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日本経済はなぜ最高の時代を迎えるのか?
【第11回】 2017年2月27日 村上尚己
「次なるヘリコプターマネー」を世界は待望している
預金封鎖、ハイパーインフレ…「暴論」にダマされないための基本知識
いま経済政策の世界で、大きなトレンドシフトが起きつつある。それを理解するうえで欠かせないキーワードが「ヘリコプターマネー」だ。これはトランプ米大統領の経済政策を読み解くうえでも重要な概念になってくるだろう。「トランプ相場」の到来を的中させた外資系金融マーケット・ストラテジストの村上尚己氏の最新刊『日本経済はなぜ最高の時代を迎えるのか?』から一部をご紹介する。
「ヘリコプターマネー」をめぐる誤解
以前の連載で触れた日銀の新政策フレームの一つ「YCC政策」は、長期金利ゼロ誘導を可能にする金融緩和策としての効果を持っていた。しかしこれは、純粋な緩和策として以外に、もう一つ重要な意味を持っている。それは、政府による拡張的な財政政策の支援である。金融政策が中央銀行の領分だとすれば、財政政策は政府の仕事である。
※参考
「日銀=手詰まり」論は誤り。注目すべき2政策とは?
―メディアが報じない「マイナス金利」以降の金融政策
http://diamond.jp/articles/-/116547
ここで出てくる議論が、いわゆるヘリコプターマネー(以下、ヘリマネ: Helicopter Money)という政策だ。この名称は、ノーベル賞経済学者ミルトン・フリードマンが「ヘリコプターで国民にお金をまく」という例を持ち出したことに由来しているが、その名のとおり、市中へのマネーサプライ(供給量)を大幅に増やす政策にほかならない。
ややセンセーショナルなネーミングのせいか、日本の経済メディアでは例によって批判的に取り上げられているが、じつはこれも世界各国で現実的な手段として検討されているごくふつうの政策に過ぎない。リーマンショックのどん底にあった米国を立て直した前FRB議長ベン・バーナンキも、ヘリマネ政策の効果を前向きに評価し、「ヘリコプター・ベン」の異名をとっている。今回はこのヘリコプターマネーをめぐる通説の誤解を指摘し、いま世界ではじまりつつある「財政政策シフト」について解説することにしよう。
[通説]「ヘリコプターマネーは怖い。超インフレによる預金封鎖」
通常の金融緩和では、中央銀行が国債を購入して金利を動かすことによって間接的にマネーサプライを増やす。一方、ヘリマネ政策は直接的に国民にカネを行き渡らせるタイプの景気対策である。といっても、もちろん実際に空から紙幣をばらまくわけではない。たとえば、中央銀行ではなく政府自らが政府紙幣を発行するのは、最も典型的なヘリマネ政策だ。1999年の小渕政権のときに配布された「地域振興券」や2009年の麻生政権のときの「定額給付金」などを思い出してもらえばいいだろう。
しかしヘリマネ政策は、こうした典型的な「ばらまき」よりも広い範囲で理解されるのが一般的だ。政府が発行する国債を中央銀行が大量に買い入れることで、政府が財政支出や減税のための財源を調達するのも、一種の「ヘリマネ的政策」である。
ここで重要なのが、日銀が長期金利をゼロ近くに抑えておけば、政府が財源をファイナンスする際のコストが下がるということだ。これこそが、冒頭で私が「YCCが拡張的な財政政策を支援する」と言ったことの意味である。実際、バーナンキ前FRB議長も、今回の日銀YCC(長期金利ゼロ誘導)とヘリマネ政策が持つ実質的効果の類似性を指摘し、日銀の新政策を前向きに評価している。
「ヘリマネなら預金封鎖」はハッタリ
ヘリマネ政策は、政府を経由するかたちではあるが、「マネーを市場に行き渡らせる政策」という意味では、金融緩和と同じようにインフレ率を上昇させる作用を持つ。その意味で、これもまた脱デフレを実現し、経済状態を回復させていくうえでは、望ましい政策オプションだと言えるだろう。
実際、リーマンショック後に世界的な経済停滞が長期化するなかで、各国当局も中央銀行による国債購入の拡大というかたちで、一種のヘリマネ的政策を拡張させてきた。その結果、これが景気回復を後押しする現実的な政策であるとの認識は、世界的にかなり広がっているのが実情である。
