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クロネコヤマトの配送車(「Wikipedia」より/天然ガス)
一日2百個宅配の過酷労働…ドライバーがアマゾンの異常な便利さの犠牲に、ヤマトの英断
http://biz-journal.jp/2017/03/post_18317.html
2017.03.11 取材・文=A4studio Business Journal
宅配便業界が揺れている。
業界1位のヤマト運輸は、配達ドライバーへの負担軽減の協力を前提にした「低価格コース」新設を検討する一方、今年の秋頃をめどに宅配料金の全面値上げの方針も明らかにしている。消費増税時を除けば、同社が宅配料金の値上げをするのは27年ぶりだ。
また、ヤマトはインターネット通販大手のアマゾンジャパンなどにも宅配料金値上げの要請を検討しているという。
2015年度の国内宅配便総個数は、前年度比3.6%増の37億4500万個であったが、16年度はこの数字をゆうに上回ることが確実視されている。ネット通販需要による宅配物の数が急増し、配達ドライバー不足が深刻なのは明らかである。
昨年12月、業界2位の佐川急便の配達ドライバーが、荷物を放り投げたり蹴とばしたりと乱雑に扱う動画が流出したことは記憶に新しいところ。この配達ドライバーは特定され、「身勝手な感情でやってしまった」「色々なイライラが重なっていた」としつつ反省の弁を述べていることが同社から発表された。
ただ、こういった不祥事が明るみになった際にはバッシングの嵐になるのが通例だが、この佐川の配達ドライバーに対しては非難の声ばかりでなく、同情の声も少なくなかったのが印象的だった。これは、宅配業界全体が過剰サービスとなっており、そのしわ寄せが配達ドライバーたちにいってしまっているということを、多くの消費者が認識している証拠に違いない。
■再配達の有料化が現実味を帯びる
サービスを享受する側の利用者から同情論が出るということだけでも、それだけ今、宅配業界が異常な状況にあるということがうかがえるが、よりリアルな実情を知るべく流通ジャーナリストである渡辺広明氏に話を聞いた。
「配達ドライバーの過剰労働は限界を迎えつつあると思います。わかりやすい指標として、ドライバー1人が1日に運ぶ荷物は全国平均で150個ほど、都内のドライバーになると200個を超えるといわれています。年末などの繁忙期は1日250個ほどに増えることもあるそうです。仮に200個を8時間で割ると、実に1時間に25個のペースで配達することになります。2.4分に1個のペースで配達していかないといけないわけです。
大口の顧客などに10〜20個一気に届けるというケースや、同じマンション内で何軒も届け先がありテンポよく配達できるケースもあるでしょうが、逆に不在のため無駄足となり、再配達しなくてはいけないケースも多々あるわけです。宅配事業者3社によるサンプル調査によると、再配達率は約2割にものぼるそうですから、1日200個だとしたら40個は再配達しなくてはいけない計算になります」(渡辺氏)
こういった具体的な数字を目にすると、1日8時間で配達し終えるのがいかに不可能に近いかが、より如実にわかるだろう。1日の実労働時間が12時間をゆうに超えてしまう配達ドライバーが多いであろうことも想像に難くない。
「ネットショッピングで朝注文したものがその日のうちに届いたり、細かく時間指定ができたりするなど、今の日本の宅配事情は安価で利用できるにもかかわらず、異常なほど便利になっていますが、おそらく現状がピークなのではないかと考えています。安価で異常に便利なサービスのしわ寄せとして、配達ドライバーが過剰動労を強いられているわけです。
現在、再配達は無料サービスになっていますが、近い将来、その手間料をアマゾンなどの通販会社側に負担してもらうか、お客様負担として有料サービス化するか、どちらかになっていくのではと思います。
