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ある日、「うちの会社、ブッラクかも……」と気づいてしまったら、どうすべきか。理不尽な解雇を受けたブラック企業と戦い、700万円を勝ち取った経験を持つ26歳の元営業マンが、自らの経験を基に心得を説く
ブラック企業の元営業マンが教える、会社に人生を奪われない心得
http://diamond.jp/articles/-/116938
2017年2月7日 工藤ダイキ ダイヤモンド・オンライン
「ブラック企業」という言葉が日本で取り沙汰されるようになって久しいが、世論の風当たりが強くなっているにもかかわらず、違法な長時間労働やパワハラなどに関するニュースは後を絶たない。ある日、「うちの会社、ブッラクかも……」と気づいてしまったら、どうすべきか。超絶ブラック企業の元営業マンで、理不尽な解雇を受けた後、会社と戦い700万円を勝ち取った経験を持つ26歳のフリーライター・工藤ダイキ氏が、ビジネスパーソンが会社に泣かされないための心得を説く。
■「うちの会社、ブラックかも」
気づいてしまったら、どうするか?
私は現在、26歳のフリーライターです。実は以前、ブラック企業に新卒で入社し、数年間勤めていたことがあります。それはまさに、黒色に黒色を上塗りしたような壮絶なブラック企業でした。まずは私がその会社で経験したことを、お伝えしましょう。
そこは、美容室にシャンプーやトリートメントなどを販売する専門商社。サービス残業は月100時間を軽く超え、手取りはたったの16万円弱。また上司からは日常的に「死ね・キモイ・臭い・童貞」と暴言を浴びせられ続け、ときには殴る蹴るなどの暴力を受けたこともありました。
社長に相談すると「暴力はよくないけどアイツらにも想いがある。お前が悪い。始末書を提出しろ」と、まさかの逆ギレ。始末書提出を渋った私は25時過ぎまで会社に監禁され、泣く泣く始末書を提出しました。終電はありませんでした。
またあるときは、営業車を運転中、助手席に座っている上司から殴られ、アザができたこともあります。上司が殴ってきた理由は、理不尽にも「車内が寒いから」です。痛みで運転に支障が生じたのですが、上司は嬉しそうに「ぶつかれー!いえーい!」と叫んでいました。
■怒鳴る、殴る、草むしりに退職強要
「超絶ブラック企業」の仕打ち
「辞表を持ってこい」と胸元を掴まれながら上司に退職を促されたこともあります。そのとき、1メートル先に座っていた社長はニヤニヤ笑いながら私を見ているだけ。上司を注意すらしてくれませんでした。それどころか、「お前に話しても意味がない。親の電話番号を教えろ」と社長に告げられた私は、両親の電話番号を書いたメモを渡した後、草むしりとトイレ掃除をさせられ、さらに自宅にまで社長が押しかけて来て……。
こんな調子なので、その会社の3年以内の社員離職率は70%を超えていて、ほとんどの社員が「新卒ブランド」という生涯で一度しか使えない魔法のカードを捨ててまで、他社に転職していきました。
ちなみに同社の求人は、就活生なら誰もが利用する大手就職サイトに、先日まで掲載されていました。私は2014年(当時23歳)に会社を解雇されたので、現在も会社の状況が当時のままかどうかはわかりませんが、ただただ後輩たちの無事を祈るばかりです。
さて、今回の記事の目的は、自分の不幸自慢をするつもりでは全くありません。ブラック企業の存在が日本社会で取り沙汰されるようになって久しいですが、足もとでは不当な長時間労働やパワハラなどに関して、以前より巧妙で悪質なブラック事例が報告されることが増えているように思います。そんな状況に問題提起をしたいのです。
世論の風当たりが強くなったこともあるためか、「会社そのものが目に見えてブラック」というケースは、以前ほど耳にしなくなりました。しかし一方で、就職人気が高い有名企業の中にも、時として「隠れブラック」な職場が存在することが報じられることもあります。このことを考えると、ブラック的な風土は日本の企業社会に深く根付いており、大きく改善されていないのではないかと思えてなりません。
