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露大統領府(クレムリン)で、外交文書の受領式典に参加したウラジーミル・プーチン大統領(資料写真、2016年11月9日撮影)。(c)AFP/SERGEI KARPUKHIN〔AFPBB News〕
北海道の危機、ロシアが北方領土にミサイル配備 ロシア地対艦ミサイルには陸上自衛隊地対艦ミサイルを
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48526
2016.12.1 北村 淳 JBpress
ロシア海軍極東艦隊が、国後島と択捉島に島嶼防衛用の地対艦ミサイルシステムを配備したことを公表した。
ロシア外交当局ならびにロシア軍部に、占領地域を日本に返還する発想など存在しないことは周知の事実である。それにもかかわらず日本側には安倍・プーチン会談への期待が高まっていた。だが、安倍・プーチン会談の直前に地対艦ミサイルが南千島に配備されたことにより、日本当局は改めてロシアとの領土問題交渉の困難さを再認識させられたようである。
方領土の位置(出所:内閣府)
■米海軍を牽制する国後の地対艦ミサイル
ロシア軍が国後島に配備した地対艦ミサイルシステムは、Zveda Kh-35対艦ミサイルの地上発射バージョンで、3K60「バル」地対艦ミサイルシステムである。Kh-35対艦ミサイルは航空機発射型、艦艇発射型それに地上発射型があり、西側諸国でポピュラーなアメリカ製対艦ミサイル「ハープーン」になぞらえて、「ハープーンスキー」と呼ばれている。
国後島のバル地対艦ミサイルシステムから発射されるKh-35対艦ミサイルの最大射程距離は、従来型の場合130キロメートル、最新型の場合300キロメートルと言われている。いずれも、非核弾頭(高性能爆薬弾頭)が搭載され、海上から10〜15メートルの低空を巡航速度マッハ0.8で飛行し、攻撃目標に突入する際には海上すれすれの高度4メートルを飛翔する。
バル地対艦ミサイルシステムを国後島に配備した主たる目的は、アメリカ海軍の水上艦艇、とりわけ空母打撃群が国後島周辺の海峡部を自由に航行するのを妨げるとともに、アメリカ海軍水陸両用戦隊の国後島への接近、上陸を阻止することにある。
もちろん、国後島、色丹島、歯舞諸島の周辺海域を航行する海上自衛隊水上艦艇を撃破するには十二分な威力を発揮する。
バル地対艦ミサイルの射程圏
■択捉島には“史上最強”の地対艦ミサイル
バル地対艦ミサイルよりも数段強力なのが、択捉島に配備されたK-300P「バスチオンP」沿岸防備ミサイルシステムである。この地対艦ミサイルシステムは、地上移動式発射装置から飛翔速度マッハ2.5のP-800「オーニクス」超音速対艦ミサイルを発射する。現在のところ史上最強と言われている地対艦ミサイルである。
バスチオンP地対艦ミサイルシステムは、指揮管制用車両と支援用車両3〜4両とミサイル発射用車両4両、それに予備ミサイル装填用車両4両から構成されており、25キロメートル四方の範囲に分散配置して作戦行動することができる。
バスチオンP地対艦ミサイルの発射装置
オーニクス超音速対艦ミサイルは、敵の迎撃ミサイルを回避しながら、対艦攻撃だけではなく地上目標の攻撃も可能である。対艦攻撃の場合、最大射程距離は120キロメートル(発射直後から着弾まで超低空飛行を続けた場合)から350キロメートル、対地攻撃任務の場合には450キロメートルとされている。
択捉島中央部に配置についたバスチオンP地対艦ミサイルシステムからは、択捉島、国後島、色丹島、歯舞諸島、それに得撫島周辺海域に接近する日米の水上艦艇を攻撃することが可能である。国後島に配備されたバル地対艦ミサイルと連動すれば、アメリカ海軍空母打撃群や、海兵隊が乗り込んだ水陸両用戦隊が南千島へ接近するのを阻止する態勢は極めて強固なものとなる。
日本にとっては、有事の際には海上自衛隊艦艇が北方4島へ接近するのが困難になるだけでなく、旭川や帯広を含む北海道の東半分が、オーニクス超音速対艦ミサイルの攻撃圏内にすっぽり収まってしまうというきわめて深刻な事態となったのだ。
バスチオンP地対艦ミサイルの射程圏
■軍事的対抗策をとらねば国家とは言えない
地対艦ミサイルの南千島への配備は、ロシア軍がプーチン大統領の日本訪問に合わせてあわてて実施したわけではない。強力な地対艦ミサイルシステムを国後島、択捉島などに配備する計画は、すでに2013年には明らかにされており、2015年には2016年中に配備を完了する旨が再確認されている。ロシア軍にとっては「以前からの予定通り、2016年12月までに南千島に配備した」だけのことである。
したがって、これら地対艦ミサイルシステムの配備が明らかになったからといって「プーチン大統領の訪日直前というタイミングで地対艦ミサイルを南千島に配備しなくともいいではないか」という感情論が日本政府筋から湧き出るのは、むしろ外交の無策さをさらけ出すことになる。安倍・プーチン会談の日程が決まる以前からロシア軍側の予定は存在していたのであるから、むしろ日本の外交当局が間の悪い日程を組んだだけと言うべきであろう。
とはいうものの、北海道の内陸奥深くまで攻撃することができる長距離対地攻撃能力を有するバスチオンPが択捉島に配備された以上、日本としては何らかの軍事的防衛策を目に見える形で講じないわけにはいかない。
相手国が自国領内を攻撃する態勢を突きつけたならば、こちらも相手側に反撃する態勢で呼応して、軍事的バランスをとるのが国家として当然の対応である。
だが、残念ながら自衛隊は過去半世紀以上にわたって敵に反撃する能力を極力保持しないよう強いられてきたため、強力な反撃能力、とりわけ敵の地上目標に対する反撃能力をほとんど手にしていない。今回の場合も、自衛隊は対地攻撃用の長距離巡航ミサイルを保有していないため、択捉島のバスチオンPによる北海道への対地攻撃に対抗する長射程ミサイル配備はできない。
しかしながら、陸上自衛隊は国産の極めて高性能な地対艦ミサイルシステム(12式対艦誘導弾、88式対艦誘導弾)を装備しており、世界でもまれな地対艦ミサイル連隊という、地対艦ミサイル運用に特化した部隊を保有している。
よって、日本政府がとるべき対策は、直ちに国後島対岸地域に地対艦ミサイル部隊を展開させ、国後島と択捉島に展開されるロシア軍の地対艦ミサイル戦力に呼応した態勢を示すことである。(とはいっても、オーニクスという超音速巡航ミサイルから旭川や帯広を防衛する態勢を固めることにはならないが。)
陸上自衛隊地対艦ミサイル射程圏
相手国の軍事的脅威に対応した防衛態勢を明確に示すことこそ、軍事衝突ひいては戦争を防止するために必要不可欠な措置なのだ。その上でようやく“まともな”外交的駆け引きが開始されることを、いい加減に日本外交当局は認識する必要がある。
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