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日本では本当に「富の集中」が進んでいるのか? 野村総研レポートを「誤読」してはいけない
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51080
2017.02.28 町田 徹 経済ジャーナリスト 現代ビジネス
■富の集中は本当か
中日・東京新聞が2月16日付の紙面やインターネット版で報じた『「富の集中」日本も資産の2割が2%の富裕層に』という記事に対して、大きな反響があったようだ。
確かに「格差の拡大」は、米国ではトランプ大統領の誕生、英国では国民投票によるEU離脱の選択の引き金になったとされる深刻な構造問題である。EUもよく似た問題を抱えており、オランダ、フランス、ドイツなどで今年行われる国政選挙の行方を大きく左右しかねないと警鐘を鳴らす向きもある。
それだけに、日本でも他の先進国並みに格差問題が深刻化していると主張する記事が登場すれば、注目を集めるのは当然だろう。
しかし、他の先進国と日本が抱える構造問題は本当に同じものなのだろうか。この問題に関連して、まず冷静に見つめる必要があるのが、各国の国力(成長力)だ。
IMF(国際通貨基金)が集計した各国別の実質GDP成長率(1990年から2015年までの25年間の平均)をみると、米、英両国がそろって2%台の高い水準を維持してきたのに対し、日本のそれは1%にも届かない低水準である。
そうした中で、米、英両国では、成長で得た国富を所得として分配する仕組みに歪みがあることから、資産格差が急ピッチで増幅され続けており、これが社会問題になっている。
一方、日本ではバブル経済の崩壊以来続く低成長が響いて、分配に回る国富が乏しく、分配の歪みに起因する保有資産の格差が生じにくい状況が存在する。
実は、中日・東京新聞が記事に引用した元ネタ(野村総合研究所レポート『日本の富裕層は122万世帯、純金融資産は272兆円』も、副題で『(富裕層と富裕層の資産が)いずれも2013年から2015年にかけて増加』としているだけなのだ。
しかも、増加ペースは、富裕層が保有する資産の伸びよりも、富裕層の増加ペースの方が高い。何が言いたいかというと、「(小)金持ちが増えた」ことを示唆しただけで、ほんの一部の富裕層に富が集中する欧米型の格差の進展があったとはどこにも書いていないのだ。
それどころか、同レポートは、富裕層が増えて富の分散が起きたうえ、最も保有資産の少ない(保有資産3000万円未満)階層が物理的に減ったというデータも示している。
このレポートは、同研究所のホームページで閲覧できるので、興味のある方にはご一読をお勧めする。(2017年2月16日東京新聞『「富の集中」日本も資産の2割が2%の富裕層に』)
それならば、いったい日本の本当の問題は何なのか。今週は、この問題を考えてみよう。
■最も豊かな8人のデータ
世界に衝撃を与えた報告書「最も豊かな1%のための経済」を、英国生まれで70年以上の歴史を誇る国際的なNGO(非政府機関)の「オックスファム」が発信したのは昨年1月のことだ。
この報告書は、「世界の資産保有額の上位62人の総資産は、下位50%(36億人)の人々のそれに匹敵する」点や、「(富裕者の)資産は、2010年以降の5年間で44%も増加しており、1.76兆ドル規模に達した」点を紹介、世界が深刻な格差社会に陥った事実を浮き彫りにした。その衝撃は記憶に新しい。
富の集中とグローバル化への不満が高まる中で、英国は昨年7月、国民投票でEUからの離脱を決定した。次いで、米国で、当初泡沫候補とみられていたトランプ氏が11月の大統領選に勝利を収めた。
いずれのケースも、勝ったのは、保護主義的な主張を前面に押し出し、移民に仕事を奪われたり、いつ奪われてもおかしくないと危機感を抱いている低所得者層などの票を上手に取り込んだ陣営だった。
この2つの出来事は、格差社会の深刻化が自由貿易だけでなく、民主主義まで揺るがせかねないと世界に衝撃を与える”事件”でもあった。
そして、今年1月。オックスファムは、新たなレポート「99%のための経済(An Economy for the 99%)」を公表した。そこに書かれていたのは、1年前の報告書よりも一段と深刻化した格差社会の姿だ。
それによると、「世界で最も豊かな8人は、世界の貧しい半分の36億人に匹敵する資産を所有している」という。報告書は、この事実が明らかになった原因として、インドと中国に関するより正確なデータが新たに公表されたことにあると付している。
■正解は「小金持ちが増えた」
