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一流の投資家である、ぐっちーさんから見れば、トランプ政権はあまりに危険すぎる。では、何がリスクなのか(写真:ロイター/アフロ)
トランプ政権の「化けの皮」はすぐに剥がれる 「バブルを喜ぶ」のではなく「リスク」に備えよ
http://toyokeizai.net/articles/-/155851
2017年01月28日 ぐっちーさん :投資銀行家 東洋経済
アメリカでトランプ大統領がいよいよ誕生しました。
そのこと自体はまあわかっていましたし、彼が当選してからもこれからが大変だな、と覚悟はしていたわけですが、実際に就任演説を聞いてみたら、これは大変というより、むしろ「悲惨」なことになるな、という確信を持ちました。
■「空っぽの就任演説」+「わかっていない日本のメディア」
まず、その大統領就任演説ですが内容が何もない。こんな内容がない大統領演説は戦後初めてであります。まさにエンプティー(空っぽ)。一体何をやりたいのか、理念はなんなのかを一言も語ることなく、ひたすら 「アメリカ、ファースト!」を連呼しているだけではありませんか。
この大統領就任演説というのは、これまでは選挙戦で死力を尽くして戦ってきて、それこそアメリカ中が分断され、失礼な言い方や容赦ない攻撃もお互いにしあったが、ここから先は一つのアメリカということで、すべての国民が一つになる、という大事なメッセージが出てくるものです。いうなればすべてを「ノーサイド」にする大事な儀式なのですが、それに対する言及は一切なし。まだ選挙中のつもりなのか、格調もなければ内容もない、びっくりするような代物でした。
また、日本のメディアはこれを一斉に「アメリカ第一主義への転換」と大見出しで報道しました。一体何を考えているんでしょうかね。長年アメリカで仕事をしている私から言わせれば、「じゃあ、聞きますけどアメリカが建国以来、アメリカファーストじゃなかった時ってあるんですかね?」 となります。
「答えてくれよ、いつアメリカ第一主義じゃなかった時があったのか?」と。世界の警察官を名乗っていたのだって、中近東に大きく介入していたのだって、アメリカという国にメリットがあればこそそうしていたのであって(日米安保条約だってそうだ)、別に外国のためにボランティアをしていたわけではない。アメリカのためのベストの選択がそうだった、というだけに過ぎません。
つまり、実際にはその時々で「ファースト」にするテーマが変わっているだけであって、アメリカファーストじゃなかった時期なんて一切なかったわけです。 しかしメディアはまさに鵜呑みの鵜のようなもんで、一斉にアメリカ第一主義への政策転換だとか書くわけですよね。
TPP(環太平洋経済連携協定)にしても、誰ですか。ついこの前までアメリカの言うなりになってはいけないとか言っていた人たちは!!日本はアメリカから「さっさと合意しろ」と散々プレシャーをかけられていたことをもう忘れたんですか??あれほどアメリカファーストだった政策はないわけで、トランプ大統領はそれをアメリカの製造業という焦点に絞って、その点について方法論を変える、と言っているだけの話であって、製造業以外のインダストリーの人にとっては「全くアメリカファースト」じゃない政策だと言えるでしょう。
ただし、二国間交渉に持ち込めば、アメリカの方がはるかにパワーがあるので、TPPよりもさらに過激な内容で交渉が成立できるかもしれない、と考えているだけに過ぎません。どうしてTPPからの離脱が米国第一主義への転換となるのか、よく頭を冷やして考えてほしいもんです。
■「選挙戦での主張」をいまだに信じ続けるメディア
さらにトランプ大統領が言っている、「白人労働者など一般の人々へホワイトハウスからの権力の移行だ」、なんてことをまともに捉えているメディアの神経も疑います。これは確かに選挙戦から言っていた主張で、「Drain the Swamp」(沼の栓を抜け!)とトランプ大統領が声高に叫んでいた政策(と呼べるのかどうかさえ疑問ですが…)の一つです。既存の権力者(エスタブリッシュメント)からワーキングクラス(ブルーカラー)に権力を取り戻す、なんて言っていたわけですから、さながら民主党のサンダース議員の専売特許のようなキャッチフレーズです。
しかし、実際に起きたことはなんですか?
