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中国人大学生の憧れと立ちはだかる無情な現実
中国在住の起業家が見つめる「等身大の中国人」(2)
2019.2.6(水) 宮田 将士
中国の学生は、どれほど大きな夢を抱いているのか?
政治面でも経済面でも存在感を増している中国。だが、その発展を支える個人の生活に目が向けられることは少ない。本連載では、2001年に中国で起業し、長年にわたって現地のコミュニティに溶け込んできた宮田将士氏が、「等身大の中国人」の心の内を描いていく。(JBpress)
【第1回】「息子が働かない中国人夫婦のささやかな優越感」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55260)
「成功」に憧れる大学生
陸さんは、上海のある理系の大学に通う20歳の若者である。
地方都市出身の陸さんは、子供のから学校の成績がとても良かった。当然ながら、親や親族一同からの大きな期待を一身に浴び、小学生の頃から死に物狂いで勉強した結果、見事上海の大学に入学することができた。
これまで、大学に入学することが大きな目標だった陸さんにとって、大学で何をするかというのは、実はそれほど真剣に考えていたわけではない。数学と物理が得意だったことと、漠然と「理系の大学を出ていれば就職にも困らないだろう」という理由で選んだのが今の学部だった。
もちろん、大学の授業をおろそかにしているわけではない。真面目な性格の陸さんは、授業をサボるようなこともなかったし、毎日それなりに忙しく、まあ充実した毎日を送ってはいた。
ただ、・・・である。
それなりというのはやはり「それなり」で、ものすごく充実しているかと言えば、そうではなかったのも事実だ。周りの友人は、毎日とても楽しそうにキャンパスライフを謳歌しているが、陸さんはなんだか物足りなかった。
こんな憂鬱な気持ちになる理由を、陸さんは自分でも知っている。それは、最近ネットでよく見る若者の起業に関するニュースが原因だ。
ネットやSNSを見ていると、学生起業家の文字が並ぶ。大学在学中にクラスメートと起業し、ユニークなサービスで人気を博し、最後は大手企業に売却。これまでに無かった研究で、学生ながら会社を立ち上げ、大手企業と提携。そんな華々しい成功物語が、陸さんがよく見る学生が集まるSNSには溢れていた。
自分と同じ年齢の若者がすでに世の中に出て成功しているのに、自分は毎日漫然と授業を聴いている。ザッカーバーグは学生時代にFacebookを立ち上げた、なのに自分は寮でSNSを眺めているだけだ・・・。
よくよく考えてみれば、SNSに書かれているサクセスストーリーが実話なのかも分からないが、若者らしい焦りが陸さんを苛んだ。
志の高い仲間も・・・
そんな悶々とした日々を過ごしていた陸さんだったが、「類は友を呼ぶ」の言葉どおり、一刻も早く世の中に出て自分の名を上げたいと考える学生はいた。食堂でたまたま話をしたことがきっかけで、そんな仲間2人と陸さんはたちまち友達になった。
それからというもの、陸さんを含む3人は、毎日夢中で自分たちの起業のアイデアを語り合った。出てくるアイデアは学生らしく微笑ましいものばかりだったが、それでも陸さんはこれまでにない高揚感と充実感を得ることができた。それは友達も同様で、まだ会社も、サービスも存在しないにもかかわらず、3人は「俺たちが世の中を変えてやる」と根拠のない自信をみなぎらせていた。
しかし、会社を立ち上げ、サービスを作り、世の中に送り出すというのは、やる気と自信だけで実現できるほど甘いものではない。世に学生起業の成功物語は溢れているが、それは滅多に起こらないからこそニュースになるのである。犬が人を噛んでも記事にはならない。人が犬を噛んで初めて大事件になるのだ。
そのことを陸さんたちは分かっていなかった。「この学生が成功したのだから、俺にだってできるはず」と勘違いしてしまったのだ。
そして、思いつきの情熱は冷めてしまうのも早い、もともと明確な指針や志があっての起業計画ではない。
学期末試験が3週間後に迫った頃、まず友人の1人が離脱した。最初は「今日はちょっと忙しいので、ゴメン!」と連絡があったが、最後はまったく連絡が取れなくなった。Wechatもつながらない。どうやらブラックリストに入れられたらしい。もともと3人の中で一番のアイデアマンで、出資者も見つけられると豪語し、CEOに就任する予定だったのも彼だった。その彼が抜けてしまったのでは起業も難しい。
こうして、陸さんの起業物語は会社が立ち上がる前にあっけなく頓挫した。もとより学生の身だから、起業に失敗したからといって特に困ることはない。そもそも起業すらできていないのだし、嘆いたところで仕方がない。
理系の大学生ではあるが、小説を読むのが趣味の陸さんは、そういえば魯迅の小説にこんなシチュエーションがあったな、とぼんやり思うのだった。
プライドの保ち方
それ以来、陸さんは普通の大学生に戻った。今では「起業しよう!」とか「世の中を変えてやる!」などという情熱を持つことは無くなっている。
周りの友人がかつての陸さんと同じように「会社を作る」「サービスを始める」という話を興奮気味に語っているのを見るたびに、少しの恥ずかしさと、懐かしさを感じ、そして先輩としての若干の優越感を覚えてしまう。「どうせ、うまくいかないよ、やめとけばいいのに」と。
会社すら立ち上げることができなかった自分を完全に棚に上げてはいるが、これも若者らしい高いプライドのなせるわざなのかもしれない。
そんな陸さんは、今日もSNSに自分の起業物語をせっせと書き込んでいる。実際には成し遂げられなかったこと、学生起業と成功譚。あのとき本当に会社を作ることができていたなら、もしかしたらSNS上の空想物語は現実になっていたかもしれない。
陸さんはこのSNSへの書き込みをやめることができないでいる。たとえ、それが何の慰めにもならない行為だったとしても。ただ1つ言えるのは、名刺をデザインし、会社名まで考え、時間を惜しんで3人でビジネスのアイデアを語り合っていたあの頃のほうが、大学の勉強にも熱心に取り組み、で、成績も良く、毎日が充実していたということだけだ。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55396
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