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自制なき暴君の下で、米国金融市場が安定を維持するための条件 高まる政策スタンスへの懸念
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50910
2017.02.06 真壁 昭夫 信州大学経済学部教授 現代ビジネス
大統領就任以降、トランプ氏は数々の大統領令に署名し政策指示を出している。
大統領令とは、議会の承認を得ることなく、大統領が発する行政命令だ。これは、法律と同等の効力を持っている。
特に、1月27日に出されたシリアからの難民受け入れの一時停止、中東・アフリカの7ヵ国からの入国制限に関する大統領令は、国内外から大きな批判を招いている。
この大統領令は、宗教に関する差別や人権軽視など、米国の憲法に違反している可能性が高い。そのため、司法の観点から反対意見が出たのは当然だろう。
これに対して、トランプ大統領は入国制限に反対した司法長官代行を解任し、自らが正しいと言わんばかりに横暴な政治を進めている。
徐々に、その政策スタンスへの懸念は高まっている。もし景気に息切れ感が出始めると、それなりのマグニチュードで株価などの調整が進むシナリオは排除できない。
■抑えがきかない
正式な就任以降のトランプ大統領の政策を見ていると、保護主義政策、対外強硬姿勢がはっきりしている。冷静に考えると、米国が自国の利益だけを考えれば、他国の反発を招く可能性がある。
入国制限に関しては、永住権を持つ人までもが制限の対象に含まれていた(後に方針変更)。それに批判が出るのは当然だろう。権利は法的に認められたものである。それを無視する政権は、事実を冷静に理解せず、暴走していると言われても仕方ない。
現時点で分かったことは、トランプ政権には政策の内容、その影響を客観的に評価する機能が備わっていないことだ。
トランプ大統領は、これまでの主張を実行すれば人気は取れると考えている。そして、トランプ氏の側近には、縁故者や原理的な考えを持つ者が多い。それで大統領の横暴、暴言を制御するのは難しい。むしろ、「米国のためになることなら、何でもやればよい」という雰囲気の方が出やすい。
こうなると、トランプ政権に自制や、公平かつ実現可能な政策運営を期待することは難しい。社会全体がトランプ政権に“No”を突きつけない限り、先行きは不安だ。
足下では、共和党内部でもトランプ大統領の政策への評価が分かれている。ライアン下院議長は入国制限を擁護している。一方で、マケイン上院議員は大統領令を批判し、過激派組織への支持を高めることにつながると主張している。
加えて、マケイン上院議員はTPP離脱、メキシコからの輸入品に税金を課し、国境での壁建設に充てることも批判している。
それは、多様化を受け入れ、グローバル化を進めてきた米国にとって正しい意見だ。わが国等も、こうした正しい意見を、「正しい」と主張していくことが欠かせない。
■景気拡張はピークに近づいている?
トランプ大統領の横暴な政策運営が進む中でも、米国の金融市場は安定を維持している。
1月31日には、トランプ大統領やその側近が円やユーロが過小評価されていると発言したことからドルが下落し、円が反発する場面があった。株式市場の上値はやや重いものの、保護主義政策や対外強硬策がリスクオフを発生させているわけではない。
米国の景気は緩やかな回復を維持している。それが、大統領の横暴への懸念を食い止めているようだ。
昨年10〜12月期の実質GDP成長率は予想を下回ったものの、景気の強さ、回復の長さに影響する企業の設備投資は回復している。国内総生産の70%を占める個人消費も底堅く推移している。今後も緩やかな回復が続くと考える投資家は多いようだ。
今後の焦点は、賃金が増えるかどうかだろう。
トランプ政権は、国内の製品を使い、パイプラインなどの建設を進めようとしている。すでに労働市場が完全雇用に近づく中、各種建設工事が始まると労働市場は一段と逼迫するだろう。
ただ、データを見ると、10〜12月期の雇用コスト指数は前期比0.5%の上昇にとどまった。FRBは賃金の増加を見込んでいるが、それはまだ実現してはいないと考えられる。
過去の景気循環に照らすと、景気拡張は少しずつピークに近づいている可能性がある。そして、今回の入国制限を受けて、トランプ政権の政策に危うさを感じる投資家は増えている。
それだけに、賃金の増加が顕著になることは、今後の消費、設備投資への期待をつなぎとめるために不可欠だ。反対に景気への期待が剥落し始めると、相応のマグニチュードで金融市場が調整される可能性がある。
トランプ政権への批判的な見方が増えているだけに、米国経済の先行きは慎重にみていくべきだ。
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