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イエメンの首都サナア(iStock)
イエメンにISIS戦闘員が流入する可能性
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9262
2017年4月3日 岡崎研究所 WEDGE Infinity
オックスフォード大学ペンブルック・カレッジのケンドール研究員が、2月28日付フィナンシャル・タイムズ紙掲載の論説にて、イスラム国(IS)の戦闘員がシリアやイラクからイエメンに流入、アラブのアルカイダ(AQAP)と合流するなどして、イエメンがジハーディストの巣窟になる危険性を指摘しています。要旨、次の通り。
イエメンは、イラクとシリアから逃れたISの兵士にとり理想的な避難先である。ホーシー派とハーディ大統領の政府との間の戦争は、宗派間闘争の様相を深めている。サウジのハーディ大統領側に立った関与、イランのホーシー派の叛徒への限定的な支援は、ジハード戦士好みの憎悪をかき立てている。
さらに、イエメンの起伏に富んだ地形、リヤドにいる亡命政府が残した治安上の真空、国内避難民が東に移動したことによる部族社会の絆の弱体化、密輸ネットワークの横行、長大で隙だらけの海岸線がある。その結果、ISIS戦闘員が逃げ込み得る不安定のポケットとなっている。
既にイエメン内で活動しているIS戦闘員もいるが、アラビア半島のアルカイダ(AQAP)が、数、影響力、訴求力の面で優位である。
AQAPの漸進的なアプローチは、ジハード戦士のイデオロギーを吸収する素地を作った。ISISと異なり、AQAPはカリフ国を強要しようとはせず、地元民の保護者であるかのように見せかけることで、イエメン南部で影響力を構築した。多くの資金を集め、部族民兵との同盟を強化し、水問題や電力供給の解決を含む地元の支持を集めるようなプロジェクトを実施した。AQAPが築いた政治的・文化的資本は消えず、AQAPを支える思想を爆撃で消すこともできない。
イエメンでの紛争はイスラム原理主義の武装勢力へのアピールを強めている。ISISの司令部から帰ってきたイエメン人戦闘員が同志を連れてくることが懸念される。
いくつかのシナリオが考えられる。
第一に、ISISがイエメンを拠点に再建を始め得る。ただし、AQAPの優位、浸透ぶりを考えると、ISISが凌駕するのは難しいかもしれない。第二に、ISISの戦闘員のイエメンへの帰還は、ISISとAQAPとの間の既に存在する直接的な対立を悪化させ、イエメンの不安定を悪化させ得る。第三に、ISの戦闘員がAQAPと統合し、数を増やすかもしれない。結局のところ、両組織はイエメンのシーア派に対する戦いをするという目標を共有している。
既に、統合の可能性を示す兆候がある。ISとAQAPはal-Bayda行政区におけるホーシー派と同じ戦線で戦っている。さらに、ISより漸進的なAQAPのイデオロギー的指導者たちがUAEの支援を受けた地上軍と米の無人機攻撃に狙い撃ちされ続ければ、ISのより過激なブランドが採用されることになり得る。
ISは、イエメンにおいてAQAPと混合し得る。紛争が長引くほど、ジハードの培養地はより肥沃になる。
出典:Elisabeth Kendall,‘War-torn Yemen may attract jihadi fighters from Syria and Iraq’(Financial Times, February 28, 2017)
https://www.ft.com/content/3d598142-fc43-11e6-8d8e-a5e3738f9ae4
イエメンがイラクとシリアから逃れるISの戦闘員たちの理想的な避難先であることは疑いありません。イエメンでは北部のホーシー派とハーディ大統領の政府との間で激しい戦闘が行われており、治安は極端に悪化し、イエメンは破綻国家の様相を呈しています。
しかし、イエメンがイラクとシリアを追われたISの主要拠点になるとは考えられません。一つには論説が指摘するように、イエメンのジハード組織の中心はAQAPであり、AQAPの指導部が、仮にUAEの支援を受けた地上軍と米国の無人機攻撃を受け続けるとしても、AQAPが弱体化し、ISの指揮下に入るとは考えられないからです。
■イエメンはイスラム世界のはずれ
その上、イエメンは地理的にいわばイスラム世界のはずれにあり、イラクとシリアを追われたISが、カリフ国の本部を置くのに適しているとは思えません。ISがイラクとシリアを追われて新しい本部を置く必要に迫られるとすれば、リビアの方が地政学的により適しているのではないでしょうか。
しかし、例えイエメンがISの新しい主要拠点にならなくても、イエメンにおけるISの存在が拡大すれば、イエメンの混迷は一層深まると考えられます。それはアラビア半島の不安定化をもたらし、特にサウジに影響を与えるでしょう。
イエメンはサウジの裏庭であり、それだからこそ、サウジは宿敵イランが支援しているホーシー派を攻撃しているのです。他方サウジはISを脅威と見なしています。一つはISのカリフ国宣言を、スンニ派イスラムの総本山をもって自ら任じているサウジに対するイデオロギー上の挑戦と受け止めています。また、ISはサウジにおけるテロ活動を公言しており、サウジにとってISは国内治安上の脅威です。したがって、サウジはイエメンでのISの活発化を座視できず、ホーシー派に対する攻撃と共にISをも攻撃することとなるでしょう。
トランプはISの殲滅を対外政策の最優先事項の一つに掲げています。ISとの戦いは一筋縄では行かないでしょうが、イエメンがISとの戦いの新しい前線の一つとなれば、サウジと協力する必要に迫られるでしょう。
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