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日米通商摩擦回避の手だて トランプ円安批判は空砲 ドル円波乱要因 日銀は金利の手綱失ってない シニアバンカー高いが価値有
http://www.asyura2.com/17/hasan118/msg/633.html
投稿者 軽毛 日時 2017 年 2 月 03 日 20:35:38: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

コラム:
日米通商摩擦回避の手だて

加藤隆俊国際金融情報センター理事長/元財務官
[東京 3日] - 懸念されていたように、トランプ米大統領は1月31日、為替問題に言及し、通貨安誘導を行っているとして、中国と並んで日本を批判した。日本政府はすぐさま「批判はあたらない」(安倍晋三首相)と反論したが、10日に予定される日米首脳会談では、ドル高の背景にある国際マクロ経済情勢についても、根気強く説明する必要があろう。

不動産業出身のトランプ大統領は、恐らくは目に見えるものを重視し、マネーの流れで、例えば為替水準が決まることを皮膚感覚で理解していない可能性が高い。

誰が入れ知恵したのかは分からないが、経常収支赤字国である米国の通貨は弱くなるはずなのにこれほど強いのは、取引相手国が為替操作をしているからに違いないという発想にとらわれているのではないか。日本側としては、為替介入を一切行っていない点、日銀の金融緩和はデフレ脱却を目指したものである点を、改めて強調すると同時に、ドル高の背景にある米国側の経済的要因も十分に説明しなければならない。

端的に言えば、ドル高は、米国経済が相対的に好調であるがゆえだ。また、トランプ政権が景気刺激的な経済政策を志向するのではないかとの市場の期待が、成長率・インフレ率の上昇見通し、米連邦準備理事会(FRB)の継続利上げ観測につながり、それが米国への資本流入を加速させ、ドル高に大きく作用している点も理解してもらう必要がある。

10日の日米首脳会談では、米国が離脱を表明した環太平洋連携協定(TPP)に関する話題や為替水準、あるいは自動車など特定産業セクターの問題など個別論に深入りするよりも今後の日米協議の枠組みに関し意見のすり合わせを行うことが建設的ではないか。また、日本からの新たな対米投資の協力分野を具体的に言及することも日米協議を前向きにする上で有益ではないか。

<保護主義加速ならドル信認にダメージも>

それにしても、トランプ政権の政策には私も憂慮を禁じ得ない。世界貿易機関(WTO)のルールを無視したような一方的な関税引き上げとも解釈できる国境税への言及、国際連合を軽視するような発言は、二度の大戦の反省から戦後70年以上をかけて形作ってきた国際ガバナンスシステムの「ちゃぶ台返し」にもつながりかねない。

さすがにトランプ政権も実際にはそこまで極端な自国優先の保護主義を志向していないと思いたいが、仮に米国が20カ国・地域(G20)の合意に背く保護主義措置の導入を連発するようなことになれば、基軸通貨ドルの信認を著しく損ねることにもつながり、国際金融市場の大混乱が予想される。

現状ではドル基軸通貨体制に代わる国際通貨システムが存在しない以上、地域ごとにどのような補完の仕組みがあり得るのか、人民元や円、ユーロなどを中心に、その準備通貨としての役割に改めて関心が向けられることも考えられる。極端な場合、中国で最近報道されているようにビットコイン的なバーチャル通貨への関心が一層高まり、普及の波が広がることもあり得る。

1971年のニクソン・ショック(ドルと金の兌換停止)のような突発的な衝撃が起こらずとも、米保護主義政策に起因するドル流動性への信認の低下を通じて、じわじわと混乱が広がるリスクには注意が必要だ。

ちなみに、トランプ政権の保護主義政策に歯止めがかかるとすれば、経済的成果が得られず、民意に基づく政治的圧力によって軌道修正が図られるケースだが、次の議会選挙(中間選挙)は来年秋であり、まだ時間がある。

最終的には、高関税に象徴されるように、保護主義的通商政策の行き着く先は高コスト化であり、潜在成長率の低下だが、手っ取り早く実行に移しやすい大型減税を打つなどして、目先の景気浮揚を演出できれば、しばらくの間、そうした負の側面を覆い隠し、保護主義路線を継続できる可能性はある。

