIに移動時間に合わせた長さに編集してもらって車内のスクリーンで視聴したり、ということも日常的になるはずだ。
このことは直接、破壊的イノベーションの影響を受ける自動車メーカーのような製造業の企業にとっては、これまでのように「売り切り型」のビジネスモデルではなく「AI導入を前提にモノとサービスを一体化した、持続的なサービスを提供する」ビジネスモデルへの転換を迫られることを意味する。
そして、それ以上に深刻なのは、DMPやAIを掌握した特定のIT企業がバリューチェーンの頂点に君臨し、モノをつくるメーカー企業がサプライヤーの地位に甘んじるというワーストシナリオを暗示させることである。
裏を返せば、2年前にジョン・チェンバースが看破したように、製造業の企業はハイテク企業(IT企業)に生まれ変わらなければ生き残ることが難しい、ということだ。
ワーストシナリオはある意味、業界(インタストリー)の垣根を超えて体現されるという点で、何年か前にPCやスマートフォンの世界で起きたゲームチェンジよりも影響ははるかに甚大であろう。
自動運転車とAIの関係を純粋にテクノロジーの観点から眺めるだけではなく、事業経営やマーケティングの視点から、より広く、より深く洞察していくことが、過去にトラウマのある日本企業にとっては必要ではないだろうか。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49411
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