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北朝鮮、本気の核戦略
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160920-35028154-bpnet-pol
nikkei BPnet 9月20日(火)9時43分配信
2016年9月9日、北朝鮮は5回目の核実験を強行した。同日、安倍総理大臣は、韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領と電話会談を行い、「“今までとは異なる“レベルの脅威であり、新たな段階の脅威に対し、”今までとは異なる“対応をしていかなくてはならないとの認識で一致した」と語った。一体、どのように”今までと異なる“のだろうか。そして、今後、私たちは、いかなる対応をしていかなければならないのか。
今回の核実験に先立ち、北朝鮮は弾道ミサイルの発射も相次いで強行している。なぜ、彼らはこのような”無謀”とも思える挑発行為に打って出るのか。実は軍事的な観点から考えると、彼らの行為には現実的な意味が見出せる。今回は、そのロジックをひも解き、日本、米国及び韓国が、今後、対北朝鮮戦略で本格的にギア・チェンジをしなければならない時代に入ったことを明らかにしてみたいと思う。
●北朝鮮による核実験の軍事的な真価
今回の核実験によって、北朝鮮は核の小型化に成功したのではないか、と伝えられている。どの程度まで小型化が前進したかは詳細な分析が待たれるが、将来的に北朝鮮の弾道ミサイルに、小型化された核弾頭が搭載されることが懸念されている。
まず思い起こされるのは、北米大陸に到達可能な長射程の弾道ミサイルに、核弾頭を搭載することだ。そうなれば、北朝鮮は米国の核に対抗できるようになる。米国と比べれば数的には遥かに劣るものの、相互に抑止が働く関係に入り、北朝鮮は米国の核の脅威から逃れることができる。相次ぐ弾道ミサイルの発射と核実験は、このことをメッセージとして思い起こさせるのが狙いだろう。
しかし、それだけではない。小型化した核弾頭を、車載型の弾道ミサイルに搭載するほか、潜水艦から発射される弾道ミサイルにも搭載する考えだろう。これにより、北朝鮮は、敵から邪魔されることなく、これまでと比べて飛躍的に高い確率で核ミサイルを発射できるようになる。
なぜか。もう少し詳しく理由を考えてみる。
■車載や潜水艦搭載のミサイルは発射兆候を察知されにくい
まず、長距離の射程を有する弾道ミサイルには、主に液体燃料が使われる。液体燃料は燃焼効率が良いので、より遠くまで飛ばせるし、車のエンジンのように推進制御装置と合わせて軌道の微修正を行い、正確にターゲットに命中させることができる。一方で、燃料をタンク内に長期間保管するとタンクが腐食して燃料漏れを起こしやすくなる等、メンテナンス上のデメリットがある。
このため、長距離を飛翔する弾道ミサイルは、地上や地中に据え置いてメンテナンスに備えるとともに、タンクの腐食防止のため、発射直前に液体燃料を外部から注入しなければならない。だが、そのような事前の発射準備の様子は衛星などの情報網に察知されやすく、発射の意図が筒抜けとなり、結果として相手から発射前に攻撃を受けるリスクがあった。
一方で、隠密性を重視した、車両や潜水艦に搭載するミサイルは、小さく、取扱いが簡単なものが望まれることから、固体燃料を使用している。固体燃料は、液体燃料と比べて化学的に安定した状態でミサイルに積み込まれているから、事前に燃料を注入する作業や余分なメンテナンスは必要なく、いつでも発射できる。従って、発射兆候を敵に察知されにくい。
さらに、これらの発射装置に小型化した核弾頭を積んだ核ミサイルを搭載し、山の中になどに隠してしまえば、人工衛星や偵察機でも見つけにくくなるし、潜水艦に搭載して海中に潜んでしまうと、必死で相手方の海軍が探し回らなければならなくなる。
こうして、発射位置を特定するための努力とコストを相手側に強制することにより、発射前に攻撃を受けるリスクを低下させ、結果的に核兵器を残存させ、相手に対して核の脅威を与え続けることが可能となる。
■侮れない北朝鮮の戦略判断
現代は、このような弾道ミサイル戦術に関する基本的なロジックがミリタリーバランスを大きく左右する時代であり、北朝鮮はこのことをよく理解している。彼らが核・ミサイル技術の開発を進めるのは、限られた経済的リソースの中であっても、交渉ポジションの転換を狙おうとする優れた集中投資であり、“ハーバード流交渉術”を体現したようなものだ。
では、今後、具体的に北朝鮮の何に警戒すべきか?