トランプ政権としては、保護主義政策を追求してみて実際にどれだけリパーカッション(影響)があるか見極め、そこで改めて進むべき道を考えるということなのかもしれないが、リーマン・ショック後、低成長が続く世界経済がそのような破壊的実験に耐えられるとは思えない。1月のダボス会議で、中国の習近平国家主席がグローバリゼーションに肯定的な発言をし、米国の保護主義に釘(くぎ)を刺したのも、そうした危機感の表れだろう。

なお、保護主義について心配なのは、独仏蘭などで選挙が相次ぐ欧州の政治リスクもさることながら、トランプ政権が最初に攻撃の矛先を向けたメキシコで、故チャベス・ベネズエラ大統領のような対米強硬派が国政を握ることだ。実際、反米路線で知られるメキシコ左派野党リーダー、オブラドール氏は来年予定される大統領選の有力候補の一人と言われる。保護主義の連鎖が、世界経済の縮小を招くリスクには警戒が必要だ。

<新TPPより日米交渉優先が現実的>

こうした中、同じ民主主義・資本主義の価値観・理念を共有し、欧州諸国に比べれば政治的にも比較的安定している日本には、米国の保護主義化の切先(きっさき)を建設的にかわす役回りが国際社会から一層求められるようになるのではないか。

一部には米国のTPP離脱を受けて、米国抜きのTPPを進めるべきとの声もあるようだが、現実的な選択肢とは思えない。米国を除く11カ国が足並みをそろえて、新条約の早期発効にこぎ着けられれば良いが、実際には再交渉にかなりのエネルギーと時間をとられる可能性が高い。

また、そもそもTPPの大きな存在意義は、日米という2つの経済大国が加盟していることだった。日本はメキシコやオーストラリアなど多数のTPP構成国とすでに二国間の自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)を結んでいる。オバマ前政権が主導してきたTPPの交渉経緯を考えれば、いきなり二国間交渉に舵を切るというトランプ新政権の身勝手な行動に得心がいかないのは理解できるが、ここは残った国で無理に話を進めるよりも、米国との交渉に注力するのが現実を見据えた戦略かもしれない。

恐らく米国は、他国とのFTAのテンプレート(ひな型)とすべく、日米FTA交渉を急ぐはずだ。トランプ政権は、中間選挙をにらんで、来夏までには何らかの経済的成果を示す必要があり、前のめりで仕掛けてくることだろう。日本側は、そのペースにのまれて対立姿勢を打ち出すのではなく、政策助言や協力姿勢をむしろ前面に出し、なだめる側に回るべきではなかろうか。

例えば、米国が巨額のインフラ投資計画に本当に乗り出すのならば、インフラ債に連邦政府保証を付けることなどを条件に、日本の政府系金融機関や年金がある程度引き受けるといった協力関係も検討できるのかもしれない。

ところで、通商問題について補足すれば、私は全て二国間交渉で行うべきと言っているわけではない。中印を含む東アジア地域包括的経済連携(RCEP)や日欧EPAも進めるべきだと考えている。ただし、現実問題、欧州は政治の季節に突入しており、EPA締結のハードルは高い。また、交渉国の経済発展段階が大きく異なるRCEPは、内容的にどこまで高められるのか、不透明な部分は多いだろう。

*加藤隆俊氏は、元財務官(1995─97年)。米プリンストン大学客員教授などを経て、2004─09年国際通貨基金(IMF)副専務理事。10年から公益財団法人国際金融情報センター理事長。

*本稿は、加藤隆俊氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。

(聞き手:麻生祐司)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

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コラム:トランプ氏の円安誘導批判は「空砲」

池田雄之輔野村証券 チーフ為替ストラテジスト
[東京 3日] - トランプ米大統領が、「いよいよ日本たたきを開始した」との見方が広がっている。1月31日に製薬会社トップを集めた会合で大統領は、「中国や日本は何年も市場で通貨安誘導を繰り広げ、米国がばかを見ている」と述べたという。

