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ノルウェー・エアシャトルのB737型機(「Wikipedia」より/Arpingstone)
米国、今まで他国に航空自由化押し付け、今度は米国への参入規制の横暴
http://biz-journal.jp/2017/02/post_18101.html
2017.02.23 文=牛場春夫/航空経営研究所副所長 Business Journal
米運輸省(DOT)は、ノルウェー・エア・インターナショナル(NAI)の米国乗り入れを、申請から3年も経った昨年12月2日になって認可した。なぜ、3年もかかったのだろうか。
NAIは、急成長している北欧のLCC(格安航空会社)である親会社ノルウェー・エアシャトルがアイルランドに設置した子会社である。ノルウェー・エアシャトルのグループ全体の昨年の輸送旅客数は、前年比19%増の2930万人で、日欧北極周り航空路(ポーラールート)を開発したスカンジナビア航空を追い抜く勢いだ。今ではライアンエアー(アイルランド、同19%増、1億1700万人)とイージージェット(英国、同6.6%増、7445万人)に次ぐ欧州域内第3位のLCCに成長している。
ノルウェーはEU非加盟国なので、ノルウェー・エアシャトルはEUと米国間のオープンスカイ協定による自由な米国乗入れ権を享受できない。そこで、EUに加盟しているアイルランドに子会社を設立して、コーク(アイルランド)―ボストン(アメリカ)線の開設を計画したのだ。
子会社をアイルランドにつくった理由は、同国が北部欧州の最西端に位置し、北米大陸に最も近い地理的優位性を有しているからである。1940年に開港したシャノン空港などは、大西洋航空路の給油のための一大中継地として栄えたという歴史を持つ。そんな歴史が、アイルランドを欧州の伝統的アビエーション(航空)先進国に育て上げたのだ。
現代では航続性能が向上した航空機の出現により、給油のためのアイルランド寄港はほとんど必要とされなくなったが、依然として航空機整備・航空機リース・運航乗務員斡旋など多くの航空関連企業がこの国に集まっている。米国線に使用する航空機は、航続距離の短いB737型機であることも大きく影響しているようだ。アビエーション先進国であるという理由と路線運営上の技術的問題に加え、アイルランドの寛容な労働法の存在が、低賃金の外国人乗務員採用に適していたことも、ノルウェー・エアシャトルがアイルランドを選んだ見逃せない理由の一つといわれている。
■航空業界の反応
米国の航空業界は、NAIの乗入れ申請にヒステリックに反応した。何しろニューヨークと欧州間を、現行運賃の半値の片道200ドル弱で販売するというのだから、この路線を運航している既存の航空会社への影響は甚大だ。米メジャー3社と労働組合6団体は、こぞって反対を表明し、DOTに対してNAIの申請を却下するよう陳情した。アイルランドに“傀儡”航空会社を設立して、ノルウェーの労働法では到底雇用できないアジア国籍の低賃金の客室乗務員を採用するというのはオープンスカイ協定の労働条項に抵触する、というのが彼らの言い分だ。
そして、オープンスカイ協定の恩恵を得るために設立されたNAIは、海運業界でより有利な条件の国に船籍を移すフラッグオブコンビニエンス(便宜置籍)に相当すると主張し、米国の雇用機会減少を引き起こすと警告した。米メジャー3社と組合の強硬な反対に直面したDOTは逡巡し、最終的な承認を3年間も遅らさざるを得なかった。EUからの「EUの正当な航空会社のオープンスカイ協定に基づく、当然の米乗入れ権行使の早期承認」を求める圧力もあり、DOTはオバマ政権任期の最後でこれを承認したのだ。組合6団体は、すぐさま今年1月13日、合衆国控訴裁判所(ワシントン)に対して、DOT認可の正当性のレビューを正式に要求した。
さらに米メジャー3社は、中東3社(エミレーツ航空、カタール、エティハド航空)の米国路線便数の急速な拡大についても問題視している。中東3社は04年以降、420億ドルの政府補助金を得ているので、彼らとの公平な競争環境が担保されていないという主張だ。そしてDOTに対して、中東3社へのオープンスカイ協定の見直しを要求している。
