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トランプ保護主義の矛盾に対応しなければ日本は孤立する
http://diamond.jp/articles/-/116034
2017年1月31日 真壁昭夫 [信州大学教授] ダイヤモンド・オンライン
■“米国第一主義”を
追求する強い意図
1月20日のドナルド・トランプ氏の大統領正式に就任を受けて、ホワイトハウスのホームページが刷新された。そこには、トランプ政権が政策課題(Issues)に掲げる6つのテーマが掲載された。エネルギー生産、外交政策、雇用創出と成長促進、軍事力強化、法執行、通商交渉の分野だ。
各テーマに共通するのが、“米国第一主義”を追求する強い意図だ。米国のより高い経済成長を実現し、偉大な国家基盤を形成するため、トランプ氏のリーダーシップによって、米国に好ましい“ディール”(交渉、取引)を力強く進めることが明記されている。
特に、経済の側面に焦点を当てると、米国は自国の製造業を復活させ、米国にとって好ましい通商政策を通して輸出を増やそうとしている。この点で、“米国第一主義”を掲げるトランプ政権の政策の軸は“保護主義政策”と考えてよいだろう。
政策課題の各所に、経営者としてのトランプ氏の経験が米国に富をもたらすとのニュアンスが含められている。そこには、米国の経済を守るために、中国やメキシコなどに圧力をかければ、有利な条件が引き出せるとの考え方があるようだ。
実際、トランプ氏は相手に強く迫り、有利な条件を引き出すのが得意と言われている。しかし、トランプ氏が考える通りに進むか否か、に関しては疑問符が付く。世界経済の運営は企業の経営とは異なる。多様な利害、比較優位性の原理があることを忘れてはならない。
同氏が唱える保護主義政策には明らかな矛盾がある。自由貿易が進んだ結果、米国は中国製のモノを、国内で生産するよりも低いコストで手に入れることが可能になった。保護主義政策はこれに逆行する。
また、世界最大の経済大国である米国が自国優先主義に走った場合、当然のことながら、相手国からは報復措置など相応のネガティブなの反応が返ってくるはずだ。貿易戦争が本格化すると、世界経済は縮小均衡に向かうことになる。それは米国にとっても、世界経済にとっても大きな損失につながる。
今後、トランプ新大統領が世界経済の現実を理解し、現実的な政策への修正を進められるかが重要になる。それまでの間、わが国はアジアを中心に自国の理解者を獲得し、多国間の経済連携の重要性などを世界に発信していくべきだ。
■トランプ保護主義の
大きな間違い
トランプ新大統領は保護主義政策を進めることで、グローバル化が進行する中で米国から海外に流出した雇用、製造業の生産拠点を国内に強制的に連れ戻そうとしている。それによって、米国経済の雇用が増え、成長率も高まると考えている。政策課題の中で、米国政府は今後10年間で2500万人の雇用を生み出すと、野心的な数値目標を掲げている。
トランプ新大統領は、対日、対中などの貿易赤字を、「企業の赤字」のようにとらえているようだ。企業は、不採算部門の閉鎖などのリストラを行い、赤字の原因を絶つことができる。それは、その事業が企業経営者の管理下にあるからこそ可能だ。
しかし、世界経済の運営は企業経営とは異なる。自動車を生産する場合、労働コストの高い米国よりも、メキシコで生産した方がコストは抑えられる。これが比較優位性の概念だ。低コストで、効率的にモノを作る国から産品を輸入することは、自国の消費者にとって十分なメリットがある。中国から輸入しているアップルのスマートフォンはその典型例だ。
米国内外から最も高性能、かつ、安価な部品を集め、それを相対的に労働コストの低い中国の企業(ホンハイ傘下のフォックスコン)で組み立てる。そして、完成品を米国、その他の国に輸出する。そうして、米国の消費者は国内で生産するよりも低いコストで最新のスマートフォンを手にすることができる。同時に、新興国にも雇用機会の創出などのプラス効果がある。これがグローバル経済のもたらした恩恵だ。
これまでの米国の強さは、世界経済のリーダーとして自由貿易体制を支え、促進することで、企業のビジネスモデルを革新してきたことにある。トランプ政権が保護主義政策を重視していることは、自国の強みそのものを否定し、捨てることになりかねない。
