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東芝の失敗から学ぶべきことは……?
東芝の窮地は他人事ではない。 〜経営の失敗学〜 (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20170130-00010001-scafe-bus_all
シェアーズカフェ・オンライン 1/30(月) 7:32配信
東芝の経営が芳しくありません。分社化や事業売却などによって経営戦略を見直し、事業再建を図っていますが、現時点で確かなゴールイメージは伝わってきていません。日本を代表する老舗大企業がなぜ、このような事態に陥ったのか。
これは決しては他人事ではなく、民間企業であるかぎり、その憂き目に合う恐れは常に付きまといます。こうした悲劇を避けるヒントとして、戦略の失敗パターンについて分析したのが「経営の失敗学(著者・菅野寛・日本経済新聞出版社・2014)」です。
BCG(ボストン・コンサルティング・グループ)にて十数年間経営コンサルティングに関わり、現在は一橋大学で企業戦略研究に携わる筆者が、ビジネスの現場で間近に観察してきた経験を元に、企業戦略における戦略の失敗を8つのパターンにまとめたものです。その中で特に興味深い3点についてご紹介します。
■考えるアプローチ、頭の使い方がずれている
『当時のNTTドコモの経営陣は、もっと大きな視点、もっと長期の視点に立つことによって、違う論点を設定しました。経営陣は、10年後、20年後に何が起こるかを考えたのです。このまま行けば、技術はどんどん進化して、その結果、携帯電話は軽く小さくなるし、通話品質はどんどん良くなるし、価格はどんどん下がることは間違いないだろう。(中略)その結果、遅かれ早かれ、すべての日本人が携帯電話を持つ「一人1台」の時代が来る。そうなったときにNTTドコモはどんな会社になっているだろうと経営陣は考えて、ゾッとしたのです。(P109)』
1990年代、国内で急速に携帯電話が広がり始めたときのNTTドコモの例です。通話サービスの価格競争はすでに有線の電話サービスで始まっており、泥沼状態でした。そこでNTTドコモが論点として設定したのが、今の需要についていくのではなく、今の需要が枯れたあと、つまり10年後、20年後にどうするか、そう考えて戦略を立案したのです。
プロダクトを販売するビジネスの場合、食料品など消え物を除いて、一定程度広がったあと、必ず飽和点を迎え、価格競争へと突き進みます。それは、需要が高ければ高いほど、時代のニーズにマッチしていればいるほど加速度は強く、予想以上に早くその状態を迎えます。これは人手によるサービス業(飲食店や介護サービス、塾経営など)やネットビジネスも例外ではありません。想定できる範囲を超えた、最終的な形が見えない中で、ある種博打的に判断する必要が求められます。
■顧客が求めていない価値を提供してしまう
『私はあるカメラ・メーカーの事業本部長と話をする機会がありました。当時、市場が伸びていた「デジカメ」(DSC、デジタル・スチール・カメラ)に対して、カメラ付き携帯電話がこれから脅威になるのではないかと、私は指摘しました。すると、その事業部長は「それは絶対ありませんよ」と言い切りました。「あんなものはおもちゃです。性能は悪いし、本物のカメラとは雲泥の差です」と、まったく取り合わなかったのです。(P138)』
現在に照らし合わせるなら、「AI(人工知能)」がこれに当てはまるでしょう。ここ数年で急速に広がり始め、金融系サービスを始めとし、様々な分野に進出し始め、一体どこまで浸透するのか、検討もつきません。
人工知能の恐るべき点は、従来なら予めDB(データベース)に組み込まれたデータでしか回答できなかったものが、いわゆるディープラーニングによって、開発者ですら知らない答えを返すようになったことでしょう。この状況を従来のシステム感覚で見ているとデジカメと同様の事態になりかねません。
無論、最新技術と呼ばれるものの中には、バズワード的なものや技術の不確実性によって、結果浸透せず、新たな市場形成や業界標準にならないものがあるのも確かです。
そうした不確定要素を含みながら、決定的なタイミングを見定める基準や勘所なるものは当然ありません。しかしながら、一方で技術の登場とその変遷を先入観や、自社のビジネスへの影響から目をそらしたい気持ちなどから、当初より否定的に構えることは危険極まりないとを筆者は強く指摘しています。
■リスクや不確実性に対処しない
『ところが、現代はそのような形で予定調和や収束解を予測することが非常に厳しい世の中になっています。製品開発スピードが上がり、ネット時代に入り、情報の伝わるスピードも格段に早くなりました。以前であれば5年や10年は変わらなかったものが、1年や2年で、下手をすれば毎月のように変わっていくのです。(P167)』
予定調和を信じて、1つのシナリオだけで突き進む危険性を指摘しています。勝ちパターンのようなものが存在しない今、戦略の進め方は、複数プランを用意した「トライアンドエラー」方式が望ましいと言えます。
一度成功したあとも注意が必要です。人間の性質として、一度成功したもの(失敗したものも同様)にどうしても行動や思考にバイアスがかかります。自分が考えたことや、取り組んだことに対して、一種の愛着と、サンクコストへの執着が生まれやすいためです。
東芝のような大企業の場合、こうしたバイアスに加え、「前例」が頭をもたげてくることが多くあります。前任者が決めたことを覆すのか、あの人が決めたことを否定するのか、というあれです。組織内でうまく泳いでいくためには不可欠な発想であるかもしれませんが、事業戦略という観点からは、百害あって一利なし。既に決まっている事項だからこそ、むしろメスを入れ、ドラスティックに判断することが何より重要なのです。
酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト
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