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中国・北京で行われた軍事パレードで天安門の前を通過する弾道ミサイル「東風26」(2015年9月3日撮影、資料写真)。(c)AFP/ANDY WONG〔AFPBB News〕
ひそかに核戦力の強化に突き進む中国 大陸間弾道ミサイル発射実験で10発の核弾頭を積載
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49310
2017.3.3 阿部 純一 JBpress
公表されている映像を見ると、このミサイルは、トレーラー型車体に積載された発射筒から圧搾空気で射出され、空中で点火するという「コールド・ローンチ」による発射であることから、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の技術が取り入れられていると推測できる。
北朝鮮の技術水準では困難なミサイル発射技術であることから、直接ではなくとも第三国を経由したロシアあるいは中国からの間接的な技術移転があったことが疑われる。とりわけ中国の「巨浪(JL)1」SLBMに似ているという指摘もなされている。
ともあれ、このミサイル実験は、北朝鮮が事前の前触れなしに任意の場所から弾道ミサイルを発射できる能力を獲得したことを示している。北朝鮮のミサイル脅威は、今や格段に上昇したと言わざるをえない(ただし、この重大なニュースは、翌日にマレーシアで起きた金正男暗殺事件によって見事に霞んでしまった)。
■10発の核弾頭を積載した大陸間弾道ミサイル
ミサイル実験で言うなら、わが国ではほとんど注目されなかったが、1月31日付けで、米国メディアが中国中央テレビ(CCTV)の画面影像を援用する形で中国のミサイル発射実験を報じている。中国が、10発の核弾頭を積載する、いわゆる「MIRV」(複数個別目標再突入弾頭)化された「東風(DF)5C」大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を行ったというのだ。
発射実験そのものは1月の早い段階で実施された模様とされている。中国当局はこの報道を否定しておらず、黙認した形だ。
もし本当に中国が「10発のMIRV弾頭を積んだICBM」の実験に成功したというならば、北挑戦のミサイル実験よりも国際的な戦略環境に与える影響が大きいのは言うまでもない。
その理由は第1に、それが米国の展開する弾道ミサイル防衛網への対抗姿勢を示すものだからである。MIRVによる多弾頭化は、弾道ミサイル防衛を困難にする有効な手段と考えられている。迎撃ミサイルの攻撃目標が増えれば迎撃が困難になることは、容易にお分かりいただけよう。
第2に、中国が、これまで堅持してきた「核の先制不使用(No First Use)」の原則から逸脱し、核ミサイルの「先制使用」の可能性を高めることを目指している可能性が指摘できるからだ。核兵器運用ドクトリンの変更に繋がる話である。
中国の戦略核ミサイルは地上に配備されてきたが、基本的に地上配備のミサイルは先制攻撃に対し脆弱であるという弱点を抱えてきた。その弱点を補うため、中国はミサイルを地下サイロに収納したり、山の斜面に洞窟を掘ってそこにミサイルを隠したりするなど隠蔽を図ってきた。しかし、どのような対策を施そうとも、地上配備である限り、敵ミサイルの攻撃にあえば破壊される。そうした状況にあって、いまさら地上配備の「東風5C」でMIRV化を図るとすれば、その効果を有効に発揮するためには「やられる前に撃て」という話になる。中国にとって、対米抑止力となるICBMは「虎の子」であり、わずかなICBMをむざむざ敵の攻撃で失うよりは、「先制攻撃」のオプションを確保すべきだという判断に傾く可能性が高いというわけだ。
■核戦力の「増強」に取り組む唯一の国
中国の習近平主席は、今年1月18日に訪問先のジュネーブにある国連欧州本部で演説し、「核兵器のない世界にするため、核兵器を全面的に禁止し、徐々に廃棄していくべきだ」と述べていた。だが、この演説に前後して戦略核ミサイル実験を行ったことになる。
実は、中国は1964年10月の最初の核実験以来、同じことを言い続けている。つまり、中国の核兵器保有は他の核保有国(具体的には当時の米ソ)に対抗するためのものであり、必要に迫られた選択であったという主張を今日まで継続してきた。しかし、だからと言って、中国が核軍縮に積極的であった試しはない。先に述べた「先制不使用」に加えて、せいぜい「核軍拡競争に加わらない」という姿勢を現在も継続している程度であり、その「本気度」も、今回のミサイル実験に見られるように実は疑わしい。
