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【東芝問題】社員19万人の巨大企業はなぜこんなことになったのか 決算延期の舞台裏を語り尽くす
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51065
2017.03.02 週刊現代 :現代ビジネス
本誌が先んじて報じてきた通り、東芝がついに末期的状況に追い込まれた。この名門企業はどこへ向かうのか。磯山友幸(ジャーナリスト)、小野展克(嘉悦大学教授)、竹内健(元東芝技術者)が、決算延期の舞台裏、原発事業の実情から、銀行団の本音、会社の行く末までを語り尽くす。
■「数字合わせ」しかしていない
小野 私は東芝本社で開催された2月14日の会見に出席したのですが、まさに迷走する東芝を象徴する会見でした。
竹内 と言いますと。
小野 綱川智社長は今回、稼ぎ頭の半導体子会社の株について、2割未満の売却としていたのを完全売却もあり得ると急遽変更したのですが、これこそ経営の体たらくです。
そもそも、2割未満の売却ではマイナー出資で買い手にメリットがなく、高い価格が付かない。半導体部門の将来性を考えても、東芝の過半の出資が残ったままでは利益が原発事業の赤字に吸い取られて設備投資が滞り、競争力も失われる。
そう考えれば、最初から完全売却を念頭に置くのが筋なのに、今回やっと銀行に迫られて検討に入ったわけですから、そこには経営戦略がない。
記者からも、「東芝はどんな会社になるつもりか」と質問が飛びましたが、綱川社長はインフラと、原発などのエネルギー、半導体などの電子デバイスの「3本柱で行く」と答えるばかりで、要領を得ない。経営陣はどこへ向かおうとしているのかと、不安になりました。
磯山 同感です。ここのところの東芝経営陣の言動は、長期的な事業戦略などなく、目先の「数字合わせ」に終始しているようにしか見えない。半導体子会社の扱いをめぐる動きにしても、推察するに、この裏では監査法人との激しいやり取りがあったのではないでしょうか。
というのも、いま東芝の監査担当はPwCあらた監査法人。そのパートナーを務めていた関根愛子氏は日本公認会計士協会の会長であり、粉飾決算を起こした東芝に対して厳しい姿勢で監査に臨んでいます。
2月14日には、予定されていた決算発表が30日後に延長される異例の事態も起きましたが、当日も会計士とのぎりぎりのやり取りが続いていたのでしょう。
小野 はい。監査法人は東芝の決算書に、事業の継続リスクを示す「ゴーイング・コンサーン(GC)に関する注記」をつけようとしているとの話が出ています。GCは、経営破綻前のスカイマークにもつけられたもので、文字通り、会社の事業が継続できなくなるリスクがあると投資家に注意喚起するものです。
磯山 仮にそうなれば、東芝の株価は暴落するわけですから、経営陣としてはなんとしてでも避けたい。それに半導体事業の売却益がないと3月末には1500億円もの債務超過も免れなくなるので、最悪の事態を回避したい東芝経営陣側は、半導体の過半売却に方針転換せざるを得なかった。そんなシナリオが容易に想像できるわけです。
竹内 しかし、それこそいまの東芝は綱渡り状態での決算作りにばかり終始していて、将来的な展望は描けていないことになりますね。そうした経営陣の場当たり的な態度は、元東芝社員の私には、とても残念としか言いようがない。
私が一連の過程を見ていて不思議なのは、いま東芝で最も稼いでいるのは半導体事業なのに、虎の子を手放してまで、巨額赤字を垂れ流す元凶である原発部門を守ろうとする経営陣の判断がまったく理解できないのです。
磯山 おっしゃる通りだと思います。企業再生の王道というのは、事業別にグッドカンパニーとバッドカンパニーに分けて、バッドカンパニーは処理して、グッドカンパニーに資源を集中させて再生させることです。
竹内 東芝の経営陣がいまやっていることは、その「真逆」ですよね。昨年には、目先の資金繰りをつけるため、優良事業であったメディカル部門をキヤノンに売ってしまいました。
■シャープに似てきた
小野 事業を切り売りするのは債務超過を逃れるためで、その裏には東芝に融資している銀行側の意向も働いています。銀行が一番避けたいのは債権カット。みずからが傷を負わないためには、東芝に綱渡りでもいいから資金繰りをつけて欲しい。
