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空自、なぜ遅いプロペラ輸送機をアフリカへ? 所要3日、背景に「最悪のケース」か
http://trafficnews.jp/post/56817/
2016.09.03 関 賢太郎(航空軍事評論家) 乗りものニュース
2016年7月、南スーダンに滞在する邦人保護のため、C-130H輸送機がアフリカのジブチへ派遣されました。しかし同機は、ジェット機にくらべ足が遅く航続距離も短いプロペラ機。またジブチへより近い場所に別の空自ジェット機がいました。にもかかわらず、なぜ日本から3日かけC-130Hが派遣されたのでしょうか。
■プロペラ輸送機、邦人保護のためアフリカへ
2016年7月11日、日本政府は東アフリカの内陸国、南スーダンでの情勢悪化を受け、現地からの日本人の退避に対応するため航空自衛隊に輸送機の派遣を指示。同日夕方、C-130H「ハーキュリーズ」3機が愛知県の小牧基地を出発し、日本時間の同14日朝、拠点である南スーダンからおよそ1000km離れたジブチへ到着しました。
航空自衛隊のC-130H「ハーキュリーズ」輸送機(写真出典:航空自衛隊)。
南スーダンは2011(平成23)年に独立を果たした“世界で最も新しい国”ですが、同時に“世界で最も不安定な国”のひとつでもあります。現在、同国の首都ジュバには在南スーダン日本大使館が設置されており、またPKF(国連平和維持軍)として自衛隊が派遣されています。
今回、ジブチが拠点となった理由は、同国首都にあるジブチ国際空港の一角に、自衛隊唯一の海外基地が存在するためです。ソマリア沖の海賊対策として、海上自衛隊の哨戒機P-3C「オライオン」が常駐し、同機の駐機場や整備格納庫も建設されています。
今回、空自が派遣したC-130Hは、「ターボプロップ」と呼ばれる一般的なプロペラ飛行機です。そのため速度は遅く航続距離も短いことから、前述のように、駐留する小牧基地からおよそ1万km離れたジブチまでの飛行は、経由地での給油をはさみ実に約3日を要しました。
航空自衛隊には、C-130Hよりも高速な輸送機がほかにもあります。にもかかわらずなぜあえて、遅くて現地に赴くだけで゛ひと仕事”になってしまうC-130Hを派遣したのでしょうか。ほかの選択肢はありえなかったのでしょうか。
■より近くにいた空自機 にもかかわらず3日かけC-130Hを現地へ飛ばしたワケ
たとえば、旅客機や貨物機として使われるいわゆる「ジャンボジェット」の同型機で、天皇陛下や首相も利用する「政府専用機」ボーイング747。2016年7月初旬、バングラデシュのダッカで発生したテロを受け、ご遺体や被害者の家族を運ぶために現地へ派遣されています。航空自衛隊に所属するKC-767空中給油機もまた、旅客機、貨物機として活躍するジェット機ボーイング767が原型で、およそ200人の搭乗が可能です。
政府専用機、KC-767どちらもプロペラ機C-130Hとは比較にならないほどの速さと航続距離を持っています。空自の資料によれば、C-130Hの最大速度は約589km/h(318ノット)なのに対し、政府専用機の巡航速度は約1020km/h(マッハ0.85)、KC-767の巡航速度は約1008km/h(マッハ約0.84)となっています。特にKC-767はジブチ基地支援のため頻繁に派遣されている実績があるほか、このとき偶然にも、国際エアショーに展示されるため1機がジブチへより近い(約5000km)イギリスに派遣中でした。そして南スーダンのジュバ空港、ジブチ国際空港ともに3000m級の滑走路を備え、巨大な政府専用機でも十分に離発着できます。
そうしたなか今回、なぜC-130Hが派遣されたのでしょうか。防衛省に問い合わせたところ、プロペラ機で離着陸速度が抑えられるため、そのぶん短い滑走路や不整地でも離発着が可能な点から、C-130Hが最も適しているという結論に至ったとの回答を得ました。
C-130はコンクリートやアスファルトのような固い路面を持たない滑走路からでも離陸できる(写真出典:アメリカ陸軍)。
以下はあくまで筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)の推測ですが、さらなる情勢悪化により滑走路が破壊されるような最悪のケースをも想定し、劣悪な条件や短い滑走路でも運用できる軍用輸送機ならではの“タフさ”をもつC-130Hが最適であると判断されたのでしょう。
■簡単にくらべられない軽トラと大型トレーラー それと同様な輸送機
たとえばひと口に「貨物自動車」といっても、小さな軽トラと大型トレーラーではそれぞれが得意とする役割が大きく異なっているように、輸送機もまた、何でもかんでもこなす万能機というものは存在しません。
KC-767空中給油機。機内は通常の貨物機、旅客機と同様に貨物を積載したり座席を設けることができる(写真出典:航空自衛隊)。
したがって航空自衛隊はここまで取り上げたC-130Hや政府専用機、KC-767のほかにもU-4、C-1、YS-11、そしてCH-47J/LRヘリコプターといった特性の異なる輸送機を保有し、それぞれに適した任務へ投入しています。また自衛隊機では不可能な任務を行うために世界最大の輸送機、ウクライナ製のアントノフAasyuracom-225「ムリヤ」を自衛隊がチャーターしたこともあります。
2016年6月には、C-1輸送機の後継となる最新鋭のC-2輸送機の生産型が、はじめて航空自衛隊へと引き渡されました。C-1は1970年ごろの開発当時、安保闘争やベトナム戦争などの社会背景により航続距離に大きな制限が加えられ、現在では海外派遣に使えない国内用となってしまっていますが、C-2は旅客機並みの速度と長い航続距離を持ち、C-1やC-130Hよりも貨物室や搭載重量が大きいことから今後、海外派遣における主力輸送機として活躍することが期待されています。
【了】
Writer: 関 賢太郎(航空軍事評論家)
1981年生まれ。航空軍事記者、写真家。航空専門誌などにて活躍中であると同時に世界の航空事情を取材し、自身のウェブサイト「MASDF」(http://www.masdf.com/)でその成果を発表している。著書に『JASDF F-2』など10冊以上。
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