過剰なサービスは、お客の要望ということもあるが、ライバル企業との競争を勝ち抜くために生まれた側面が強いと思われます。今回ヤマトが値上げに踏み切らざる得ないのは、ドライバーの過酷な労働環境を鑑みると不可避ですが、そのコストをお客や通販会社に負担してもらうだけでなく、ヤマト自身も現状のサービスを継続できないという事実もあり、経営の責任も含め、企業としてある一定範囲の血を流す必要性はありそうです。
いずれにしても、今は宅配便大手3社によるサービス合戦がエスカレートしきってしまっている状況ですので、さすがに潮目が変わってくるでしょう」(同)
■ヤマト配達ドライバーの悪評も
サービス合戦のエスカレートが、佐川の配達ドライバーによる放り投げ騒動の一因とも考えられるが、現在、アマゾンジャパンの宅配物を担っているヤマトの配達ドライバーたちには、佐川以上に体力的にも精神的にも負荷がかかっているのではないだろうか。
実際、SNSやネット掲示板などを見ると、佐川の荷物放り投げのような極端な事例は挙がっていないものの、ヤマト運輸の配達ドライバーに対して、
「態度がすごく悪い。ちょっと待たせただけで思いっきり舌打ちされた」
「再配達の依頼を直接電話したら、あからさまに不機嫌な口調で、最後はガチャ切り」
「こちらが受取のサインをした伝票を、奪うように強引に引っ張って取っていって、無言で去っていった」
といったような書き込みが散見される。こうした情報が事実かどうかは定かではないが、もし事実だとすれば、業務上のストレスが溜まってしまっているとも考えられるだろう。
「もちろん一概にはいえませんが、ヤマトの配達ドライバーはライバル社よりも全体的に丁寧で親切な印象ですね。ホテルマンのような高いクオリティーの接客スキルがあるというわけではありませんが、低コストの宅配事業であることを考えると、十分すぎる接客レベルといえます。
とはいえ、佐川の配達ドライバーの質が悪いというわけでもありません。ヤマトにしても佐川にしても、何万人単位の配達ドライバーがいるわけですから、確率論的に倫理観が欠如しているような人が多少交ざってしまっているのは仕方のないこと。これは宅配業界に限らず、どんな業界、どんな企業でも同じことがいえるはずです。
今回の佐川急便の荷物を放り投げた配達ドライバーの件もそうですが、インターネットの発達によって1人の悪行がすぐに拡散していって、それが企業全体のイメージを揺るがしてしまうのです」(渡辺氏)
■未払い分の賃金支払いはヤマトの英断
確かに、一般人の誰しもがスマートフォンでいつでも写真や動画が撮れ、さらにそれをTwitterやYouTubeにすぐに投稿できる時代となったため、数万人の中のたった1人の従業員の行いで企業イメージに大打撃を与えることもあるのだろう。
「そんな時代においても、ヤマトの配達ドライバーの悪評が大きく報じられることがないのは、やはり同業他社と比べ、企業文化や企業理念がしっかりしているからでしょう。
3月4日、ヤマトは運送業務に携わる配達ドライバーなど約7万人の従業員の勤務実態の詳細調査に乗り出し、賃金未払いがある場合は支払う方針であることを発表しました。これは現場の労働環境を改善するための施策の一環ですが、なかには1人100万円ほどの額が支払われるケースも想定されていて、総額は数百億円規模になる見込みだといわれています。こういった見直しが図られていけば、ドライバーの質の向上はステップアップするかもしれませんね」(同)
この約7万人の従業員の勤務実態詳細調査と、未払い分賃金の支払いに関する発表は、昨年8月に神奈川県の元配達ドライバーに未払い賃金があったことと無関係ではないだろう。この一件で、神奈川県内のヤマト店舗が労働基準監督署から労働基準法違反で是正勧告を受けていたのである。
しかし、そのトラブルを踏まえたとしても、ヤマト運輸の対応は英断といえるだろう。
賃金の問題だけでなく長時間労働を強いる状況の見直しも課題となってくるのだろうが、宅配便業界の過剰サービスが健全化していき、近い将来、配達ドライバーたちの労働環境が改善されていくことに期待したい。
(取材・文=A4studio)
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