あらためて指摘するまでもなく、中国は核不拡散条約(NPT)で公式に核兵器の保有を認められている5カ国、すなわち米ロ英仏とともに名を連ねる国である。その中でも、核戦力の近代化と拡充に熱心に取り組んでいる唯一の国と言っていいだろう。もちろん核兵器といえども老朽化はするわけで、どの国も“更新”という名の近代化作業は行っているが、中国のような核戦力の質・量の両面での増強にまで取り組んではいない。
■「竹のカーテン」に隠された核戦力
人民解放軍の中で核戦力の運用を担ってきたのは、1966年創設の「第2砲兵部隊」であった。第2砲兵部隊はミサイル戦力の拡充にあわせ、戦略核ミサイル以外に通常弾頭の短距離や中距離の弾道ミサイルの運用も担当するようになり、2015年12月31日をもって「ロケット(火箭)軍」に改称され、「部隊」という「兵種」から、陸・海・空軍と同列の「軍種」に格上げされた。中国がミサイル戦力を重視しているのはこのことからも明白だ。
しかし、中国の核戦力の実態は極秘事項とされ、その配備状況について公式の公開情報は一切ない。西側メディアや研究機関がこれを取り上げたとしても、西側の公開情報に依拠したものであるから、いずれにしても推測の域を出るものではない。
弾道ミサイル実験にしても、北朝鮮のように海に向けて発射せざるを得ない場合、事前に日時と危険水域をアナウンスする必要があるから、外部から観察が可能だ。しかし、中国の場合は、東部地域から西部の砂漠地帯にミサイルを発射するという、国内で完結する実験が主体であり、外部からそれを観察することは難しい。米国などは、人工衛星からの偵察で中国のミサイル実験の情報を得ていると推測されるが、それが逐次公開されることはない。外部に情報が出ることがあるとすれば、米国防総省による中国の脅威をプレーアップするための意図的なリークにとどまるであろう。中国の核戦力は、このように、いわば「竹のカーテン」に隠されている。
その実態を公開情報から丹念に追いかけてそのデータを定点観測的に明らかにしているのが、『Bulletin of the Atomic Scientists』誌の "Nuclear Notebook" セクションでほぼ毎年掲載される "Chinese Nuclear Force" である。そこで示されているデータは、信憑性の薄弱な情報を排し、確度の高い情報に基づくため、きわめて控えめな数字が提示されている。2015年のデータと2016年のそれを確認してみると、中国の保有しているであろう核弾頭の総数はともに約260発であり変化はみられない。ただし、その前の2013年では約250発であり、また地上配備の弾道ミサイルに積載される核弾頭数は、2015年、2016年がともに163発であるのに対し、2013年は148発であったから、核ミサイル戦力は着実に増強されていることが分かる。
■核弾頭の小型化を進める中国
ところで、中国が10発のMIRVを積む「東風5C」を実験したことの真偽について、2016年の "Chinese Nuclear Force" に興味深い記述があった(後述)。この記事が公表されたのは昨2016年7月3日だから、「東風5C」の実験以前のことである。
何をここで言及したいのかといえば、核弾頭の小型化である。
中国はすでに「東風21」に使用されている核弾頭を用いて、3発のMIRVを載せた「東風5B」を配備している。だが、さらに小型の核弾頭でなければ10発のMIRVを「東風5」に載せることはできない。中国は1996年夏以降、核実験を停止しているから、核弾頭の小型化のための実験はできない。では、どうやって小型の核弾頭を用意できたのだろうか。
前述の2016年の記事によれば、中国は、短距離弾道ミサイルである「東風15」用の小型核弾頭の開発を進めてきた経緯がある。記事の中で紹介されているCIAのレポートによれば、1990年8月に実施された核実験がそのためのものであり、1993年には「東風15」用の小型核弾頭が完成に近づいていたと評価している。
その後、核弾頭搭載型の「東風15」が配備されたことは確認されていないが、「将来的な核弾頭の小型化への努力を可能な選択肢とする能力を開発したのかもしれない(it might have developed the capability as possible option for future warhead miniaturization efforts)」、という回りくどい言い方で記事は締めくくられている。この記事が示唆しているように、「東風21」の核弾頭よりも小型の核弾頭を中国が開発していたとすれば、それが10発のMIRVを積む「東風5C」の実験に繋がったと見ることもできることになる。
そうだとすれば、いずれ中国はこの小型核弾頭を「東風31A」や「東風41」といった新世代の固体燃料で移動式のICBMや「巨浪2」SLBMにも応用し、MIRV化を進めることになる蓋然性は高い。中国が主導する新たな核軍拡の時代が始まろうとしている。
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