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世界が放置したアサドの無差別殺戮、拷問、レイプ
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/12/post-6578.php
2016年12月19日(月)20時00分 ルラ・ジュブリアル ニューズウィーク
<われわれは過去を振り返り、なぜヒトラーを止められなかったのか、と悩む。だが目の前の大虐殺には、また見て見ぬふりをしてしまった。旧ユーゴスラビア、ルワンダの反省から、武装紛争下の「文民保護」を国連で決議していたのに、あまりに多くの人々が、痛めつけられ苛まれ殺された>
シリアとレバノンの国境地帯から戻ってきた。わずか250キロ先のアレッポでは、口にするのもはばかられる野蛮な行為が行われていた。ジャーナリストとして政策アナリストとして、世界的な人道主義の危機と呼ぶべき実態とその意味を伝えたい。
シリアのバシャル・アサド政権は、大量殺人からシステム化された拷問、強制的飢餓、たる爆弾による無差別殺傷、拘束中の女性、子供、男性に対する組織的なレイプまで、おぞましい戦争犯罪を続けている。これまでに虐殺されたシリア人は50万人、国内で居場所を失った避難民は600万人、国外に逃れた者は500万人にのぼる。まさに絵に描いたような大虐殺である。
■21世紀のモンスター
ロシア軍やイランをバックにしたシーア派武装組織などの援軍を得たアサド政権は、ルワンダや旧ユーゴスラビアの虐殺と匹敵する規模で自国の民間人を殺戮した。ロシアとイランはシリアに武器を売り渡し、使い方を教え、資金を援助した。彼らの支援こそが、アサドの反政府勢力に対する勝利と国内での独裁的地位を確かなものにした。人道主義の危機だ。
【参考記事】 オバマが見捨てたアレッポでロシアが焦土作戦
ナチスによるホロコーストの記憶を消さないため、われわれは今も博物館や図書館を作り続けている。それなのに、目の前で何万人ものシリア人がアサドの爆弾で生きながら焼かれていても見て見ぬふりだ。
生き残ったアレッポ住民はこのバスで避難場所に行く Abdalrhman Ismail-REUTERS
アサドが「21世紀のモンスター」の称号を手にしたことは間違いない。彼は2000年に父親のハフェズ・アサドから嗜虐性と大統領の地位を引き継いだ。ハフェズは1982年に西部の都市ハマーの住民の寝込みを襲って2万人を虐殺し、通りに放置した遺体を3日間燃やし続けたことを自慢にしていた。アサド家の恐怖支配を徹底し、市民が2度と体制に歯向かわないようにするための見せしめだった。だが、息子のバシャルはその父を楽々と凌駕した。バシャルの鉄拳支配と腐敗したマフィアスタイルの統治が、父の野蛮な暴力を上回ったのだ。
【参考記事】 戦火のアレッポから届く現代版「アンネの日記」
今回、アサドの蛮行の一部始終はソーシャルメディアを通じリアルタイムで世間に知れ渡っていたが、アサド政権は厚かましくもその前で堂々と戦争犯罪を続けた。最もよく燃える焼夷弾で通りの住民に生きたまま火をつけ、見る者に最大限の恐怖を植え付けようとした。こうした国家によるテロ行為により、アサドは2011年に平和的に始まった小さな民主主義の実験を忘却の彼方に葬り去ってしまった。アラブ世界発の市民社会への一筋の希望になったかもしれないのに。
アレッポを拠点に戦っていた反政府軍兵士も住民と共に去る Abdalrhman Ismail-REUTERS
【参考記事】 「ホワイト・ヘルメット」をめぐる賛否。彼らは何者なのか?
シリアの民主化運動が、最初は平和的なデモだったことを忘れてはならない。数万人の住民が、社会的公正と政治改革、自由と民主主義を求めて行進したのだ。
それに対し、アサドは国家の治安機構ごと解き放った。平和的な抗議は危機に転じ、荒っぽい内戦になった。民主化活動家は逮捕され、拷問され、大量に殺害された。一方では、正真正銘のならず者たるイスラム過激派が国家刑務所から野に放たれ、アルカイダやISIS(自称イスラム国)に吸収されていった。アサド政権は自らを対テロ戦争の軍と位置付け、イスラム過激派やISISに代わる唯一の選択肢として味方を取り込んだ。
アレッポの病院で避難を待つ怪我人たち Abdalrhman Ismail-REUTERS
2011年、シリア内戦の発端となったのは、ダルア市出身のハムザ・アルハティーブという13歳の少年の死だった。ハムザは拘束され、警察の拷問を受け、弾丸3発で処刑された。切り刻まれた遺体の写真はネットで拡散され、ダルアからアレッポまで大規模な反政府デモが立ち上がった。だが、だが、無実の少年に対する残忍な拷問、切断、殺人という人道に対するこれ以上ない侮辱に対する人々の怒りに対しても、アサドは政府軍の容赦ない力をぶつけた。凄まじい暴力をもって自らの国民を5年以上、殺し続けたのだ。
アサドの攻撃は、彼に抵抗する最後の一人、あるいは最後のグループまで根絶やしにしない限り止まらないだろう。アサドはいくら殺しても、軍事作戦を止めようとしない。ロシア軍の助けでアレッポの住民を一人残らず始末しようとしている。
■自分の首を絞める国際社会
アメリカの次期大統領がドナルド・トランプに決まったことも問題を一層複雑にする。アサドは今、ロシアがあらゆる国際法や慣例に反してアレッポ東部を焼き尽くすのを黙認している。旧ユーゴスラビアやルワンダの虐殺で行われた「人道に対する罪」に対する反省として、国連は1999年、「武力紛争下における文民保護」を決議した。それにも関らず、国際社会はその責任を積極的に無視したのである。ロシアが好きだと公言し人権もお構いなしのトランプの参入で、事態はどう変わるのだろう。
シリアの民主化運動を支持し育成することに失敗したのは悲劇だ。だがそれに続いた内戦を終わらせるために有効な手段を打たず、アサドに戦争のルールを守らせることさえできなかったのは、また大きな別次元の倫理観の崩壊を示している。
アサドの勝利によって、国際社会はいずれ自分の首を絞められることになるだろう。われわれの世代は昔を振り返り、なぜ人はナチスの台頭を許し得たのだろうと疑問に思う。その答えは、シリアにある。そして歴史の審判は、決して人類に優しくはないだろう。
From Foreign Policy Magazine
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