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トランプの「円安牽制」口撃に、日本はどう応えるべきなのか? 量的緩和縮小だけはあり得ない
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50870
2017.02.02 安達 誠司 エコノミスト 現代ビジネス
■「金利差」ではなく「マネーサプライ」
大統領就任後もトランプ氏の暴走は止まらない。連日、様々な発言で物議を醸している。
そして、ついに、従来からトランプ大統領が主張してきた二国間での個別の貿易交渉に、為替レートに関する条項を組み込む旨の発言を行い、対米貿易黒字国である中国やドイツへの批判を展開しはじめた。
同時に、日本の貿易黒字についても、「不当な円安」がその背景にあるとして、円安に対する牽制発言を行った。このため、マーケットでは、一部で円高懸念も台頭しつつあるようだ。
とはいえ、現在、ドル円レートは1ドル=113円前後で推移しており、それほど急激な円高というわけでもない。
筆者は、現在のドル円レートの水準はむしろ、やや「行き過ぎた円安」ではないかと考えている。
これまでにも当コラムで何度か言及してきたが、筆者は、筆者の考えるドル円レートのフレームワーク(日米のマネタリーベースの動き)をもとに、昨年末時点でのドル円レートの想定値を1ドル=105〜110円程度であると考えていた(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50068)。
だが、実際にはそれ以上の円安で推移している。「誤差」を考えれば、現時点での為替レート水準にはそれほど大きな違和感はないが、もう少し円高になっても違和感はない。
今回の「円安牽制発言」で興味深い点は、トランプ大統領が、ここまでの円安を「日米の資金供給(マネーサプライ)の違い」で説明しようとしていた点である。ちなみに、トランプ発言の文脈から考えると、「マネーサプライ」とは「マネタリーベース」のことを指しているのではないかと推測される。
「為替レートがどのように決まるか」という問いかけを様々な人にした場合、「金利差(ドル円レートの場合は日米金利差)の動き」を為替レートの変動要因と考える人がほとんどだ。これは、「為替アナリスト」といわれる「専門家」もそうだし、彼らの話を聴く機会の多い財務畑のビジネスマンもそうである。
その流れからいえば、トランプ大統領も、日本の長短金利が米国に比べ異常に低いことを円安の理由に挙げてもおかしくない。だが、彼は敢えて「マネーサプライ(マネタリーベース)」に言及した。
これは非常に興味深い。今後、トランプ大統領が、具体的に名指しで日銀の量的緩和政策に口出ししてくるかどうかは非常に注目されるところになるかもしれない。
■テーパリング中のFRBがなぜ
だが、その一方で、最近、アメリカのマネタリーベースに驚くべき変化がある点を指摘したい。それは、今年に入ってから、マネタリーベースの残高が「急増」している点だ。
アメリカのマネタリーベースは2週間に1回発表されている。FRBによると、直近(1月18日)時点のマネタリーベース残高は3兆6755億ドルとなっている(図表1)。これは、昨年9月末の水準に近く、昨年9月以降、急激に減少していたマネタリーベースが、もとの水準に戻ったことを意味する。
もう少し詳しく説明しよう。アメリカのマネタリーベースは、昨年9月半ば以降、大きく減少していた。1月4日時点のマネタリーベース残高は3兆4184億ドルであり、直近ピークの昨年9月14日時点の3兆9050億ドルから約14%の減少であった。
これは、FRBがこれまでの量的緩和政策で増やしてきたマネタリーベースの約5分の1を縮小させたことを意味する(アメリカが量的緩和政策を実施する直前のマネタリーベース残高は1兆ドル弱だったが、これが量的緩和政策によって約4兆ドルまで拡大してからテーパリングに入った)。
このようなアメリカのマネタリーベース残高縮小の動きは、FRBの利上げの動き(というよりも利上げへの意欲)とほぼ一致していたと考えられる。
当然、政策金利(FFレート)を適正値(直近のFRBの見通しでは3%)に戻す動きと同時並行で、ゼロ金利の下で積み上げられてきたマネタリーベース(正確にいえば「超過準備」)を減らしていくことは、FRBの「出口政策」としては整合的である。その意味では、昨年末までのマネタリーベースの急激な減少は、FRBによる利上げ(金融政策の正常化)に対する強い意志を示していたといえよう。