国務長官はレックス・ティラーソン、現役のエクソンモービルのCEO、財務長官はゴールドマン・サックスにもいたハゲタカ投資家としてボロ儲けをしたスティーブン・ムニューチン、さらには教育長官にはベッツィー・デボスを起用。彼女はアムウェイの創業者の息子の嫁ですよ。既存の権力者と成功者ばかりじゃないですか! これほど言行不一致なことはないわけであって、もうこれだけでトランプ大統領は嘘つきだ、ということになるはずですが、そういう声はメディアからは、ほとんど聞こえませんわね。この政権の一体どこが貧乏な白人労働者に権力を取り戻す、ということになるんでしょうか。
一方、今、反トランプでデモをしているような人たちも似たり寄ったりです。だいたいトランプ大統領が良く使う「the forgotten man and woman」というのは一体誰のことを言っているんでしょうか? メディアが好んで取り上げるようなラストベルトで職がなくて、うろうろしている学歴のない白人労働者を指す、というのであれば、人口で見ればゲイだってLGBTだって同じような人数の少数派であって、まさにその「the forgotten man and woman」ではないですか。
なぜ、LGBTを救済することは「善」で喝采を浴びせ、同じ少数派の白人労働者を救済するのはいけないのか?そこに論理的一貫性を見出すことは不可能です。要するに、どっちもどっちでしょう。
そもそも多くの日本のメディアはそういう白人層(ヒルビリーだのレッドネックだの、彼らを蔑む単語には事欠かない)が存在することも知りませんし、彼らがアメリカにおいて社会的にどんな存在なのか知りもしない。
書店に行けば、彼らヒルビリーのレシピなんて本がベストセラーになっていて、それは道路で轢かれたリスをどう調理するか、とかタヌキ料理のレシピ、というような内容の本で、同様のテーマのテレビ番組がものすごい視聴率を挙げたりしている。こういう番組が高視聴率を取るということは、アメリカ全体で見ればそういう人々を蔑んで笑いものにして喜んでいる人がたくさんいる、ということにほかならず、彼らはまさにトランプ大統領がかかわっていたWWEというプロレス団体のファンとそっくり重なるような人々であって、別に忘れられた人々でもなんでもない。
■アメリカの権力構造の本質は何一つ変わっていない
トランプ大統領自身も含めて、アメリカ人全体でそういう人々を蔑んで笑いものにしている構造そのものには、なんら変わりはないのです。その怒りが今回の選挙結果だというのであれば、じゃあ、トランプ大統領自身、ひいてはあなた自身はどうなんだ、という身もふたもない結論に行き着くだけでしょう(トランプ大統領自身は白人の大金持ちのただの成り上がりでしょうが!本当に「彼らのために」、というのであれば大統領に当選したら、その資産をすべて寄付するくらいのことはするべきでしょう!)。一方、ゲイを支持するのはよくて、ヒルビリーを支持しちゃいかん、というのも全く納得いきませんね。
結局、トランプという人は怒りの矛先を既存のエスタブリッシュメントに向けたふりをしただけで、ホワイトハウスの人事のように本質は何一つ変わっていない。それに人々が気づいた時にはすでに遅く、迷走した分だけ物事がこじれ、状況は前より酷いことになり、そのために国民が支払うコストは膨大になるだろうことには疑問の余地はありません。実は同じような危惧を小池百合子東京都知事にも持っているのですが、その話はまた別の機会に…。
そしてもう一つ。当欄を順番で担当されている吉崎さん(双日総合研究所副所長)とはよく話すのですが、トランプ政権は要するにあのWWEのようなプロレス政権だ、という話です。プロレスと言うのは「お前殺すぞコノヤロー!!」と過激にショーアップして技もとんでもない技をかけてきますが、あんなもの、真剣にやったら相手は本当に死んでしまいます。
しかし、死なないわけですよ。つまり手を抜いているわけで、要するに相手が受け止められる範囲で技をかけているということです。つまりトランプ大統領の一連の過激な発言もこれはあくまで「プロレス」であるという解釈をしなければならないのではないか、という話です。まさにその通りでしょう。
■「具体策なし、結果責任なし政権」の末路
そしてもう一つ気が付いたことがあります。
すでに大統領令を何発も繰り出し、TPPからの離脱も、メキシコ国境の壁の建設をメキシコのコストで行う、などの案にサインしていますが、具体的にどうやるか、という点については、何ら明らかにされていないという点です。
これから議会が調整に入っていくわけですが、各論は各担当大臣に任せてある、という言葉がこの大統領からはしょっちゅう出てきます。例えば、アメリカのメディアは早速かみついていましたが、自分は水攻めという拷問に効果があると確信しているが、実際にどうするかはポンペオ(CIA長官)などにすべてを任せると言っています。つまり、自分なりに方向性は打ち出すが、あとは現場が決めることだ、と結局は他人任せである、と明言していることになります。
この景色もどこかで見たことがあります。
そう、あの「アプレンティス」(「見習い」の意味)ですね。トランプ氏がホストを務め、「しろーと」を集めてカネを渡してビジネスをやらせ、かなりの無理難題を押し付けておいて、ダメだとなると “You are fired!” といって脱落していくという有名なテレビ番組です。要するに、自分の閣僚に無理難題を押し付けておいて思い通りの結果がでないと、最終的には ”You are fired!” と叫ぶことにひょっとしたらなるのではないかと思い始めました。これはあり得るな〜…。
トランプ大統領はWWEとアプレンティスの手法を本気でホワイトハウスに導入しようとしているのではないか、と密かに恐れているわけです。そういう意味では、こういう人の一言一言で振り回させる人々はたまったもんじゃありませんね。そこに理念などはなく、ただ、無理難題を押し付けては妥協点を探り、ダメだったときは You are fired! ということになると、次は一体なにが起きるのかすら、予測できません。
私のような「投資する」という立場から指摘するなら、この種の「不透明性」を市場は最も嫌います。今は「トランプバブル」とかはしゃいでいますが、早晩化けの皮がはがれることになるでしょう。何するかわかんない人が大統領、というのはアメリカ経済にとっても非常に大きなリスクでしょうね。
サポートに付いている共和党の経験のある人々が何とかするから大丈夫、なんて言ってる人がいますが、それはあまりにも楽観的なような気がします。投資家から見ると、トランプ政権は自動ブレーキや、ましてABSなどの近代的な安全装置がまったくついていない馬力だけはばかでかい、1980年代のアメ車のようなもので、ガソリンをがばがば食って、ぶつかったら大破する。という覚悟だけは必要でしょう。
そして、ここまで読んで頂ければ、トランプ大統領のことだけに限りませんが、メディアで垂れ流される情報の拙さ、酷さを読者の皆様には改めて認識して頂くことができるのではないでしょうか。所詮、アメリカで何もやったこともなく、そもそもアメリカのことを何も知らない人々がアメリカのことをしたり顔で報道しているようなことを信じてはいけません。大体彼らは道路で轢かれたリスの肉で作ったハンバーグなんて食べたことがあるんでしょうかね!?
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