先立って、1月23日には米国製造業のビジネスリーダーらを前に、日米の自動車貿易について「不公平だ」と繰り返し言及したとされる。同26日には、共和党上下両院の集会で演説し、今後の通商交渉には「通貨安誘導に対し極めて強い制限を導入していく」と表明したことが報道されている。

これらのコメントを額面通りに受け止めれば、黒田東彦総裁の就任以来、日銀が大規模に継続している資産買い入れプログラムが批判の対象になっているように見えるし、「円安の阻止を狙っている」との解釈もあり得る。しかし、トランプ大統領がおそらく即興で繰り出している言葉をいちいち真に受けて動揺するようでは、「ドル安を望む」(筆者はその点についてさえ懐疑的だが)トランプ大統領の「思うツボ」である。

現在の国際金融市場においては、米大統領といえども為替相場に与えられる持続的な影響はきわめて限られていることを認識する必要がある。以下では、1)口先介入の効果は今後消えていくと予想されること、2)そもそも新政権がドル安を強く志向しているとは限らないこと、3)外交努力次第で「日本たたき」は抑えられる可能性があること、を議論したい。

<実力行使を伴わぬ口先介入の限界>

まず、トランプ大統領が「ドルは高すぎる」などと口先介入を今後も連発すれば、結果的にドル安誘導の効果が表れてしまうとの見方を検討してみよう。口先介入が持続的な効果を持つかどうかの判定は「実力行使が控えているか否か」で見極められるはずである。

米財務省が為替介入を打ち出す、ないし米連邦準備理事会(FRB)が利下げに転じる、という現実的なシナリオがあれば、市場は口先介入に対しても素直に従い、ドルロングを縮小せざるを得ないだろう。1985年のプラザ合意が強力なドル安効果を発揮したのは、各国が協調してドル売り介入に動いたからに他ならない。90年代に為替市場が当局者コメントに一喜一憂したのも、プラザ合意での力ずくのドル安誘導を直前に経験していたからという、昔の話である。

仮に米国がドル売り介入を今後実施する場合、主要7カ国(G7)のルールに従えば「ドル高は無秩序であり、世界市場にとってリスク」であることを説明し、介入についての相手当局の同意を得る必要がある。しかし、現局面で米国が「過度のドル高」と不満を表明しても、まったく説得力がない。なぜなら、昨年11月以降のドル高は米金利上昇と矛盾なく推移しており、到底「無秩序」とは言えないからである。

さらに、他国からは「通貨高に耐えられないほど景気が脆弱なら、なぜ利下げしないのか」と、反論されるだろう。米国が利上げ局面にある以上、為替介入の実施は非現実的である。そうなると口先でのドル高けん制は「空砲」にすぎないと見透かされ、市場インパクトは低減していくはずだ。

なお、「トランプ政権はG7からの脱退さえ辞さないのでは」との悲観論もあるが、それは米国が変動相場制のメカニズムそのものを否定することを意味する。「戦争が始まるかもしれない」といったレベルと同程度のわずかなテールリスクと言うべきだろう。

<即興コメントに強い意思は感じられず>

ところで、2016年にルー財務長官の「円高は秩序立っている」との口先介入はなぜ、時として円高をもたらす効果を持ったのか。それは「1ドル=100円前後まで円高が進んでも、日本は円売り介入を封印せざるを得なくなった」との現実的な連想につながり、投機勢の円ロング構築を後押ししたことが一因だった。

加えて、米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーがことあるごとに、「ドル高は景気、インフレを下押ししている」と発言し、利上げ期待の上昇を抑えることに成功したことも影響しただろう。現局面でも、イエレンFRB議長が「ドル高によって利上げの必要性が低下している」と発言する場合には、本物のドル安圧力が加わると予想される。

次に、そもそもトランプ政権がドル安を本気で望んでいるかどうかも、慎重に検討されるべきだろう。G7のルールを無視してまでも、ドルを本当に押し下げたいのであれば、なぜトランプ大統領は「ドル安を追求する」「FRBは利下げすべき」と言わないのか。トランプ大統領が、即興で発信している為替へのコメントには強い意志が感じられないのだ。

