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トランプの経済政策は本当に「保護主義」なのだろうか? その行方を読むためのポイント
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50815
2017.01.26 安達 誠司 エコノミスト 現代ビジネス
■トランプの政策は「保護貿易主義」か?
現在、トランプ新政権の経済政策の話題は通商・貿易政策に集中している感がある。メディアでは、この新政権の通商・貿易政策は「保護貿易主義」ではないかという批判にさらされている。
だが、大統領選時にトランプ氏が掲げた公約集や共和党下院の税制改革についての指針(Blue Paper)を見る限り、現在問題となっている「国境税」を含む通商・貿易政策が、関税引き上げなどの貿易障壁によって国内の幼稚産業を保護しようとするような典型的な「保護貿易政策」なのかは疑問である。
むしろ、アメリカが法人税率引き下げの国際競争に参入し、少なくとも、これまで他国と比較して高すぎた法人税制が歪めてきた製造業の産業立地を「正常化」する(法人税制要因をニュートラルにする)目的の方が強いような印象を受ける。
もう少し説明を加えると、法人税引き下げ競争は、企業にとっては、どの地域(国)に生産拠点を構えるのがコスト面で有利か、という産業立地の問題に帰着できる。
「物流網の整備がきちんとなされれば、市場に最も近いところに生産拠点を設けることが企業にとっての最適立地戦略である」というのが「空間経済学」の成果だと筆者は解釈している(それゆえ、トランプ新政権の掲げるインフラ投資も通商・貿易政策とリンクしているのではないかと考える)。
だが、これまでアメリカは法人税率の引き下げに消極的で、世界有数の「高法人税率国」であった。そのため、法人税は割高だった分、本来、アメリカに立地していたはずの製造業の生産拠点が他国に移転してしまっており、ある種の「歪み」が生じているというのがトランプ新政権の貿易・通商政策の立場なのではないかということである。
そう考えると、トランプ新政権は、何もすべての製造業の拠点をアメリカに持ってこようとしているのではなく、法人税要因がニュートラルである場合の状態に誘導しようとしているのではないかと考える。
そのため、業種によってアメリカに生産拠点を移す度合いは大きく異なっており、これは、これから発表される法人減税政策によって各業種でおのずと着地点が決まってくるのではないかと筆者は考えている。
その意味では「比較優位」の原則は生きているのではなかろうか。
■アメリカ経済は「完全雇用」に近いのか?
ところで、トランプ大統領は任期中に雇用を2500万人増やすと発言している。だが、2016年12月現在で、米国で製造業に従事している雇用者数は1230万人弱であり、雇用者全体に占めるシェアは約8.5%に過ぎない。
ともかく、もし、雇用増をすべて通商・貿易政策だけで実現しようとすれば、製造業従事者は現時点から3倍程度に増加する計算になる。しかし、これが不可能なのは自明であり、むしろ、国内のサービス業等の非製造業の雇用拡大をいかに実現するかの方が、より重要な意味を持つ。
そして、これは、マクロ経済政策の役割である。すなわち、トランプ政権の雇用拡大策が成功するか否かはマクロ経済政策の設計如何にかかっているのではなかろうか。
そこで、判断が分かれるのが、アメリカの「雇用環境」の評価である。
現在(2016年12月時点)、米国の完全失業率は4.7%であり、過去と比較してもかなり低水準で推移していることは事実である。
この数字だけをみれば、米国は「完全雇用に近い」といってもおかしくはない。そして、FRBは基本的に、この見方に基づいて政策金利を「正常水準(現時点ではFFレート3%)」に向けて漸次引き上げていく方針を採っていると思われる。
だが、その一方で、リーマンショック後、労働参加率は急激に低下し、現在でも低水準で推移している。
現時点(2016年12月)の労働参加率は62.7%である(図表1)。現時点でどの程度の労働参加率が「正常」なのかを判断するのは難しい。そこで、1つの判断材料として、過去の平均的な水準を見てみることにしよう。
まず、1980年代終盤からリーマンショック直前までの平均的水準をみると66.5%、2003年半ばからリーマンショック直前にかけての平均的水準は66%である。
この「平均的水準」を下回る労働参加率の下落分を、リーマンショックによる失職で雇用意欲を喪失した人であると仮定すると、前者の場合には、約970万人、後者の場合には、約840万人の雇用意欲喪失者が存在していると試算される。