中長期的に考えると、そのマイナスの側面は大きい。トランプ新大統領は、本当にそうしたことを十分に理解しているのだろうか。闇雲に保護主義政策を重視するのは、米国にとっても大きな間違いだ。
■世界経済に与える
重大な懸念
トランプ政権の経済政策を突き詰めて考えると、保護主義政策を進めることで生産性の落ちた鉄鋼業などの在来産業=オールドエコノミーを国内で蘇生させようとしている。それによって、米国内の雇用を増やそうとしている。
錆びついた工業地帯=ラストベルトと呼ばれるように、米国の重厚長大産業はグローバル経済が進む中で競争力を失った。一方、相対的にコスト競争力のある中国やインドのメーカーが台頭した。この流れに逆らうことは、世界的な貿易競争などを引き起こしかねない。
トランプ政権は、製造業を経済のバックボーンに据えている。雇用を増やすことに関して、その発想自体が全く誤っているというつもりはない。しかし、米国で最も強い競争力を持つIT関連などの先端分野ではなく、オールドエコノミー復活に注力しようとしていることの経済合理性は低いだろう。
労働力を有効に活用するためには、IT業界などの技術革新を支えたり、教育に力を入れてiPhoneに次ぐヒット商品を生み出すことを目指すべきだろう。それが、中長期的な生産性の改善につながり、より高い経済成長を支える。
伝統的な産業の再生のために、トランプ政権はメキシコをやり玉に挙げ、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を進める方針だ。そして、米国の要求が受け入れられない場合は脱退するとしている。
これが現実になると、メキシコやカナダの対米輸出は減少し、米国の保護主義政策が他国の経済にマイナスの影響を与えるだろう。こうした展開を危惧し、メキシコ政府は米国の保護主義政策に報復措置を打ち出すと表明している。メキシコ以外にも、米国からの輸入品への関税引き上げなど、対抗措置を採る国は増えるだろう。
そうした動きが現実のものになると、米国は今までよりも高いコストを負担して貿易を行わざるを得ない。米国の保護主義政策は米国内外の経済活動を低迷させるだろう。この結果、世界経済は縮小均衡に向かうと考えられる。保護主義政策が世界経済にもたらす懸念は大きい。
■わが国の政府が
取るべきスタンス
「米国の民主主義はときに間違いはするが、その間違いを修正する能力がある」と言われてきた。その言葉を信じるならば、トランプ政権の保護主義政策という誤った政策が長期間続くとは考えにくい。
足元、米国の景気は緩やかな回復を維持している。その中で、インフラ投資が進んだり、政府の圧力から企業の雇用が増えるとの見方が高まると、一時的に景気の過熱感は高まるだろう。だが、それは冷静に考えた方がよい。
今後の展開を考えると、どこかの時点で米国の国民や産業界から批判を浴び、トランプ氏は政策変換を余儀なくされる可能性が高いと見る。米国の民主主義の修正能力がどのタイミングで発揮されるか、しばらくは状況を見守る必要がある。
わが国は、米国の民主主義がワークし始めるまでの時間をどう使うかが重要だ。その意味では、わが国は正しいことを正しいと主張していくべきだ。
例えば、TPPが目指した多国間の経済連携協定は、貿易や投資の促進に不可欠だ。それを主張するためには、オバマ政権までの米国追従姿勢を微調整する必要がある。その上で、アジアを中心に国際社会の中で親日国を獲得し、多数派工作を進めるべきだ。
トランプ新大統領の主張には、“経営者としてのプライド”が色濃く反映されている。その分、仮に同氏の主張が誤っていても、すぐに気づくとは限らない。わが国は、「グローバル化が必要だ」という多数派の意見を形成して、米国の動向に対応していかなければならない。
それは口で言うほど容易ではないことは確かだ。
しかし、こうしたスタンスが形成できないと、わが国は保護主義政策をめぐる世界経済の分裂の中で孤立する恐れがある。アジアを中心に米国に代わるリーダーの役割を担い、多数派工作を進める覚悟がないと、短期的にわが国は相当に厳しい局面に追い込まれることもあるだろう。
(信州大学教授 真壁昭夫)
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