一方、財務長官就任が見込まれるムニューチン氏は「強いドルは長期的に重要」と述べ、従来の米財務省の立場を一貫して擁護している。米国市場に投資魅力があり、それがドル高につながっているのであれば良い、との考え方だ。「最重要なのは経済成長と雇用拡大」と、為替相場そのものをターゲットにはしない方向も示している。

同氏の発言としては、「過度に強いドルは短期的にマイナスの公算」とのコメントも伝わったが、それは一般論での言及であり、現在のドルを強すぎると認定したわけではない点に注意が必要だ。

<年末1ドル120―125円予想を維持>

10日の日米首脳会談は、トランプ大統領の不当な口先介入を許さないためにも、きわめて重要な機会となるだろう。筆者は、昨年12月27日付の日本経済新聞に掲載された菅義偉官房長官の「為替の危機管理をちゃんとやっている」との発言は、トランプ政権から円安批判、日本たたきの動きが出ないよう、安倍政権が外交努力をすでに開始していた証拠だと解釈している。

首脳会談で日本側としては、1)英国に次ぐ世界第2位の対米直接投資を通じて、日本企業は米国の雇用拡大に貢献していること、2)1ドル=80円から120円へと円安が進んだ「アベノミクス」の期間においても対米貿易黒字は拡大どころか若干減少していること、3)日本は2012年以降、為替介入を一切打ち出していないこと、4)日銀の緩和努力は日本経済を強化し、ひいては米国からの輸入にもプラスに作用すること、を地道に説明すると予想される。一方、米国には「他国の金融政策には口出ししない」というG7ルールの順守を求めることになろう。

トランプ政権が、経済政策の中心に保護主義的通商政策を掲げており、貿易赤字縮小を優先課題とすることは明らかになってきた。しかし、その戦略の骨格は、1)中国に対する参入障壁撤廃と内需拡大の要請、鉄鋼などのダンピング輸出のけん制、2)米国製造業のメキシコへの生産シフトの抑制、といった点に絞られている。

世界貿易機関(WTO)違反となる高率関税の適用は、あくまで最終手段であり、実施は念頭にないことをロス次期商務長官は明言している。通貨政策については、仮にドル安を望んでいるとしても、それを実現する手段をホワイトハウスは持っていない。

トランプ大統領の口先介入に恐れをなすのでは、思うツボになってしまう。為替相場についての「トランプ砲」はあくまで空砲であり、神通力を失うのは時間の問題と見るべきだろう。

重要なのは、米国経済の強さであり、2017年は2回ないし3回の利上げが想定できるという事実である。金利が急上昇するなどして株価が大きく崩れる場合には、ドル円相場が金利差からかい離することもあり得るが、あえて現時点でメインシナリオにする理由もない。2017年末のドル円相場は、米利上げが2回なら120円、3回なら125円との予想を維持している。

*池田雄之輔氏は、野村証券チーフ為替ストラテジスト。1995年東京大学卒、同年野村総合研究所入社。一貫して日本経済・通貨分析を担当し、2011年より現職。「野村円需給インデックス」を用いた、円相場の新しい予測手法を切り拓いている。5年間のロンドン駐在で築いた海外ヘッジファンドとの豊富なネットワークも武器。著書に「円安シナリオの落とし穴」(日本経済新聞出版社)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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コラム:日米金融政策に潜むドル円波乱要因

門田真一郎バークレイズ証券 シニア為替・債券ストラテジスト
[東京 3日] - 国際金融市場は昨年11月の米大統領選でドナルド・トランプ氏が勝利して以来、同氏をめぐる政治・政策動向に右往左往する展開が続いており、金融政策の存在感がやや低下している。

1月半ば以降はトランプ政権からのドル高けん制・他国通貨安批判が報じられる中、米金利上昇にもかかわらずドル安が進む展開となり、ドル円相場も年初の118円台から112円台まで下落した。しかし、日米中央銀行は今年、それぞれ難しいチャレンジに直面しており、再び金融政策が相場の波乱要因になり得る点に注意が必要だ。

まず、日銀については、1月30―31日の金融政策決定会合で市場予想通り政策据え置きを決定した。展望レポートでは、2017―18年度にかけての国内総生産(GDP)成長率予測を上方修正する一方、コア消費者物価指数(CPI、生鮮食品を除く総合)については従来予測をそのまま維持した。決定会合自体に対する市場の反応は限定的なものにとどまったが、円債市場は日銀が昨年9月に導入した「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」にチャレンジする展開となっており、為替市場も日銀の輪番オペに振らされた。

