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「IS」を攻撃するため、シリア沖の地中海にいるロシア海軍の空母アドミラル・クズネツォフから飛び立った軍用機を撮影したとされる画像。2016年11月15日にロシア国防省ウェブサイトに掲載された動画から。(c)AFP/Russian Defence Ministry〔AFPBB News〕
トランプ勝利に反応か?ロシアがシリア空爆を再開 トランプの安保政策は未知数だが、早くも動いたプーチン
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48416
2016.11.18 黒井 文太郎 JBpress
11月15日、ロシア軍がシリアでの大規模な空爆を再開した。これはトランプが米大統領選に勝利したことを受けて、プーチンが素早く動いたということにほかならない。
トランプ勝利については、米本土で反対デモが激化するなどの余震が続いているが、国際政治では、すでにその影響が現実に出てきているのだ。
■矛盾したトランプの安全保障政策
その背景を見ていく前に、まずはそもそもトランプの安全保障政策について考えてみたい。
トランプの安保政策は、現時点では「未知数」ということに尽きる。選挙戦期間中は、オバマやヒラリーへの批判ということもあったろうが、思いつきのような意見を連発した。米国民の生活に直結する移民問題や保護貿易などの分野には独自の急進的な主張があったが、安全保障は専門外であり、選挙の主な争点でもなかったから、それほど力を入れているようには見えなかった。
選挙戦期間中のトランプの、安保分野での主な主張は以下のようになる。
「欧州やアジアで軍事的役割を縮小し、同盟国にコストを支払わせる。支払わないなら米軍撤退も考える」(日韓などの核武装容認は後に否定)
「アメリカに関係ない紛争からは手を引く」
「強いアメリカの復活のため軍備を大幅に増強する」
「ISは殲滅する」
「イランは信用できない」
「イラクから米軍を撤退させるべきではなかった」
「プーチンと連携したい」
矛盾点はいくつもある。たとえば、オバマ政権批判のため「イラクから米軍が撤退したからISが台頭したのだから、米軍のイラクからの撤退は間違いだった」としているが、それと同時に米軍がさまざまな国際紛争に介入することは反対している。
そもそも、米軍はアメリカ防衛のものだとして世界的な展開・運用を縮小させたい意向だが、同時に現在進められている防衛費削減・兵力削減に逆行して、米軍の戦力の大幅増強を主張している。アメリカばかりが負担してきた海外での軍事力展開に批判的な国民世論と、予算削減に抵抗する軍の両方にアピールしたわけだが、運用縮小と軍備拡張というこれも矛盾した政策になる。
■公約した大幅な軍備増強は不可能
トランプは政治経験がなく、安全保障分野では素人だから、ある程度はしかたがない。安全保障分野ではマイケル・フリン元国防情報局長などのアドバイザーがいるが、今後、政権移行に向けて米官僚機構、軍や情報当局などのブリーフィングを受ける。つまり、さまざまな事実を知ることになるわけだ。それを受けて、トランプの安全保障政策がどうなるかは、現時点では不明だ。
まず財政状況からして、選挙戦でぶち上げたような大幅軍備増強は不可能だろう。トランプのプランでは、陸軍兵力は現在の49万人から54万人に、海兵隊は大隊を23個から36個に、海軍は水上艦と潜水艦を現在の275隻から350隻に増強、空軍は戦闘機を約100機増強するとしている。これにより、国防予算は少なくとも年間550億ドル(約5兆6000億円)以上アップすることになる。議会で通るわけがない。
日本などの同盟国にコスト負担を求めることにはなるだろうが、それを不満として実際に米軍をどんどん撤退させるというのも考えにくい。アメリカの安全保障に無関係の紛争に介入することは控えるとはいえ、米軍の海外展開は主にロシアや中国などの軍事大国を見据えたアメリカの安全保障と直結しているからだ。コスト分担によるアメリカ一国の役割軽減はあっても、抑止力低下は容認できないだろう。
日本では早くも日米同盟の破棄と自主防衛の可能性まで一部では議論になってきているが、日米双方に不利益が大きすぎるので、現実にはないだろう。
ちなみに、トランプのアジアでの安保政策も、現時点では米軍のコスト削減ぐらいのもので、それ以上のことはまだよく分からない。おそらくそれほど関心がなかったのだろう。
中国については、安全保障問題よりも経済分野で批判的だ。為替操作によってダンピングしていると強く中国を非難しており、漠然と敵意があるようだが、安全保障でそれほど危機感があるというわけでもないようにみえる。
他方、対北朝鮮政策は注目である。選挙戦ではアジアの安全保障はほとんど争点にならなかったので、トランプもあまりまだ関心はないかもしれないが、北朝鮮は核ミサイルの戦力が一気に強化されている。やがて米国本土を射程に収める核ミサイルを実戦配備することになるだろうが、これはアメリカの国家安全保障の問題そのものである。いきなり北朝鮮攻撃ということにはならないだろうが、トランプはことアメリカ本土への脅威には強く反応する可能性がある。
■「単純」ではないプーチンの腹の内
いずれにせよ、結局のところトランプ次期政権の安全保障政策の行方で最も注目されるのは、やはりロシアとの関係がどうなるかということだ。
