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宮古沖で日本を挑発する中国の狙いは「日中開戦」なのか? 危機回避のため、その真意を読む
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50440
2016.12.13 近藤 大介 『週刊現代』編集次長 現代ビジネス
■アメリカからの「先制パンチ」
2017年「アジア大乱」の序章が幕を開けた――。
アメリカ東部時間12月11日の日曜日、午前10時から『フォックス・ニュース・サンデー』に出演したドナルド・トランプ次期大統領が吠えた。
「私は完全に『一つの中国』の政策を理解している。だが貿易やその他の実務上の交易を達成できないのであれば、われわれはなぜ『一つの中国』政策を甘受しなければならないのか。『一つの中国』政策を維持するかどうかは、中国の通貨政策、南シナ海での海洋進出、北朝鮮に圧力をかけるかなどを見極めてから決める」
これは強烈な中国への「先制パンチ」だった。おそらくトランプ次期大統領が想像しているよりも、中国にとって遙かに大きな痛打となったと思われる。
アメリカと中国は、1972年から国交正常化交渉を始めたが、台湾が中国の一部分かどうかという、いわゆる「一つの中国」問題を巡って、7年間も揉めた。中国は、「台湾問題は国家の核心的問題である」として、世界一の超大国に対して、これを認めないと国交正常化は果たさないと、一歩も譲らなかったのだ。
結局、1979年になってアメリカは、「中国が『台湾は中国の不可分の領土である』と主張している、『一つの中国』の立場を尊重する」ということで決着した。以後、カーター、レーガン、ブッシュ(父)、クリントン、ブッシュ(子)、オバマの歴代アメリカ政権は、この立場を堅持してきた。
ところが12月3日(日本時間)、トランプ次期大統領は、蔡英文台湾総統からの祝福の電話を受けた。いわゆる「12分会談」だ。アメリカの現職及び次期大統領が、現役の台湾総統と直接話をしたのは、1979年以降で初めてだった。
これに対し、中国は猛反発するかと思いきや、意外にも自制を保った。一応、アメリカ政府に抗議はしたものの、「大統領就任前はただの一民間人」という「大人の対応」を貫いたのだった。
■「一つの中国」は売買できない
だが、2度目はさすがに我慢しなかった。中国共産党中央機関紙『人民日報』傘下の国際情報紙『環球時報』(12月12日)は、「トランプよ、お聞きあれ:『一つの中国』は売買できない」と題した強烈な社説を掲載した。その要旨は、以下の通りだ。
〈 トランプと蔡英文が電話で通話し、「台湾総統」と呼んだ時から、多くの人が、この商人出身のアメリカ次期大統領が、「一つの中国」という中米関係の礎石を、自分が執政するようになって短期的な利益を稼ぐために売り渡すのではないかという疑念を抱いてきた。
11日に新たなニュースが入ってきて、多くの人はこの次期アメリカ大統領が、本当に「生粋の商人」であると信じている。同時に、外交方面のことを分からない子供だということも。
「一つの中国」政策は、ニクソン時代以降、歴代のアメリカ政権が受け入れてきており、国際秩序の基本準則の一つとなっている。アメリカも全世界の一代一代のリーダーたちの大多数はバカではない。トランプも、天から降ってきた唯一の聡明な人間というわけでは、決してなかろう。
「一つの中国」政策は、売買できないものだ。トランプを見ていると、ただビジネスだけを知っているようだ。何にでも値段をつけられ、かつ自分の実力は強大で、自分の好きなように売買できると思っている。それならアメリカの憲法にも値段を付けて、サウジアラビアやシンガポールなど盟友の政治制度と売り買いして、そちらを全米で取り入れるか?
トランプは外交の実務を、特に中米関係とは何なのかを、虚心に学習すべきだ。重要なことは、トランプに本や中米の『3つのコミュニケ』などを与えても無意味だろう。中国はトランプと、がっぷり四つの闘争を展開すべきだ。向こうにクギを打ちつけて初めて、中国と世界のパワーを痛めつけてはいけないということを思い知るだろう。
もしもトランプが『一つの中国』の原則を放棄するならば、中国は大多数の国際実務の現場で、アメリカとパートナーを組む必要など、どこにあろうか?
もしもアメリカが公の場で『台湾独立』を支持するならば、そして台湾への武器輸出を勝手に増やすならば、北京はアメリカを敵視する各種パワーを押さえ込み、断ち切る必要など、どこにあるか。われわれはどうして、そのような各種パワーを公開の場で支持し、あるいは裏で武器を提供することをためらうか?
