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ホルムズ海峡で米、イランが緊張 トランプ新政権誕生に示威行動
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8645
2017年1月11日 佐々木伸 (星槎大学客員教授) WEDGE Infinity
ペルシャ湾のホルムズ海峡で8日、米海軍の駆逐艦にイラン革命防衛隊の高速艇が急接近し、駆逐艦が警告射撃する事態が発生した。イラン側のこうした挑発的な行動は2015年から頻発しており、今回はトランプ新政権誕生に向けた示威行動と見られている。ホルムズ海峡は緊張に包まれている。
■強硬派優位が現実的に
米国防総省の発表などによると、異常接近されたのは駆逐艦マハン。他の艦船2隻とともにホルムズ海峡の公海を北へ向かって航行していたところ、革命防衛隊の武装高速艇4隻が猛スピードで接近した。うち1隻は約800メートルまで近づいた。マハンは繰り返し減速するよう要求したが、高速艇はこれに応じようとしなかった。
このため危険を感じたマハンが3回に渡って警告射撃するとともに、米ヘリコプターから水面に浮く発煙筒を落とし、高速艇を停止させた。米側は「危険でプロ意識に欠ける」(国防総省報道部長)「緊張を高める行為」(ホワイトハウス報道官)とイラン側を強く非難しているが、偶発的な軍事衝突のリスクは高まっている。
イラン側の敵対行動は2015年の23件から16年は35件に増えた。昨年には革命防衛隊の高速艇が同じように米艦船に異常接近して警告射撃を受け、また米海軍兵ら10人がイラン側に拘束される事件も起きた。11月にはやはりホルムズ海峡上空を飛行する米海軍ヘリに向けてイラン側が武器の照準を合わせる事態も発生した。
イラン側のこうした行動はロウハニ政権の指示によるものではない。イランの権力構造は最高指導者ハメネイ師の下で、ロウハニ大統領を頂点とする穏健派と革命防衛隊や宗教勢力を中心とする保守強硬派がせめぎ合っている。現在は核合意で経済制裁を解除させたロウハニ師が優位にあるものの、いつ権力が入れ替わってもおかしくはない。
ロウハニ政権は革命防衛隊の行動に命令を下すことは事実上できない状況で、ペルシャ湾での米軍に対する挑発行動は革命防衛隊が独自で行っていると見られている。トランプ次期大統領は昨年夏の高速艇の異常接近事件が起こった際、「ちっぽけな船でわれわれの美しい駆逐艦にちょっかい出すなら撃ってやる」と宣言しており、革命防衛隊には同氏の出方を伺う意図もあったようだ。
ロウハニ政権は経済制裁が解除されれば景気が回復すると主張してきたが、昨年初めに制裁が解除されてほぼ1年が経過した今も、国民の暮らし向きが大きく向上したという変化は感じられず、政権は焦りを強めている。
しかもロウハニ大統領の後ろ盾となってきた穏健派の重鎮ラフサンジャニ元大統領が8日死去し、5月に予定されている大統領選挙に向けて強硬派が勢いづく可能性が出ていた。とりわけイラン核合意の破棄を主張してきたトランプ氏がイランへの強硬方針を打ち出せば、「反米」の強硬派が一気に優位に立つことも現実味を帯びてくるだろう。
■真夜中のイラン攻撃を進言した新国防長官
ペルシャ湾での米、イランの緊張が高まる中、新しい国防長官に指名された海兵隊の“荒くれ者”ジェームズ・マティス大将が中央軍司令官当時、イラン本土への攻撃をオバマ大統領に進言していたことが明らかになった。
米ワシントン・ポスト紙によると、マティス将軍が中東地域を統括する中央軍司令官だった2011年、イラク駐留米軍はイラン支援のシーア派民兵のロケット弾攻撃を受け、米兵の死者が急増していた。このためマティス将軍はロケット弾の供給元であるイランを直接叩く、という提案をパネッタ国防長官と大統領に行った。
具体的な提案の内容としては、真夜中にイラン本土にある発電所か、精油所を攻撃するというものだった。提案に対し、オバマ大統領はイラン本土への攻撃は地域の不安定な状況をさらに悪化させ、紛争を拡大させると一蹴したが、将軍はそれ以降もイランへの脅威を訴え続けた。
オバマ大統領が中央軍司令官に起用したマティス将軍と面談し、優先課題を尋ねた際、将軍は「3つある。第1にイラン、2つ目もイラン、そして3つ目もイランだ」と答えたという。
将軍はイランが戦争を始める時は高速艇に機雷を積み、ホルムズ海峡にばらまくのが最初の動きになるとし、イラン側が高速艇に機雷を積んだ段階で速やかに破壊する権限を求め続けたが、大統領に拒否され、最終的には任期を全うせずに退官させられた。
筋金入りのイラン脅威論者が10日後には議会の承認を経て新しい国防長官に就く意味はイランにとっても大きいものがある。トランプ次期大統領は9日、ユダヤ人で娘婿のジャレッド・クシュナー氏をホワイトハウスの上級顧問に任命した。
イランとイスラエルは不倶戴天の敵。イスラエルの同盟国である米国の新政権の中枢に座るマティス将軍とクシュナー氏の言動が日本のエネルギー資源の生命線であるホルムズ海峡の緊張に影響を与えるのは確実である。
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