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マルサの尾行はこんなに大変です…「あだ名」を頼りに、半年張り込み 「国税局査察部24時」特別篇(現代ビジネス)
http://www.asyura2.com/17/hasan118/msg/581.html
投稿者 赤かぶ 日時 2017 年 2 月 02 日 10:11:45: igsppGRN/E9PQ kNSCqYLU
 


マルサの尾行はこんなに大変です…「あだ名」を頼りに、半年張り込み 「国税局査察部24時」特別篇
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50808
2017.01.01 上田二郎  現代ビジネス


■緑のジャガーを追え!

伊崎チーフ「こちら、特車(特殊自動車)です! ターゲットが高速道路に入りました。銀行に向かうものと思われます。このまま追跡します」

銀行前で待機する川中総括に、伊崎チーフが携帯電話で報告をした。

伊崎チーフ「上田。運転頼むぞ……。おい。少し車間を空けすぎだな。他車に入り込まれて見失うぞ!」

上田「分かってますっ!」

アクセルをめいっぱい踏み込むが、特車は言うことを聞いてくれない。みるみるうちに緑のジャガーのテールランプは遠ざかっていく。

伊崎チーフ「こらっ! 車間を空けるなと言っただろう? ジャガーが見えなくなってきたぞ」
上田「分かってますが……これでベタ踏みです」
伊崎チーフ「なにっ! この加速の悪さはなんだ! こんなクルマじゃ尾行なんかできないぞ。マルサのターゲットは、ほとんどが高級車に乗っているんだからな!」

発売即重版となった『国税局査察部24時』。その任務の秘匿性から、ほとんど明らかになってこなかったマルサの実態を、元国税調査官の上田二郎氏が描いた貴重な一冊だ。今回、上田氏がマルサで使われている「特車」について解説する。

特車に選ばれるのは、マルサが任務を遂行するため、@狭い道に停めても邪魔にならないような、Aリアシートに潜んで長時間の張り込みができるように、車内空間が広い小型のワンボックスカーだ。

選んだクルマは、ラルゴ。当時、最も売れていたスカイブルーの車体で、リアシートをカーテンと車窓フィルムで覆い、望遠カメラとモニターを搭載して、遠方からでも監視できるように改造した。

この日はターゲットが3ヵ月ぶりに動いた日で、絶対に尾行を成功させなければならなかったのだが、上田は特車の弱点をまざまざと思い知らされることになる――。

■ターゲットは「水曜午後の紳士」

今回のターゲットは開業医。定期的に債券発行銀行に来て現物債(無記名金融債)を買いに来るのだが、購入日は決まって水曜日の午後。しかも、閉店間際の14時30分頃に来店していた。

来店時はいつもタータンチェックのブレザーをおしゃれに着こなし、紳士然とした態度から「水曜午後の紳士」と呼ばれていた。

現物債とは、無記名で購入できる1年物の割引金融債(利息分を割り引いて購入し、満期になると額面の金額を受け取れる)のこと。無記名なので、売った銀行は購入者を知らない。定期預金証書ほどの紙に現金をかえられるため、脱税のツールとして重宝された。

脱税者がもっとも苦労するのが脱税資金(タマリ)の隠し場所だ。札束のまま貸金庫に隠したり、金の延べ棒を購入したり、海外に逃がすケース(資産フライト)もある。だが、現物債を購入すれば1枚の紙切れにかえられるというメリットがある。

一方、銀行は現物債の購入者をあだ名で管理していた。脱税の温床になる現物債の購入者を管理するようマルサが強い要請をした結果、「あだな管理」と呼ぶ制度が実現したのだ。購入者にあだ名をつけ、同一人物が再び来店した時に記録・管理するのである。

「あだな管理」では、性別、身長、体形(デブ、中肉、ヤセ)、メガネの有無とともに「あだな」を付ける。例えば、受付時の会話が名古屋弁だったことから「名古屋の人」、つるつる頭のおじさんを「タコ入道」と呼んだケースもあった。

