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エレファント・グラフをどう読むか―貧困と格差への対応 グローバル化で産業革命以来はじめて全世界の所得不平等が改善されたが
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投稿者 軽毛 日時 2017 年 1 月 23 日 19:17:09: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

エレファント・グラフをどう読むか―貧困と格差への対応
田近栄治
成城大学特任教授
経済成長が停滞し、賃金も伸びぬ中で先進諸国での不満が増大している。アメリカの大統領選挙では共和党と民主党の候補者であったトランプ、クリントンともに早々にTPP(環太平洋パートナーシップ協定)に反対を唱えた。移民の取り締まりを強固に訴えたのは、トランプだけではない。ヨーロッパも同様であり、イギリスはそれを理由にEUからの離脱の道を選択した。日本では低成長が続き、デフレからの脱却もままならず、非正規労働が増大している。そうしたなか賃金の引き上げが最重要課題となっている。
こうした貧困や所得格差をどう考えたらよいのだろうか。そのヒントを与えてくれるのは、全世界に目を広げて所得分配の変化を示した「エレファント・グラフ」である。このグラフは世界銀行のエコノミストであったミラノビックが発表したものである。社会主義国が崩壊し、経済のグローバリゼーションが本格的に始まった1988年以降から現在までの世界各国の個人所得がどう変化したかを示したものである。


エレファント・グラフ
https://tax.tkfd.or.jp/wp-content/uploads/2017/01/201701tajika-768x444.jpg

全世界の各所得分位の1988年から2008年の間の所得増加率(%)

出所: Milanovic, Branko(2016)


図の横軸には、世界120か国、600の家計調査をもとに、全世界の個人所得が低いほうから100分位で並べられている。縦軸は1988年から2008年までの各所得分位の所得増加率である。図に示されているのは2008年までの所得増加率であるが、2013年まで伸ばした結果も同様であると論じられている。所得増加率のカーブは55分位くらいまで増大し、その後下がり、85分位あたりから増加している。この姿が象の大きな背中から上に伸びた鼻のようであり、エレファント・グラフと呼ばれている。

ここから3つのポイントを読み取ることができる。まず図中(A)。ちょうど中央に位置するところであるが、その10中の9は中国やインドの新興国の個人で、グローバリゼーションの恩恵をもっとも享受していることが分かる。つぎに(B)。80から85分位のあたりであるが、その10中の7はOECD加盟各国の個人所得の下位半分の個人からなっている。最後に(C)。これはトップ1%であるが、先進諸国の個人からなっている。その半分はアメリカで、アメリカの12%の個人がその中に入ると指摘されている。

エレファント・グラフから二つの重要な点を読み取ることができる。

第1は、グローバリゼーションによって45から65分位に属する中間層、すなわち全世界人口の20%の人々の所得が飛躍的に増加したことである。
ミラノビックが言うように、これによって産業革命以来はじめて全世界の所得不平等が改善されたとすれば、この20年余のグローバリゼーションの効果をポジティブに受け入れるべきである。技術革新、国境を超えて飛び交う資本や活発な企業活動投資が、それらを受け入れてきた諸国に大きな実りを与えたことは、前向きに評価されるべきである。これは戦後の日本、およびその後の東アジアの経済成長が開かれた世界のなかで可能となったことの前進である。

しかし、光ばかりではない。エレファント・グラフから読み取れる第2点は、先進諸国では所得分配が二極化したことである。問題はこの点をグローバリゼーションと技術革新の結果だとして、あたかも世界の中間層であるアジアなどの新興国が先進諸国の労働者の職を奪ったという見方である。現在先進国と呼ばれる国々もその発展の過程でそれ以前の先進国に追いつき、国境を隔てた人々の所得は収れんしてきた。目をすこし遠くに転じれば、アメリカも第1次世界大戦を契機にして債務国から債権国へと変容し、世界の工場となった。したがって、エレファント・グラフが我々に教えてくれるのは、グローバリゼーションを後ろ向きにとらえ、その動きを止めることで、先進諸国の労働者保護の道を選んではいけないということである。

そうした観点から日本を含む先進諸国の貧困や所得格差への対応を考えなければならない。すでに、興味深い政策が発信されている。そのいくつかを見ていくことにしたい。その中で税制も重要な役割を果たすことが求められている。

雇用の面では、IMFのエコノミストであるオプストフェルドの言う「セーフティネットからトランポリン」が重要である。カナダの経済調整諮問会議の1989年の報告書をもとにして、オプストフェルドは職を失った後のセーフティネットに重点をおくのではなく、新しい仕事へとつながるトランポリンが大切なのだと主張している。もちろんこれは、変容する経済において言うは易しである。しかし、これまでの仕事がなくなる時に、もとの仕事を維持することではなく、新しい仕事に移っていける力を労働者に備えさせることがこれから重要となる。技術やマーケットに追いついていけない産業や企業の新陳代謝を促しながら、そこで働く人々の能力を向上させる。そうした対応が今後ますます重要になる。

税と社会保障の面でも新しい政策が求められる。人手や人知に代わる技術進歩のなかでは、個々の労働者の高い生産性と変化に柔軟に対応できる能力が求められる。一方、増大する社会保障費を前にして、先進各国の企業は、社会保険料負担をできるだけ回避するために労働コストのカットに向かわざるを得ない。雇用面での施策との関連で言えば、トランポリンを支える税制が求められている。