この労働力人口をもとに2016年12月時点の完全失業率を試算すると、それぞれ、10.1%、9.4%となる。これらの完全失業率の試算値の水準は過去の完全失業率の水準と比較した場合、まだまだ高いレベルである。
これらの数字はあくまでも「仮定値」に過ぎないが、米国経済をリーマンショック直前までの平均的な水準に回復させるためには、まだまだ雇用環境を改善する余地があることを意味しており、それがトランプ政権の政策の最優先課題になることを意味している。
このことを実質GDPの側面から見ても同様のインプリケーションが得られるのではないかと思われる。
非常に興味深いことに、戦後(1947年以降)のアメリカの実質GDPは、リーマンショック直前の2008年4-6月期までは、タイムトレンドだけでその動きの99.8%を説明することが可能であった。これは、リーマンショック直前までアメリカの実質GDPがほぼ一定のトレンド(約2.8%)で成長していたことを意味する。
だが、リーマンショック後、60年以上続いてきたアメリカ経済の成長トレンドは失われてしまった。確かに他の先進国と比較した場合、アメリカは高い成長率を維持してきた。だが、その平均は2.2%であり、リーマンショック以前の2.8%からは0.6%ポイント下方に屈折している(図表2)。
このため、過去の成長トレンドを延長させた場合の実質GDPの想定値と実質GDPの実現値との乖離率が大きく拡大している(筆者の試算では、2.8%の成長トレンドで推移した場合に比べ、21.5%下方に乖離している)。
やや乱暴だが、この両者の乖離率をアメリカの「GDPギャップ」とみなし、完全失業率の動きと比較すると、2011年から始まる完全失業率の低下が整合的ではないことがわかる(図表3)。
むしろ、この「GDPギャップ」との整合性だけで考えると、現在のアメリカの完全失業率を10%程度とみなした方が、筆者としてはより納得感がある。
■カギを握るのはFRBの出方
もちろん、アメリカの労働参加率低下の要因については様々な見方があり、筆者がここで行った簡単な試算は「机上の空論」である可能性も強い。
だが、トランプ政権は、FRBとは異なり、多分、筆者のやり方に近い計算から、アメリカの雇用環境はまだまだ完全雇用には程遠く、改善の余地が大きいと考えているのではないだろうか。
問題は、トランプ政権とFRBの雇用環境に関する見方が大きく異なっており、マクロ経済政策にコンフリクトが生じる可能性が高い点である。これを解決するためには、どちらかが妥協せざるを得ない。
もし、FRBがトランプ大統領の圧力に屈するのであれば、利上げ路線は当面放棄し、政策金利を半ば固定化する可能性が出てくる。
これは、場合によっては、プリンストン大学教授のマイケル・ウッドフォード氏が「FTPL(物価の財政理論)」が適用可能な局面(受動的な金融政策と積極的な財政拡大政策の組み合わせ)として指摘した1942年から1951年までの「Bond Price Peg制」のような状況となる可能性がある。
一方、共和党議会(特に下院)が考えるような、ある程度の財政規律を保ちつつ財政拡大をはかる場合(例えば、インフラ整備のための投資は民間資金を活用するなど)、「FTPL」的な世界ではなく、金融政策が再び緩和的なスタンスに戻る可能性もある。
この場合、FRBは高めのインフレ目標(現行の2%から例えば4%)、もしくは物価水準目標(実質GDP同様、リーマンショック以降の低インフレによって、物価水準は過去のトレンドから大きく下に乖離しており、一時的なインフレ率の上振れは許容できるだろう)に転換するかもしれない。
ただし、政策金利の引き下げには限界があり、再びQE(量的緩和)政策を採るのか、それとも、マイナス金利政策を採るのかで議論が紛糾する可能性もある。
逆にFRBが「政治からの独立性」を盾にあくまでも利上げによる「金利正常化路線」にこだわるとすれば(積極的な金融引き締め政策と積極的な財政拡大政策の組み合わせ)、急激な金利上昇とドル高によって、トランプ政権の財政拡大政策は民間需要をクラウドアウトしてしまうリスクが高まるのではなかろうか。
そしてそれはトランポノミクスの失敗を意味する。だが、トランポノミクスの失敗は中間選挙での共和党の敗北に直結しかねないため、共和党議会とトランプ政権による「FRB改革」の動きを加速しかねない。
このように、トランポノミクスの行方を占う上でも、現状のアメリカの雇用環境をどのように考えるかは重要な政策課題であるといえる。
トランプは経済で“大化け”する可能性を秘めている。気鋭の人気エコノミストが、世界と日本の動向を鋭く予測する!
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