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突然2倍の値上げも……その理由は?
燃油サーチャージは最高66000円? 〜復活から数日で2倍に値上げの謎を解く。〜(本田康博 証券アナリスト)
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20170208-00010000-scafe-bus_all
シェアーズカフェ・オンライン 2/8(水) 6:45配信
本稿執筆時点ではANAやJALなど航空各社はまだ正式に発表していないが、日本経済新聞によると、国際線航空券を購入する際に支払う燃油サーチャージ(正式名称は「燃油特別付加運賃」)が、4月1日購入分から現在の2倍ほどに値上がりすると報じられている。
『日本発の旅客を対象とした燃油特別付加運賃(燃油サーチャージ)が4月の発券分から約2倍に値上がりする。現在は北米や欧州で片道3500円の上乗せだが、7000円かかるようになる。米大統領選後に円安が進んだほか、昨年11月末の石油輸出国機構(OPEC)による減産合意の影響が表れてきた。
(中略)
今回の見直しの根拠となる昨年12月〜今年1月のシンガポールケロシンの円換算額は1バレル約7500円だった。直前の6221円から急上昇し、燃油サーチャージの適用額も1段階上がる。3月までに発券すれば、欧米行きの便では片道3500円の上乗せで済むため、ゴールデンウイークなどの旅行計画を早めに練る人が増えそうだ。
(出典:「燃油分上乗せ、4月から2倍 全日空や日航」、日本経済新聞電子版、2017/2/5)』
つい数日前には、同じ日本経済新聞が、燃油サーチャージが10か月ぶりに復活すると報じたばかり(「運賃上乗せ、燃料高で10カ月ぶり復活」、日本経済新聞電子版、2017/2/1)。にもかかわらず、再度の値上げだという。
■復活したばかりなのに、なぜ2倍に?
燃油サーチャージは、ジェット燃料の価格変動の影響を緩衝するために通常運賃とは別に支払う追加的な運賃だ。経営の安定化を狙い、日本の航空会社では10年以上前から採用している。ANAの当時のプレスリリースによれば、同社が初めて国際旅客に燃油サーチャージを適用したのは2005年2月のことだ。昨年4月以降は10か月連続で適用されていなかったが、この2月から久しぶりに復活していた。
燃料の価格変動の影響を和らげるという付加運賃の主旨は分かるが、久々の復活からすぐに値上げが発表されるというのは、利用者から見て突然すぎると感じるのも当然だろう。また、そんな値上げをしなければいけないほど航空会社が困っているのかと、訝しく思う人もあるかもしれない。
2月5日付日本経済新聞が伝えるように、トランプ相場による円安と国際的な原油価格の上昇が相まって円建ての燃料価格が高騰したことが、今回の値上りが決まった主因である。現在の算出方法では、シンガポール市場で取引されるケロシンと呼ばれるジェット燃料1バレルあたりの円換算額が、燃油サーチャージの算出根拠となっている。
記事によれば、4月に予定される値上げの根拠となるケロシン価格は1バレル約7,500円。2月1日に実施された燃油サーチャージ復活の根拠となった価格は6,221円だったので、およそ2割上昇したことになる。筆者の試算では、燃料価格上昇と円安の影響はそれぞれ概ね半分ほどだ。(注:1バレルは約159リットル。)
円建て燃料価格が2割高くなったのは大きい。とは言え、見方を変えれば、たかが2割である。燃料価格の上昇幅に比べ、燃油サーチャージの値上げ幅が大きすぎると感じてしまう人がいるのも無理はないだろう。
燃油サーチャージの推移。
■どのように算出されるのか?
燃油サーチャージの見直しは、実は2か月ごとに検討されている。昨年4月から10か月連続で適用がなかったのは、2か月ごとに毎回、算出根拠となる燃料価格が適用基準に満たない水準だと確認されたためだ。2か月ごとの条件見直しは、見直し後の条件が適用される2か月前までの連続する2か月間の平均値を参照している。
上述の通り、燃油サーチャージの条件は、ジェット燃料であるシンガポール・ケロシンの1バレルあたり円換算価格を算出根拠とするのだが、それをそのまま数式に当てはめるのではなく、これが6,000円に満たない間は燃油サーチャージを適用しないことに予め決まっている。6,000円未満の水準の燃料価格は元から航空運賃に織り込み済みだと、そう言い換えても良いだろう。
そして、6,000円に達して以降は、ケロシン1バレルの平均価格が1,000円増すたびに、燃油サーチャージは長距離路線では概ね同じ割合で上昇する。欧州・北米路線の場合、片道3,500円(往復7,000円)が、燃料価格が1,000円増すごとの燃油サーチャージの上昇幅だ。(ケロシン1バレル12,000円未満の場合。)
一定水準の燃料価格までは変わらず燃油サーチャージがゼロだったため、一旦適用された後の上昇度合いが急激に感じられただけなのだ。
■実はまだまだ割安な水準?
そもそも、過去の燃油サーチャージの推移を見てみれば、4月以降の値上げ分を加味したとしても、現在の水準がまだまだ割安だというのは明らかだ。
グラフは、ANAの過去のプレスリリースを元に筆者が取りまとめた、同社の欧州・北米路線の燃油サーチャージ(往復)の推移を図示している。ANAが燃油サーチャージを初めて導入した2005年2月以降、既に見直しが内定している2017年5月分までが対象だ。
■燃油サーチャージ推移
ちょうどリーマンショック直前、金融バブルの最頂期を参照期間とするタイミングで過去最高を記録しているが、このときの欧州・北米路線の燃油サーチャージは、なんと往復66,000円。本当にそんな時期があったのかと、驚くほどに高い。このときのケロシンの平均価格は163.54米ドルで、足もとの水準の3倍近い高値だった。(注:2015年3月以前は米ドル建て燃料価格を基準にしていた。)
全期間の平均28,611円と比較しても、現在の水準(3月まで往復7,000円、4月以降往復14,000円)は、確かにリーズナブルなのだ。
■いつ海外旅行に行くべきか?
一方、海外旅行と言えば、ふつう気になるのは為替相場だ。トランプ米大統領が日本の為替政策を円安誘導だと批判したことなどを受け、短期的には、海外旅行するのにより好ましい円高方向への動きを期待する向きもある。円高はまた、燃油サーチャージを低く抑える働きも持っている。円高が進めば、海外旅行の条件は更に好転するだろう。
ただ、短期的にも再度円安に振れる可能性もあるし、燃料価格が急騰する可能性もある。仮に、過去の平均と同水準まで燃油サーチャージが値上がりすると、その上乗せ幅は約15,000円。海外旅行の現地予算を15万円で組んだ場合、ちょうど10%程度円安が進むのと同程度のインパクトが生じてしまう。
不確実な将来の可能性がリスクと表裏一体だというのは、投資と同じだ。そこには「ただ一つの答え」など、存在しない。いつでも、最適な選択肢を見つけるのは、必ず、自らの意志なのだ。
本田康博 証券アナリスト・馬主
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