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あなたの口座に「眠った預金」に、国が狙いをつけたワケ これほど使い勝手のいい資金はナシ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51178
2017.03.14 橘 玲 現代ビジネス
■筆者の預金も没収されてしまう!
昨年末に休眠預金活用法が成立したことで、金融機関に10年以上放置された預金(=休眠預金)が民間の公益活動に充てられることになった。
金融機関では毎年、約1000億円の休眠預金が発生しており、本人に連絡がついたり相続人から請求があったりして払い戻した分を差し引いても、年間500〜600億円が金融機関の利益になっていたという。
この法案で最初に危惧するのは、「国が個人の預金を没収するのではないか」ということだろう。
この法案は超党派の「休眠預金活用推進議員連盟」によって起草されたが、政治家も当然、「預金没収法案」とのレッテルを貼られることを強く警戒していて、休眠預金が預金保険機構に移管された後でも、預金者が金融機関を通じて請求すれば機構が支払うことになっている。
「預金者の請求権は守られる」との説明に加えて、国が「没収=活用」しなければ金融機関が「没収」するだけだという事実が、世論の反発を抑えて法案を成立させた要因だろう。
ここで、「休眠預金が金融機関の利益になること自体がおかしい」と思うひともいるだろう。これはもっともで、金融機関は休眠預金を利益として計上する前に、できるかぎり預金者(ないしは正当な相続人)を探すよう努力する義務がある。
しかしそれでも払い戻し先が見つからない場合、そのまま半永久的に放置しておけばいい、ということにはらならない。
銀行にとって預金は債務で、預金者は債権者だ。休眠預金というのは、「お金を借りたものの貸し手と連絡がつかなくなり、返済を催促されることもない」のと同じだ。それを会計上の利益に計上させれば法人税の課税対象になるのだから、休眠預金は銀行に「没収」させた方がまだマシなのだ。
もっとも銀行からすれば、法律上は返済義務がなくなったお金でも、預金者や相続人から返済の請求があった場合、それを拒否すると紛争になるのは目に見えているから、実務上は時効にかかわらず払い戻し請求に応じていたようだ。今回の法律でも、休眠預金を移管させる預金保険機構に同じ基準を適用したのだろう。
休眠預金の活用事例としてイギリスが挙げられているが、それ以外にも預金を「没収」する国はある。
私が経験したのはオーストラリアの銀行口座で、かつては7年、現在は3年間、口座の使用履歴がない場合、口座資金はオーストラリア政府によって差し押さえられてしまう。口座差し押さえの期限が迫ると銀行から通知が来るが、そのときにはセキュリティのため口座が凍結されており、本来なら支店窓口で手続きしなければならない。
海外の預金者への救済措置として口座凍結解除の依頼書を送る方法が用意されているものの、そのためにはオーストラリア大使館・領事館で認証されたパスポートのコピーが必要だ。
という理由で、3年ほど前に三田にあるオーストラリア大使館に行ってきた。パスポートの認証には正当な理由が求められるが、「口座が凍結されている」と説明したら、係官は「またか」という顔であっさり手続きしてくれた。同じようなトラブルで困っているひとがじつはたくさんいるらしい。
――この原稿を書いていて思い出したが、あれからもうすぐ3年になるので、このままでは預金が「没収」されてしまう!
