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今回の経済学キーワード:主観価値説
「日経ビジネスベーシック」から
飯田泰之の「キーワードから学ぶエコノミクス」・03
2017年2月3日(金)
飯田 泰之
この記事は、「日経ビジネス」Digital版に掲載している「日経ビジネスベーシック」からの転載です。連載コラムは「飯田泰之の『キーワードから学ぶエコノミクス』」。記事一覧はこちらをご覧ください。詳しい説明はこちら 。
体系的に理解しよう! とすると、なかなか手強いのが経済学(エコノミクス)。とりあえず、耳にしたことがある経済学用語の定義だけでも、「なるほど」と腑に落ちる形で学んでみませんか。テレビでもお馴染みの、明治大学政治経済学部准教授の飯田泰之さんが、ちょっと他所では読めない角度から、経済学のキーワードを読み解きます。
「対象が希少ならば、それを手に入れるには対価が必要」
という認識が経済学の出発点でした。誰でもいつでも手に入るもの(たとえば「空気」ですね。今のところは…)に対価を払う人はいません。
飯田泰之(いいだ・やすゆき)
明治大学政治経済学部准教授 1975年東京生まれ。マクロ経済学を専門とするエコノミスト。シノドスマネージング・ ディレクター、規制改革推進会議委員、財務省財務総合政策研究所上席客員研究員。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。著書は『経済は損得で理解しろ!』(エンターブレイン)、『ゼミナール 経済政策入門』(共著、日本経済新聞社)、『歴史が教えるマネーの理論』(ダイヤモンド社)、『ダメな議論』(ちくま新書)、『ゼロから学ぶ経済政策』(角川Oneテーマ21)、『脱貧困の経済学』(共著、ちくま文庫)など多数。
では人は何のために対価を支払ってまで何かを手に入れようとするのか。それは何らかの「イイ思い」をするためですよね。対象が希少であるということは、それを多くの人が欲しいと思っている=イイ思いをしたがっているということ。――つまりは人々がそれに「価値」を感じているはずです。
さて、この「価値」とはいったい何なのでしょう。
経済学が誕生して間もない18世紀、経済学者は「価値の源泉は労働にある」と考えました。例えば、3時間分の労働によって生産された商品には労働3時間分の価値があり、10時間かけて作られた商品には労働10時間分の価値がある、というわけです。
正確には、労働の質を考慮し、機械や道具を用いた場合にはその機械・道具の生産に用いられた労働をカウントするなど細かな調整を考慮していましたが、結局は「商品の価値はそこに投入されている労働の量で決まる」と考えていたのです。このような考え方は労働価値説と呼ばれます。
労働価値説と主観価値説
労働価値説に代表される、ものの価値にはそれを決定する客観的な仕組みがあるという考え方は「客観価値説」と総称されます。
「なぜこの牛丼が290円なのですか?」という問いに対して、「それはですね、コメが●●円で牛肉が△△円で、給与が××円…」と原価を積み上げて答えようとする人も、暗黙のうちに客観価値説に従って考えていると言えるかもしれません。
現在の(というよりも19世紀末頃以降の)経済学は客観価値説をとりません。現代の経済学が立脚する価値に関する考え方は「主観価値説」と呼ばれます。
ある商品やサービスがどれだけの価値を持つかは、人それぞれである――つまりは人それぞれの主観で決まるものであり、それがゆえに人によって異なっていると考えるのが主観価値説の特徴です。主観価値説に従うと、ある土地が1億円で売れたのは、「買い手がその土地を1億円以上に評価していたから」ということになります。そして「なぜこの牛丼が290円なのですか?」という問いの答えは、「290円ならば、『この牛丼にはそれ以上の価値がある』と考える人がそれなりの数いる(=需要がある)と売り手が予想しているから」というものになるでしょう。
でも、これって、トートロジー(同語反復)みたいですよね。
なぜ経済学の価値観の主流が、数字を用いる客観価値から、概念的に思える主観価値へと転換していったのでしょうか。
第一の理由はその単純性によるものです。客観価値説に従うと、ものの価値を知るために、それが誰によってどのように作られたかを調べる必要が生じます。モノにもよりますが、その作業は事実上不可能な場合が少なくないでしょう。
さらに、そこまでして客観的な価値がわかったとして、何か良いことがあるでしょうか。市場価格の動向や取引量を予想するにあたって「本当の価値は」という問いはそれほど有用ではありません。「誰かが○○円の価値があると感じたんでしょ」というトートロジ−にしか見えない主観価値説による理解で十分に有用な知識が引き出せるなら、面倒な作業はしなくて良いではありませんか。
「同じ現象を説明する複数の仮説があったときには、そのうちもっとも簡潔なものを選ぶべきだ」という考え方は、科学哲学の世界では「オッカムの剃刀(思考の節約原則)」として知られる考え方です。
主観価値説が生き残ったのは、思考の節約のためだけではありません。
価値は原価と無関係、としか考えようがない
客観価値説では、取引と合理性を同居させることが出来ないのです。仮に、客観的に100万円の価値の壺があるとしましょう。この壺が90万円で取引されたとき、買った側が10万得をしていて、売った側は10万円損をしているということになります。客観的な価値が存在すると仮定すると、客観価値と全く等しい価格で取引されない限り、取引は売り手買い手のどちらかが損をしていて、もう一方が同じだけ得をするというゼロサム状況にあると言うことになります。
ここに大きな矛盾があることにお気づきでしょうか。引き続き壺の例を使うと……損をするとわかっているのに売り手はなぜ90万円で壺を手放したりするのでしょう。
同じ商品や時期で価格に違いがあることからわかるように、全ての取引が客観価値ぴったりで行われていると考えるのはあまりに不自然です。すると客観価値説を守る(?)ためには、取引が成立するのは誰かが誰かをダマしているからであり、ダマされている方は取引によって損を被っていると考える他なくなります。同様に、取引によって得をしているのは、誰かを損させた結果だという経済観にも繋がります。このような経済観では、ビジネスの本質であるwin-winな取引を心から理解できることはないでしょう。
「買って満足、売って満足する値段こそが正しい価格なのだ」
というのが、現代の経済学の考え方なのです。
食事の度に、服を買う度に、やたらと原価を気にする人っていますよね。少なくとも筆者の経験ではそのような人でビジネスに成功している人を知りません。客観価値説はビジネスのセンスを鈍くしてしまうようですよ!
