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トランプ米大統領のTPP離脱表明を受け、日米はFTAなど二国間交渉へとかじを切る。これは日本農業にかつてない損失をもたらすかもしれない (※写真はイメージ)
TPP後の日米交渉 農業は崖っぷちに〈AERA〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20170221-00000061-sasahi-ind
AERA 2017年2月27日号
ドナルド・トランプ氏がアメリカ大統領に就任して約1カ月。新大統領は意に沿わない企業やメディアをツイッターなどで厳しい言葉で恫喝してきた。グローバル企業は戦々恐々としている。トランプ政権で世界はどう変わるのか。AERA 2017年2月27日号では、「トランプに勝つ日本企業」を大特集している。
トランプ米大統領のTPP離脱表明を受け、日米はFTAなど二国間交渉へとかじを切る。米国からの要求はTPPより厳しくなる可能性大だ。いったい、今後の日本には、どんな影響があるのだろうか……。
* * *
「TPP(環太平洋経済連携協定)には、経営に大きなダメージがあるだろうから反対していた。米国の離脱で一安心というよりは、二国間交渉でTPPのときよりもっと状況が悪化するのではないかと心配している」
こう話すのは熊本県阿蘇市で和牛60頭を飼育する山口力男さん(69)。熊本県は肉用牛の飼育数が全国4位。TPPで牛肉は38.5%の関税を段階的に引き下げ、16年目以降は9%になるとされた。山口さんが飼育するのは和牛でも「あか毛和牛」と呼ばれる褐毛和種。高級肉の黒毛和牛はTPPが発効しても影響は小さいとされる一方、褐毛は黒毛に比べてサシが入りにくく、黒毛ほどの高値がつかない場合が多い。
「肉質の格付けは最高ランクに達しないものが多く、米国産牛と競合することになる。コストの面で到底太刀打ちできない」
気がかりなのは、米国の牛肉関連の農業団体の動向だ。TPPでの関税引き下げが実現せず不満を抱え、トランプ政権に盛んに圧力をかけている。
「二国間協議では関税をいきなりゼロにしろとか、シビアな要求に変わるのではないかと、畜産農家同士で話している」
と不安を募らせる。農業ジャーナリストで、『亡国の密約 TPPはなぜ歪められたのか』(新潮社)の共著者・山田優さんも同様の見方だ。
●米でロビー活動激化
「米農務省はTPP合意で2025年までに関税が完全撤廃になった場合の影響額を、過去に試算している。それによると、米国の輸出増加額の半分以上は日本向けが占める。農業団体はそういうふうにそろばんをはじいていたから、TPP離脱には相当不満がある」
声の大きい牛肉団体を筆頭に、オバマ政権での農務長官をトップに迎えた乳製品輸出団体、加えて日本へのコメ輸出に積極的なカリフォルニアのコメ業界などが輸出の拡大を求めることになるという。大統領選では農家の多くがトランプ氏に投票しており、農業団体の要求を無視するわけにはいかないという事情もある。
日本ではかつて農協、農水族議員、農林水産省が強固に結びついて「鉄のトライアングル」を形成、農業交渉で政府に強い圧力をかけてきた。しかし山田さんは「鉄のトライアングルはもうなくなってしまった」と、農業関係者から二国間交渉に強い影響を与えるのは難しいとする。
「過去の多角的貿易交渉では、農業分野で日本が勝ったことはない。どの程度の負けで済むかというのが、これまで一貫して農業交渉の焦点でした」
TPPやウルグアイ・ラウンドなど過去の交渉を取材してきた経験から、米国を向こうに回した二国間交渉で日本が主導権を握るのは難しいと断言する。
「二国間交渉になれば、互いの国力の差がダイレクトに影響するし、相手は『アメリカファースト』と言っているわけだから、相当な圧力が来る。厳しい交渉が予想されるでしょう」(山田さん)
東京大学の本間正義教授も、こう話す。
「二国間で交渉するなら、トランプは最低でもTPPの水準で、当然それ以上の開放を要求してくるでしょう」
●要求エスカレートか