「名古屋の人」を尾行すると、新幹線で名古屋に帰っていった。「タコ入道」は羽田空港から高松に帰っていった。東京の銀行には全国の脱税者が集まってくるため、内偵班の役目は購入者をどこまでも追いかけること。張り込みで一番頼りになるのは、窓口女性の感性が紡ぎ出す「あだ名」なのである。

現物債は1年物の金融債のため、購入者が再び銀行に現れるのは1年後。満期になって払い戻されたカネを持ち帰る後ろ姿を追いかけるのだが、満期日以降、いつターゲットが現れるかは分からない。

特車を銀行の前に停めて何日も張り込んで、「これだ!」と思ったターゲットを追いかけるのは気の遠くなるような職務である。

その点、今回はターゲットの正体を既に掴んでいた。張り込みの目的は、「水曜午後の紳士」が本当に東京近郊の開業医であるのかどうかを確認することだった。

現物債を購入する目的は、ほぼ脱税と言って過言ではない。しかし、債券発行銀行は通常の銀行業務も行っているため、サラリーマンがATMで現金を引き出す目的や、融資の申し込みで来店する場合もある。

つまり、脱税者だけが利用する特別の銀行ではなく、多くの善良な市民が使っているのだ。そのため、現物債の購入者を特定できれば脱税の大きな証拠になるが、尾行を誤ると、脱税をしていない人物に強制調査に踏み込む(帰属違いと呼ぶ)ことになるため、違っていたでは済まされない。

それでは、どうやって前もって正体を見破っていたのかを説明しよう。

■宿泊カードから正体を見破る

時計は6ヵ月前に遡る。銀行調査の最中、突然、川中総括から尾行の指示が下りた。

川中総括 「ちょっと、あのスーツの紳士を追いかけろ!」

50歳前後の紳士が2000万円で現物債を購入し、現金を取り出したアタッシェケースに現物債をしまって銀行を出ていった。追跡したのは宗田査察官と神大査察官。ターゲットは近くにあるホテルの1503号室に入った。

ここからは川中総括の出番だ。いかにマルサが協力要請をしても、ホテルが個人情報の詰まった宿泊カードをおいそれと見せることはない。総支配人と交渉し、後日、国税局の正式な照会文書を持参して宿泊カードを閲覧、ようやく紳士の名前が判明した。

ターゲットの確定申告書を調べると、東京郊外(池袋から小一時間ほど)で開業する医師だった。経営する医院は近所の評判も良く盛況のようだ。水曜日の午後から木曜日が休診で、サラリーマンのために土曜日、日曜日も診療していた。

現物債の発行日は毎月28日。ターゲットは28日以降一番早く訪れる水曜日に、2〜3ヵ月に一度のペースで現れていた。駐車場の記録にはジャガーを乗りつけている形跡はなく、正体がバレないよう電車で来店していると判断していた。

張り込みは今日で3回目。特車の望遠カメラで捉えた姿から、医師が「水曜午後の紳士」であることは確信できたものの、前2回の張り込みではターゲットに動きはなく空振りに終わっていた。

張り込みはターゲットの医院兼住宅班と銀行班の2組に分かれ、午前11時から開始した。医院は住宅街にあって周囲に大きな建物がない。見通しが良く、診療時間中は200メートル遠方から、望遠カメラで監視していた。

12時に診療が終わってターゲットが自宅に戻る。ここから、いつ、どのような交通手段で銀行に向かうのかは判明していない。最寄りの駅まで徒歩で10分ほどかかるが、自転車で行くかもしれない。所要時間から逆算して、13時30分頃に出発するものと想定していた。

特車に潜んでモニターで監視していると、12時30分にガレージの電動シャッターがゆっくり上がり始めた。迷っている暇はない。ガレージには妻が使っている赤い軽自動車もあったが、ジャガーを使うのはターゲットのほうだ。