さらに、『一つの中国』政策によって、台湾海峡の平和が保たれ、台湾の繁栄が維持されてきた。いったんトランプが公の場で『一つの中国』政策を放棄したなら、台湾海峡には本物の暴風が吹き荒れることになるだろう。なぜなら中国大陸は、これまでのように武力を伴わない平和統一を優先にする必要がなくなるからだ。
始めに戻って、『台独』勢力は震え上がっているかもしれない。台湾当局はトランプというパイを使い、アメリカを急進的な政策に導いたことを後悔しているかもしれない。今後もしかしたら、蔡英文はトランプからの電話を拒絶するかもしれない。もしもトランプ軍団が大きな火遊びをやるなら、もう何が起こってもおかしくない。
おそらくトランプは、それほど深く考えていないのだろう。彼は『地域の好戦屋』でなく、単に外交経験がないだけだ。アメリカが危険な遊びをすれば、その危険がどれほど広がるかを理解していないのだ。そういったことは聞いて分かるものではなく、身に沁みて経験で感じ取るものだ。
トランプには自身の経験が欠落している。そのため周囲の強硬派の影響を受けやすく、ひいては彼らに操縦されやすい。特にホワイトハウス入りする前は、トランプが何を言おうがどうでもよい。
そうだとすれば、トランプがホワイトハウス入りしてから、『一つの中国』について何と言うかを待とうではないか。中国は十分な弾薬を準備し、トランプの横に座って、『ジェットコースター』に乗ろう。シートベルトを締めないといけない。おそらく世界のさらに多くの人々も同様だ 〉
このように、何とも激しいトランプ批判が飛び出したのである。これまでは、「大統領就任前の言動は容認する」との立場だったが、「一つの中国」を否定しかねないとあっては、さすがに我慢できないということになったのだろう。
私は以前、習近平主席の台湾政策について、ある中国共産党関係者から、次のような話を聞いたことがある。
「習近平主席は、台湾海峡の大陸側の福建省で17年間も務めていたので、台湾との統一問題に関して、ものすごく敏感だ。習近平主席はよく、『台湾は中国の不可分の領土であり、統一しなければならない』と説く。
過去には、江沢民元主席も胡錦濤前主席も、同じ発言をしていた。だが習近平主席の発言を聞いていると、『必ず自分の時代に統一してみせる』という強い意志を感じるのだ。そこが、過去の二人の指導者とまったく違う点だ」
いずれにしても、これだけ中国に毒づかれたトランプ次期大統領が、どのような反応を見せるのか。今後の米中の一挙手一投足に注目していかねばならない。
■宮古海峡で何が起こったか?
ところで中国は、同時期にアメリカに対してだけでなく、日本に対しても、挑発を仕掛けた。
12月10日、防衛省統合幕僚監部が、〈中国空軍のSU30戦闘機2機、H6爆撃機2機、TU154情報収集機1機、Y8情報収集機1機、計6機が、沖縄本島と宮古島の間の公開上空を通過し、航空自衛隊の戦闘機が緊急発進した〉と発表した。
このルートで太平洋に進出する中国軍機は、13年に5回、14年に5回、15年に6回、16年も今回で5回目と、常態化が進んでいる。中国機に対する自衛隊の緊急発進も、今年度の半年だけで407回と、前年度の年間571回の7割を超えた。
だが中国は今回、強烈に反発したのだった。12月10日のうちに中国国防部が、「楊宇軍報道官が記者に示した」という形で、ホームページ上で日本への怒りをぶちまけたのだ。
〈 本日午前、中国空軍機が宮古海峡の空域を西太平洋に向けて、定期的かつ国際法上合法な遠海訓練飛行を行っていたところ、自衛隊がF15戦闘機2機を出動させ、近距離で妨害弾(フレア)を発射し、中国機とパイロットの安全に危害を与えた。中国側はこの行為を重く受け止め、厳正なる交渉を求めた。日本側のこのところの度重なる誤解と誤判断のため、海上及び上空における摩擦、ひいては衝突が起こっている 〉
つまり、合法的な飛行をしている中国機を、日本側が追突せんばかりに邪魔をしたと主張しているのだ。
これに対して防衛省は11日、日曜日にもかかわらず再度、異例のコメントを発表した。
〈 中国軍用機に対し近距離で妨害を行った事実はなく、妨害弾を発射し中国軍用機とその人員の安全を脅かした事実も一切ない。事実と明らかに異なることを中国国防省が一方的に発表したことは、日中関係の改善を損なうものであり、極めて遺憾だ 〉
週明けの12日には、菅義偉官房長官も同様に、定例記者会見で中国に対して抗議の意を述べた。
これに対して中国は、前述の『環球時報』が、トランプ次期大統領に対してと同様に、強烈な日本批判の社説を出したのである。その要旨は、以下の通りだ。
〈 宮古海峡の上空で、10日の午前中、結局何が発生したのか?
中国国防部のスポークスマンは、中国空軍機が10日午前中に宮古海峡を通過しようとしていたら、2機の自衛隊機F15戦闘機が近づいてきて妨害弾を発射したと発表した。だが日本側の反応は不確かで、ある日本メディアは、「防衛省は妨害弾の発射を否定した」と報じ、別の日本メディアは「防衛省は妨害弾を発射したかどうかを明示しておらず、自衛隊が応対したと言っているだけだ」と報じている。
今回の一件は、中日の軍用機が初めて一触即発となったものではない。今年6月、自衛隊機はすでに、レッド妨害弾を発射している。両軍機は数メートルの距離まで接近し、互いのパイロットが中指を立てている。
いずれにしても、東シナ海の上空での緊張は、驚くべき段階にまで来ている。一般人が見ると、もはやどちらかの戦闘機がもう一方を撃墜させかねないところまで来ている。
解放軍と自衛隊は、互いに空中で格闘する準備を整えているが、両国の社会は、戦闘機同士の戦闘のニュースを見る準備ができているだろうか? 中国側はまだできていない。できていないけれども、そもそも一体誰が、東シナ海の情勢をこれほどホットなものにし、中日軍事衝突の序幕がまさに開かれようとしているところまで引き上げたのか?