プーチン政権は、手強いヒラリーを落選させるため、ハッキング情報を流してトランプ勝利に裏から手を貸した。公にもしきりとトランプを持ち上げてきている。
トランプの側も、そんなプーチンを好ましく思っているようで、選挙戦期間中もさかんにプーチンを賞賛・評価するコメントを発してきた。つまり、現時点でトランプとプーチンの関係は良好である。
ただし、これも今後の行方は、現時点では予測不可能だ。トランプは前述したようにアメリカと関係のない紛争への軍事介入に否定的だ。したがって、シリアやウクライナでロシアの意向に大きく妥協する可能性がある。とくにシリア問題では、ロシアと協力してISを殲滅したいとの考えだ。
ただし、ロシアがプーチン政権の現在の強気の姿勢でさらに世界展開を推し進め、NATOやアジア太平洋の米軍の優位を脅かすような動きに出てきた場合、トランプが一気に反発する可能性もある。彼はNATOやアジア太平洋での米軍の役割と運用コストの低減を主張しているが、アメリカの安全保障を軽視しているわけではない。
そのため、たとえば親ロシア陣営の独裁国家ベラルーシのルカシェンコ大統領などは、トランプ勝利について「米国をより偉大な国にしたいという人物が政権に就くだけ」との冷めた見方を示している。プーチンは現時点でトランプを手放しで賞賛しているが、むろん表向きのことで、腹の内はそう単純ではあるまい。トランプ次期政権との駆け引きを視野に戦略を立てているはずである。
■今のうちにシリアの反体制派を撃破したいロシア
このように、トランプの安全保障政策の行方は未知数だが、対するプーチンの側は、冷徹にロシアの国益を計算し、今後も矢継ぎ早でさまざまな手を打ってくるだろう。
たとえば、プーチンにとって得策なのは、強硬な手を打ってこないであろうオバマ政権の残りの期間に、ロシアの国益に沿う軍事行動をやれるだけやって実益を確保した後、来年1月20日のトランプ政権発足と同時に対米対話を呼びかける、といったことかもしれない。
すでにシリアでは、冒頭に述べたように、ロシアの新たな動きが始まっている。
ロシアは、シリア北部の町・アレッポでの無差別空爆が国際社会の非難を呼んだことから、アサド政権軍とともに10月20日に攻撃をいったん停止した。だが、わずか2日後にアレッポを含めシリア各地での攻撃を再開。10月26日にはイドリブ県で学校を空爆し、20人以上を殺害するなどしていた。
その後、米大統領選の4日前の11月4日に再び攻撃を部分的に停止していたが、大統領選でトランプが勝利すると、当面アメリカの強い介入は考えにくい状況になったことを受けて、再び大掛かりな攻撃を開始した。
11月13日にはアレッポの住民に対して「24時間以内に退避せよ」と通告。その2日後となるこの11月15日に、いよいよアレッポ含めてシリア全土で大規模な空爆を開始したのである。
今回の攻撃には、シリア沖に展開したロシア海軍の空母「アドミラル・クズネツォフ」の艦載機も参加している。今後、ロシア空母部隊は地中海東部でいつでも作戦可能だということをアピールする、いわばNATOへの挑戦でもある。
ロシア国防省は攻撃目標を「ISとシャーム・ファタハ戦線(イスラム系ゲリラの有力組織)の軍事拠点」としているが、実際には民間人の居住地域への攻撃で、少なくとも5つの病院と1つの移動診療所も攻撃を受けている。主な攻撃エリアは東アレッポの他に、イドリブ県とホムス県西部である。いずれもISの勢力の弱いエリアであり、実際の攻撃目標はシャーム・ファタハ戦線を含む反体制派全体であることは明らかだ。
今回のロシアの作戦は、とにかく今のうちに、どんなに国際社会の非難を受けたとしても、シリアで反体制派を撃破し、アサド政権の権力基盤を強化したいということだろう。オバマ政権の末期で、次期がトランプ政権である今は、プーチンにとってはまさに好機到来なのだ。
■ロシア軍とアサド政権の大規模な攻撃は続く
トランプは選挙戦中から、シリア問題では対IS戦を最重視しており、むしろロシアと協力することを主張してきている。アサド政権に対しても敵視することはなく、それより反体制派をイスラム過激派と見なしている。したがって、トランプ次期政権はアサド政権を容認し、シリア反体制派への支援を停止する可能性がある。
しかし、プーチンは、それを期待してトランプ政権誕生を黙って待つほど甘くはないだろう。実際に、プーチンは動くときは早い。ロシア空母が今回、シリア沖に向けて出航したのは米大統領選の前の10月16日である。仮にトランプ勝利でなくとも、空母はそこにいるわけだ。おそらくヒラリー勝利であれば、来年1月から米軍が出てくる可能性が高くなることから、プーチンはまた違う手を打っているであろう。
今後、シリアでは、民間人居住地区での無差別攻撃という国際法違反の戦争犯罪をまったく厭わないロシア軍とアサド政権によって、さらに大規模な攻撃が続く。多くの一般住民が殺害され、さらに多くの難民が発生するのは不可避の情勢だ。
このように、トランプの安保政策はまだ未知数だが、プーチンはすでに先手を打ってきている。トランプ勝利の影響は、すでにシリアでは始まっているのだ。しかも、民間人の被害が激増するという悪い形で。
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