日銀は9月に導入したこの枠組みの下、10年物国債金利がおおむねゼロ%程度で推移するように国債買い入れを行っており、市場は0%からプラスマイナス10ベーシスポイント(bp)を許容レンジと想定してきた。しかし、今週後半は10年債利回りがプラス10bpを上回り、3日には日銀が国債買い入れ増額や緊急指値オペによる対応を迫られる展開となった。

<日銀の次の一手が招く円高リスク>

そもそも「金利」と「量」をともに追求する日銀金融政策の現行の枠組みは内部矛盾をはらんでおり、中長期的には持続可能ではないと判断している。特に、海外金利上昇や国内インフレ加速にけん引される形で円金利の上昇圧力が強まり、(今週のように)日銀が国債買い入れの増額に迫られる場合、最終的には市場における国債不足の問題に直面することにつながろう(意図せざる減額リスク)。

当社は日本のコアCPIが8月までに1%台に達すると予想しており、円債のスティープ化圧力は今後一段と強まっていこう。こうした中、日銀が秋頃に10年金利操作目標を引き上げると予想している。

また、2017年の国債買い入れ額(残高ベース)を年間80兆円程度から同60兆円程度に減額させていくと考えている。実際、日銀保有国債残高の増加ペース(年率)は昨年9月から12月末にかけて約3.8兆円減少しており、2017年もこのペースで減額を続けた場合、年末の買い入れペースは60兆円前後に着地する計算となる。

日銀がこうした措置を進める上では市場とのコミュニケーションが非常に重要だ。特に為替市場では、ドル円上昇見通しの根幹に日銀の長短金利操作による円金利上昇抑制を通じた日米金利差拡大を据える投資家が多い印象だ。そのため、コミュニケーションの失敗で過度な引き締め観測を生じさせた場合は円高が進む公算が大きい。

<米保護主義の景気押し下げ圧力>

次に、米国では1月31日―2月1日の連邦公開市場委員会(FOMC)で市場予想通り金融政策が据え置かれた。声明文ではデュアル・マンデート(2つの使命)である最大雇用・物価安定に向けた進展が認識されたが、トランプ政策をめぐる不確実性が大きい中、今後の具体的な利上げ時期などについての言明は避けられた。

米連邦準備理事会(FRB)にとって最大のチャレンジはトランプ政権の動向であることは間違いない。FRBの金融政策も、米国経済・物価見通しに大きな影響を与え得るトランプ政権の財政政策や保護主義政策との政策ミックス上の兼ね合いによるところが大きい。

当社は、トランプ減税が2017年後半から2018年前半の米国経済成長率を1.0―1.5%ポイント押し上げる一方、保護主義政策は景気押し下げ方向に働くと見ている。例えば、中国に対して15%、メキシコに対して7%の関税が実施された場合、米国の成長率は0.5%ポイント程度押し下げられると推計している。仮に20%の国境税が導入された場合の景気押し下げ効果は1.0―1.5%ポイントにまで広がると見られ、減税効果がほぼ相殺される計算となる。

財政・保護主義政策に加え、現在2人分の空席があるFRB理事の指名も重要だ。今年のFOMC投票メンバーは昨年と比べてややハト派寄りにシフトしたが、トランプ大統領の指名次第ではそのパワーバランスが大きく変わる可能性もある。むろん、2018年2月3日に任期を迎えるイエレンFRB議長の後任問題が今年後半には最大の焦点となろう。

<FRBのバランスシート縮小議論>

加えて、FRBでは現在進行中の金融政策正常化のプロセスにおいて、「金利」と「量」のバランスをめぐる議論が再び俎上(そじょう)に上っている。具体的には、2008年以降3度にわたる量的緩和で急増したFRBのバランスシートをいつ縮小させるべきかが焦点だ。

