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長時間残業をはじめとする労働法違反の摘発を進めることは急務なのだが…
ブラック企業の労基法違反摘発を「民間委託」すべき理由
http://diamond.jp/articles/-/119570
2017年3月1日 八代尚宏 [昭和女子大学グローバルビジネス学部長・現在ビジネス研究所長] ダイヤモンド・オンライン
過労死等の事故が増え、政府の「働き方改革」でも法律で定められた上限を超えた長時間残業を罰則付きで規制することでほぼ合意されている。しかし、ここで見落とされているのが、労働基準監督官の不足に象徴される、職場環境を守る監視体制のお粗末さだ。
労働法違反の摘発を進めるためには、一般企業への定期監督等の業務の一部を民間事業者に委託することで、悪質な企業への「臨検」(立ち入り検査)に力を入れられるようにする「集中と選択」が不可欠である。
厚生労働省によれば、雇用者1万人当たりの監督官の数は、独1.89人、英0.93人、仏0.74人に対して日本では0.53人と、先進国のなかでは米国0.28人に次ぐ低さである。しかもこれは監督菅の資格保有者数であり、管理職や労基署以外の勤務者を覗いた実際の実働部隊はその半分といわれる。とくに企業が集中する首都圏では監督官の不足は極端で、東京23区では一人の監督官が約3000事業所を担当することになる。
こうした人員制約がある中でも、平成26年には定期監督の対象となった約13万事業場のうち、約7割の事業場で法違反が摘発された。この違反内容は、労働時間(30.4%)、安全基準(28.4%)、割増賃金(22.1%)等が上位を占めている。
臨検を増やせば、さらに違反事業場が見つかり、労働者の保護が確実になるにもかかわらず、それが十分に行えないのが現状である。厚労省は、長時間労働企業の特捜部隊として「過重労働撲滅特別対策班(かとく)」を設けたり、労働基準監督署での相談業務に労働省OBや社労士等を活用したりているが、焼け石に水といえる。
■駐車違反の取り締まり業務は
小泉改革で民間委託が実現
必要な公共サービスの量に比べて公務員数が不足する場合の切り札が官業の民間開放である。
小泉構造改革の時代には、2006年の道路交通法改正で駐車違反の取り締まり業務の民間委託ができるようになり、警官がより大事な業務に専念できるようになった。また、2007年には刑務官の不足を補うために、企業との協力で運営する官民協同刑務所も実現した。
これらと同じ発想で、極端に不足している労基署の監督官の業務を、民間事業者に部分的に委託することはできないのだろうか。
もちろん公務員の業務をそのままのかたちで民間人に委託することはできず、関連する法令の整備が必要だ。駐車違反の取り締まり業務を民間事業者が実施するためには、取り締まり対象となった車両所有者を明らかにしないなどの守秘義務が課される。また、知人の違法駐車車両を恣意的に見逃すことも許されない。一方で、取り締まり中に違法車両の所有者等から妨害を受ければ公務執行妨害罪が適用される。民間人も業務執行中は、公務員と同じ権利と義務とが特別法で課されている。
これと同様な条件整備を行い、労働基準監督官の定期監督業務の一部を、社会保険労務士などの公的資格を有する民間事業者に委託することで、それだけ本来の監督官が行う臨検の対象事業者数を大幅に増やすことができる。なお、これらは国の労働基準監督業務を民間企業に委ねる官業の民営化ではなく、その業務の包括的な民間委託であり、最終的な責任は主管官庁である厚労省にあることはいうまでもない。
■民間委託反対派が主張する
開放できない3つの理由
この労働監督業務の民間委託構想に対しては多くの反論がある。第1に、労働基準監督官は、予告なく事業所に立ち入り、書面等の確認や関係者からの聞き取りで、違反行為を確認し、場合によっては即座に行政処分を行うなど、一連の専門的・行政的な業務を行うのであって、駐車違反取り締まりのような単純業務ではないというものだ。
たしかに民間人には、公務員と異なり事業所に立ち入る権限はなく、また問題が見つかっても責任者を尋問する権利もない。しかし、民間事業者が適切な労務管理がされていて任意調査に自発的に応じる事業所の書類審査を行うだけでも、それだけで監督官の監査対象を減らすことで業務の大幅な軽減となる。仮に任意調査を拒否する事業所には、何か拒否するだけの理由があるとみなされ、後で本来の監督官が乗り込むという役割分担ができる。
第2に、民間事業者が任意の調査を行い、問題がある場合に監督官に取り次ぐとした場合、その間に証拠帳簿等が隠されたり、迅速な労働者保護が行えないという批判がある。
しかし、民間事業者は、現に監督官が行っている臨検業務を代替するのではなく、人手不足で放置されている大部分の事業所を任意調査で識別する補完的な役割に過ぎない。十分な数の監督官がいることを前提に、民間人との優劣を論じても意味はない。監督官の臨検をより悪質な企業に集中できることが、なぜ労働者の安全確保に有用といえないのだろうか。
第3に、現状でも監督官による立ち入り検査は、抜き打ちだけではなく事前に予告して行く場合もある。これは限られた時間内で、責任者が不在だったり書類が用意されていなければ検査自体が困難なためである。社会保険労務士の広告にも、監督官の臨検時に立ち会うために、あらかじめコンサル契約を締結することがうたわれている。
■薬害被害のケースと同様な
「行政の不作為」の典型例
日本は先進国ではあるが、多くの労働基準法違反が生じており、過労死等の社会的問題が拡大している。それにもかかわらず、監督官の人員不足を理由に、長らく違反行為が放置されてきた。これは同じ厚生労働省の薬害被害の場合と同様な「行政の不作為」の典型例といえる。
現在進められている働き方改革実現会議でも、その大きな柱のひとつとして、残業時間の上限を設定し、それを罰則付きの法律で担保する案が審議されている。しかし、いくら罰則を定めても、それに違反した企業を取り締まる労働基準監督官の極端な不足を放置したままでは、およそ実効性を欠くといえる。
前述したように、公務員の不足に悩む警察庁や法務省等でも、すでに10年前から、駐車違反の取り締まりや刑務所行政の分野で民間事業者の活用を図っている。いずれも当初は規制改革会議等の提言などに消極的だったが、最後は省庁自らが主導権をもって知恵を出し、民間事業者活用のために必要な制度改正を実現させた。
厚労省も、安倍首相が全力をあげて取り組んでいる働き方改革の実現に不可欠なインフラとしての、労働基準監督行政の実効性を強化するべきであろう。このために、従来の公務員主体の取り締まり強化に加えて、民間事業者の積極的な活用を図るための制度改革に取り組む時期に来ているといえよう。
(昭和女子大学グローバルビジネス学部長・現在ビジネス研究所長 八代尚宏)
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