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米国の最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」。提供写真 (ロイター/U.S. Department of Defense, Missile Defense Agency)
北朝鮮封じには米軍の「対空ミサイル」が最適 日韓の核武装を阻み戦争リスクを抑えられる
http://toyokeizai.net/articles/-/133345
2016年09月03日 リチャード・ワイツ :ハドソン研究所上席研究員 東洋経済
韓国が米軍と連携し、「高高度防衛ミサイル」(THAAD)を配備する計画を進めている。この計画には賛否が分かれており、中国とロシアは反発している。「新たな冷戦」の始まりを予測する者もいる。
私は中国とロシアも、THAADを歓迎してしかるべきと考える。というのもTHAADの配備により、韓国や日本がこれに代わる防衛手段(核兵器開発の可能性を含む)を追求する必要性が下がるからだ。
日韓両国には防衛を強化しなければならない事情がある。北朝鮮の脅威である。同国は軍事力を増強しており、好戦的な発言と行動をエスカレートさせている。その軍事力には、大量破壊兵器、長距離弾道ミサイル、サイバー攻撃部隊や特殊部隊も含まれている。
■米国は守ってくれるのか?
米国は再三、核兵器や弾道ミサイルの開発を中止するよう北朝鮮に警告してきた。しかし効果は上がっていない。外交面でも制裁と誘導の手段を繰り返したが、奏功していない。
日韓では今や多くの人が、外国から攻撃を受けた場合に米国が防衛してくれるのか懸念を抱いている。オバマ米大統領がシリアでの化学兵器使用は「レッドライン」との警告を発しつつも、軍事介入を見送っている経緯を知っているからだ。
一方で共和党大統領候補のドナルド・トランプ氏は、アジア諸国の防衛への協力に否定的だ。トランプ氏が最近メディアに語ったところによると、米国は日韓両国でのミサイル防衛と駐留軍に資金を使いすぎているという。トランプ氏が大統領に就任すれば、防衛への資金の追加負担を日韓に要求する。その要求が満たされない場合に「防衛は自前でやってくれ、と言う覚悟はできている」(トランプ氏)という。
韓国では与党セヌリ党の一部が、核兵器の保有を公然と訴えている。彼らは、そうすれば北朝鮮からの攻撃を抑止できるとともに、中国が北朝鮮に対して兵器計画の後退を迫る圧力を強めると考えているのだ。
仮に韓国が核兵器を開発すれば、日本も開発に乗り出すだろう。尖閣諸島(中国名は釣魚島)に対して中国が強引に領有権を主張している現状からすれば、その可能性は高い。日本には分離プルトニウムの膨大な備蓄があり、技術的にも「実質上の核保有国」となるうえで必要な手段を備えており、核兵器が手元になくても、必要があれば迅速に開発できる。
とりわけ韓国による核兵器開発は、現実に新たな冷戦が始まるか、それよりも悪い結果を生む可能性がある。韓国と北朝鮮による核のにらみ合いが現実となれば、相手の反撃力を一掃するためにもう一方が先制攻撃を仕掛けようとする恐れが生じる。
こうした最悪のシナリオはさておき、核兵器は小規模な挑発を抑止するうえであまり役に立たない。2010年には米国による核攻撃の可能性があったにもかかわらず、北朝鮮が韓国の軍艦を撃沈するのを止められなかった。
■トランプに惑わされず米国と連携を
また、日韓が核を保有すれば、両国の米国との関係は悪化するだけでなく、さらなる軍拡競争を誘発しかねない。すべての条件が同じだとすると、核保有国の数が多ければ多いほど、核戦争、核によるテロ、核関連事故のリスクは高まる。これは極めて危険なシナリオだ。
こうした事情を考慮すると、米韓のTHAAD配備は歓迎すべきといえる。日米韓の3カ国はミサイル防衛や北朝鮮に関する情報共有で連携することで、北朝鮮の核兵器計画を中断させるべきだ。
歴史を振り返れば、米国と連携すれば軍事攻撃の抑止効果は生じるといえる。日韓両国は自ら核開発に乗り出すことで米国との関係を悪化させてはならない。トランプ氏の発言に惑わされることはない。
(週刊東洋経済9月3日号)
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