■これが正しい使い道
世界的に見れば休眠口座の預金を差し押さえる国は多くないが、銀行の利益にするくらいなら公のために使った方がいい、というのは一理ある。
とはいえ、休眠預金活用法に諸手を挙げて賛成、というわけにはいかない。それは、資金の使い道に疑問があるからだ。
法案によれば、休眠口座の資金は民間の「公益活動」に充てられることになる。具体的には、「(1)子ども及び若者の支援、(2)日常生活等を営む上で困難を有する者の支援、(3)地域活性化等の支援」の3分野にかかわるNPO法人に支払われることになるようだ。
しかしそれ以外にも、公益のためのお金の使い方はいくらでもある。
死者9名を出した中央自動車道の笹子トンネル天井板落下事故で明らかになったように、日本では高度成長期につくられた橋梁、道路、トンネルなど社会インフラの老朽化が大きな問題になっている。だったら、こうした「朽ちるインフラ」の補修費に休眠口座の資金を使ってはどうだろう。
失業者をいくら支援しても、彼らを雇用する企業がつぶれてしまっては元も子もない。そう考えれば、休眠口座の資金はグローバル競争を勝ち抜くため、先端企業の研究開発費に充てるべきかもしれない。
さらには、「日本を元気にするには2020年の東京オリンピックで一つでも多くのメダルを取ることだ」と主張する政治家がいるかもしれない。彼は、「休眠口座のお金はスポーツ振興に使うべきだ」というだろう。
このように、公金を使う政策にはそれぞれ理屈がある。そして、社会が複雑になりひとびとの利害が対立するなかで、どの政策が他より優れているかを決める便利な物差しはない。だからこそ民主政治では、選挙で選ばれた政治家が議会で討論し、有権者=納税者の監視の下で政策の優先順位を決めることになっているのだ。
このように考えると、なぜ休眠預金活用法がうさんくさく思えるかがわかるだろう。要するにこの法案では、民主政治のプロセスをバイパスして、休眠預金=公金を特定の政治家と、特定の団体の裁量に任せることになっているのだ。
なぜこのようなことになるかというと、ひとつは民主的な手続きがものすごく面倒くさいからだ。東京オリンピックをめぐるもめごとを見てもわかるように、オリンピック開催という総論には賛成しても、資金分担を求められるとどの自治体も大反対する。利害の調整がどれほど大変か身に染みている政治家が、TOTOなどの宝くじの収益をスポーツ振興に充てようと考えるのは当然のことだ。
ちなみに宝くじは、その期待値(賞金×当せん確率)の低さから「愚か者に課せられた税金」と呼ばれている。宝くじを買わない有権者はこの税金を払わないのだから、彼らにとっても、「愚か者」のお金でオリンピックを楽しめる方がずっといい。これが、ジャンボ宝くじやTOTO、競馬・競輪など公営賭博の収益を特定の組織・団体に分配することにさしたる抵抗がない理由だろう。
■「便利な税金」の暗い未来
もうひとつの理由は、誰に税金を払い、誰に払わないかを決めるのが政治家の権力の源泉だからだ。スポーツ競技団体を支援する政治家が威張れるのは、スポーツ振興のための公金を分配できるからだ。当然彼らは、「スポーツくじの収益の使い道は議会が決めるべきだ」という正論をぜったいに認めないだろう。
同様に休眠預金活用法でも、「公金を国庫に納付させる」というもっともシンプルで正しい選択肢は最初から排除されている。そんなことのために頑張っても、政治家もNPO団体もまったく報われない。「カネ」と「権力」のインセンティブがなければ、議員立法で法律をつくるという面倒なことなど誰もやろうとは思わないのだ。
さらに都合のいいことに、休眠預金という「税金」を支払うのは、預金を放置しておいた「愚か者」だけだから、預金口座をちゃんと管理している大半のひとには関係がない。納税者が特定の層に偏っているという意味では休眠預金は宝くじの収益金と同じで、政治家にとってこれほど使い勝手のいい資金はほかにないのだ。
とはいえ私は、年間500億円と試算されるこの便利な「税金」は今後、先細りになっていくと考えている。
マイナンバーの導入によって日本も、北欧のようにすべての行政情報を「国民総背番号」で管理する社会の構築を目指すことになった。行政情報のなかには当然、徴税のための収入や資産も含まれる。今後、銀行や証券、保険会社の口座はすべてマイナンバーに紐づけされ、税務当局のデータベースに集約・管理されることになるだろう。
こうした政策はジョージ・オーウェルが『1984』で描いた超管理社会を連想させ嫌われるだろうが、ひとつだけたしかな効用がある。口座情報が戸籍や住民票と統合されれば、外国人の口座など特殊なケースを除いて、預金者の判明しない休眠口座はなくなるはずだ。
こうして「休眠口座の活用で社会貢献」という目論みは、早晩、とらぬ狸の皮算用になるだろう。
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