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和平を捨てたコロンビア
2016/11/08
岡崎研究所
コロンビアで行われた国民投票で、4年にわたる交渉の末に妥結された和平合意が否決されたことについて、10月4日付の英フィナンシャル・タイムス紙が社説を掲げています。要旨は、以下の通りです。
iStock
今後の道筋が見えない
10月2日、コロンビアの国民投票は、予想に反し、和平合意を否決した。国民投票は、政府と国内最大のマルクス主義ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」が先週署名した和平合意の賛否を問うものだった。4年をかけた協議でまとめられた合意は、西半球で最も古くから続く内戦を終わらせるものだったが、今後の道筋は全く見えなくなった。
サントス大統領も、反対運動を率いたウリベ前大統領も代案を持っていないという点では、状況は英国のEU離脱をめぐる国民投票に似ている。異なるのは、これが人命に係わる問題ということだ。約7000人の反政府軍は現在宙吊り状態にあり、動員解除を見守るはずだった国連部隊も行き場を失ってしまった。
今後何が起きるのか。6月の停戦合意の効力はまだ消えていない。サントス大統領は、投票結果を認めるとしながらも、残り2年の任期終了まで和平努力を続けるといっている。FARCも同様の発言をしている。ウリベ前大統領もサントス大統領に同意しているが、これから何をするのかは曖昧なままである。
4年間の交渉努力がすべて無駄になったわけではない。FARCは従来全く認めてこなかった法律に従う意思を示している。これは重要な成果である。
しかし、犠牲となったものの1つが経済である。商品価格の下落によって財政が大打撃を被ったため、改善のために財政改革法を通す必要がある。サントスは増税を、ウリベは歳出削減を求めている。打開策がなければ、コロンビアの信用格付けは下がり、計画されている事業の停止もありうる。
コロンビアの国民投票から教訓を得ようとする機運は、国際的に広がっている。同政府は、FARCの麻薬テロリストらへの国民の反感を過小評価していた。殺人、誘拐、強盗が続いた50年を経て、不信感を抱くのは当然である。だが、世論調査は、賛成派の圧勝を一貫して主張し、英国の国民投票と同様、国民のムードを捉えきれていなかった。多くの人が、11月の米大統領選前の世論調査も同じ失敗をするのではないかと疑問視している。
出 典:Financial Times ‘Onus on Colombia’s No camp for ‘better’ accord’(October 4, 2016)
https://www.ft.com/content/273f90f2-895e-11e6-8aa5-f79f5696c731
コロンビアのサントス大統領は、キューバにおける左翼ゲリラFARCとの4年にわたる交渉の結果、和平合意にこぎつけました。しかし、この合意を国民投票にかけたところ、僅差で否認されました。今後、和平がどうなるのか、不透明な状況になっています。
FARCと再交渉することになるでしょうが、和平合意への不満は、FARCに対し甘すぎる、刑事責任の追及が不十分であるということでしたから、今後の再交渉はFARCにさらなる譲歩を迫るものにならざるを得ず、うまくいくかどうか、わかりません。
ノーベル平和賞
今年のノーベル平和賞は、この和平合意が国民投票で否決されたにもかかわらず、サントス大統領に授与されました。約50年も続き、20万人以上の犠牲者が出ている内戦の終結が国際的に強く望まれていると、ノーベル賞委員会が判断したことの証左でしょう。
サントス大統領は、停戦合意は依然有効で、残る2年の任期で和平実現に努力すると言っています。FARC側も停戦の有効性を認めています。従って再交渉がまとまる可能性は十分にあります。FARCは一時2万人の兵士を擁していましたが、今は6000〜7000人に勢力が減っています。和平合意への反対を率いたウリベ前大統領は、対FARC強硬策で、FARC勢力の減少に成果を上げました。今回の和平合意は、ウリベの成果の上にサントスの努力が実ったものとして、ウリベ前大統領も反対論を緩和することが望まれます。
FARCも平和的な政治勢力としての政治参加への道が開かれることに希望を持っています。
この論説が指摘する経済への悪影響については、和平が実現できれば軍事支出も減らせるので、財政的にも楽になります。
この論説は世論調査が間違うことに、Brexitの例も引きつつ警鐘を鳴らしています。しかし、そんなことは大きな問題ではありません。Brexitのケースも今回のコロンビア和平合意のケースも、国民投票にかけるべき問題であったか否かが大きな問題です。国民に決定を丸投げしたところに問題があります。一見民主的手続きの尊重のように見えますが、国民投票の結果は合理的であるより、感情や熱狂やデマゴギーに左右されることも多いです。どういう場合に国民投票をするかはよく考えられるべき問題です。サントス大統領は国民の支持を得て、和平を進めたいと考えたのでしょうが、自分の責任で国民に良いと思うことを実行することにした方がよかったと思います。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8129
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