したがって、1月に入ってからのマネタリーベース急増の動きは「謎」である。
確かに、金融政策スタンスとは全く無関係な日々の資金需給への対応の可能性もある。ただ、量的緩和の停止(いわゆる「テーパリング」)以降、アメリカのマネタリーベースがここまで急激な反発を示した局面は、単なる資金需給の受動的な調整では説明できない。
マネタリーベースの急反発は、それまでの大幅な減少によって株価の急落などの市場の「リスクオフ」を誘発した局面で起こった。そのため、最近のマネタリーベース急拡大には何らかの「意味」があるのではないかと考えても不思議なことではない。
だが、今年に入ってから、1月18日まで、少なくとも米国市場が従来のようなリスクオフモードに入ることはなかった(むしろ、FRBの高官は年3回ペースの利上げに対して前向きな発言をしていた)。従って、今回のマネタリーベースの急増は過去のケースとは異なる。
■ドル高修正か、政治的プレッシャーか
そこで、今回のFRBによるマネタリーベース拡大の理由として、以下の2つの可能性を考えてみたい。
第一の理由は、ドル高の進行、及びその背後にある金利上昇への対応である。
ドルの名目実効為替レートは、昨年の8月末に底値をつけ、それ以降、上昇過程にあった(大統領選以降に急騰)(図表2)。
また、アメリカの長期金利も、マネタリーベース残高が急減し始めた9月半ばから急上昇していた(図表3)。
ドル高の進行はアメリカの製造業の景況観を悪化させうる。また、金利上昇は各種ローン金利の上昇への波及によって、個人消費や住宅投資の減速をもたらす可能性がある。この段階で、金利上昇とドル高が長期化するようであれば、今後のFRBの利上げ路線が頓挫することにもなりかねない。
そして、実際に、昨年終盤の時点で、これらの動きが止まる兆候が見えなかったので、1月以降、FRBはマネタリーベースの縮小を一時的にストップさせ、一時的に供給量を増やすことによって金利と為替レートを沈静化させようとした可能性がある。
第二の理由は、ややうがった見方だが、トランプ政権誕生による政治的プレッシャーである。
いまのところ、トランプ大統領の「暴挙」の矛先はFRBには向いていない。ただ、あまりに急激なマネタリーベースの縮小が、トランプ政権サイドにとって今後の利上げのための露骨な地ならしと受け止められれば、来年のイエレン議長の後任人事も含め、FRBに対する政治的圧力が過度に高まる懸念も否定できない。
これを回避するために、マネタリーベース縮小のペースを緩やかなものにしようとする試みだったのかもしれない。現に、大統領選中はFRBに対し、批判的な見解を述べていたトランプ氏だが、いまのところ、FRBへの批判を強めていない。
いずれにせよ、アメリカのマネタリーベースの急拡大は、一時的には、これまでのドル高を修正する効果を持ち得るのではなかろうか。
■安倍政権にとっては死活問題
ところで、今回の「円安牽制発言」によって、今後、トランプ政権が財政拡大政策を採った場合、財政拡大によるドル高進行への対応を日本政府が求められる懸念がある。
そうなった場合、日本国内のメディアは日銀による量的緩和の縮小(テーパリング)を強く求めるような論調を強めることが予想される。
だが、このタイミングでの量的緩和縮小は、デフレ克服を経済政策の目標とする安倍政権にとっては死活問題になりかねない(もっとも「量的緩和に何の効果もない」という立場をとれば、逆にテーパリングしても円安ドル高是正にもならないはずなので、このタイミングでテーパリングを主張する意味もないはずである)。
そのため、もし、トランプ政権のドル高円安修正の要請に応えるのであれば、日本も財政支出を拡大するという選択肢をとらざるを得なくなるだろう。
また、トランプ大統領の発言は、80年代前半のレーガン政権における日米貿易摩擦の再現のようにも映るが、もし、トランプ大統領がアメリカの対日貿易赤字を80年代前半の構図でとらえているとするならば、日本は米国企業にとっての「市場」となるため、内需拡大の要請も同時になされる可能性が出てくる。
そう考えると、このタイミングで再デフレによって国内需要をますます収縮させかねない「日銀のテーパリング」が選択されるとは思えない。その意味では、トランプ政権の誕生は、経済政策における財政政策の位置づけを変えるきっかけになるかもしれない(これはドイツも同じ構図であろう)。
トランプは経済で“大化け”する可能性を秘めている。気鋭の人気エコノミストが、世界と日本の動向を鋭く予測する!
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