伊崎チーフ「医院の前まで行け! 軽自動車なら戻ってこよう」
上田   「了解しました。どうやら出るのはジャガーのようです」
伊崎チーフ「よし! 間違いない。銀行へ行くなら右折してインターに向かうはずだ。助手席に誰かいるようだが、奥さんか?」

シャッターが上がりきると同時に、滑るようにジャガーが出てきた。車庫前で右折ウインカーを出し、ハンドルを切って国道に出た。タイミングはドンピシャ。特車が自然にジャガーの後ろに張り付いた。進行方向も予測通りだ。

伊崎チーフ「いいぞ。ベタ張りでいいから絶対に見失うな。ターゲットが後ろを警戒している様子はない」
上田   「思ったより出発時間が早いですね。昼食も取っていないようです」
伊崎チーフ「高速が渋滞することも考えて早めに出たのだろう。もっとも、まだ銀行に行くとは決まっちゃいないが……」

インターチェンジ方面に向かうジャガーについて信号を左折し、順調に後を追っていた。市街地を追跡している間は特車の性能に気づくことはなかったのだが、高速に入った瞬間、その「悪さ」に気づいた(それが本稿冒頭のシーンである)。

伊崎チーフ「特車です。追跡できません。このまま池袋方面に向かいますが、そちらにターゲットが到着したら連絡願います」
川中総括 「特車でジャガーを追跡するのは無理だったか……」

■空白の1時間

テールランプは見えなくなったが、とにかく池袋を目指すしかない。銀行には川中総括以下6人の査察官が張り込んでいるため、ターゲットが銀行に現れれば、尾行の失敗は帳消しになる。高速は渋滞もなく順調に流れており、40分ほどで目的地に到着した。

上田「チーフ。もうすぐ池袋に着きますが、このまま銀行に向かいますか?」
伊崎チーフ「それしか選択肢がない。しかし、いつもターゲットが銀行に現れる時間より1時間も早いな」
上田「そうですね。銀行部隊から連絡がないので、まだ到着していないようです。銀行が目的地ではなかったのかもしれませんね」
伊崎チーフ「いや。絶対に現れる。そろそろカネが溜まって隠し場所に困る頃だ」

銀行に到着してしばらく張り込んでいると、14時35分にターゲットひとりが徒歩でやってきた。後日の調査で判明したことだが、現物債の購入日はホテルを予約し、車を置いてランチを取ってから銀行に来ていた。

そして、その日の晩はホテルに泊まって、妻と高級ディナーを楽しんでいた。

医師は強制調査時の供述で「医院が流行って毎日働き詰めだった。カネを貯めるのが唯一の楽しみだった」と語っていた――。

この事案は比較的早く、しかも簡単に帰属が割れたケースだ。中には1年に1回しか現れない者もいる。いつ来るのか分からないターゲットの「あだ名」だけを頼りに特車に潜み、銀行に出入りするすべての人物に目を凝らして、6ヵ月間待ち続けたこともあった。かくも苦しい尾行、張り込みを経て、ようやく証拠に辿り着く――マルサの任務は、これを繰り返すことによってのみ、達成されるのだ。


             
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上田 二郎
1964年生まれ。東京都出身の税理士(上田二郎は筆名)。83年、東京国税局採用。千葉県内および東京都内の税務署勤務を経て、88年に東京国税局査察部に配属。その後、2007年に千葉県内の税務署の統括国税調査官として配属されるまでの合計17年間(途中、2年間の税務署勤務をはさむ)を、マルサの内偵調査部門で勤務した。09年、東京国税局を退職したが、再び税理士として税務の世界につながっている。著書に『マルサの視界 国税局査察部の内偵調査』(法令出版)、『国税局直轄 トクチョウの事件簿』(ダイヤモンド社)、『税理士の坊さんが書いた宗教法人の税務と会計入門』(国書刊行会)がある。



 

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