振り返れば「金利」か「量」かの議論は、バーナンキ前FRB議長が政策正常化を始める際に一度盛り上がったが、当時はバーナンキ氏を中心とする「まず金利」派が勝利し、超過準備付利(IOER)導入によって膨大なバランスシートを維持しつつ利上げを行うことを可能にした。結果、FRBは償還証券を再投資することで大規模なバランスシートを維持しているが、年明け以降は地区連銀総裁によるバランスシート縮小に関する発言が注目されている。

もともと、2015年9月のFOMC議事録では再投資政策について、1)政策引き締めの少し後に停止、2)政策金利が一定水準(1―2%)に達するまで継続、という選択肢が示されていた。FOMC自身の予測通り今年3度の利上げが実施されると、2017年末のフェデラルファンド(FF)レート誘導目標レンジは1.25―1.50%に達することとなる。そのため、今後バランスシート縮小に向けた議論が進展していくことが見込まれる。

その際、最終的に適切なバランスシートの規模および金融政策運営における準備預金の役割を決定していくことが重要だ。なお、当社はFRBの利上げが2017年は年2回にとどまると見ており、現時点でバランスシート縮小は予想していない。

以上を踏まえると、当面の金融市場はトランプ政権の動向に左右される展開が続くと見られるものの、今年、日米金融政策が再び市場の錯乱要因となる可能性には十分注意が必要だろう。ドル円相場については、日銀の長短金利操作とFRBの利上げの組み合わせから一段高を見込む向きも多いようで、投機筋の円ショートポジションは高水準で維持されている。

ただ、日銀金融政策の枠組みの持続可能性に疑問が残るほか、米利上げ加速の前提にあるトランプ政策も、減税より保護主義政策が前面に出ることで経済押し上げ効果が相殺される可能性もある点に留意したい。何より景気循環後期における財政拡張は将来需要の先食いにより、その後の谷を深めるリスクがあることに加え、保護主義政策は潜在成長率を押し下げる懸念がある。FRBのターミナルレート(政策金利の最終着地点)の上昇は抑制され、米長期金利の上昇余地も限定的となろう。

ドル円は当面、トランプ政権・政策をめぐるヘッドラインに振らされやすい展開が続こうが、中期的には大きな課題に直面する日米金融政策が相場の波乱要因となっていくリスクに注意が必要な年となろう。

*門田真一郎氏は、バークレイズ証券のシニア為替・債券ストラテジスト。2008年にバークレイズ証券に入社し、銀行戦略調査および外債ストラテジーを担当、2013―16年にバークレイズ銀行で為替ストラテジストを務めた後、16年から現職。海外拠点の為替・金利・経済チームとのネットワークを活かし、為替市場見通しのほか、海外経済・政治動向などについて幅広い情報提供を行っている。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)経済学部卒。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(こちら)


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焦点:ゼロ%「程度」をめぐる神経戦、日銀が初の実弾指し値オペ


[東京 3日 ロイター] - 日銀のイールドカーブ・コントロール(YCC)政策をめぐり、市場と日銀が神経戦を繰り広げている。同政策における10年物国債金利の目標はゼロ%「程度」であるが、どこまでが「程度」なのかは曖昧だ。日銀は3日、初の実弾となる「指し値オペ」を実施。金利上昇を抑えにきたが、何度も使える手ではない。いずれ金利目標は引き上げられるのか──。ヒントを探るべく、日銀オペに対する市場の注目度は高いままとなりそうだ。

<伏線もあった長期金利上昇>

日銀のオペに債券だけでなく、為替や株式など各金融市場の注目が集まっていた。前日2日、10年債金利は節目とみられていた0.1%を突破。このまま長期金利上昇を放置するのか、それとも抑えにかかるのか──。もし放置すれば、日米金利差縮小の思惑から、円高が進み、日本株が売られる可能性もある。

3日午前10時10分。日銀は「残存5年超10年以下」の国債買い入れ額を4500億円と通告。1月31日に発表した予定額4100億円に対して400億円の増額となった。

長期金利の低下要因になるはずだったが、増額規模が物足りないと判断した向きが売り圧力を強めたほか、超長期国債の買い入れを見送ったことも嫌気された。長期金利は一気に、マイナス金利政策が導入された昨年1月29日以来の0.15%まで上昇。限定的ではあったが、円高と株安も進んだ。