宮古海峡はスタンダードな国際海域であり、何の争議もない自由通行地域である。中国の海軍も空軍も、ここを通るのは完全に合法的だ。それを日本の戦闘機が邪魔をするのは、明らかにこの海峡地域に対する挑発行為だ。
南シナ海においては、アメリカの軍艦と軍用機が「航行の自由」を宣言し、中国が不満を見せても踏みにじってくる。だがそれでも「数メートル」の距離まで危機が迫ったことはない。かついずれも妨害弾を発射したこともない。日本が宮古海峡でやっている行為は、解放軍が南シナ海でやっていること以上に激しい行為なのだ。
日本は宮古海峡の両側の島嶼で、不断に軍事力を増大させている。過去に中国を威嚇したことがあるミサイルまで使用している。もし解放軍が南シナ海で同様の行為に及んだら、アメリカと日本の世論は何と言うか?
日本は、中国海軍と空軍が、西太平洋で活動を増加させている現実を受け入れるべきである。解放軍は、過去にほとんど「第一列島線」の外側に軍事力を送ったことはなかった。
だがそうかといって、日本人はその海域は天然の「日本の舞台」と思ってはならないのだ。中国のあらゆる行為は厳格に国際法に則っており、それを「中国の挑発」とみなすのは曲解だ。
もしも自衛隊が中国の軍艦と軍用機に対して同様の危険な挑発を続けるなら、早晩、戦闘の責任を負うことになるだろう。そうなると中日の恨みは全面的に点火し、双方の大規模な衝突に発展し、コントロール不能になるかもしれない。
もしも東京が「中国と一戦交える」という覚悟がないのなら、「中国と軍事衝突が起こることも惜しまない」などと虚勢を張るべきではない。それでは局面は悪化していくばかりだ。
中国としては、日本の挑発によって後退する理由はない。中国の空軍能力はいまや、航空自衛隊の能力をはるかに上回っている。もし両軍が衝突したら、日本は決して優勢を保てないだろう。
アメリカがバックにいるとしても、中米には核大国のロジックが働く。そのため、アメリカ軍の援軍というのは、東京が想像しているような、110番したらお巡りさんが駆けつけてくれるようなものにはならないだろう。日米同盟は日本が自由に挑発して、中国が何代にもわたって賠償をしないものではないのだ 〉
このように、日本に対する非難も同様に強烈である。
中国空軍の最新鋭機Su-30MKK 〔PHOTO〕wikipedia
■海洋膨張政策を正当化する方便
思えば4年前の12月13日、中国国家海洋局の航空機1機が、初めて尖閣諸島の領空を侵犯した。航空自衛隊のF15戦闘機が緊急発進して、何とか追い払ったが、日本に緊張が走った瞬間だった。
当時は、この日が南京大虐殺に中国が指定する日だから、このような挑発をしてくるのではないかと日本側は捉えていた。だがいまや、前述のように中国側の挑発は常態化している。
ちなみに今年は、中国では南京大虐殺79周年の国辱の日だった。この日午前10時から、南京の大虐殺記念館では、「犠牲者国家追悼式」を盛大に挙行。国家斉唱の後、820万南京市民が1分間、自動車の警笛を鳴らし続け、「日本への屈辱を忘れない」意思表示を見せる。
こうした中、「日本への報復」に、最も胸をたぎらせているのが、200万人民解放軍なのである。この日の前後であれば、多少の無茶は容認されるという風土が、人民解放軍の中にはある。
私が最近、北京の中国共産党関係者からよく聞くのが、「子供服と大人服の理論」である。これまでの中国は、子供のような存在だったから、子供服を着ていればよかった。だがいまや、アジア最大の大国となったのだから、身の丈に合った大人の服を着る(膨張していく)のは当然のことだという意味だ。
11月に北京を訪問した際には、「パンダと竜の理論」まで、中国人の口から飛び出した。中国はこれまで、まるで北京動物園のパンダのように、周囲からエサを与えてもらう草食動物だった。ところがどんどん成長し、竜のような存在になった。そのため、竜にふさわしい行動を取るというものだ。
いずれにしても、中国の海洋膨張政策を正当化する方便として使っている。換言すれば、「現状を変更する試みを行う」ということだ。
南沙諸島では中国による埋め立てが着々と進んでいる〔PHOTO〕gettyimages
このように、習近平政権の意図は、明快なのである。問題は、2017年以降、トランプ政権がどのような立場に立つかということだ。
いずれにしても、トランプ政権下のアジアは、これまで70年間、平和を享受してきたわれわれ日本人が、未体験な世界に導かれていくような気がしてならない。どうしたら危機を止められるか、智恵を働かせるべきである。
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