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東芝が解体消滅の危機にある。その原因として、運が悪かったのではなく、ある種の「経営力」が不足していたことが考えられる。多くの日本企業にとって、これは他人事ではないPhoto by Takahisa Suzuki
「第二の東芝」を生みかねない日本企業の危うい経営眼
http://diamond.jp/articles/-/116584
2017年2月3日 鈴木貴博 [百年コンサルティング代表] ダイヤモンド・オンライン
■東芝、解体消滅の危機
なぜここまでジリ貧に?
東芝が解体消滅の危機にある。2015年度に発覚した不正会計問題の際には、医療機器子会社と白物家電子会社を売却し、不振のパソコン子会社は事業を縮小。東芝の2016年3月期は、この医療機器子会社をキヤノンに6655億円で売却したことで、東芝は債務超過を免れた。売却益のお蔭で、株主資本が3289億円とプラス水準で踏みとどまることができたのだ。
ところが2016年12月、原子力事業において新たに巨額の減損が発生することが発覚し、今年に入ってその減損規模が最大で7000億円に達することが判明した。このことで、東芝は再び債務超過の危機に陥ったことになる。
しかも、不正会計の問題から続けて、これで3期連続の最終赤字決算になることも確定的になった。東芝は東京証券取引所の特設注意市場銘柄に指定されていたのだが、このままでいくと東証は、同社を上場廃止にするかどうかの判断を迫られることになる。
上場廃止ならば資金調達が困難になり、企業継続ができなくなる。それを支援するための銀行の支援スキームも足並みがそろわず、そもそも経営が苦しい地方銀行を中心に支援拒否の動きも出ている。
このような環境下で、2月27日に開催された東芝の取締役会が決めたのは、原子力と並ぶもう1つの柱である半導体部門のメモリ事業を分社化して、その株式を売却することだった。債務超過を回避するためには、主力中の主力事業でも売却しなければどうしようもないという経営判断だ。
この判断で、かろうじて東芝は企業としては存続できる可能性が出てきたわけだが、不正会計事件以来、売れる事業は次々と売却し、今回主力の半導体事業の中では唯一の成長事業であるメモリ事業まで売却することで、「巨大企業東芝」は完全に解体されてしまうことになる。
かつて重電業界の雄として、幅広い電機分野にビジネスを広げてきた東芝は、これからは収益力としてはほぼ原子力1本に依存した実質単一事業体に縮小される。そして、原子力事業が福島ショック以降、世界的に逆風に見舞われているのは周知の通りだ。東芝を待つのはジリ貧の未来しかない。
なぜ、こんなことになってしまったのか。因果関係はこれまで述べてきた通りなのだが、根本の理由は何かを考えると、それは東芝経営陣の経営力不足であることは間違いない。では、いったい何が不足していたのか。
私の見立てでは、「東芝は運が悪かった」のではなく「ある種の経営力が不足していた」と思う。東芝は、必然的にこれら一連のリスクを招く結果になったのだ。そう考えることで、東芝に不足していた経営力の中身がはっきりとわかる。
東芝の経営陣に不足していたのは、事業会社の価値の評価能力だ。そしておそらく、日本の多くの大企業にも同じことがあてはまる。さらに踏み込んで言うと、それはプロ経営者が不足する日本において、どのグローバル企業にとっても非常に危うい状況と言える。順を追って説明しよう。
日本の大企業では持ち株会社が解禁となり、またカンパニー制など疑似分社化のスキームも流行した。そのことで、日本の大企業では今世紀に入って急速に、多数のグローバルな事業会社を傘下に持つホールディングス化(持ち株会社化)が進んでいる。
■持ち株会社のトップは
常に事業会社に騙されている?