それにもかかわらず、日本のガラパゴス経済メディアでは、ヘリコプターマネーという刺激的なワードに脊髄反射するだけの稚拙な議論が続いている。日銀がストックベースで40%前後の国債を購入しているいま、財政ファイナンスとしての広義のヘリマネ的政策は、すでに日本でも行われていると言えなくもないし、実際に円安・株高・雇用増といったポジティブな結果を生んでいる。
もはや問題は、それを拡張するかどうかという次元に来ているにもかかわらず、いまだに新聞には「政府と日銀の危険な綱渡り」などという後ろ向きな見出しが躍っている。
ヘリマネ批判をする人が抱いている懸念は、これによってインフレ率が跳ね上がり、日銀によるコントロールが利かなくなること、いわゆるハイパーインフレという事態だろう。
彼らの脳裏にあるのは、「戦前の高橋是清大蔵大臣が主導した日本銀行の国債引き受けが、日本に深刻なインフレと預金封鎖(金融機関から預金を引き出せなくなる状態)を引き起こした」というストーリーである。じつはこれ自体が歴史的事実の歪曲に過ぎないのであるが、こうした通説を広める一部の有識者がいるせいで、「ヘリマネ政策=金融システム破綻」という連想を誘うメディアが増えているようだ。
もちろん、日本がヘリマネ政策を本格化させれば、インフレ率は相応に高まるだろう。ただ、インフレ目標をはじめとしたインフレ率を制御する仕組みは、戦前とは比べものにならないほど整備されている。現代の先進国と言われている国において、制御不能なインフレが起きる可能性はきわめて低いというのが実情だ。
それにもかかわらず、「預金封鎖」のようなワードで脅しながら、一般の人々の危機感を不必要に煽るようなメディアのやり口はまったくフェアではない。以前の連載で見た「野菜高騰により消費低迷」と同様、これも身近な連想の働きやすい「預金」をフックにした印象操作である。ヘリマネというフレーズを前に思考停止することなく、その現実的効果に目を向けることが必要だ。
※参考
ノーベル賞経済学者も認めた「日本の消費増税」のデタラメな失策ぶり
http://diamond.jp/articles/-/116545
いまはまだ「擬似ヘリマネ」に過ぎない
2016年にヘリマネ政策がメディアで取り沙汰されるようになったきっかけは、7月10日の参議院選で自民大勝を果たした安倍首相が、追加の大型財政政策を決断したことだろう。
これは総額28.1兆円、戦後3番目の規模の財政政策である。これを受けて経済メディアは、「ヘリマネとの境界線を市場は不安視」といったフレーズとともに、この財政政策を批判的に取り上げた。
じつは2015年後半から、われわれ海外のプロの投資家のあいだでは、「次にヘリマネ政策を展開/拡張するのはどの先進国なのか」の議論が繰り返されており、金利・為替市場に影響を及ぼす最重要テーマとして注視されていた。そのため、安倍首相が決めた財政拡大は、世界中の投資家の注目を集めるところとなった。2016年前半のマイナス金利など、日銀の迷走によってデフレ懸念が高まっていた日本で、これがトレンド転換の節目になるかもしれないと期待されたわけである。
しかし、投資家の視点で言わせていただけば、これはまだ明確な政策転換ではなく、あくまでも「擬似ヘリコプターマネー」である。「政府の財政支出拡大で国債発行が増えた分を、中央銀行が明示的に購入することでファイナンスすること」―現代的なヘリマネ政策をそう定義するとすれば、今回の規模ではまだ本来の意味でのヘリマネとは呼べない。総額28.1兆円は大規模とはいえ、追加の国債発行をせずとも、税収拡大や余剰金などでやりくりできる水準である。
また、総額を膨らませているのは、財政投融資や中小企業向け融資の拡大である。たとえば、リニアモーターカー事業への投融資を拡大させても、この事業自体は将来的にはいずれ進捗する。前倒し的な融資が好況の呼び水となる側面はあるが、総額で見れば追加的な財政支出とは言えない。また、政府系金融機関から企業への融資枠を増やしても、企業にお金を貸しただけではGDP押し上げには直結しない。
やはりGDPを増やすためには、政府自らが投資をするか、消費を刺激するお金の使い方をしていく必要がある。しかし、そうした支出の規模は28.1兆円のうち、7.5兆円程度である。さらにそのなかでも、公共投資を除いてしまうと、俎上に載っているメニューは数千億円レベルの小規模な政策が目立つ。2014年の消費増税で大きく落ち込んだ個人消費を再び持ち直させるためには、限界消費性向が高い(所得の増分のうち消費に回す割合が高い)低所得者向けに大規模な給付金を導入するなど、総需要を高める大胆な方法が望ましいと思うがどうだろうか。
