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日本を為替操作国に見せた、官邸主導「円安誘導」の動かぬ証拠
http://www.mag2.com/p/news/237803
2017.02.07 高野孟『高野孟のTHE JOURNAL』 まぐまぐニュース
2月10日に迫った安倍総理とトランプ新大統領との会談。それに先立つ形でトランプ氏は日本を「為替管理国」と名指しで批判するも、安倍首相や黒田日銀総裁は真っ向から否定しました。しかしメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』ではこれを「嘘」とし、昨年末に菅官房長官が新聞紙上で語った「動かぬ証拠」を提示。さらにトランプ氏と官邸との間に共通の価値観などなく、10日の首脳会談で安倍政権が目指す「米国との価値観の共有」などは土台無理なのでは、という認識を記しています。
■遺憾ながら、日本は「為替管理国」なのである──安倍首相はトランプと何を共有できるのだろうか?
トランプ米大統領は1月31日の米製薬業界幹部との会合で、「他国は通貨安誘導に依存している。中国がやっていることを見てみろ。日本が何年もやってきたことを見てみろ。彼らは金融市場を利用している。それに対して米国は何もせず、バカ丸出しで座っている」と述べた。
翌1日の衆院予算委員会で、このトランプの対日批判について問われた安倍晋三首相と黒田東彦日銀総裁は、「物価安定のための適切な金融政策を進めているのであって、円安誘導という批判には当たらない」と強調したが、これは嘘で、まことに遺憾ながら、アベノミクスの最大の柱は実は官邸主導による為替相場管理政策である。
■菅官房長官の円安誘導宣言
日本経済新聞16年12月27日付に載った菅義偉官房長官へのインタビューが「動かぬ証拠」で、安倍首相はこの件に関しトランプに何を言われても申し開きは立たないだろう。この記事は「展望2017」と題したシリーズの第3回で、タイトルは「為替、危機管理怠らず/内閣官房長官 菅義偉氏」である。
──経済・金融政策で力を入れるものは。
「日本企業が見通しを立てられるような環境にすることがものすごく大事だ。私の重要な危機管理の1つに為替がある。財務省、金融庁、日銀による3者会合を開かせている。日本企業が間違いなく国内で経済活動できるような環境をつくる」
「為替に関しては(トランプ相場で)黙って(円安に)なったと言われるが、私たちが為替の危機管理をちゃんとやっているからだ。今まで日本は翻弄されてきた」
──具体的にどんな対応がとれますか。
「そこは色々と。私たちの為替への意識は強く、中途半端な決断ではない」
「私たちの」とは「安倍政権の」ことである。「為替への意識」とは「円安誘導への意識」のことで、「中途半端」ではない決断、覚悟を背景に「私」すなわち官房長官が直接責任を持つ「重要な危機管理」の一環として「財務省、金融庁、日銀による3者会合を開かせて」「ちゃんとやっている」のである。
これは公然たる政府による為替管理宣言である。
■唯一の「成功体験」としての円安
アベノミクスは最初のうち上手く行きそうに見えたのだが、それは異次元金融緩和という一種の心理的ショック療法の余波で円安と株高が進んで、見せかけだけの企業業績の向上が現出したことによる。
言うまでもなく、円安自体は良いことでも悪いことでもない。トヨタを筆頭とする輸出企業にはとてつもない見かけ上の利益という不労所得をもたらして株価も押し上げられるが、輸入企業や純国内企業にはマイナス要因でしかないから、全体を均せば中立的であるし、消費者にとっては輸入品の値段が上がって有り難くない。にもかかわらずマスコミは「早速アベノミクスの効果が出た」と囃し立て、自分では株の取引などしていない人までが何か得をしたような気分になってしまうという、異常な集団的幻覚症状が蔓延した。
たとえそれが幻覚であっても、その化けの皮が剥がれないうちに第2の矢や第3の矢が狙い違わず放たれて、実体経済の活性化が緒に着くのであれば救われたのだが、実際にはすべては不発で、何も起こらないまま矢尽き刀も折れて、昨年9月の日銀の「総括的検証」の結末としての破れかぶれの「マイナス金利」という名の事実上の敗北宣言に行き着いた。
それ以後、アベノミクスはもはや「打つ手なし」の状態で、そうかと言って敗北を認める訳には行かないので、そこで最初の「成功体験」に戻って、政府・日銀挙げての円安・株高演出大作戦を打って、アベノミクスの死を悟られないようにしながら、取り敢えずは3月末決算期を乗り切ろう──というのが、菅官房長官の昨年末発言の真意と考えてよいのではないか。
本当なら官房長官が自らの口から為替操作まがいのことを言うべきではなかったし、しかもその口調に、「ものすごく」とか「重要な」とか「危機管理」とか「決断」とかの過剰表現が目立つのは老獪・冷静な彼らしくないとも思うが、それだけアベノミクスがいよいよ追い詰められていることの裏返しなのだろう。
つまり、アベノミクスは、最初も最後も、円安による幻覚以外に何の中身もなかった訳で、そこをトランプから突かれた時に、安倍首相は何と答弁するのだろうか。
■TPP残留をトランプに説得?
付け加えると、この日経インタビューで「外交ではトランプ氏が次期米大統領に就任します。どのような日米関係を構築しますか」と問われて、菅官房長官はこう言った。
自由、民主主義、基本的人権、法の支配。普遍的な価値観を共有する日米同盟は日本の外交・安全保障の基軸だ。さらに関係を前に進めていく。環太平洋経済連携協定(TPP)には、地域の安定をはかる戦略的意義もある。世界が保護主義的にならないようトランプ氏と話をしていく。
これがこの政権の決まり文句で、なぜ「日米同盟基軸」なのかと言えば、「自由、民主主義、基本的人権、法の支配(という)普遍的な価値観を共有」しているからで、さらに、なぜことさらにその価値観を強調するのかと言えば、その価値観を共有できないというか、その正反対にある「不自由、反民主主義、基本的人権無視、法の支配不在」の共産中国に対して米日が結束して戦うということこそ、今日の世界、そしてアジアの中心的な戦略テーマだという世界観があるからである。
そのような安倍政権の反中国の基本姿勢からすれば、トランプが就任早々にTPPからの「永久離脱」を宣言したのは大間違いで、それが単なる通商問題ではなくて、経済面からの「中国包囲網」という「戦略的意義」があることをトランプに教えてやらなくてはならないと、安倍首相や菅官房長官が気負い立っていることが窺える。
しかし、私が思うに、トランプはそもそも「自由、民主主義、基本的人権、法の支配」など、安倍首相や菅官房長官が普遍的だと信じている価値観を信奉していない。信奉していれば、政権発足2週間でこんな無様な大混乱に陥ってはいないはずで、となると、安倍首相はトランプと2月10日の首脳会談で、一体どういう価値観を共有するのだろうか。
トランプ政権の対中国の姿勢は、キッシンジャー元国務長官の影響下での親中派路線と、国際通商会議議長に登用されたナヴァロ教授の狂気じみた反中国路線と、どちらが優勢を占めるのかが全く不可測である状況で、安倍首相が「価値観」とか言って反中国を煽るのはリスクが大きすぎる。
ちなみに、ドイツの代表的な時事週刊誌「シュピーゲル」の2月4日発売号の表紙.は、自由の女神の首を切断したトランプが「アメリカ・ファースト」と叫んでいる図柄で、ドイツはトランプの米国と「自由」の価値観を共有できないどころか、トランプが自由の敵であることを主張している。
image by: a katz / Shutterstock, Inc.
『高野孟のTHE JOURNAL』
著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。
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