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"ブラック学校"温存させる教育界の無責任地獄
休職者比率は高止まりで、その半数がメンタル不全という現実
河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学
2017年1月24日(火)
河合 薫
今回は「教師の長時間労働を止めるのは、誰なのか?」ということについて、考えてみる。
校長?教育委員会?先生自身?いったい誰?
何人もの教師たちがうつ病などの精神疾患で休職したり、過労死や過労自殺しているというのに、責任は誰、あるいはどこにあるのか?
ひと月前の12月22日。文科省から「平成27年度公立学校教職員の人事行政状況調査結果」が公表され、2015年度にうつ病などの精神疾患で休職した公立学校の教員が5009人に上ることがわかった。
これは在職している全教員の0.54%に当たり、病気休職者7954人中6割強を精神疾患が占める。
以下のグラフは、在職者に占める「精神疾患による病気休職者の比率」と、「精神疾患による病気休職者数」の推移を示したものだ。精神疾患による休職者の比率は、急激に上昇した後、ここ10年近くはほぼ横ばいで、ほとんど改善されていない。また、休職者数の増加は、その大半が精神疾患による休職が原因なのだ。
出所:「公立学校教職員の人事行政の状況調査」
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/012000088/graph.JPG
20代の教職員、この10年で20人が自殺?
しかも、20代の精神疾患による休職者は564人で、この10年の間に2倍近くに増加。NHKの夕方のニュース(12月23日)によれば、少なくとも20人が自殺していて(NHK調べ)、この事実を文部科学省は把握していないと報じていた。
で、先日。松野博一文部科学大臣の定例記者会見で、NHKの記者が大臣に質問を投げかけた(映像はこちらからご覧になれます)。
記者:「NHKの調査で、この10年間に新人の先生が、採用から1年で46人が死亡退職され、そのうち半数近くが自殺だったことが明らかになった。それについて大臣の御所感を伺いたい。最悪のケースに至っているという実態を把握しているのか」
大臣:「死亡退職した人数は把握しているが、死亡の原因やその背景についての調査は行ってない。一方、教職員の過労死については『過労死等の防止のための対策に関する大綱』でも指摘をされており、厚生労働省と連携をし、過重労働の実態等について調査研究を行うことを検討している」
記者:「採用からわずか一年の死亡退職のうち自殺が半数近くいる事実については、どのように捉えられているのか?」
大臣:「今まで原因等の調査を行っていないので、まずは、調査からと考えている」
記者:「実態について調査を進めていくと?」
大臣:「厚生労働省と連携をして、その調査を進めるべく検討をしている」
話が前後するが、この日の会見は「学校現場における業務の適正化に関する大臣メッセージ」として、次の3点が報告されている。
1.業務改善に集中的に取り組む「重点モデル地域」を20か所程度指定する
2.運動部活動に関する実態調査を実施し、適切な練習時間や休養日等を含めた総合的なガイドラインを策定する。それに先立ち本日(6日)、各都道府県教育委員会等に対し、休養日の適切な設定を求める通知を発出する
3.業務改善等に知見のある有識者や、教育委員会関係者等を「業務改善アドバイザー」として、教育委員会の求めに応じて派遣する
記者の質問に対する回答なども加え、上記を補足しておくと……
・本日付け発出するのは、休養日を設けていない学校に適切に設定を求めるもので、具体的に何日というような規定はない。
・業務アドバイザーは、あくまでも教育委員会の要請があったときにのみ派遣。内容も教育委員会の希望にあわせる。
・業務アドバイザーは学校経営やマネジメントの知識を持っている専門家。または、すでに各教育委員会の指導に入っている人たちから選定する。
ふむ。要するに大臣は、「国はがんばるけど、あくまでもやるのは教育委員会だよ。これまでだってそうだったでしょ?」と、明言した。ええ、そうです。これまでと一緒だ。
私の記憶に間違いがなければ、文科省が具体的に教員のメンタルヘルス対策に乗り出したのは2013年。予防的取り組みと復職支援に関わる対応をまとめ、この年の10 月に発表した(教職員のメンタルヘルス対策について(中間まとめ) )。
ただし、通知しただけで、何をどうするかは各教育委員会に任された。
生かされず、負担にしかならない文科省の調査
大臣は「教員の業務負担の軽減を図ることは喫緊の課題であると認識をしている」と会見の冒頭で語っていたけど、本当にこれで先生たちの劣悪な職場環境は、改善されるのだろうか?