こうした状況だと、どんなビジネスパーソンでも、ある日突然、不当な労働環境に追い込まれる可能性はあります。もしかして、うちの職場、ブラックかも――。今現在、うっすらとでもそう感じているのであれば、要注意です。いざというときに備えて、日頃からブラック企業と相対するための心得を意識しておかないといけません。
私は前述したブラック企業を不当に解雇された後、その会社を訴え、解雇を取り下げさせた上に、和解金として700万円を勝ち取った経験があります。当時の経験を基に、現在は企業とビジネスパーソンの「働き方改革」をテーマに執筆を行なっています。そんな私が感じていることを、不安を抱えながら会社生活を送っている読者の皆様にお伝えし、少しでもお役に立てればと思います。
■全ての対策は「解雇問題」を
考えることから始まる
私が今回クローズアップしてお伝えしたいのは、ブラック企業に勝つための細かいテクニックではなく、「解雇問題」についての認識の持ち方です。「なぜ解雇?」と思う人は多いと思いますが、解雇問題は「働き方改革」を論じる上で、避けては通れない根本的な課題だと思うからです。
しかし残念なことに、解雇問題に世論の矛先はあまり向いていません。これはものすごく危険なことです。なぜなら解雇問題を解決しない限り、今日本で議論されている様々な制度の導入は、全て「机上の空論」になってしまう恐れがあるからです。
私が過去に今回のような記事をメディアに寄稿した際、読者からは「なんで会社を訴えたの?労基署に駆け込めばいいじゃん」などの感想を頂戴することもありました。しかし、労基署は労働問題のスペシャリストと思われているものの、実は彼らはイメージほど万能ではありません。私が労基署を勧めるときの本心は、「泣き寝入りする前にやれることをやってみては?」という、どちらかといえば消極的なものです。
本記事では、労基署の残念な事実をお伝えしたいので、これまた残念な私のエピソードに少々お付き合いください。
■社長が自宅に押しかけ解雇通知書を……
助けを求めた労基署の冷たい対応
私は在職中、「この会社を許せません。我が社の労務管理は違法です」と社長に直談判したことがあります。前述した親の電話番号を聞き出された2週間ほど後、会社を解雇される2週間ほど前の話です。もちろん社長は逆ギレ。私に自宅待機指示を命令した後、私の住んでいるマンションのオートロックを突破して(どうやって突破したんだろう……)インターホンを連打しながら扉をドンドンと叩き……そして私に解雇通知書を渡してきました。
解雇理由は勤務態度不良・成績不良とのことでしたが、当時の私は新卒入社2年目を迎えたばかりの23歳です。新人ならではの至らなさもあるにはあったかもしれませんが、明らかに一方的であり、納得できるわけがありません。
そこで、さいたま新都心駅にある労働基準監督署に駆け込み、「会社を理不尽に解雇されました。助けてください」と、労基署の職員に助けを求めました。おそらく誰しも、このような危機的状況に陥ったら、私と同じ行動をとるのではないでしょうか。そして私と同じような冷酷なアドバイスを受けると推測されます。「解雇の問題に関しては、弁護士さんの所へ相談に行くか、裁判官に判断してもらってください」と――。
実は、労基署には「仕事の範囲」が存在しており、労働問題を全て解決できるわけではありません。解雇問題がよい例です。労基署は驚くべきことに「解雇有効 or 解雇無効」を判断する権限がありません。権限を有しているのは裁判官のみ。だから「この解雇は絶対無効だろうな」と労基署の職員が思ってくれていたとしても、労基署自体に何かができるわけではないのです。つまり解雇された労働者を、労基署は助けたくても助けられないのです。
そのため、会社を解雇された労働者は、以下の3択から1つを選ぶ必要があります。
・会社と直接交渉して解雇を取り下げてもらう
・司法の場で「解雇無効」を争う
・泣き寝入りをする
私は「会社と戦う」という獣道を選択しました。というより、選択せざるを得ませんでした。解雇は経歴の十字架。絶対に取り消さなくてはいけません。しかし道のりは険しく、解雇を取り下げさせるまでに20ヵ月もの時間を要しました。弁護士費用は200万円を軽く超えます(※ほとんどが後払いです)。前述したように、確かに私は民事裁判で700万円を勝ち取りましたが、時間という資産は戻ってこない。やはり少しもったいなかったかな、と思う今日この頃です。
■1人で戦う消耗度はハンパない!