本間教授によると、米国が最も輸出したい品目として重視するのが牛と豚。関税率はTPP以上の引き下げも予想されるが、それに加えてセーフガード(緊急関税措置)の発動の要件を厳しくするよう求められる可能性もあると指摘する。セーフガードは輸入急増による国内産業への重大な損害防止のため、関税を引き上げたり、輸入数量を制限したりする措置で、TPPの基本合意でもその発動が認められていた。
「TPPで合意に至ったセーフガードをうんと発動しにくくするように、といった要求は出てくるかもしれない」
ところで、仮にTPPが発効した場合、日本農業への影響はどの程度のものだったのか。TPP交渉合意後の15年12月、政府はTPPが発効した場合の影響の試算を行い、農業分野で1300億〜2100億円の生産額の減になると発表した。しかしさかのぼること3年足らずの13年3月には全農産物の関税撤廃をした場合、生産額が約3兆円減ると試算していた。
前提条件が違うにしても、なぜこれほどの差が出るのか。まず15年の試算は、今後行う国内対策の効果を加味している。政府のTPP対策がどこまで功を奏すか現時点で正確なところはわからず、かなり恣意(しい)的な数字と言える。13年の試算もTPPによる被害の甚大さを示すという目的ありきで、恣意的なことに変わりはない。米国の離脱でTPPが発効しなくなったいまとなっては、実際の影響額はやぶの中だ。
●農業も関税削減の流れ
二国間経済対話が始まり、農業が経済交渉の対象になれば、農業界からの反発は再び高まるだろう。だが、本間教授はこう指摘する。
「今後、農産物が例外になって関税引き下げが一切ないという話はあり得ない。グローバル化の中で関税の削減・撤廃という流れは変わりません」
1995年に発足した世界貿易機関(WTO)は農産物の輸入数量制限などを廃して関税化することに合意。関税を今後引き下げていくという方向性も打ち出している。TPP参加国の中で農産物の関税撤廃率が約81%(日本以外の11カ国の平均が98.5%)と突出して低かった日本農業だが、いつまでも高関税を維持し通せるものではないという。
「農産物以外のものはWTOとその前身のGATT(関税貿易一般協定)を通じて関税がほとんどゼロに引き下げられている。そういう意味で農業は周回遅れで今、フロントランナーに立たされている」(本間教授)
高関税で農産物の国内価格をつり上げ、国内農家を支えるという農政のあり方。それが最も露骨に表れているのが関税率778%とされるコメだ。だが生産農家の中にも、今の関税のあり方に疑問を呈する人はいる。コメ生産量で全国3位を誇る秋田県。県南部の由利本荘市でコメを中心に9ヘクタールを耕作する進藤敏和さん(49)だ。
「個人的には、コメの関税を撤廃してもいいと思っている。農家が生活できるような国内政策をとればいい話では」
と話す。
●外圧以前に課題山積
「国内でコメが余っているから、外国産を入れるなというのは、確かにその通りだ」
と関税引き下げに反対する動きに理解を示しつつ、国内問題を棚上げして反対一辺倒になることには疑問を感じるという。
「国内ですでにコメが余ってしまっている状況を何とかしようとするほうが建設的だなと思っている」
需要量が年8万トンのペースで減っていながら、生産量が減らず余剰感の強まるコメ。外圧うんぬん以前に国内で解決
べき問題を抱えているというのだ。
コメに限らず、国内農業は農家の高齢化と後継者不足、生産効率の低さなど数々の課題を抱えている。関税引き下げという外圧がなくても、すでに危機に直面している状態だ。本間教授は外からの市場開放の要求にうまく対応しながら、国内農業の競争力を時間をかけて強化すべきだと訴える。
「関税引き下げの方向でWTOは合意しており、コメは開放しない、関税も下げないという状況はいつまでも続かない。日本は『20年後に農産物の関税を完全に撤廃する』といった方向を打ち出して、そういう条件の下で農業の新しいビジョンをつくるべきだ」
関税の引き下げと撤廃に伴い外国産との競争が生じるが、生産性の向上や輸出による海外市場への展開、農家に対する所得補償で対応できるとの考えだ。早めに長期ビジョンを描いて取り組めば、国内農業の強化は可能だとする。
「将来の農業ビジョンに到達するために今、何をなすべきかを逆算して工程表を考える。そのためにTPPやそれ以外の経済交渉をうまく使っていくということですね」
(編集部・山口亮子)
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