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南シナ海に面したフィリピン・サンバレス州サンアントニオ沖で、米比合同演習に参加した米海兵隊の強襲揚陸艇(2016年10月7日撮影、資料写真)。(c)AFP/TED ALJIBE〔AFPBB News〕
劣勢を承知の上で国防の覚悟を示したインドネシア 中国の横暴に対抗、南シナ海周辺で8カ国が軍事演習を実施
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48096
2016.10.13 北村 淳 JBpress
中国の海洋覇権確保の勢いが止まらない南シナ海周辺で、中国に脅威を受けている国々をはじめとする各国の軍隊が盛んに軍事演習を行っている。
■同時期に実施された「フィブレックス」「ベルサマ・リマ」
ここのところオバマ政権の対中弱腰姿勢が続いてきたが、10月3日と4日、アメリカ太平洋艦隊は強襲揚陸艦と2隻の駆逐艦による対潜水艦戦、対空戦闘の演習を南シナ海で実施した。それに引き続き、4日から12日にかけて、フィリピンの南シナ海沿岸域で、アメリカ海兵隊とフィリピン海兵隊による米比合同水陸両用戦演習「PHIBLEX(フィブレックス) 33」が実施された。
フィリピンのドゥテルテ大統領の暴言によってアメリカとフィリピンの間にはギクシャクした雰囲気が漂っているものの、毎年実施されているフィブレックスは予定通りに実施された。ただし、ドゥテルテ大統領によると、今回の合同演習でアメリカ軍との合同演習は最後になるかもしれないということだ。
また、米国とフィリピンの海兵隊同士の合同演習が行われているこの時期に、フィリピン国防大臣は、南シナ海でのアメリカ海軍との共同パトロールからは手を退く方針を打ち出した。したがって、フィブレックスでは敵による上陸侵攻への対抗戦闘などの演習を行ってはいるものの、中国に対する抑止効果は薄くなってしまっている。
一方で同じく10月4日から、マレーシア、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランド、イギリスの5カ国の軍隊(海軍、陸軍、空軍)による「Bersama Lima(ベルサマ・リマ) 16」演習も南シナ海南部で実施されている。
これら5カ国間には「5カ国防衛取極(FPDA)」が存在し、マレーシアあるいはシンガポールが軍事攻撃を受けた場合には、締約国は協議の上、何らかの行動を起こすことが取り決められている。
この合同軍事演習の目的は、5カ国の軍隊間の相互信頼、そして相互運用能力の醸成である。特に今年の合同演習では、中国による南シナ海への覇権拡大の勢いに対して、5カ国で牽制の意思を表示するという狙いがある。
■インドネシアがナトゥナ諸島で演習を実施した理由
フィブレックスやベルサマ・リマと平行して、インドネシアでもインドネシア軍始まって以来の大規模な軍事演習(「Angkasa Yudha(アンカサ・ユダ)」)が実施された。かつてはインドネシアと中国との間には領域紛争がなかったため、インドネシア軍が中国の侵略を想定した軍事演習を行うことはなかった。しかし、今年になって大きく事情が変わったため、インドネシアが大規模軍事演習を実施したことは注目を集めている。
今回のインドネシア軍の演習は、この種の演習の常で、公的には「定期的な演習」である。だが実際には、6月に開かれたナトゥナ諸島周辺海域の軍艦上の主要閣僚会議で“ジョコウィ”(ジョコ・ウィドド)大統領が示した「ナトゥナ諸島周辺海域を中国の海洋侵出の魔手から守り抜く」という防衛方針に沿った行動の一環であることは明らかである。
なぜならば、もともとこの演習はスマトラ島東方海上のブリトゥン島で実施される計画だったのだが、中国によるナトゥナ諸島周辺海域への領域拡張意思の表明(本コラム2016年6月30日「インドネシア大統領、中国の横暴に毅然と抵抗宣言」参照)があったために、ナトゥナ諸島で実施されることになったからだ。
今回の演習には海軍艦艇は参加しなかったため統合海洋演習ではなかったものの、戦闘機、輸送機、各種ヘリコプターなどの空軍航空機合わせて70機と2000名の空軍将兵が参加しての過去最大規模の軍事演習であった(日本での報道では、海軍艦艇それも空母が参加したと伝えられているが、そもそもインドネシア海軍は空母など保有していない)。Su-27、Su-30(ともにロシア製)、F-16A/C(アメリカ製)といったインドネシア空軍の主力戦闘機による空中戦演習や、沿海域への爆弾投下演習、それに占領された航空施設の奪還演習なども含んだ実戦的演習が繰り広げられた。
インドネシア空軍Su-27戦闘機
インドネシア空軍F-16戦闘機
■国防の覚悟を示す必要性を知るインドネシア
中国はナトゥナ諸島の領有権を主張しているわけではない。またインドネシアは南沙諸島に対する領有権を主張していない。そのため、インドネシアと中国の間には、南シナ海での領土・領海を巡るトラブルは存在しない。
しかし、中国が南シナ海の大半を「中国の主権的海域」と主張する根拠となっている「九段線」の最南端付近海域はナトゥナ諸島周辺海域とオーバーラップしているとも考えられなくはない。なんと言っても九段線という曖昧きわまる“境界線”で囲った海域の範囲は、不明瞭の一語に尽きる。
そのよう明確さのかけらもない境界海域に関して、中国側が「中国とインドネシアの主権的海域は一部がオーバーラップしている」と言い出したため、インドネシア側が警戒を強めているのは理の当然と言えよう。
南シナ海や東シナ海での中国による海洋覇権確保のプロセスを観察すれば、相手側の軍事的弱点あるいは軍事的に弱腰な姿勢をついて中国の支配権を主張し続け、アメリカの軍事的関与が低下した状況が生じた隙に、場合によっては戦闘をも含んだ軍事力の直接行使によって、中国の実効支配領域に組み込んでいることは、誰の目にも明らかだ。
インドネシアはそのような事態を少しでも抑止するために、自らが保持する航空戦力を最大限に投入してでもナトゥナ諸島周辺海域は守り抜く「覚悟」を中国側に見せつけたのだ。その際、中国人民解放軍海洋戦力との大規模な本格的軍事衝突になればひとたまりもない(注)ことは百も承知である。
(注:たとえば、インドネシア空軍はSu-27、Su-30を合わせて16機、F-16A/Cを16機、それらより旧式の戦闘機を21機保有しているのに対して、中国空軍はSu-27とそれと同等のJ-11を合わせて250機ほど、F-16と拮抗するJ-10を250機以上、中国海軍はSu-27を24機、アメリカのF/A-18に匹敵するJ-15を50機以上と桁違いの数の戦闘機を保有している。また、中国軍はインドネシア軍が保有していない早期警戒管制機や空中給油機それにミサイル爆撃機なども多数保有している。)
いくら口先だけで「領土や領海を守る」と宣伝しても、中国の海洋拡張政策にブレーキをかけることは不可能である。インドネシアやベトナム(本コラム2015年6月25日「中国の圧倒的な軍事力に立ち向かうベトナム」、2016年8月18日「中国の海洋進出にロケット弾を向けるベトナム」)と同様に尖閣諸島という中国との主権衝突に直面している日本も、場合によっては軍事力を繰り出してでも自国領域は守り抜くとの強固な「覚悟」を行動を持って示さねばなるまい。
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