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イスラーム国の黒旗のもとに サーミー・ムバイヤド著
シリア現代史から内戦考える
「イスラーム国」(IS)の軍事的退潮が明らかになっている。シリア側にある「首都」ラッカにはクルド人中心の勢力が進軍を始め、イラク北部のIS最大都市モースルにイラク軍が迫る。いずれもアメリカが支援している。遅かれ早かれISは軍事的には打倒されるだろう。
しかし、シリア内戦にせよイラク国内の対立にせよ、問題はそれで終わらない。世界各地でうごめくISのシンパたちが暴力事件をおこす可能性は、今後も十分ある。ISが注目を浴びてから2年半たった今こそ、このジハード主義集団の由来と背景をじっくり考える必要がある。そのために日本語で読める本として最良のものが出た。
ISはイラクのアルカーイダ系弱小組織がシリア内戦の混乱に乗じて成長し、旧フセイン政権の残党を吸収して軍事・行政能力を高め、両国にまたがる領域支配に至ったものである。これは衆目の一致するところで、ゆえにISは基本的にイラクの問題なのだが、本書はそれをシリア現代史の文脈にきちんと位置づける。著者がシリア人の歴史家ゆえであろう。
シリア農村部では、ISだけでなく「ヌスラ戦線」として知られた現「シリア征服戦線」をはじめ、多数のジハード主義的反体制派が根強く戦っている。周辺国からの支援や介入はその要因の一つである。またウサマ・ビンラディン以前から連綿と続くジハード主義的思想・運動の、シリア国内での系譜や曲折もある。しかし根本には、アサド政権が農村部や都市郊外を「振るい落とし、腐敗した貧困と無知の中に放置し」て、一定の人口をジハード主義の側に追いやった事情がある。
そして決定的だったのが2003年のイラク戦争で、その不正義に対する憤りが多くのシリアの若者をイラクに走らせた。その彼らが今日シリアに戻って民兵を指揮している。アサド政権は対症療法的にイスラーム勢力への政策を操作してきたが、ついに破綻して内戦を迎えた。この過程が活写されている。
ISは、シリアとイラクという(似ていない)双子のバース党政権国の戦乱に生じた、ジハード主義運動の渦からのスピンアウトである。これが今度は欧米や中国など世界各地で疎外された若者たちをもひきつけている。このおこるべくしておこった事態に、アメリカやサウジアラビア、トルコなど何と多くの国々が直接・間接に関与してきたか。その現実にいかに私たちは知らぬふりを決め込んできたか。こうしたことを痛感させられる一書である。
原題=Under the Black Flag
(高尾賢一郎・福永浩一訳、青土社・2600円)
▼著者はシリア生まれの歴史家。
《評》東京外国語大学教授
黒木 英充
[日経新聞11月13日朝刊P.21]
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