その点、半導体子会社の株を5割売却すれば1兆円規模の巨額資金が入ってくる可能性があり、債務超過状態から一気に脱せられるので、銀行には非常に都合がいい。
磯山 事業の切り売りで一番得をするのは、バランスシートを改善したいインセンティブの強い銀行なわけです。昨年の春頃から東芝は実質的に銀行管理状態で、もはやリーダーシップを取れる経営陣がいなくなっているとも言えます。
竹内 経営危機状態にあった当時のシャープと同じ状態ですね。
小野 しかも、当の銀行の人間からすると、「俺が東芝担当のうちは、潰さない」「俺はここを乗り越えれば役員になれる」という力学が働いたりもするわけです。目下の苦境を乗りきることさえできれば、5年後のことは知らないと……。
ここで2月14日の会見当日に話を戻すと、懸案の米国原発子会社のウェスチングハウス社(WH)をめぐって、内部通報で「内部統制の不備」を示唆する疑惑が急浮上してきたとの発表があり、驚きました。粉飾決算を受けて内部統制改革をしていた東芝だけに、記者席からも「またか」「なにも変わっていない」とため息が漏れていた。
磯山 東芝は対策として、今後は原発事業を社長直轄で監視していくと言っていますが、果たしてそんな小手先の対策になんの意味があるのでしょうか。
そもそも、WHをめぐって7000億円超の巨額損失が発生しているのは、綱川社長をはじめとする東京本社の経営陣がWHをしっかり監視できなかったことが原因なわけです。東芝経営陣は、WHに対して想像を絶するほどにマネジメントができていない。
竹内 東芝にいた当時から、一人の社長があれだけ分野の違う事業をすべて見る、総合電機メーカーというあり方自体に無理があると思っていました。
というのも、たとえば私のように技術系で東芝に入社して半導体部門に配属されると、以降はずっと半導体一筋の会社員生活です。他部門とは人の入れ替えもなければ、働く場所も違うので、なにをやっているのかもわからない。
綱川社長もメディカル部門出身なので、おそらく原発の専門的なことはわからないと思いますし、難しい技術議論になれば反論もできないでしょう。
■WHをどうするのか
磯山 今回の巨額損失の原因にしても、WHが原発建設会社ストーン・アンド・ウェブスター社(S&W)を買収したことにあるわけですが、一年で数千億円のカネが消えていくような会社を買うというのは正気の沙汰ではない。
東芝やWHの役員たちは中身を十分に精査できていなかったか、ハメられてババを摑まされた可能性すらあるわけです。しかも、S&Wを買収したのは東芝が粉飾決算騒動で揺れていた時期。旧経営陣らが一斉退任する「権力の空白期」で、最悪の案件を摑まされたようなものです。
竹内 そもそも、東芝の経営がおかしくなってきた源流を辿ると、経営者がスポットライトを浴びだした時期から変になってきているように感じます。
東芝はもともと現場からのボトムアップの会社で、現場で開発した製品を10年、20年という長い時間を掛けて主力事業に育てていく会社だったと思います。現在、稼ぎ頭となっているフラッシュメモリもそうです。
会長や社長は、言い方は悪いですが「よきにはからえ」という感じで、地味で真面目な現場の人が、コツコツと仕事を回していく会社でした。
それが、いつしかトップダウンで「やるぞ!」という社風に変わってしまい、経営者もメディアでもてはやされるようにもなったのではないか。後付けではありますが、WH買収時も、「英断」などと経営陣が持ち上げられました。その頃から、経営の歯車が狂い始めたのではないでしょうか。
小野 そうしたマネジメント不在が最悪の形で火を噴いているのが、海外原発事業ということ。原発畑出身の志賀重範会長ですら、WHの内部事情を把握しきれず、このほど責任をとって辞任することになった。
ですからもはや、WHは「チャプター11」と呼ばれる米連邦破産法11条を適用する、つまりは倒産処理したほうがいいと思います。
このまま東芝が保有し続ければ、新たな巨額損失が発生するリスクも十分にあります。綱川社長はWHの株を売却する意思も見せているが、どんな爆弾が隠れているかわからない会社を買おうという会社が出てくるとも思えません。