市場の神経質な反応には伏線があった。3日朝に発表された昨年12月19、20日分の日銀金融政策決定会合の議事要旨だ。同会合でYCC政策の下で長期金利を「ゼロ%程度」とする目標について、上下0.1%など画一的な基準を設けるべきではない、との見解が示されていたことが判明した。

日銀が目標に掲げる「ゼロ%程度」とは、かなり広いのではないか。そうした見方がじわりと広がっていたなか、オペの金額がやや少なかったことで、長期金利の上限を試すような売りが出たとみられている。

<市場の不透明感払しょくされず>

しかし、日銀は長期金利の上昇を放置しなかった。午後零時30分、日銀は、市場の意表を突いた「指し値」オペを実施。「指し値」オペの通告は、これで2回目だが、前回は市場実勢とかけ離れたオファーであったため、応札額はゼロだった。

実は今回も、対象となった345回債は、前日に入札があったばかり。落札利回りが最高0.092%、平均0.087%だったため、指し値の利回りの0.110%を踏まえると、売却損が出た計算になる。

ただ、「業者は応札の際、先物などを活用してヘッジ(損失回避)をしていたと予想される。損失が限定的となる日銀買入れを活用して、ポジション整理を急いだ」(国内証券の債券担当者)とみられ、応札額は7239億円にのぼった。

日銀の金融市場局は「長期金利が急激に上昇していることを踏まえ、10年物国債金利の操作目標をゼロ%とする金融市場調節方針をしっかりと実現するように実施した」との見解を示した。

10年国債利回りは、今回の指し値オペの金利0.110%が当面の上限となるとみられている。しかし、「指し値オペ」は何度も効かないとの見方も多い。市場に慣れが生じてしまうためだ。

市場には不透明感が漂ったままで、三菱UFJモルガン・スタンレー証券・シニアマーケットエコノミストの六車治美氏は「日銀は適切なイールドカーブに言及しているが、そのカーブ形成を何を基準に適切と判断しているのか、日銀の裁量でしかない。根本的なことが明確にならないと、いつまでもオペに対する不透明感が残る」と話す。

<長期金利目標引き上げには円高リスク>

黒田東彦日銀総裁は31日の会見で「(オペの)タイミングや回数は、需給動向などで実務的に決定する。日々のオペで先行きの政策スタンスを示すことはない」と、オペによる金融政策の先行き示唆を否定した。

しかし、「いずれ長期金利目標を引き上げる際は、実勢金利が上がった後からでないと市場が混乱するおそれがある」(シティグループ証券・チーフエコノミストの村嶋帰一氏)という。市場金利をスムーズに引き上げるために、オペを利用する可能性もあるとみれば、市場のオペに対する注目度は引き続き高そうだ。

また、長期金利目標に関しては、トランプ米大統領のインフラ投資などで、米金利が上昇し、ドル高が進んでいる場合は、日銀も引き上げやすい。米金利が上昇しているため、日本の金利を引き上げても日米金利差が縮まず、円高圧力も高まらないためだ。

だが、日本の物価が2%に近づくなど、米国要因によらずに、日本の金利に上昇圧力がかかる場合、長期金利目標引き上げには円高リスクが生じる。

円高を防ぐ1つのアイデアは、長期金利の引き上げと同時に、短期のマイナス金利を引き下げるツイストを行うことだ。ただ、マイナス金利への反感は日本では強い。2016年1月のマイナス金利導入時のように、銀行株が下落し株安なってしまえば、リスクオフの円高が進んでしまうおそれがある。

「円高になるか、円安になるかはやってみないとわからない」とBNPパリバ証券・チーフエコノミストの河野龍太郎氏は話している。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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http://jp.reuters.com/article/crossmarket-idJPKBN15I0YA?sp=true


 


【インサイト】
日銀は金利の手綱を失っていない−オペ後急騰でも
増島雄樹
2017年2月3日 13:32 JST

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日本国債10年物金利が、マイナス金利導入以来1年ぶりに一時0.15%まで上昇した。市場が3日朝に実施した国債の買い入れが不十分だとみなしたことが背景にあるとみられ、金利操作目標の概ね0%程度からかい離した。ブルームバーグ・インテリジェンスでは、これが金融政策変更や日本銀行がイールドカーブのコントロールを失ったことを意味するわけではないと評価するが、市場との対話をどうするかは今後の課題だろう。

