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家族と一緒では生きづらい…超高齢化社会にひそむ「本当の問題」 邪魔者扱いされていく高齢者たち(現代ビジネス)
http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/142.html
投稿者 赤かぶ 日時 2017 年 3 月 12 日 21:42:05: igsppGRN/E9PQ kNSCqYLU
 


家族と一緒では生きづらい…超高齢化社会にひそむ「本当の問題」 邪魔者扱いされていく高齢者たち
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51137
2017.03.12 藤田 孝典 現代ビジネス


「高齢者が邪魔者扱いされるさまや、家族と同居しているのに孤独死する場面は、まさに高齢者問題のいまを描いている」

80歳の老女が、3世帯住宅に居場所を失い家出をする異色のマンガ『傘寿まり子』。この作品を読んでそう語るのは、ベストセラー『下流老人』の著者で、NPO法人ほっとプラス代表理事の藤田孝典氏だ。

傘寿まり子』では、老人が運転する車が高速道路を逆走してしまうシーンや、主人公がふらついて車に轢かれてしまう、など、目を背けたくなるような話がこれでもかというくらいに詰め込まれている。本作は1巻発売直後から話題を呼び、増刷を重ね続けた。

なぜこのマンガが支持されているのか――。作中に登場するような、ネットカフェに一時避難している高齢者や、年齢を理由に入居拒否を受ける方々のサポートを日々行っており、先日『貧困クライシス』を上梓した藤田氏が原因を分析する。

『傘寿まり子』の第1話はこちら(『まだ生きててごめんなさい…「まり子80歳、今日家を出ます」』)からご覧いただけます。

■これが80歳のリアル

傘寿まり子とは、「80歳のまり子さん」を指す。文字通り、主役は80歳の高齢者だ。

少子高齢社会もついにここまできたのか、と思った。マンガまで高齢者の主人公が出てきてしまうとは……。セーラームーンは高校生、サザエさんですら20代の女性の設定だ。それをはるかに超える年齢の主人公を抜擢するとは驚きと言うか、何を考えているのか。ストーリーはちゃんと展開していくのか、と心配しかなかった。

しかし、結論からいえば斬新で現代的でリアリティもあり、非常に面白い。多くの現代社会を取り巻く問題も凝縮して取り上げており、好評になるはずだと思った。

             

80歳と言えば、日本では「後期高齢者」に位置付けられている年齢だ。いわゆる人生の終盤である。

マンガで登場するまり子の友人や旧知の仲間も亡くなっていき、その喪失感が見事に描かれている。家族と同居していながら、友人が孤独死する場面も登場する。実に暗い。暗澹たる気持ちにならざるを得ない。


友人の孤独死にショックを隠せない… (C)おざわゆき

後期高齢者とは、まさにそんな「喪失の時期」でもあることがわかる。そして、冒頭から高齢者が邪魔者扱いされ、「私たちは早く死ねばいいのか?」という自問自答が繰り返される。

高齢期の自死は相変わらず減っていない。様々な喪失体験や自身の病気や悩みも重なり、死を自ら選んでしまう方も少なくないのが現状だ。そのような高齢者の心理状態を軽いタッチで読者に問いかけるように表現されている。

また80歳と言えば、個人差はあるものの介護が必要になり、在宅生活が難しく、介護施設へ入所する方もいるだろう。

病気がちになり、生活自体が困難さを増していくこともある時期だ。未来に向けて明るい展開を予想しにくく、どちらかといえば終焉に向かう暗い展開をイメージしやすいものでもある。

だからこそ繰り返し強調しておきたい。よくこの時期を生きる高齢者を主人公にしたものだ。そのアイディアにまずは称賛と敬意を表したい。

■高齢者ネットカフェ難民

実はまり子は、そんな高齢者のイメージをひっくり返すような人物として描かれている。非常に前向きで明るい性格だ。

いくつかの苦難にも負けず、新しい挑戦にも積極的に取り組んでいく。80歳の女性とはとても思えないのである。なかでも家族との同居生活のなかに居づらさを感じ、家出をした後の場面展開は面白い。

特に、まり子がネットカフェ難民になる場面だ。これがまた現代的としか言いようがない。


まり子は家出をした後ネットカフェに向かう (C)おざわゆき

家出した高齢者や住居を失った人々が一時的に身を寄せる場所として、ネットカフェはよく知られるようになった。ネットカフェには、シャワーもあり、自分の部屋のようにくつろげる自由な空間がある。

一方で、原則として誰も干渉しないというような孤独で監獄のような印象も受ける。この現代の多様性ある人々を受け入れる不思議な空間の2つの特殊性を上手く表現している。

とりあえず寝るところは何とかなった。生きていける。しかし、これからどうしたらいいものか、と。

■家賃もローンも払えない

事実としてネットカフェに一時避難して滞在している高齢者や若者からの相談を受けることがよくある。

まり子と同様に家族との不調和で家を失った人々や失業した人々、火災で家を焼け出された人々、さまざまな人々がネットカフェをよりどころにしている。

社会福祉の弱い日本において、ネットカフェは最後のセーフティネットにならざるを得なくなっているのかもしれない。いまも全国のネットカフェにはひっそりと生活の場所にしなければならない高齢者や事情のある方々が身を寄せているのだろう。

