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被害額は数百億円?ネット広告詐欺の「深すぎる闇」 読売のスクープは、氷山の一角だ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51099
2017.03.02 伊藤 博敏 ジャーナリスト 現代ビジネス
■「量のウソ」と「質のウソ」
アドフラウド(広告詐欺)の被害が年間100億円超――。
『読売新聞』(2月18日付)が1面トップで報じた記事が波紋を広げている。
「ネット広告は仕組みが複雑なうえ、日々、技術が進歩しているので業者任せ。広告の質や量をごまかされているんじゃないかという不安があったけど、案の定だった」
こんな感想を漏らす広告主が少なくない。
海外発でアドフラウド被害が報じられ、アダルトサイトに一流企業の広告が掲載されている状況から判断して、日本の状況も寒々としたものであるのは想像できたが、本格的に調査されたことはなかった。
「アドフラウドに関する国内データが明らかになるのは初めて」と、読売は胸を張る。
だが、ネット広告業者は、「ボット(機械的運用)によるサイトの高速更新などで、人が見ていないのに閲覧数を稼ぐような不正が横行しているのは、誰でも知っている。むしろ、年間100億円という数字の少なさに驚いた」と、正直な感想を漏らす。
実際、2年前に独自動車メーカーが北米の広告配信業者を訴えた事件では、配信した広告の57%がボットによる水増しだった。衝撃を受けた米の業界調査によって、そうした不正が6〜7%に達することが判明した。
それだけに前述の業者は、「100億円超は全体の1.7%ということだが、どう考えても甘い数字。アドフラウドは、5%以上あると思う」と、指摘する。
現在のネット広告は、サイトを訪れたユーザーや趣味嗜好などを、ネット広告業者が行動履歴のクッキーを利用して読み込み、広告主の希望する条件のユーザーに広告を配信する「運用型」が主流である。
電通のまとめでは、15年のネット広告費9194億円のうち運用型は6226億円。読売の「100億円超」は、約90万サイトを2年間にわたって調査した結果、約6億7000万回の表示に約1100万回(1.7%)の水増し表示があったということだが、「体感」としての5%なら100億円超は、300億円超に跳ね上がる。
実際、ボットによる水増し以外にも、閲覧されない画面下に置かれた「隠し広告」、アクセスを大量生成する「トラフィックエクスチェンジ」、ユーザーを偽装する「偽装ブラウザ」などアドフラウドの種類は尽きず、不正金額はさらに膨れ上がる。
従って、今回読売が指摘したのは、ネット広告の「量のウソ」の一部をデータとして証明しただけ。これに付け加えるべきは「質のウソ」である。
運用型では、ユーザーがサイトを開くと瞬時に入札が行われて広告が表示される。その多くはRTB(リアルタイム・ビッティング)と呼ばれる自動広告買い付けシステムだが、広告主が期待するのは、ブランド力を高められる質の高い情報サイトへの出稿であり、かつ成約に至るクリックに結びつくようなターゲティングが出来ている方が望ましい。
だが、ネット広告業者は質を問わない。というより、良質な情報サイトは広告掲載単価のCPM(コストパーミル=1000表示に対するコスト)も高くなるので、ごく一般的なサイトや低レベルの安価なCPMのサイトも必要とする。“まぜこぜ”にして表示数を稼ぐとともに、CPMの単価を引き下げることで自分たちの利益を引き上げるのだ。
■ごまかしが容易にできる世界
だが、そんな本音は漏らせない。だから有力新聞、著名経済誌などへの掲載をアピールするのだが、「など」のなかにCPMの単価引き下げの劣悪サイトも含まれており、それが結果的にサイトの「広告価値の均一化」を生み、質にこだわる情報サイトを採算的に苦しめる。そこには「質」などどうでもいいというネット広告業者の本音があり、共存共栄すべき良質な媒体(サイト)と、「質」にこだわりたい広告主の双方を裏切っている。
その時、広告主とネット広告業者の間に入る広告代理店はどういうポジションを取っているのか。
ブランドイメージの向上にも役立たせたいという広告主の要望に応え、媒体全体、つまりネット環境の劣化を防ぐためにも、優良コンテンツを持つ媒体を大切にすべきだろう。だが、ここでも先に来るのは収益である。しかも日々、複雑化するアドテクノロジー(アドテク)を理解できる広告主はいない。いや、代理店サイドも本当のところではわかっていないし、年に二桁成長する業界の需要に追われ、詳細を把握する余裕がない。
求められるのは結果である。表示数は何回で、それに対するクリックが何回あり、それがどれだけの成約につながったのか。
広告主はまずそれを求め、運用実績は容易にごまかせる。
例えば、代理店の営業担当が、広告主に対し、想定クリック率0.18%と控え目な数字で見積もりを出したとする。これが予想を上回る0.36%を達成すれば、調達CPMの価格は半減、逆に利益は数倍となる。報告クリック数はそのままで、実績クリック率を伏せておけば代理店は濡れ手に粟だ。
運用型で行われる入札競争では、0.1秒以内の広告表示というアドテクの論理を優先、ブラックボックスのなかで質を問わずにサイトが選択される。広告主には詳細がわからないし、代理店もネット広告業者も伝えるつもりはない。それはリテラシーを高めようとしない広告主の自業自得でもあるのだが、業者側はそれを利用、「報告のウソ」を止めようとしない。
今回、読売が明かしたのは、ボットというアドフラウドであり「ネット広告業界が抱えるウソ」のほんの一部。「量のウソ」はこんなものではなく、「質のウソ」もあれば「報告のウソ」もある。
やるべきは、アドテクが持つブラックボックスを排すること。それが、アドフラウドという詐欺的環境の改善、広告収入目当ての劣悪、違法、剽窃サイトの排除と良質サイトの育成、本来、ネット広告が持つべき透明性につながる。
そして、その種の技術は着実に育ちつつあるのだが、逆に、「見える化」を阻止しているのが、現在、ブラックボックスのなかで収益の最大化を図っている代理店やネット広告業者だという。「闇」を抱えながら急成長したネット広告業界が、大きく変わる時期を迎えている。
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