「働き方改革」で見落とされていること
私が勤めていた会社はブラックでしたが、私の在職期間中、労基署に踏み込まれた経験は一度もありません。仮に踏み込まれたとしても、会社側が狡猾に証拠隠しに走っていただろうから、会社側の責任を追及することは困難だったでしょう。なぜなら、会社がルールを破っていたかどうかを証明する「証拠」が残っていないからです。パワハラなんて特によい例です。会社が社員に行った暴言、暴力……これらの足跡が残ってるケースは稀です。
それなら、「在職する従業員に証言してもらえばいい」と考えた人は、相手も同じように社員に(虚偽の)証言をさせることができる、という事実を直視しなければいけません。喧嘩は水かけ論となった時点で、どちらが本当のことを言ってるのか第三者はわからなくなります。では、司法の場で白黒ハッキリさせようと考えても、リアルな裁判は1〜2年かけて争うようなことがザラです。テレビドラマでは1時間あれば完結する裁判ですが、時間だけでなく労力や資金面でも、司法のハードルは高いと言わざるを得ません。
とはいえ、裁判にはいくつか種類があり、3ヵ月で終わるプチ裁判(労働審判)など、スピードを重視した紛争解決手段も、あると言えばあります。しかし早く終わるぶん、どうしても審理が荒くなってしまうので、獲得金額は低め(保守的)に落ち着いてしまうのが一般的です。また相手側が「こんな雑な審理じゃ納得できない」と主張した場合、プチ裁判から通常裁判(1〜2年争う裁判)に移行することになります。こうなると、絶望です。
日本社会では現在、「働き方改革」と称し、労働者を守るための制度化を進めようとしていますが、それだけで本記事でお伝えしたような問題を解決できるとは思えません。そもそも企業側がルールを守る保証はないし、ルールを破っているかどうかを見極める術もないわけです。私は美容の専門商社で働いていましたが、おそらく会社名を推測できる方は誰もいないでしょう。こんな状況下で新しい制度が導入されても、いったい何が変わるというのか。
さらに現行の制度のままでは「労基署に駆け込んだから解雇だ」という荒業を、経営者側はいつでも発動することができます。ルール違反を告発した報復としての解雇は、労働者への有効かつ致命的な一撃です。実際に解雇しなくても、解雇できるという事実だけで充分な脅威を与えられると思います。
家庭がある人ならなおさらです。もちろん司法の場で争えば、十中八九、労働者側が勝利することにはなるのですが……その結末まで辿り着けるかという大きな問題があります。
働き方改革は「労働者を守りたい」という素晴らしい理念のもとに検討されていますが、解雇問題の改善なくして、労働者のセーフティネットとして機能することは、残念ながらあり得ない気がします。
以前、記事を発表したときには、「筆者と会社と、どっちがブラックかわからない」「筆者のエネルギーは仕事そのものに向けるべきだった。そうすれば解雇されなかった」といった感想も読者から頂戴しました。真なりだなとは受け止めつつも、現行の制度が私を守ってくれなかったのも事実です。新しい制度が導入されたとしても、きっと状況は変わらなかったでしょう。
■本質は「誰も助けてくれない」
潰されないための自衛の手段を
こうした状況では、自分の身は自分で守るしかありません。転職、休職、私が選択した裁判という奇策も含め、会社に潰されないための「自衛の手段」をビジネスパーソンは身に付けるべきだと私は提唱します。
また、解雇問題を解決できる権限を労基署に与える、司法の紛争解決速度を向上させる、司法のハードルを下げる、といった議論も同時並行で行わなければ、働き方改革なんて名ばかり、ぶっちゃけ意味がありません。関係者が、一刻も早く前述の問題点を指摘するようになることを願います。
とはいえ、ルール改正におけるスピード感のなさは日本のお約束。「うちの会社、ブラックかも」という心当たりがある会社員は、当面の間は会社を解雇されないように注意しつつも、こっそりと会社の不正を証明できる証拠を集め、いざというときに備えておくことを推奨します。
働き方改革の議論が、今以上に幅広く行われることを願いながら、私は今日も自宅のパソコンの前で、渋い顔をしながら原稿を書き上げることにします。ご精読、ありがとうございました。
※本記事では読者に労働問題をわかりやすく解説するため、労働基準監督署と労働局をまとめて「労基署」と記載しました。ご了承ください。
※現代ビジネス寄稿記事はこちら。
(フリーライター 工藤ダイキ)
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