世界的な「財政政策シフト」の予兆
無論、消費増税以来、2015年に入ってからもずっと抑制的な財政政策が続いてきたことを思えば、今回の追加財政政策は大きな一歩である。私が試算したところでは、これには0.6%ポイント程度のGDP押し上げ効果が見込めるからだ。これに先立つ6月1日には、「2017年4月の消費増税」に先送り判断が下されたことも忘れてはならない。
しかし、これ単独では本格的に日本経済を復活させるほどのパワーはなく、ぎりぎり最低ラインの手当てという印象である。日銀が長期金利ゼロ誘導を導入したいま、本格的なヘリマネ政策に打って出る準備は十分に整っている。ここで安倍政権がどう出るかは、政治判断によるところも大きいだろう。
最後に、もう一つ注目しておきたいのが、2016年5月末に行われたG7(伊勢志摩サミット)である。このとき、安倍首相は議長国のトップとして「主要国が財政出動で協調し、世界経済を支える」というビジョンを掲げ、各国への問題提起を行った。参院選後の7月に安倍首相が追加の財政政策を決めたのは、まさに「有言実行」を自ら示した格好だと言えるだろう。
G7のような会合の場で各国の財政政策が決まることはまず期待できないが、日本が「財政政策で経済成長を支える」という方向性を各国に先んじて提示した意義は大きかったのではないか?米国にトランプ大統領が誕生したいま、「金融政策から財政政策へのシフト」は現実味を増しているし、トランポノミクスの本質はそこにあると私は見ている。これが何を意味するのか、これを次回以降の連載で見ていくことにしよう。
[通説]「ヘリコプターマネーは怖い。超インフレによる預金封鎖」
【真相】否。不安煽るデマ。世界で検討されるまっとうな政策。
村上尚己(むらかみ・なおき)
アライアンス・バーンスタイン株式会社 マーケット・ストラテジスト。1971年生まれ、仙台市で育つ。1994年、東京大学経済学部を卒業後、第一生命保険に入社。その後、日本経済研究センターに出向し、エコノミストとしてのキャリアを歩みはじめる。第一生命経済研究所、BNPパリバ証券を経て、2003年よりゴールドマン・サックス証券シニア・エコノミスト。2008年よりマネックス証券チーフ・エコノミストとして活躍したのち、2014年より現職。独自の計量モデルを駆使した経済予測分析に基づき、投資家の視点で財政金融政策・金融市場の分析を行っている。
著書に『日本人はなぜ貧乏になったか?』(KADOKAWA)、『「円安大転換」後の日本経済』(光文社新書)などがあるほか、共著に『アベノミクスは進化する―金融岩石理論を問う』(中央経済社)がある。
http://diamond.jp/articles/-/116549
金利と経済 高まるリスクと残された処方箋
【第5回】 2017年2月27日 翁邦雄 [おきな・くにお]
「シムズ理論」を使うと物価安定は破壊される 期待に働きかける「無責任」政策の危険性
昨年、浜田宏一・内閣官房参与の発言をきっかけに、クリストファー・シムズ米プリンストン大教授らが唱えてきたFTPL(物価水準の財政理論)理論が日本国内でにわかに注目を集めた。FTPLは必ずしも新しい議論ではなく、日本でも2000年代から一部で注目されはじめ、金融緩和とインフレの結びつきが希薄化するなかで関心を呼んできた。今回、再び注目が高まったFTPLのロジックから、日本が本当に読み解くべきこととは?
<詳しくは新刊『金利と経済』でご覧いただけますが、同書で取り上げたトピックに一部手を加えてご紹介していきます>
?2016年11月15日付の『日本経済新聞』で、金融緩和主導のアベノミクスの理論的支柱とされ、財政規律毀損の観点からヘリコプターマネーに否定的な論陣を張っていた浜田宏一・内閣官房参与の発言が大きな反響を呼んだ。
「私がかつて『デフレは(通貨供給量の少なさに起因する)マネタリーな現象だ』と主張していたのは事実で、学者として以前言っていたことと考えが変わったことは認めなければならない」と語ったからである。
消費増税で財政が好転し過ぎる、という予想で物価が下がったのか?
