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小宮一慶 小宮コンサルタンツ代表
トランプ政権との2国間交渉は多国間より手ごわくなる
http://diamond.jp/articles/-/119145
2017年2月25日 小宮一慶 ダイヤモンド・オンライン
■2国間交渉に持ち込んだトランプ大統領の策略
少し前の話になりますが、安倍晋三首相とトランプ大統領による初の日米首脳会談は、事前に危惧されたような「無理難題」をトランプ大統領から突きつけられることもなく、むしろ、安全保障面では「強固な日米同盟」を世界にアピールして終わりました。
もちろん日本に対する要求を撤回したわけではなく、今後は麻生副総理とペンス副大統領をトップとする、2国間交渉に交渉の場が移ります。アメリカは首脳会談では「仲の良さ」を強調しましたが、今後の自動車や農産物などの個別交渉では、こわもての面も見せてくると私は考えています。
これからは2国間交渉になるわけですが、TPPなどの多国間交渉よりも、手ごわい交渉が待っている可能性を見過ごしてはいけないのです。
日米首脳会談で「何も要求されなかった」ことが大きなニュースになったのは、トランプ大統領が歴代大統領にはなかったタイプの人物だからでしょう。メディアを通じて伝えられるトランプ大統領の言動を見ていてまず思うことは、オバマ前大統領までの歴代大統領は、アメリカの強大な権力や影響力を熟知している「大人」であり、自制した発言を心がけていたということです。
一方トランプ大統領は、選挙中はもとより政権の座について1ヵ月以上が経過した今も、一般大衆受けするような発言をしたり政策を打ち出しています。「イスラム圏7ヵ国からの入国を制限する大統領令」などは、その最たるものだったと言えます。
そのような人物がなぜ、事前予測では優位に立っていたヒラリー氏に勝つことができたのか。
その要因として昨年11月の大統領選挙が従来の民主党対共和党という対立軸ではなかったことが挙げられます。
共和党は政府の市場介入を最小限にとどめる小さな政府を標榜しており、比較的富裕層に支持されてきました。民主党は社会保障の厚い大きな政府を目指し、労働者や労働組合に支持されていました。
ところが昨年の大統領選挙では、ヒラリー氏が勝利した主な州は、北東部のニューイングランドや西海岸という比較的豊かな人々が住む州でした。
一方トランプ大統領を支持したのはアメリカ大陸中央部の「ラストベルト」(さびた工業地帯)と呼ばれるかつては栄えたものの今では経済的に低迷している工業地帯で働く人々です。つまり「富裕層」対「低所得層」という従来とは違う支持層の対決となったのです。
■トランプ大統領を生んだ米国の「教育格差」問題
そのことと大きく関連し、大統領を支持する層の別の面から見た概要もこれまでとは様相が異なっています。
あるメディアは大学に進学していない白人層の75%がトランプ大統領に投票し、その背景には教育格差に起因する所得格差による不満があったと分析しています。
私は30年以上前に留学していたビジネススクール(ダートマス大学タック経営大学院)のアジア地区のアドバイザリーボードのメンバーをしていますが、現在ではその学校の年間授業料は7万ドル強(約800万円)です。生活費を加えると2年間で2000万円以上かかります。
大金ではありますが、しかし、卒業生(265人)の卒業3年後の平均年収は18万5000ドル(約2100万円)です。平均での数字ですからもっと稼ぐ人も大勢います。
ビジネススクール卒業後3年目というのはだいたい30歳前後です。卒業は大変ですが、卒業さえできれば2000万円を投資しても十分に元が取れ、10年後、20年後にはもっと多くのお金を稼ぐこともできるのです。
日本では、年収2000万円というと、大企業、それも一流の大企業の部長さん以上くらいの年収です。日本では一流大学を出て25年程度キャリアを積まないと取れない年収を米国では、30歳前後で取る人たちが少なからずいるのです。しかし、そこには、教育が大きなハードルとなっているのです。
一方高等教育を受けていない層は、その何分の1という低所得に甘んじなければなりません。
しかも教育による所得格差は負の連鎖になりがちで、貧しい家庭は子どもに高等教育を受けさせることができず、新たな低所得の家庭を生むという「負の連鎖」が繰り返されます。
そのような不満が充満していることが、トランプ大統領が登場し支持されたというわけです。
ではこれから何が起こるのか。日本人は真面目なので、大統領がツイッターで不満を述べただけで右往左往していますが、私はアメリカの次の2つの面に注目しています。
■三権分立がどこまで機能するかに注目
まず政権運営について。
アメリカは民主主義の暴走に歯止めを掛ける行政(大統領と内閣)、立法(連邦議会)、司法(裁判所)による三権分立が機能している国だということです。
大統領は行政のトップとして強大な力を持つとともに、最高裁の裁判官を指名し、拒否権により議会が作る法律を拒否することができます。
一方、議会は3分の2以上の再議決で大統領の拒否権を覆すことができます。大統領が指名した裁判官の任命を拒否することもできます。
連邦裁判所は大統領の政策や議会が制定した法律について違憲判断が下せます。
そのため、はたから見ると無謀に思える入国制限を命じた大統領令は、司法により執行停止が命令されたというわけです。
しかし三権の対立があまりに激しくなると、政権が機能しなくなる恐れがあります。トランプ大統領がそのバランスをとって政権を運営できるかに注目です。
またトランプ大統領は、政権与党である共和党とも必ずしも一枚岩でないこともあり、議会の動きにも注意が必要です。
二つ目は日本に対する姿勢です。
■日本はどこまで押し返せるか
私は銀行員時代、M&Aの仕事をしていました。アメリカ企業を相手にした仕事が多かったのですが、留学でアメリカを経験している私でも、最初は驚かされることも少なくありませんでした。
それは交渉では、アメリカ企業は言いたいことを100%主張するからです。日本人ならとても言わないことまで言う。多民族国家のためあうんの呼吸が通じず、本音と建て前を使い分けることもない。
日本の経営者たちはまず、この点で驚きます。一部の方は「そこまで言うのか」と怒りだします。
でも悪意があるわけではなく、彼らはそれがビジネスだと思っているのです。主張することが普通なのです。
であれば日本側も同じ土俵に立って100%の主張をして妥協点を探ればいいのです。むしろ、それをやらないと相手から対等だとはみなされません。きちんと言いたいことを言うことが大切なのです。
トランプ大統領は元々ビジネスマンで、なおかつああいう性格ですから、よけいに言いたいことを言うでしょう。安倍首相や官僚も主張をして押し返さなければなりません。
ただ、日本はアメリカの軍事力の傘の下にいることは間違いなく、先の首脳会議で、安全保障面で同盟関係を確認したことは、今後の経済面での交渉では大きな妥協を日本に強いることになりかねないことにも注意が必要です。
政治や安全保障が絡むと、全体のバランスを取る意味ではややこしくなりそうです。今後の個別分野での交渉には注意が必要です。
(小宮コンサルタンツ代表 小宮一慶)
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