ノルウェー・エアシャトルも中東3社も黙っていない。ノルウェー・エアシャトルは、効率の良いスケジュール作成上の理由だけからアイルランドに子会社を設立したのであって、米路線に対するアジア国籍の低賃金乗務員の採用は計画していないと反論し、米国内でパイロットの基地を3カ所新設して、雇用増加に貢献することを約束した。
一方、中東3社は、今まで補助金を受け取ったことなど一切なく、旅客シェアの向上は高いサービス品質によるものだと主張し、政府補助金を得ているのはむしろ米メジャー3社のほうだと反撃している。米メジャー3社は2000年以来、連邦破産法の適用による会社再建で、推定700億ドルの政府補助金に相当する支援を受け取っていると主張している。
■米国内では歓迎の向きも
米国側では、NAIや中東3社の米国乗入れに反対する人たちばかりではない。ジェットブルー航空、ボーイング、米旅行協会(U.S. Travel Association)の3つの企業や団体は、彼らの乗入れを大歓迎だ。ジェットブルー航空は、中東3社と米国内線コードシェア便協定を締結し、中東3社の乗客の米国内複数都市への乗り継ぎ便を運航している。その上、数年先には大西洋欧州線開設を計画しているので、現行のオープンスカイ協定の維持が必要なのだ。
ボーイングにとっては、NAIや中東3社はボーイングの新造機を大量に購入してくれるお得意様だ。米旅行協会は訪米インバウンド旅客の増加を欲しているのだから、訪米旅行者を運んでくれる航空会社の供給は、多いほど良いことになる。
米国は、自国の航空会社の路線網を世界に拡大するために、長年米航空会社の乗入れ先各国に、国際航空の乗入れ地点数・航空会社数・供給便数・以遠権・運賃設定権のすべてを自由化するオープンスカイ協定を要求してきた。それに合意した国に対しては、場合によっては、その国の航空会社と米国の航空会社間で運賃の共同設定まで認める“飴玉”を用意している。運賃共同設定とは聞こえが良いが、要は運賃談合(カルテル)である。
本来は独占禁止法で禁止されるカルテルを「独占禁止法適用除外」(Antitrust Immunity/ATI)として認めてしまおうというのだから、おかしな話である。このATIに基づいて全日空も日本航空も、それぞれユナイテッド航空、アメリカン航空と2社間提携している。
一方でオープンスカイ協定という自由化を標榜しながら、他方で自由化とは真っ向対立する運賃談合まで認めてしまうというのは、なんとも矛盾した“二枚舌”ではないだろうか。DOTは、そこまでやってオープンスカイ協定を押し通してきた。そして米国は、今では100カ国以上との2国間協定と、EUを含む30数カ国との多国間協定によるオープンスカイを実現している(ちなみにオープンスカイにおけるATIの取り扱いは、例外的に米司法省(DOJ)ではなくてDOTの所管)。
■身勝手なご都合主義
それが最近では、オープンスカイ協定を押しつけた各国の航空会社が国際競争力をつけてきて、米企業と互角、むしろより優位な競争ができるようになると、今度は協定見直しを持ち出して自国への乗り入れを制限することを画策し始めている。これは身勝手なご都合主義といえないのだろうか。
米メジャー3社は、企業寄りのトランプ大統領に大きな期待を寄せている。トランプ大統領は、イランとの核合意(15年7月)の破棄を表明している。そうなれば、ボーイングは、近い将来80機に及ぶ大量の航空機発注を計画中のイラン航空を、見込み顧客名簿から削除しなければならなくなるだろう。もちろん、イラン航空の35年ぶりのテヘラン−ニューヨーク線再開計画も頓挫する。
また、NAIや中東航空会社の乗り入れを制限するならば、米旅行協会が主張するように、訪米旅行者の増加に少なからずの負の影響を与えるだろう。そして、54年ぶりに国交正常化したキューバとの関係を打ち切るならば、米アウトバウンド旅行(特にクルーズ)の一大人気目的地(寄港地)になると期待されている市場がなくなってしまう。2月3日にシアトルの判事により差し止めされた、テロの懸念がある7カ国からの難民と旅行者の入国を一時禁止する(所謂Travel Ban)大統領令が万一導入されるようなことがあれば、米国旅行業界に対する影響は計り知れない。
(文=牛場春夫/航空経営研究所副所長)
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