「調査、調査、調査」って繰り返していたけど、それでまた現場の先生たちが“雑用”に追われることになるのではあるまいか。
先生たちの8割以上が、「負担に感じている業務」に「国や教育委員会からの調査やアンケートへの対応」を挙げたことを、文科省の役人たちは忘れてしまったのか?
詳しい内容は連載の過去記事(「先生も生徒も数値で“仕分け”」 超効率主義で朽ちる学校)をご覧いただくとして、2014年に文科省が行ったこの調査(「学校の総合マネジメント力の強化に関する調査研究」)は、初めて全国規模で先生たちの「具体的な負担」が明かされた貴重な資料である。
その調査で、「国や教育委員会からの調査やアンケートへの対応」が、大きな負担であることが示された。まさにやぶへび。
当時、文科省はこの笑うに笑えない結果に、
「平成20年以降、見直しに取り組んできているが、引き続き調査の見直しに取り組んでいく」
と回答していたけど、いったい何を、どう、見直したのか教えて欲しかった。
っていうか、会見に出ている記者さんたちは誰ひとり、疑問を抱かなかったのだろうか。
だいたい国は、2015年、「学校現場における業務改善のためのガイドライン〜子供と向き合う時間の確保を目指して〜」を策定していたわけで。その効果くらい質問できたはずだ。
存在すら知らなかった?
その可能性はある。
大臣の会見から9日後、「小中教諭の7割、週60時間超勤務 医師や製造業上回る」との見出しが、朝日新聞の朝刊一面に掲載された(15日付朝刊)。
連合総研が、全国の公立中学校の教師約4500人を対象に実施した調査の結果を紹介した記事だ。調査では、「最も負担に感じている仕事は?」との問いに、
・小学校の84%、中学校の82%が「保護者・地域からの要望や苦情への対応」
・小学校の83%、中学校の80%が「国や教育委員会からのアンケート」
と回答。
さらに、
・小中学校教員の1日平均労働時間が約13時間
・小学校の73%、中学校の87%が週60時間以上の勤務
・小中ともに、週50時間未満はゼロ
・15%が朝7時前に出勤
・22%が夜9時以降に退勤
(すべて連合総研の調査結果)
と、その結果は2014年の調査と変化なし。文科省のガイドラインは、なにひとつ実っていなかった。
これでは、うつ病などの精神疾患による教職員の休職が10年間改善しないのも、当たり前である。
文科省の辞書に「検証」という文字は存在しないのか
大臣は先の会見で、
「教員の働き方を改革し、教員がその担うべき業務に専念できる環境整備を目指します!平成29年度予算案において、各教育委員会における業務改善の取り組みを加速するべく、「学校現場における業務改善加速プロジェクト」を始動するための予算を計上しました!」
と胸を張ったけど、いったい何回プロジェクトを立ち上げれば気が済むのだろう。
毎度毎度、調査を繰り返し、ガイドラインを策定し、「あとは君たちでやってよ」と教育委員会に投げる。――文科省の辞書に「検証」という文字は存在しないのか。
そういえば、東京都の公立中に通う長女の部活動がブラックすぎるとして、中学校と闘い改善させた父親に関する記事が話題になったが、「ブラック部活動」についてはずっと以前から社会的にも認識されていた。
今から20年前の1997年。文部省(現文部科学省)は運動部活動をはじめ中学生・高校生のスポーツ活動の望ましい在り方について有識者会議を設置。全国の中学校100校、高等学校100校の生徒や保護者、教員など計約5万4000人を対象に調査を実施したうえで、「週に2日以上」「長期休業中はまとまった休養日を設置すること」など、中学校の部活動における休養日のガイドラインを提示しているのだ。
つまり、部活動が先生の負担になっていることは20年前にわかっていたのに、まるで「今明らかになった」かのように取り沙汰されている状況は異常だ。
しかも、件の父親によれば「スケジュールをつくっているのは外部指導者」で、現場の先生たちはその練習日程に合わせざるをえなかったそうだ。
部活の指導を先生ではなく外部に任せる方針は、文科省の中央教育審議会が、進めている政策である。一昨年末には、教員以外が部活指導や引率をしやすくするための制度化を答申するなど、外部指導者の積極的な活用をすすめている。
いったいこのチグハグさは何なのだろう?
