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東京都労働委員会での審問当日の朝、都庁前で抗議行動を展開するプレカリアートユニオン(記者撮影)
賞与1円で報復、「労働組合潰し」の酷い実態 引越社やプリマハムで何が起きているのか
http://toyokeizai.net/articles/-/154700
2017年01月23日 山田 雄一郎 :東洋経済 記者
政府主導で「働き方改革」が叫ばれ、長時間労働の是正が求められている中、前近代的ともいえる「不当労働行為」が繰り返されている。不当労働行為とは、労働組合に入っていることを理由に遠隔地に左遷・解雇したり、組合との団体交渉に応じなかったり、組合からの脱退を促したりすることだ。
SEだった有村有氏(仮名)は、結婚を機に転職を希望。「年収1000万円も」とうたうチラシを見て、「アリさんマーク」で有名な引っ越し専業大手・引越社関東に入社した。
■100万円だった賞与は1円に
営業成績は優秀だったが、営業車で交通事故を起こすと、会社に弁償(48万円)を求められた。「自分に弁償する義務はあるのか」。そう悩んだ有村氏だが、会社に労働組合はなく、相談相手もいない。そこで2015年3月、雑誌で知った社外の労働組合「プレカリアートユニオン」に加入。同組合を通じて会社に団体交渉を申し出た。
すると会社は、有村氏を引っ越し作業の現場から、電話対応が主のアポイント部に配置転換。その後すぐに、1日中シュレッダーをかけ続けるシュレッダー係への異動を命じた。度重なる異動で、「営業成績がいいときには1回100万円もらえた賞与が1円になった」(有村氏)。
しまいには「罪状」と書かれた有村氏の顔写真入りの紙を社内の各所に張り出し、同僚の前で読み上げたうえで、有村氏を懲戒解雇した。
東京都労働委員会の公開審問で、会社は組合加盟が異動・解雇の理由ではないと主張している。シュレッダー係への異動は「遅刻が多く顧客に迷惑をかけてはいけないと思ったから」。懲戒解雇は「会社の機密を漏らしたから」。だが動画投稿サイトのユーチューブでは「何でもかんでも組合の名前出したらいけると思ったらあかんぞ」とすごむ経営者の姿が公開された。
解雇無効の訴えを起こされた途端、会社は2カ月足らずで有村氏の復職を認めたが、職務はシュレッダー係のまま。「北朝鮮人は帰れ」と書かれたビラがシュレッダーから見える壁に張られていた。シュレッダー横にモニターが設置され、有村氏の記者会見の様子が流された。
会社は誰がビラを張ったかは不明で、モニターを設置したのは近くの部署に見せるためだとしている。
■プリマハムでは組合設立で雇い止め
食肉加工大手・プリマハムの女性従業員2人は、得意先を回るルートセールスだと聞き入社。ところがしばらくして、肉体労働である納品業務も命じられる。ソーセージで1箱3キログラム、ベーコンで1塊4キログラム。それだけの荷物を抱え、大きな冷蔵庫と営業車の間を行き来することになる。
それでは体がもたない。プリマハムには労働組合があるが、2人は正社員ではないからと、社外の組合「派遣ユニオン」に相談。そこで「プリマハムユニオン」を結成、会社に団交を申し入れた。
会社は2人に「形式上は有期契約だが、よほどのことがないかぎり再契約する」と言っていた。団交の最初のうちは「契約を打ち切るつもりはない」としていたが、最終的には2人に雇い止めを通告した。2015年3月のことだ。
雇い止めの理由は「1日当たりの訪問店舗数が少ない」「営業時間内の携帯電話での会話時間が長い」。ただ会社は「ユニオンに加入したということは会社に敵対するということだね」と発言している。
ほかにも相鉄ホールディングス、ドラマ「下町ロケット」の撮影場所になったことで有名な金属精密加工メーカー・桂川精螺製作所など、労働委員会で審問中の労働事件は多い。
不当労働行為の新規申し立ては年300件台。労働運動が盛んだった昭和40年代に比べれば3分の1だが、中身が異なる。労働問題を約50年見てきた宮里邦雄弁護士は、「年300件のうち約7割はユニオン関連だ」と指摘する。
■過剰反応が問題を大きくする
ユニオンの多くは少人数で活動資金が乏しい。その中で動画サイトへの投稿など、先鋭的な活動も少なくない。
そうしたこともあり、ユニオンが出てくると過度に萎縮する経営者が多い。正面から食ってかかるのは少数派だ。そして多くの場合は弁護士に対策を委ねるようになる。
弁護士は団交の申し入れ文書を「ここの趣旨が不明」と突き返す。やっと団交が開かれたかと思うと、弁護士が同席し主に弁護士が発言する。弁護士のみが団交に出席する……これでは従業員と向き合っているとはいえそうもない。
ユニオンに対する過剰反応が問題を大きくし、そこに収益機会を見いだす弁護士も存在することで、問題が複雑化しているようだ。
労働者の権利を軽視する事例は決してなくなっていない。それは「働き方」以前の問題だ。経営者には、組合に対する正確な理解と、自らが労働者と正面から向き合う覚悟が求められている。
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