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日本学術会議の検討委員会で議論する外園氏(写真右端)と池内氏(右から3人目)(撮影/編集部・長倉克枝)
波紋広がる「軍事研究」解禁 採択されても語りたがらない人も…〈AERA〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20161207-00000212-sasahi-soci
AERA 2016年12月12日号
中国、トランプ、北朝鮮、日本を取り巻く環境がきな臭くなっている。専守防衛に徹し、海外に展開できる装備は持たない自衛隊。安保法とトランプ大統領の誕生で、どう変わろうとしているのか。AERA 12月12日号では「自衛隊 コストと実力」を大特集。最新兵器から出世レース、ミリメシまでいまの自衛隊に密着している。その中から、波紋を広げている防衛装備庁の大学などへの委託研究制度について紹介する。
* * *
昨年度3億円、今年度6億円、来年度は110億円要求。
増え続けるこの金額は、防衛装備庁が創設した大学などへの委託研究制度の予算額だ。昨年度から、大学や企業を対象に研究資金が導入された。戦後、「軍事技術の研究」は禁止されてきたから、事実上の解禁だ。
仕組みはこうだ。同庁が提示した研究分野に、大学や企業の研究者が研究計画を提案。採択された研究者は、3年間で最大9千万円の研究費を得て、同庁の助言を受けながら研究する。
●軍事研究の是非で議論
同様の制度は文部科学省など他省庁でも実施しているが、防衛装備庁の外園博一・防衛技監はその違いをこう説明する。
「委託研究は私たちの防衛行政のために実施するもの。潜在的に、防衛装備(武器)に将来つながる研究を選びます」
防衛装備品の開発に直結する研究ではない、基礎的なものだというが、一覧にはその分野の第一人者と言われる研究者の名前がずらりと並ぶ。そのひとりで、船の省エネ技術を研究する北海道大学大学院工学研究院の村井祐一教授はこう話す。
「これまでの研究を更に進めて、商船の省エネを実用レベルに引き上げるために応募しました」
船底を空気の泡で包んで、水の抵抗を減らして燃料消費を少なくする。村井教授はこれまでも、経済産業省などの研究費を獲得してこうした研究をしてきた。今回3年間で約2800万円の研究費を得るが、「ほかと比べて多額というわけではない」。
車の排熱を電気に変換する熱電変換技術を研究する東京理科大学基礎工学部の飯田努教授は、経産省などのプロジェクトでこれまで材料開発などにメドをつけた。次は実証段階で、防衛装備庁の制度に応募をしたという。
「熱電変換技術は今後、乗用車の省エネ技術として欠かせなくなると見られています。メーカーから厳しい基準が課せられる小型車と比べて、(防衛用の)大型車両なら初期段階の技術実証を進めやすいのです」
昨年、この委託研究制度が始まると、大学関係者や研究者から「軍事研究の是非」をめぐって議論が噴出した。
新潟大学では、同制度への応募について学内研究者から相談があったのをきっかけに専門家会議を開いた。その結果、昨年10月、「科学者の行動指針」を改定。「軍事研究をしない」として、同制度への応募を禁じた。
科学者の代表機関とされる日本学術会議(会長・大西隆豊橋技術科学大学学長)は、戦後2度にわたって「軍事研究」を禁止する声明を出してきた。ところが、今回の制度を受け、今年6月から声明の見直しも含めて、議論を続けている。
この検討委員会は毎月開かれているが、議論の方向性がわかりにくく、迷走しているように見える。関係者はこう話す。
●波紋広がり応募は半減
「日本は平和国家なので、研究者は軍事研究をしないと、建前では言ってきた。ただし、実際は研究者が防衛装備品の研究開発に携わってきています。目に見えるよう委託研究制度を始めたことは、実態に建前を合わせようとしているように見えます。学術会議がまた『軍事研究禁止』の声明を出したら、実態に合っていないと、ネット上でたたかれるんじゃないかとさえ思います」
今のところ、防衛装備庁の委託研究制度への風当たりは強いようだ。今年度の応募件数は44件で、昨年度の109件から半減した。ある大学研究者は話す。
「応募しようとしたら、出さないようにと大学の事務方から止められました」
前出の飯田教授も、戸惑う。
「著名な先生から、『防衛省予算に手を出すべきではない』と言われました。われわれは社会貢献に向けて研究をしているのですが……」
物理学者である池内了(さとる)・名古屋大学名誉教授は11月中旬、防衛装備庁担当者も参加した前出の委員会で「軍事研究反対」を訴えた上で、こう指摘をした。
「研究者だって、(他の研究費と異なり)防衛装備庁の研究費で研究しています、とは言いにくいでしょう」
たしかに、採択された大学や研究者の中には、公の場で語りたがらない人も少なくない。同委委員長を務める法政大学の杉田敦教授はこう打ち明ける。
「採択された複数の大学に、委員会に来てほしいと依頼しましたが、すべて断られましたよ」
●語りたがらない研究者
どちらかといえば、反対派の研究者の声が大きく、中立や賛成の研究者は沈黙し、互いの歩み寄りがない。防衛予算から大学などへの委託研究が増えると見られている中で、研究成果の帰属をどうするかなどオープンな対話が必要ではないか。
これまでも防衛予算のうち科学技術関連予算は1千億〜1500億円、毎年計上されてきた。防衛装備庁は来年度から、導入済みの委託研究制度に加えて、1件あたり5年間で最大10億〜20億円の大型研究プロジェクトを新たにスタートさせる。大学などを対象とした予算規模は、他省庁と比べても最大級。「エンジンの耐熱材料開発」などの研究テーマを想定している。
背景には、日本周辺の安全保障環境の変化に、技術の進歩が追いつかず、日本単独での防衛装備品の技術開発が困難になっている現状がある。防衛産業の市場規模は約1.8兆円。航空機産業や造船、家電などとほぼ同程度の市場規模だ。国内防衛産業の受注実績で見れば、年間1.3兆円に落ち込む。これは国内の靴・履物小売市場(約1.4兆円)に等しく、勢いはない。国内防衛産業は、防衛省の発注でほとんどが支えられているが、ここ数年、急速に輸入比率が高まっている。
「新しい科学技術の開発が頭打ちで、研究開発に勢いをつけたいというニーズが政府内に高まっています。我々がその一翼を担うという意気込みです」(前出の外園氏)
政府は成長戦略の一つとして、防衛装備品輸出をもくろみ、条件つきで武器輸出を解禁した。実際は国内産業に技術力がなく高コスト構造で、国際競争力がないのが実態だ。拓殖大学の佐藤丙午教授はこう話す。
「最初の構想が重要ですが、研究者や技術者同士が一緒に議論をする必要があります。今の防衛装備庁はそれが十分ではなく、将来的に大学研究者が関わってほしいのでしょう」
最近はドローンや情報技術など民生優位なものも少なくない。なにより防衛と民生の技術の境界があいまいだ。防衛技術の開発プロセスをオープンにしないと、民生技術とともにじり貧になってしまう。(編集部・長倉克枝)
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