?浜田氏は、この変心の理由について「ジョージ・ソロス氏の番頭格の人からクリストファー・シムズ米プリンストン大教授が8月のジャクソンホール会議で発表した論文を紹介され、目からウロコが落ちた。金利がゼロに近くては量的緩和が効かなくなるし、マイナス金利を深掘りすると金融機関のバランスシートを損ねる。今後は減税も含めた財政の拡大が必要だ」と説明しており、これ以降、「シムズ理論」は大きな脚光を浴びている。
?シムズ理論(シムズ自身は、自分はこの理論の創始者ではないとしている)とされているFTPL(物価水準の財政理論)は、必ずしも新しい議論ではない。日本でも、リフレ派の主張に懐疑的な人たちによって2000年代から注目されはじめ、金融緩和とインフレの結びつきが希薄化するなかで関心を呼んできた。
?シムズは、2015年8月のインタビュー(※)のなかで、この理論の骨子について、均衡では政府債務を物価水準で割った実質価値が政府の将来のプライマリーバランスの割引現在価値と一致しなければならない、というものであり、企業金融で企業の株価が将来の予想配当の割引現在価値と一致しなければならないのとロジックは同じ、と説明している。
?この関係からは、政府債務が増加したのにプライマリーバランスの予想が変化しなければ物価が上がり、プライマリーバランスの予想が好転したのに政府が財政を拡大しなければ物価が下がる、ということが予想される。
?浜田氏に衝撃を与えたという2016年8月のジャクソンホールのスピーチで、シムズは日本についても触れており、インフレ目標が達成される前に、消費税を引き上げたことがデフレ脱却を妨げたのではないか、としている。
?この場合、消費税引き上げのデフレ脱却への悪影響は、通常のロジック━━増税による可処分所得の減少が、消費を抑え需要を減らす━━とはまったく異なるメカニズムが想定されている。FTPLに照らすと、消費税増税で人々がプライマリーバランスの予想を好転させた一方、政府が財政支出を拡大しなかったので、人々は、政府債務の実質価値とプライマリーバランスの予想割引現在価値を比較した結果、物価が下がる必要が生じると考え、デフレになった、ということになるのである。
?日銀も指摘しているように日本の自然利子率の趨勢的な低下は顕著であり、財政の持続性も先進国でもっとも危機的な状況が続いている。浜田教授の指摘するように、通貨量の増加というリフレ政策が失敗したのは事実としても、その理由として、日本の人々が「消費税増税でプライマリーバランスの予想が好転したのに、政府が財政支出を拡大しなかったので、均衡を維持するには物価が下がる必要があると考えた」というロジックは説得力をもつだろうか。
?FTPLに関心をもってきた人々は、これまで、むしろ『日本は政府債務残高が無責任ギリギリの水準まで膨らんでいるのに、FTPL的な反応がまだ起きないのはなぜなのか』と悩んできたようにみえる。
?異次元緩和で国債市場からのシグナルを殺していることもあり、財政危機への懸念は経済人の間でも高くない。そうした状況の下で、2014年4月の消費増税効果後の経済停滞のみに着目し、これを理由に、FTPLのロジックが日本経済を動かしている、と考えるのは無理があるだろう。
?しかし、このことは、FTPLが荒唐無稽ということではまったくない。FTPLのロジックが日本経済に貫徹し、財政規律が緩むという期待が物価上昇に直結するようなレジームシフトが起こる可能性は十分に存在すると思う。その意味でFTPLは気にかけておく必要がある理論だ。
?しかし、もしFTPLのロジックをデフレ脱却に使うなら、財政がいかに危機的な状況にあり、政府は、そこでさらに財政規律を緩めることでインフレを起こそうとしているのだ、ということを人々が認知する必要がある。
?日銀が期待への働きかけに失敗したように、人々の期待を機械的に操作することは難しい。金融政策の期待への働きかけと同様に、財政についても「管理された無責任」は難しい。しかし、「徹底した無責任」ならば、期待に働きかけられることは間違いない。そのようにしてFTPLのロジックが国民にしっかり認知された場合、人々は、インフレ率は到底2%程度では止まらないのではないか、と先行きの物価に大きな不安を持つようになるはずである。
?かつて、グリーンスパンは連邦準備制度理事会だった当時の講演で「物価の安定」とは、「経済主体が意思決定を行うに当たり、将来の一般物価の変動を気にかけなくても良い状態」と定義した。FTPLのロジックを使い、政府が無責任であることを強調することは、この物価安定の定義と真逆のインフレを作り出そうとするものだ、と言ってよいだろう。
http://diamond.jp/articles/-/119315
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