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東芝の経営危機は、明らかに劣勢に立たされても真実を直視せず、現場の兵士たちを捨て駒にした太平洋戦争末期の日本軍の失敗と重なる Photo:Reuters/AFLO
東芝「原発広報の異常さ」から見える危機の前兆
http://diamond.jp/articles/-/117281
2017年2月9日 窪田順生 [ノンフィクションライター] ダイヤモンド・オンライン
いきなり7000億円もの巨額損失を出した東芝の原発事業。経営陣がどこで何を間違えたのか、さまざまな専門家が分析を試みている。ここでは、経営陣のものの考え方がダイレクトに出る企業の「広報活動」から、東芝経営陣の原発事業に対する歪んだスタンスを分析してみよう。(ノンフィクションライター 窪田順生)
■「寝耳に水」か「確信犯」か
東芝危機の本質
わかっちゃいるけどやめられない――。そんな「スーダラ節」で歌われるような「中毒体質」になっていたということなのか。
連日のように世間を賑わす東芝の「危機」。アナリストや専門家が、かねてから「リスク」だと指摘してきた原発事業が火を噴いたということもあって、さまざまな「憶測」が飛び交っている。
そのなかのひとつが、「経営陣は、今回の巨額損失は直前に知らされたと言っているが、実は故意犯だったのではないか」というものだ。
その根拠として挙げられるのが、今回の「危機」を招いている米原発建設会社「CB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)」へのあまりにもザルすぎた損失評価だ。
ご存じのように、東芝の子会社ウエスチングハウスがS&Wを「0ドル」で買収した際、「のれん代」を105億円とみていたが、今回よくよく精査したところ最大7000億になることがわかったという。「寝耳に水でした」なんて釈明が通るレベルではない。
東芝は、現場にプレッシャーをかけて数字をかさ上げさせるという、日本企業らしい忖度文化を活用した粉飾の「前科」もある。小学校の教室で給食費がなくなったら、万引き常習犯の児童が、どうしても真っ先に疑われてしまうように、「どうせ今回も隠し通せなくなったからゲロったんでしょ」という目で見られるのも致し方がない。
ただ、個人的には、東芝の経営陣がそこまで意図的に世を欺こうとか、リスクにフタをしようなどとは思っていなかったのではないか、とみている。
根拠は、東芝の「広報」だ。
■広報の言動を追えば
経営陣の頭の中が分かる
原発事業に関する経営の話をしているのに、「広報」の話なんて関係ないだろ、と思うかもしれないが、報道対策を仕事としている経験から言わせていただくと、経営陣の姿勢と、企業広報は密接に関係している。
これは人間にたとえるとわかりやすい。みなさんは、まわりにいる人が、どのような人間なのかをどこで判断するだろうか。普段何気なくしゃべっている会話から、人となりを知るのではないだろうか。
それは企業もまったく同じだ。「広報」は「法人」の「口」にあたる。といっても、しゃべる内容を考えているのは、経営陣という「脳」である。つまり、広報が発したメッセージというのは、企業の「脳」である経営者の経営姿勢だけではなく、この世の中をどう見ているのか、さらには思想や人間性が色濃く反映されているのだ。
そういう視点で、東芝の原発に関する「広報」を検証すると、この会社の経営陣には「都合の悪い話から目を背ける」というカルチャーが骨の髄まで染み付いていることがうかがえる。
その象徴が、かつて東芝が運営していた「東芝と星の王子さまのスペシャルサイト」だ。
ご存じ、フランスの作家サンテグジュペリの代表作である「星の王子さま」のキャラクターを用いてエコロジーについて学ぶというPRサイトで2009年にスタート。そのなかでエネルギー資源について、風力、地熱、太陽光などとともに原子力も紹介しているのだ。
原発推進の広告塔に「星の王子さま」を使うのがけしからんなどと言っているわけではない。よろしくないのは、「原発」を取り巻く環境や社会の見方がガラリと変わったにもかかわらず、「原発広報」のスタイルをまったく変えなかったという点にある。
■福島第一原発事故以降も
原発広報を変えなかった
09年といえば、WHを買収した西田厚聰社長から、原発一筋でやってきた佐々木則夫氏にバトンが渡り、原発イケイケ時代。全世界で39基を受注して原発売上高を1兆円にするとぶち上げ、「いくぞ1億火の玉だ」みたいに社員の士気もあがっていた時代である。そんな将来有望事業をPRサイトに入れるのは、どんな企業でもやりがちな話なので、それはいい。
問題は、2年後に起きた福島第一原発事故以降の対応だ。