このコラムについて
「日経ビジネスベーシック」から
このコラムでは、「日経ビジネスBasic」に掲載した記事の一部をご紹介します。日経ビジネスBasicは、経済ニュースを十分に読み解くための用語解説や、背景やいきさつの説明、関連する話題、若手ビジネスパーソンの仕事や生活に役立つ情報などを掲載しています。すべての記事は、日経ビジネスの電子版である「日経ビジネスDigital」を定期購読すれば無料でお読みいただけます。詳しくはこちらをごらんください。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/041300033/012600016
焦点:保護主義的な米税制改革、国際ルール違反の可能性高く
[ロンドン/ワシントン 1日 ロイター] - 米議会が提案している企業税制改革が実行されれば、国際的な貿易ルールに違反することはほぼ確実で、世界貿易機関(WTO)史上最大の紛争が引き起こされる恐れがある─。米国での税制改革論議に関し、法律の専門家はロイターに対して、こうした見方を示している。
トランプ政権で保護主義的な傾向が強まることが懸念される中、欧州企業には貿易戦争につながるリスクを懸念する声も出ている。
米下院の共和党議員が検討している改革案は、現行の法人税を廃止する代わりに売上高に20%の課税をする内容。その際、売上高から米国で生み出されたモノ・サービスの購入コストと労働コストを控除できる仕組みで、米国製品の輸出は非課税扱いだ。一方で、輸入した部品を使って生産したり、輸入品を転売したりする企業にはこうした控除は認めないという「国境調整」を実施するのが特徴だ。
トランプ大統領は、複雑な仕組みだと批判的だが、こうした手法が米国の貿易赤字を削減する上では役に立つとも認めている。
税制を扱う米下院歳入委員会のブラディ委員長(共和党)は、この改革案はWTOルールに沿ったものであることに自信を持っていると強調する。
しかし、WTOをめぐる訴訟経験のある、米国、英国、欧州を拠点に活躍する6人の弁護士の見方は違う。国内製品に対する違法な補助金や、輸出補助金もしくは、輸入品に対する事実上の関税だとみなされる可能性が高いという。
6人の弁護士全員が、検討されている税制は、WTOの複数の規定に抵触すると予想。きわめて深刻な違反行為だとされ、不服とする加盟国が提訴した後、通常なら数年掛かる手続き期間の短縮が正当化される可能性すらあると指摘する。
通常、WTOに持ち込まれる問題は特定の産業や企業に限定されているが、通商の専門家は、この税制案は米国へのすべての輸入と、米国からのすべての輸出に関わるだけに、提訴されれば、WTOが扱う過去最大規模の紛争になると話す。
ホワイト・アンド・ケースの弁護士、スコット・リンシコム氏はこの改革案では「すべて国内で生産された製品に対する実効税率は、輸入品よりも低くなることになる」と指摘。
これは、WTOの関税および貿易に関する一般協定の第3条に違反することになる。協定では、海外から入ってくる商品に対し課税することは可能だが、売り上げや収入に対する課税に関連する形で国内製品を輸入品よりも優遇することは認められていないからだ。弁護士らはほかにも、補助と対抗手段に関する協定に基づいて訴えることも可能だと指摘している。
欧州の企業グループは、共和党が検討している改革案は、国際的な貿易ルールを覆すものだとし、欧州各国政府が米国に対し思いとどまるよう説得に乗り出すことを望んでいると強調。
英国最大の輸出企業のひとつ、ジャガー・ランドローバーの役員で海外販売の責任者を務めるアンディ・グロス氏は、英国政府が米政府に対し、英企業の立場を訴えることに期待を表明している。
WTOは加盟国に対し報復の手段を用意してはいるが、手続きには何年も掛かる可能があり、他の手段に訴える国も出てくるかもしれない。モルガン・スタンレーのアナリストは一例として中国を挙げ、巨大な同国国有企業に対し「米製品不買」政策をとるよう命じる可能性があると指摘している。
欧州の企業関係者の中には、米国がこの改革案を実行に移し、欧州の雇用などに影響が波及したなら、政治的な圧力が高まって全面的な貿易戦争に突入する危険性を指摘する声もある。
(Tom Bergin、David Morgan両記者)
http://jp.reuters.com/article/us-tax-plan-wto-idJPKBN15H0IQ?sp=true
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