では、ホールディングス(持ち株会社)の社長の仕事は何だろう。それは2つである。
1つは、傘下の事業会社各社が最大限の成長をするように、目標設定を行い管理すること。もう1つが、それら事業会社を選別して資金投入したり、M&Aによって入れ替えたりして、事業ポートフォリオをより魅力的なものに変えていく仕事だ。
問題は、この2つの仕事に必要な能力が、事業会社の社長の能力とは異質だということだ。能力が異なるのにもかかわらず、大半の大企業では事業会社の社長の中から主に業績のよい人物を引き上げて、持ち株会社の社長や経営陣に据える。そこで能力不足による経営事故が生じる。
事業会社の社長に必要な能力は、前年よりも高い利益を上げることができるように、組織に対してゴールを設定し、それを実行する能力だ。これは主に、自分の土地勘がある業界や事業において、自分が慣れ親しんだ組織を率いる前提であれば、サラリーマン社長でも十分に機能する能力である。
一方で、持ち株会社の社長は、言ってみればたくさんの事業会社のオーナーである。いくつもの事業会社の持ち主(オーナー)の立場で、1つ1つの会社がちゃんと金を稼いでくれそうか、きちんと成長してくれそうか、そして思わぬ損失を出さないかを見極める能力が必要とされる。
このとき、持ち株会社の社長から見た傘下の事業会社の社長との関係は、常に「騙される」リスクをはらんだものになる。傘下の事業会社からすれば、将来性がピカピカに見えなければ資源も投資してもらえないし、人材を抜かれてしまい、将来の成長がおぼつかなくなってしまう。だから持ち株会社に対してピカピカの事業計画を見せ、あたかもそれを実現できるかのごとく振る舞うことで、本社から資源を獲得しようとする。
実際は、その通りの計画達成ができる事業会社もあれば、計画を絵に描いた餅で終わらせてしまう会社もあるのだが、すべての事業会社がピカピカの計画を提示して、みな同じように「私の事業領域は魅力的でしょ、オーナー?」と呼びかけてくる。これを見分けてどこを伸ばすかを判断する能力が、持ち株会社の経営者には必要になる。
■「0円で買える会社は怪しい」
なぜそんなことに気づかなかったか?
東芝の経営者が陥穽に落ちたのはこの点だ。不正会計事件のときは、各事業会社の能力を見極められない経営陣が「チャレンジ」と称して実力以上の高い目標を設定し、事業会社はそれに不正会計で辻褄を合わすという事故が起きた。
今回の問題は、アメリカの子会社であるウェスティングハウスを0円で買収した東芝から見れば、孫会社の原子力サービス会社が、実は買収当時には知られていなかった7000億円規模の負債を抱えていたことが発覚したわけだ。
プロの経営者なら「0円で買える企業というのは何かしら深刻な問題を抱えているはずだ」と考え、何らかの精査を行うはずだ。一方で、経営力のない経営者の場合は、「買収額が低ければリスクは低い」といった間違った基準で経営判断をしてしまう。
今回の減損が経営陣にとって「寝耳に水」だったということは、買収時にそのリスクの存在を懸念する能力すらなかったことを意味している。東芝の大幅な減損事件は、経営力不足から起こるべくして起きた事件ということになる。
■東芝とソニーの比較に見る
経営の「信頼力」の差
最近、一見よく似ているものの、実際は経営力の質が180度違う出来事があった。1月30日にソニーが、傘下の映画事業で1121億円の減損が発生することを発表したのだ。
ソニーの映画事業は、たくさんの過去の映像作品を資産として持っている。ソニー本社が算定判断をしたところ、映画のDVDやブルーレイソフトの販売市場が縮小しているため、ソニーが持つ過去の映像作品もそれくらいの価値が将来減ってしまうことが見込まれるという理由からだ。
それによって翌日のソニーの株式は下落したのだが、株価が落ち着いてからよく見ると、ソニーの時価総額は4.4兆円から4.3兆円に下がったに過ぎない。つまり、映画事業の価値が下がったのとちょうど同じ分だけ企業価値を下げたところで、株価の下落は止まったのだ。
これは市場が「ソニーの経営陣の傘下の事業会社を評価する経営力が信頼できる」と捉えているからに他ならない。
振り返って東芝の場合、たくさんの事業会社を傘下に抱えているにもかかわらず、トップが事業会社の能力を評価する能力に欠けていた。結果、実際には事業会社に想定されていた価値がないことが次々と判明していった。そして企業を存続させるために、収益力のある事業会社を次々と売却していく流れになった。こう考えると、東芝の実質解体は、経営者が引き起こした人災なのだ。
では、あなたの会社はどうだろう。日本企業でグローバルに様々な事業会社を抱えている大企業だったとしたら、そのトップの座に適切な経営力を持つ人が座っていると、自信を持って言えるだろうか。
(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)
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