磯山 実際、東芝社内の現場社員も危機感が高まっていて、原発部門で働く30代の若手社員が会社を去り始めています。ただ、WHを処理するとなれば、問題はトランプ大統領でしょうね。WHを倒産させれば米国の雇用状況を悪化させるので、なにを言ってくるかわからない。
それに、日米原子力協定や安保問題も絡んできます。やはり、原発事業が「官業」であるということが東芝の経営判断の足枷になってしまっている感は否めない。
小野 逆に言えば、東芝経営陣には、原発をやっているから国は東芝を潰さないという甘えもあったでしょう。とはいえ、いま日本政策投資銀行など政府系金融機関の動きを見ていると、東芝を助けようという兆候は見られません。
磯山 私も政府や経済産業省の人たちに話を聞いていますが、「原発は大事だけれど、東芝という会社を残すかどうかは別問題」と言い出しています。
仮に東芝の原発事業を延命させるために税金を投入したとすれば、その血税が米国の原発事業の追加コストに消えてしまう可能性があるので、そのような政治決断は簡単にはできないわけです。
■もう法的整理しかない
竹内 では、東芝はこれからどうなっていくのでしょうか。現在は半導体部門の四日市工場が過去最高益を叩き出すほどに稼いでいるからいいですが、半導体事業はハイリスクハイリターンの浮き沈みが大きいビジネス。
さらに、半導体事業は毎年のように巨額投資を続けないと、ビジネス優位性を保てない。いまの東芝のどこにそんなおカネがあるのでしょうか。
磯山 虎の子を次々に売っている状態で、このままいけばカスのような事業しか残らない会社になっていくのは目に見えています。
言ってしまえば、東芝はすでに一企業として死にかけているようなもので、ある取引先行は、「新規融資にはもう応じない」と言っています。ここまでくると、法的整理に早く踏み切ったほうがいいでしょう。
日本では会社を潰すのはよくないことだと考えられていますが、むしろ法的整理をして銀行にも責任をかぶってもらうことで過大な負債さえ処理できれば、そこから再生への展望はいくらでも開けます。
逆に、このままズルズルと負債が膨らめば、いざ倒れた時には社員の年金などが壊滅的な打撃を受けかねない。19万人の従業員の将来を考えれば、いま決断が下されるべきです。
小野 法的整理をして債務関係を処分して、原発事業についてもきっちり交通整理できれば、産業革新機構などがスポンサーとして東芝に出資することも十分にできます。
竹内 問題は、その決断をいまの役員陣ができるのか。かつての自分もそうでしたがずっと同じ事業にいると、会社全体というより、自分が育ってきた事業部門を守ろうというインセンティブのほうが強くなってしまうのではないか。
小野 そうなると、決断できるのは、外から来た社外取締役ということになるでしょうね。
磯山 東芝の株は、3月半ばに上場廃止の恐れのある『監理ポスト』に入れられ、ここから東証の審査を受けて上場廃止の是非が決められます。結論が出るのは6月頃でしょうが、果たしてそこまで上場していられるだけの利益や資産が保てているかどうかもわかりません。
竹内 このままでは、売れる事業を売り尽くしたら終わりということになってしまう。
磯山 そんな末期的状況に追い込まれて破綻となれば、一番痛みを負うのは東芝の社員です。数字の帳尻合わせは、早晩行き詰まることは目に見えています。東芝経営陣は3月決算を作る前に、決断したほうがいい。
小野 経営陣には、会社や東芝というブランドを守ろうとするのではなく、個々の社員や事業を守る意思を見せて欲しい。会見での経営陣の姿を見た限り、それも期待できそうにはありませんでしたが。
磯山友幸(いそやま・ともゆき)
62年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社入社後、フランクフルト支局長などを経て、'11年に独立
小野展克(おの・のぶかつ)
65年生まれ。慶應大学文学部卒。共同通信社入社後、日銀キャップ、編集局経済部次長などを経て、'12年から嘉悦大学へ
竹内健(たけうち・けん)
67年生まれ。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。元東芝研究開発センター研究員。'12年から中央大学理工学部教授
「週刊現代」2017年3月4日号より
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