それはこれまでの日本の所得税で行ってきた課税最低限や累進性を通じた負担調整では済まない話である。働く意欲を阻害することなく、変化する労働環境で柔軟に生きていけるためには、働くことへの支援として所得控除から税額控除への改革を避けて通ることはできない。また、増加する社会保険料負担を低所得の労働者から軽減するためには、税と社会保障負担を一体的にとらえて調整することが避けられない。大きなエレファントを前にして嘆息をついたり、眼をそむけている時ではない。日本のなかでもやることは山積しているのである。
________________________________________
o 【参考文献】
o Davis, Gavyn, 2016, How should we compensate the losers from globalization? Financial Times, December 12th,
o
o Feldstein, Martin, 2016, Reducing inequality and poverty in America, Project Syndicate, August.
o
o Milanovic, Branko, 2016, The greatest reshuffle of individual incomes since the Industrial Revolution, VOX, CEPR’s Policy Portal.
o
o Obstfeld, Maurice, 2016, Get on track with trade, Finance and Development, December, IMF, pp. 12-16.
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コメント
 
1. 2017年1月23日 19:25:06 : nJF6kGWndY : n7GottskVWw[3552]

>これまでの日本の所得税で行ってきた課税最低限や累進性を通じた負担調整では済まない

グローバルな再分配と累進課税制度を実現するのが理想ではあるが

欧州や米国ですら失敗しているのだから、やはり愚かな人類には、まだ早すぎたということで

現実的には、一国内での、規制緩和やロボット化IT化を通じた生産性の上昇と、BIによる社会保障改革、

そして財政不均衡に対しては、QEを活用した新しい歳入システムを構築していくことだろう

しかし、それすら、なかなか簡単なことではない



2. 2017年1月23日 20:56:26 : DcYRyD2WFQ : yg9aozpnhaE[58]
エレファントグラフ自体が欺瞞的である可能性があるため、この種の論説には注意が必要である。
 気になるのは 低所得層の所得増加率で、所得は貨幣でカウントされる点だ。例えば、水を自由に汲んでよい状況から、水を買うのに金が要る、買わないと死んでしまう状況に移行すると、売れるものは何でも売って所得を増やすことになる。生活水準自体は良くなっていなくとも、貨幣経済が浸透すると所得が増えると言うことがあり得る。低所得層の所得増加率が嵩上げされるだろう。
 富裕層の一人勝ち批判を避ける意味から、低所得層の所得増加率が嵩上げされたグラフが好まれ、こうしてネットに投稿される。

3. 2017年1月24日 04:20:45 : M7cOohkNis : hvpsCC8qlC4[3]
所得のみで物価が加味されていない議論は無意味だ。例えば1988年の中国の物価レベルでは当時の中国人労働者の所得でも余裕で生活ができた。現在は収入が物価上昇に追い付かなくなっている。これでは収入が増えても生活は楽にはならない。

この状況で一番損をしているのは国内でしか経済活動ができない一般国民であり、得をしているのは外国の安い公共料金や労働力や輸入品に自社ブランドをつけて国内で高く売りつけている大企業である。一番民意を反応しやすい英国のEU脱退やアメリカのトランプ大統領登場は一般国民がこのような不平等な仕組みに我慢できなくなっている表れでもある。


4. 2017年1月24日 15:02:48 : nJF6kGWndY : n7GottskVWw[3560]

>>03 所得のみで物価が加味されていない議論は無意味

PPP換算で普通は見ているから、その問題はあまりないだろう

例えば典型的なのが膨大な中国の中流世帯

実質可処分所得は劇的に増加しており

昔のような飢餓状態はほぼ消滅し、多くの家庭で携帯など家電が普及する状況だ

だから中国など、まだ実質賃金が低い新興国ではグローバリズムを擁護するし

先進国では、中間層が崩壊するから、政治的に不安定化し、保護主義やポピュリズムの温床になるわけだ

あと一人当たりGDPの問題は、自然環境や健康の悪化などの要因が入らないこと

さらに言えば、幸福度と絶対的な経済的豊かさが正比例ではなく、格差の方が心理的には影響が大きいことなどだな



5. 2017年1月24日 17:57:37 : M7cOohkNis : hvpsCC8qlC4[4]
>>04

中国が飢餓状態だったのは清朝末期以来の外国勢力による社会混乱と国民党による略奪の影響であって、もとからそのような貧しい状態ではなかった。

30年前の中国は可処分所得が少ないとはいえ、住居はほとんど国家による配給で無料、食料は西側諸国に比べて格安、学校を卒業した者が失業する事などありえなかったのである。街角で乞食を見る事もなかった。

現在の中国はと言えば、家を買うのに死ぬほどのローンを背負わされ、ローンが組めない者は狭くて汚い地下室の家賃さえ払えないありさま。札束で他人の頬を引っ叩く者が出て来たと思えば街には乞食がたむろし、学校を出ても職にありつけない失業者が溢れている。

つまりみんな生活できるけど貧しい共産主義から金持ちに成れる勝ち組と基本的な生活さえ問題のある負け組に分かれる資本主義に成っただけで、国全体で見て国民の生活が劇的に向上したとは言えないのである。

当然このような状況であるから国民の不満はすさまじく、この不満をそらすためにも対外的に強硬な政策を取らざるおえない。先日も尖閣に中国の巡洋艦がパトロールをし、政府スポークスマンがこのようなパトロールは以後常時行うから日本政府は覚悟をしておけと威嚇している。

中国などがグローバリズムを擁護するのはアメリカを中心とする西側諸国と同じレベルで地球資源を消費したいだけで、保護主義に走られて資源が入手できなくなるのが困るのだ。それ以上でもそれ以下でもない。


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