これを機に世界の原発ビジネスの環境も激変したが、東芝は「17年には売上1兆円」と、基本スタンスを頑なに守った。それは「星の王子さま」サイトも同じだった。14年に反原発でおなじみの「東京新聞」から、明らかにネガ記事目的の取材が入っても、広報・IR室は「自分の星を大切にするというテーマが、社の考えに合致する」(14年5月19日 東京新聞)と原発事故以前のステートメントを繰り返した。
そのあまりの頑なさを、「東京新聞」は以下のようにチクリとやっている。
《原発が王子さまに紹介される様子は、福島原発事故以前に、原子力が地球温暖化対策のクリーンエネルギーとして語られていた時代のままだ。東芝にとって原発は「社の環境課題に貢献する製品やサービスの一つ」という位置付けだ》(同上)
あれだけの大きな事故を起こしたのだから、その不安に向き合ったコミュニケーションをするべきだが、このサイトからはそういう発想すら感じられない。事故によって原子力に対する世論、原発ビジネスをする環境が激変したのは、原発事業をやっていようがいまいが、誰がみてもわかることだ。
■なぜ東芝経営陣は
方針転換できなかったのか
にもかかわらず、なぜ東芝の「広報」は対応を調整しなかったのか。答えは簡単だ、経営陣が「目の前で起きていることに目を背け続けた」からだ。
先ほども申し上げたように、「広報」は人体における「口」なので、自ら語る言葉をつくりだすことができない。もちろん、表面的なトーンを整えることはできるが、「脳」が定めた大方針から逸脱することはできない。ましてや、東芝のような大企業ならなおさらだ。
つまり、広報の頑迷さはそのまま、経営者の頭の中を示していたと言える。では、なぜ経営陣はこんな愚かな言動を取ってしまったのだろうか?
よく指摘されるのは、「OBからの引き継ぎプレッシャー」だ。これまでの東芝は歴代社長が「顧問」やら「相談役」として居残り、ああだこうだと経営に口を出すというカルチャーがあった。社長といえども、自分をこのポストに引き立ててくれた「恩人」が進めていた原発推進路線を否定などできるわけがない。
その次も、またその次も、ということをやっているうちに、「なぜ原発を推進するのか」ということよりも、「OBの皆さんが頑張ってきた原発推進路線を踏襲する」ということの方がプライオリティが高くなっていってしまったのだ。
このあたりは終身雇用型サラリーマン社長であれば「あるある」なので、なにも東芝だけに限った話ではないのだが、なぜ東芝の経営陣がここまで徹底して「現実」から目を背け続けたのかということを考えた時、個人的には、もうひとつ別に大きな原因があったのではないか、と思っている。
■東芝社内でも繰り広げられた
「自己催眠」の恐ろしさ
それは強烈な「自己催眠」である。
実は東芝が「逆風」を境に「原子力原理主義」に走っていくのは、福島第一原発事故が初めてではない。1986年のチェルノブイリ事故の後にも、東芝は積極的に「広報」をしている。といっても、それは世の中というよりも、自分たちの社員に対してであった。
《東芝は原子力発電に関する社内向け広報活動を強化するため、エネルギー事業本部を中心に「原子力特別広報委員会」を組織した。社内報、ビデオニュースなど各種媒体で原発に関する情報を提供して社員の知識を高め、最近の原発反対運動の盛り上がりで社内が動揺するのを防ぐのが狙い》(1988/08/05 日経産業新聞)
このようなインナーコミュニケーションは、89年に東芝と日本原子力事業との合併を機に「日本原子力事業懇話会」が設立されると、さらに加速していく。三井グループとともに、社員一丸となって原子力のPA(パブリック・アクセプタンス)活動や広報活動に力を入れていくのだ。
つまり、今回の「危機」を招いた経営陣たちというのは、管理職あたりから経営陣へ駆け上がっていく時期に20年以上、このような「原発推進」を徹底的に躾けられた人たち、という見方もあるのだ。
それがどんなに合理性を欠いた話であっても、閉鎖的なコミュニティのなかで幾度となく、繰り返し「広報」されていけば、人は必ず洗脳されていく。これは、北朝鮮や戦前の日本を例に出すまでもなくご理解いただけるだろう。
そういう意味でも個人的には、東芝を見ていると、太平洋戦争末期の日本軍とだぶってしょうがない。
「星の王子さま」を用いて「原子力は地球に優しいクリーンエネルギー」をうたいはじめた最初の志に嘘はないのだろう。それは、「のらくろ」などの漫画キャラを用いて、「西洋列強からアジアの独立」をうたった日本軍も同じだった。
しかし、時代の流れに勝てず戦局が悪化していくと、日本軍がミッドウェイ海戦などの「戦績」を偽ったように、東芝も現場を犠牲にして粉飾を重ねていく。
今のまま勝ち目のない戦いを続けていると、日本軍が現場の兵士を捨て駒にしたように、東芝の現場にたくさんの血が流れる。経営陣のみなさんは「国益のため」とか、「なんとか延命を」とか余計な考えは捨てて、早いところ「無条件降伏」の道を選んでいただきたい。
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