日銀は イールドカーブのコントロールを失っていない。日本の物価上昇や経済見通しのパスに影響を与えない限り、長期金利のある程度の変動は許していると評価すべきだ。
政治的な懸念も日銀があえて金利上昇を抑え込みにいかなかった要因かもしれない。
トランプ米大統領は、日本が円を減価するためにマネー市場で操作を行っていると批判している。安倍晋三首相とトランプ氏の会談を控え、目立った動きをすればトランプ氏に為替を円高に誘導する口実を与えかねない。これは日銀としても避けたい状況だろう。
もし、この見立てが正しいのであれば、日銀の市場とのミスコミュニケーションが問題となってくる。
9月の長短金利操作政策の導入後、日銀は指し値オペなど、国債市場の金利変動に呼応して何回か強いメッセージを送っている。それが、長期金利が目標の0%から0.1ポイント以上乖離(かいり)させないという印象を与えている可能性がある。
ただ、昼すぎに指値オペを行ったことで、日銀は金利の手綱は失っていないものの、日々のオペレーションでの試行錯誤が続いていることが示唆される。
原文の英語記事はこちら

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-02-03/OKS6DI6S972801


 
【インサイト】
シニアバンカーは費用が高い、それでも価値がある
Gillian Tan
2017年2月3日 14:03 JST

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ウォール街の一部で今、最も引っ張りだこなのはスーパーボウルのチケットではない。シニアのインベストメントバンカー(投資銀行家)だ。
  それが投資銀行のグリーンヒルやエバーコア・パートナーズ、ラザードの幹部からのメッセージだ。3行とも市場予想を上回る四半期業績を最近発表した。社員への報酬はこれらの銀行が直面する最大のコストの一つだが、ビジネス案件を獲得するという見返りは大きくなる可能性を持つ(これは手数料収入に置き換えられる)。

米大統領選以降の独立系投資銀行の株価上昇率
https://assets.bwbx.io/images/users/iqjWHBFdfxIU/iTzwjzk3oJ9k/v1/-1x-1.png

  ゴールドマン・サックス・グループに30年在籍した後、エバーコアの会長に就任したジョン・ワインバーグ氏は1日、決算発表後の電話会議で「人材の管理、維持、採用が最も重要だ」と話した。事情に詳しい関係者の話によれば、同行は今年既にシニアマネジングディレクターを新たに2人採用したほか、4人を同職に内部昇格させた。この職種の幹部は計87人になったという。
  こうしたシニアバンカーは移籍先の投資銀行の収益に好影響をもたらしている。大手行に在籍していた時期の実績をかなり上回る貢献だ。エバーコアでは2016年、こうした人材が1人当たり平均1380万ドル(約15億6000万円)の収入を生み出した。前年比9%増で、投資銀業界で最大だった。
  JMPセキュリティーズのアナリスト、デビン・ライアン氏は、エバーコアの「長期的なフランチャイズ・バリューの一番の押し上げ要因」は、こうした人材の拡大だと指摘した。
(このコラムの内容は必ずしもブルームバーグ・エル・ピーの意見を反映するものではありません。)
原題:Senior Bankers Are Pricey and Worth It in These Cases: Gadfly(抜粋)

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-02-03/OKS5DT6TTDS001
 

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コメント
 
1. 2017年2月03日 23:43:08 : mINW8bMxUQ : 4BobKM9F48E[33]

 基本的な問題として

 リーマンショックがあって アメリカQE => 日本のQE => 日本のマイナス金利 で

 アメリカの国債を支えてきた
 
 日本の円安を 円高にすると アメリカがQEを再開する以外には 手立てがないのだが

 それは 危険な選択である というほかはない   by 愛

 ===

 つまり トランプの円安批判には 多少の無理がある 

 円高 => アメリカのQE再開 => 日本のQE => 日本のマイナス金利 というように

 もう一度 繰り返すことは あり得るのかな〜〜〜
 

 


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