まず、テポドン2の派生型の開発だ。このミサイルが完成すると、射程が約1万kmとなり、ハワイにある米軍基地も核攻撃の対象になる(下図参照)。しかも、それを車載型にしようとさえ考えている。このことは、北朝鮮を相当に有利なポジションに置く。
なぜなら、ハワイにはアジア太平洋地域で作戦を担当する米軍の司令部、米太平洋軍司令部があり、この基地を破壊する能力を獲得するからだ。ここには、米軍が実施する作戦に必要な多くの情報がネットワーク化されて集約されており、最新鋭のステルス戦闘機F-22をも含む大規模な兵力が展開している。
仮にハワイが核攻撃されれば、山本五十六が考えた真珠湾攻撃をはるかに超える効果が得られる。さらに、グアムや沖縄に駐留する米軍は、既に旧式の弾道ミサイルでさえ射程圏内にあり、ハワイを攻撃する際、合わせて双方の米軍基地も核攻撃の対象となる。その結果、米軍は日本や韓半島における作戦遂行能力を長期に渡り喪失する恐れがある。
北朝鮮が核とミサイル能力を保有することで、米国に対して軍事的な脅しが効くようになるのは、このような理由だ。「脅威」とは、脅そうとする「意図」と、実際に脅しをかけるための「能力」が掛け合わされて、その程度が判断される。これまでのように強硬な「意図」をチラつかせて脅すだけのレベルから、上述のような核兵器の実用化という、「十分な能力」が掛け合わされたことにより、北朝鮮の脅威度は“今までにないレベル”にステージアップしたと認識されるべきなのである。
■米国の対北朝鮮戦略
では、米国は、この脅威にどう対応するのか。
最新の米国の核戦略は「NPR2010」(NPR=Nuclear Posture Review)に詳細が記載されている。これは、2010年以降の10年間における核政策・戦力・能力・態勢を定めた国防省から議会への報告書だ。
この報告書で、米国防省は核兵器への期待値を再定義している。過去に大量に保有した核兵器の数は減らし、核兵器の役割を低下させると同時に、核による抑止力を強化する考えだ。特に米国の核兵器の基本的役割を、「米国および同盟国・パートナー国に対する核攻撃を抑止することである」としている。
つまり、日本や韓国を守るためには米国の核兵器の効果を活用すると宣言したものだ。現に北朝鮮による5回目の核実験の直後、オバマ大統領は日韓両首脳に対し、同盟国の防衛のために必要な措置をとるアメリカの揺るぎない決意を伝えたという。この政策の抑止効果は高い。
それでも、発射の兆候があった時はどうするか。北朝鮮が、本気で核ミサイルを発射すると判断されれば、まずは事前に発射施設等を攻撃するオプションがとられるだろう。幸い米軍の軍事力は北朝鮮に比べて圧倒的であり、通常戦力での有効な攻撃を実施することになる。
万が一発射されてしまった核ミサイルへの対応はどうするか。これは、米国のミサイル防衛戦略「BMDR2010」(BMDR=Ballistic Missile Defense Review)の中に示されている。事前に警戒監視用レーダーを同盟国・友好国領域内に設置するとともに、地上発射型、または海上発射型の弾道弾迎撃用ミサイルを配備し、迎撃態勢を強化していく方針が打ち出されている。
例えば、日本への米陸軍の警戒監視用レーダー(AN/TPY-2)の設置(青森、京都)や、最近話題となっている韓国へのTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)ミサイルの配備などだ。当然、自衛隊のイージス艦やPAC3も、弾道ミサイル防衛に関する米国との協力体制の一環である。
このように、米国は、北朝鮮の核戦略に対して(1)抑止、(2)通常戦力による事前対処、(3)弾道ミサイル防衛システム、の三段構えによって対抗する考えだ。
■弾道ミサイル防衛戦略の“危うさ”
ただし、(3)弾道ミサイル防衛戦略には、特有の“危うさ”があり、いまだ発展途上と言わざるを得ない。
仮に北朝鮮が、一発勝負でハワイや米本土に向けて核ミサイルを発射したとする。その場合、事前の兆候さえ察知できていれば、現有のミサイル防衛システムで十分に破壊が可能だろう。
しかしながら、北朝鮮が今後、車載型や、潜水艦搭載型などの各種の弾道ミサイルの量産ペースを上げ、ミサイル防衛システムではカバー仕切れない程の大量の核ミサイルを発射した場合、防御する側の私たちは、“飽和”状態となってしまう。その結果、撃ち漏らしたミサイルは、北朝鮮の思惑通り目標を破壊する。
この状態にさらに拍車をかけるのは、核抑止理論とミサイル防衛システムとの関係だ。BMDRによると、弾道ミサイル防衛システムの配備は、地域の政治・軍事的な特性を考慮し、「段階的・適応アプローチ」(PAA=Phased Adaptive Approach)を採用するとされている。一気に対抗手段を配備せず、徐々に情勢を伺いながら能力を構築していこうというものだ。
今まで、核抑止理論は「そっちが核を撃つなら、こちらも撃ち返すぞ」で成り立ってきたのにもかかわらず、弾道ミサイル防衛能力を一気に完璧な状態にしてしまうと、弾道ミサイル防衛システムを持たない国は、一方的に核攻撃を受ける状況になってしまう。
それならば、弾道ミサイル防衛システムが完璧になる前に、核兵器の効果を早くに活用したい、という衝動に駆られるのは自然な流れだろう。結果として、核兵器の開発や保有を早め、先制使用の思惑が出たり、外交的な脅しを早い段階でかけるようになる。
実際、ロシアは欧州での「段階的・適応アプローチ」に反発。中国も韓国への米陸軍THAADミサイルの配備に猛反発しているし、北朝鮮が核・ミサイルへの投資を加速させている背景には、弾道ミサイル防衛システムの行く末を見越しているからとも捉えることができる。
このように、弾道ミサイル防衛システムは、現在の核抑止理論を壊してしまう恐れがあり、その配備スピードは絶妙なタイミングに調整されている。よって、すべてのミサイルを撃ち落とせるような完璧な配備は短期的には見込めないと捉えるべきだ。
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