世界が格差社会の到来に揺れる中で、『「富の集中」日本も』と報じて、日本国民に衝撃を与えたのが、冒頭で紹介した中日・東京新聞の記事だ。
ただ、この記事は、記事そのものが元ネタと明かしている野村総研のレポートの内容を誤ったイメージで伝えている。
具体的に言うと、新聞記事は「2015年に1億円以上の金融資産を持っていた富裕層の世帯数は『アベノミクス』が始まる前の2011年に比べ、40万世帯(50・2%)増えたことが野村総合研究所の調査で分かった。
これに伴い富裕層への資産の『集中率』もこの間に約3%上昇。全体の2割の資産をわずか2%程度の世帯が持つ実態が浮かび上がった。米国では上位約3%の富裕層が全体の半分を超す資産を持つが、日本でも富の集中が加速している」と書いている。
ところが、この『集中率』という概念はレポート中に存在せず、どこから出てきたのか不明なうえ、肝心の富裕層の保有金融資産の伸びは記されていないのだ。
実際のところ、野村総研レポートのデータから、この間の富裕層の金融資産の伸びを計算すると44.7%(188兆円から272兆円に増加)と、増えた富裕層世帯数(40万世帯)のそれ(50.2%)を下回っている。
この状態を「富が集中した」というのはおかしい。むしろ、正確にこの状態を表現するなら、「金持ちが増えた」あるいは「(小)金持ちが増えた」ということになるはずだ。間違っても「富の集中が進んだ」ことにはならない。
さらに、この記事はアベノミクスと富裕層の動きを結びつけるためか、強引に2015年と2011年の比較を行っている。が、これが実態をわかりにくくしている。
というのは、野村総研のリポートは2年ごとに更新されているので、素直に、そのデータを使って、2年ごとの傾向を分析するのが、この統計の使い方だろう。実際、2年ごとの富裕世帯の保有金融資産の推移(1世帯平均)を算出してみると、2011年が2億3210万円、2013年が2億3932万円、そして2015年が2億2350万円となる。
この推移から言えるのは、2013年をピークに、日本では富裕層でさえ1世帯当たりの保有金融資産額が減少に転じているという事実である。
今後、この傾向が短期で収束するかどうかを見極める必要があると筆者は思うが、仮に長期化するようであれば、国力の低下を示す数字のひとつとして注意を要するかもしれない。
一方で、前述のIMF統計によると、2015年までの25年間の国別の実質GDP成長率は、米国が2.6%、英国が2.25%、ドイツが1.48%、フランスが1.27%、カナダが1.08%、イタリアが0.76%に対して、日本は0.54%とG7諸国の中で最も成長率が低く、国力を蓄積できていないだけに気掛かりなところである。
この面で日本より出遅れたのは、一時、主要国首脳会議がG8と称された時期に参加していたロシアのマイナス3.73%ぐらいなのだ。
■最も無残な日本とロシア
実は、エコノミストや経済官僚、経営者らを取材していて、このところ頻繁に耳にするのが、深刻な格差社会の出現は、経済成長や国際収支といったマクロ経済運営で成功を収めたにもかかわらず、賃金や税制を含めた所得・資産の分配に失敗した国・地域で顕在化した問題だという分析だ。
つまり、格差は、2009年のリーマンショック後にV字回復・成長を遂げた米国を中心に顕在化した問題という議論が盛んなのである。
半面、この議論において、「最も無残なのが日本とロシアだ」と指摘する人が筆者の取材先には多い。
両国は、分配を問題にする以前に、国として稼ぎ出す力が伸びていない。そもそも分配のやり方を間違って格差が広がるほどの成長をしていないというわけだ。
さすがに、そこまで言うと極論だろうが、将来は、格差が広がるのではなく、ほとんどの階層が沈没しかねないと懸念する人もいるほどなのだ。
そこで、今一度振り返っていただきたいのが、野村総研レポートのデータから筆者が算出した富裕世帯の平均金融資産保有額が、2013年をピークに減少に転じている問題である。
もちろん、日本国内にも、格差が存在することは事実である。見逃されがちだが、高齢者と若者の間の格差の問題も存在する。こうした問題の拡大を防いだり、解消するために、所得税、固定資産税、相続税などを通じた所得・資産の再分配にも、常に目を配らなければいけない。
ただし、格差是正のための分配問題を最優先と捉えるのが賢明なのか、それとも分配に必要なパイの拡大のために先送りを続けてきた成長戦略を今度こそ実現すべきなのか。我々すべての国民が考えなければならない課題である。
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