少し前には「ネットカフェ難民」という言葉が話題になった。政府も調査をおこない、全国には約5400名の人々がいることが把握されている。まり子の問題は現在進行形の日本が抱える社会問題を的確に表している。


まり子さん、意外とネカフェを気に入った? (C)おざわゆき

そもそもまり子が同居家族に居づらさを感じたのは当然で、彼女の家族は四世代同居であるにも関わらず、狭小な住宅だった。日本は都市部であればあるほど、住宅費が高騰しており、住宅を維持したり、新設する費用がかかり過ぎてしまう。

それぞれが独立する上でも家賃や住宅ローン費用などを捻出しなければならない。これもまた高いのである。だからこそ、低所得であるほど、あるいは収入が不安定であるほど、家族と同居せざるを得ない状況がある。

まり子の息子も収入が不安定で、孫も同様であるというのは、これも現代的と言わざるを得ない。ひとことで言えば、雇用が不安定であるため、家族を養ったり、独立して世帯を設けることが困難な時代なのだ。

非正規雇用は過去最多の規模で増加をし続けている。働いても処遇や収入が不安定であり、家族相互で助け合わなければ生計が維持できない人々は言うまでもなく増えている。

しかし、家族が相互に助け合える余裕はなく、どうしても自身の配偶者や子どもが優先となろう。高齢者の扶養はどうしても後回しにならざるを得ない。

■もう自分の親を養えない

「家族原理主義」とでもいうべきだろうか。家族関係がよければ助け合うが、関係性が少しでも悪化すれば、最大の福祉機能である「家族」は機能しない。そればかりか、排除をする側として攻撃してしまう。

高齢者虐待や児童虐待、ネグレクトや毒親、アダルトチルドレンなど機能不全家族を表す用語は、この「失われた20年」でよく聞かれるようになった。家族にはもう高齢者の豊かな老後を支える余力を急速に失い始めている。

例えば、自分事としても考えてみてほしい。親から生活が大変だから、「来月から月額数万円から十数万円を仕送りしてくれ」と言われたらできるだろうか。

それを続けていくことが困難な現役世代は実に多いことだろう。また親を扶養できないことを安易に責めることもできない社会構造がある。

そういう点で、まり子の家庭や同居家族は、それぞれに現代的な課題を抱えながら狭い家で共存をしている。よく日本社会を隅々まで把握されているものだと感心してしまう。

だからこそ、家族との関係性に耐え切れなくなったまり子は家出をし、その後の住まいを探す。この際も民間賃貸住宅を借りようとするが、高齢者ゆえの入居差別に遭い、家すらも単独では借りられない事実に直面する。


80歳だと家を借りにくい… (C)おざわゆき

居室内での孤独死を警戒して、大家や不動産屋は高齢者の入居を断る事例が後を絶たない。身寄りのない、家族を頼れない高齢者は最低限必要な住まいを得る際も困難が伴うのだ。

わたし自身も数多くの高齢者の入居契約時に緊急連絡先になり、そのうち数件は死後の遺品整理や家族への連絡、遺体の葬儀に関わってきた。これらを大家や不動産屋が調整をしながら行うとなると、不本意ながらも入居を制限してしまう心理状態に理解を示さざるを得ない。

■孤立を極めていく…

そして、まり子は作家の仕事が減り、自身の社会内における「役割喪失」も体験している。80歳で仕事があること自体珍しいが、その仕事も年々減っており、孤立感を強めていく状況が理解できる。

仕事を失うということは多くの人間関係や出会いの機会も同時に失うことを意味する。意識して地域活動や老人クラブ活動などに関わらなければ、他者と交流する機会は激減する。

高齢者のコンビニ弁当食・孤食の場面も描かれているが、食事だって誰とも共にすることがない高齢者は非常に多いのだ。

大手コンビニでは宅配食事業を始めているし、一人暮らしの人々を意識した商品の提供に急速にシフトしていることも店頭を覗くだけで理解できるだろう。現在でも一人暮らし高齢者は、約600万人存在する。今後も増加していくことが予想されている。

結局のところ『傘寿まり子』を読んでみて、わたしが出会ってきた生活困窮者支援の相談支援現場や高齢者支援の現場をよく捉えていると思う。特別な誰かの問題ではないからこそ好評なのだ。実に誰にでも起こりうる庶民の生活に迫ったテーマなのである。

ハラハラしながら自身や身近な家族とまり子を重ね合わせ、静かに応援してしまう感情が動く。深く考えながらでもいい、クスッと笑いながらでもいい、是非読んでほしい。

現代を果敢に生きるひとりの高齢者から得られるものはあまりにも大きいのだから。

「現代ビジネス」では『傘寿まり子』の第1話と第2話を特別公開中です。下記よりお楽しみください。

・第1話『まだ生きててごめんなさい…「まり子80歳、今日家を出ます」
・第2話『「孤独死するから?」入居差別に苦しむ80歳の老女が向かった先とは

           

           
 

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