本当に誰が、教師たちの長時間労働を止めるのか?
そもそも、その責任は誰にあるのだろうか?
そこでこれまでインタビューに協力してくださった現場の先生たちに取材したところ、次のような回答があった。
・勤務時間は、基本的には市で決められている。
・出勤と退勤の時刻は学校により異なる
・給食、昼休みの時間が昼休憩となっているが、現実にはとれない
・在校時間は、常に規定を大幅にオーバーしている
・職員の勤務時間については、基本的には校長が管理している
・勤務管理は校長の仕事だが、実質的には管理されておらず、長時間労働は当たり前。唯一「管理者」としての機能が果たされるのは年休など、校長の許可が必要な場合のみ
・地域によって、業務負担の差が大きい
・地方自治体(教育委員会)が、国が決めた方針に積極的に取り組むか次第
・校長が力のある人だと、市との連携が上手くいく
・校長に対する保護者からの信頼が厚いと、保護者が部活動や防犯パトロールなどに協力してくれる
・都内のある公立学校では図工も家庭科も専科の先生がいて、うらやましいと思った
・以前の学校では、理科の支援員がいたので助かった。理科は授業の準備に時間がかかる
う〜む。これらをどう解釈すればいいのだろうか?
一体全体、責任は誰にあるのか?
先生たちの労働環境を“変える”権限を持っているのは、教育委員会であることはわかる。でも、変える責任を負っているのは誰なのだろう?
長時間労働を“責任”をもって止めるのは、教育委員会?校長?どっち?
ひとつだけ、確かなのは取材に応じてくれた先生たちが、いずれも長時間労働に疲弊していたことだ。
特に、20代で6年生の担任を任されている先生は、「12月は地獄で。いつ自分が倒れるか恐かった」とし、次のように話してくれた。
「恵まれた地域に赴任できるのは、ごく一部です。ほとんどの先生は、私と同じようにボロボロです。特に同年代の先生は(20代)は、苦しんでいます。中学校に行った友人は、週末に部活動を休みにすると保護者からクレームがくるので『休めない』と言っていました。
私は6年生の担任なので、12月は地獄でした。
提出する資料が多い上に、受験する子どももいる。保護者も過敏になっているので対応するのがいつも以上に大変でした。不安定な体調に苦しみながらの日々で、確実に身体のバランスが崩れているのですが、気がついたときにはコントロールが利かなくなっていました。
食事を食べる時間もなく、気力も出なくて、自分でも恐かった。以前、河合さんに話を聞いてもらってから気分転換も必要だと痛感し、月に最低でも2回は趣味の茶道のお稽古に行くようにしていました。でも、12月は行けなかった……です。
今はただただホッとしています。大きな問題が起きることもなく、2学期が終って本当に良かったです。
学校の現場は孤独です。私は職員室には行きません。一日中、担任のクラスで過ごしています。長時間労働や保護者の対応の大変さ、部活動のことなどはニュースになりますけど、先生たちとの人間関係も大きな問題なんです。
学校の行事の準備や休日の部活、防犯パトロールなど、すべて若手の仕事になります。前の校長のときは、まだ良かった。でも、今は校長は見てみないふりをしています。みんな自分のことを守りたいんです」
彼女のように、今もギリギリのところで耐えている先生たちがいることを、国や教育委員会の人たちはわかっているのだろか? 校長先生でさえ、目を背けたがるって、どうなっているのだろう。
企業はブラック企業とレッテルを張られるのを恐れるけど、学校にはそれがない。企業のトップは、電通の社長辞任にワナワナするけど、教育現場でビビるのは誰?
調査結果やガイドラインを生かし、実効性を持たせるには責任の明確化が不可欠である。その上で検証する。お題目はもういい。今、この時間もギリギリにいる先生に目を向けてくれ。
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このコラムについて
河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学
上司と部下が、職場でいい人間関係を築けるかどうか。それは、日常のコミュニケーションにかかっている。このコラムでは、上司の立場、部下の立場をふまえて、真のリーダーとは何かについて考えてみたい。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/012000088/
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