http://www.asyura2.com/16/warb18/msg/549.html
Tweet |
パキスタンが中国から調達すると見られる「元型」潜水艦
パキスタンも陥落、次々に潜水艦を輸出する中国 国家戦略に基づいて兵器を輸出、片や日本は?
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47756
2016.9.1 北村 淳 JBpress
パキスタン海軍当局によると、パキスタン海軍は中国から8隻の潜水艦を調達することが確実になった。中国は、タイ海軍への潜水艦の売り込み(本コラム2016年7月14日「潜水艦3隻購入で中国に取り込まれるタイ海軍」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47328)に成功しつつあるが、それに引き続いて今度はパキスタンへの潜水艦売り込みにも成功した模様だ。
■パキスタンが潜水艦を必要とする理由
パキスタン海軍の潜水艦調達部局は、2028年までに中国から8隻の潜水艦を調達する計画の進捗状況を公表した。そのうちの半数は2022〜2023年までに中国で建造されてパキスタン海軍に配備され、残りの半数はパキスタンのカラチ造船所で建造されることになるという。
パキスタンが中国から潜水艦を調達するという情報は昨年より流れていたが、今回の公表によってパキスタン海軍が中国から潜水艦8隻を調達することは確実になった。
パキスタン海軍ならびにパキスタン議会の防衛委員会によると、パキスタン海軍は沿岸域防衛のために強力な潜水艦戦力を必要としており、中国政府とパキスタン政府が推進している「中国パキスタン経済回廊(CPEK)」構築を成功させるためにも必要であるという。
中国パキスタン経済回廊の概要(出所:パキスタン、計画・開発省)
中国が供給する潜水艦に関する細目や具体的な調達価格などはまだ明らかになっていないが、昨年浮上した情報では8隻の潜水艦を50億ドルで調達するということであった。アメリカ海軍などの潜水艦取引の専門家たちの間では、中国が「元型」潜水艦を売り込もうとしていることは間違いないだろうと推測されている。
■インド海軍に追いつきたいパキスタン海軍
パキスタン海軍が8隻の中国製新鋭潜水艦を手にしようとしているのは、両隣のインド海軍とイラン海軍が共にパキスタンよりも多くの潜水艦を運用しているからに他ならない。
現在パキスタン海軍は、フランスから調達したアゴスタ70級潜水艦を2隻、その改良型(AIP推進)のアゴスタ90B級潜水艦を3隻、そのほかにイタリア製のコスモス型潜水艇を3隻運用している。しかし、わずか潜水艦5隻という戦力では、それほど緊張関係にないイラン海軍に対してはともかくも、潜水艦戦力を強化しつつあるインド海軍に対しては決定的に劣勢となってしまう。
インド海軍は、ロシアからリース中(2012〜2022年)のアクラ型攻撃原子力潜水艦を1隻、ソ連(ロシア)から調達したシンドゥゴーシュ級(輸出型キロ級)潜水艦を9隻、それにドイツで建造されたシシュマール級潜水艦を4隻運用している。さらに国産のアリハント級攻撃原子力潜水艦を2隻と、フランスとの共同開発になるカリバリ級潜水艦を2隻建造中(合計7隻が建造される計画)である。
ちなみにイラン海軍の潜水艦は、ロシアから輸入したキロ級3隻、ベサット級(国産)1隻(建造中1隻)、ファター級沿岸域潜水艦(国産)2隻、ナーハン級小型潜水艦(国産)1隻、ガディール級潜航艇(国産)21隻、北朝鮮製ユーゴ型潜航艇4隻である。インド海軍と異なり、小型潜水艦と潜水艇が中心となっている。
このようにインド海軍やイラン海軍は数多くの潜水艦や潜水艇を運用している。パキスタン海軍はそれに対抗して、これまでも対潜哨戒能力の整備を進め、対潜哨戒機(米国製P-3Cとフランス・イタリア製ATR-72)10機と対潜ヘリコプター(イギリス製WS-Mk45と中国製Z-9EC)18機を運用している。
しかしインド海軍は国産の原潜建造プロジェクトやフランスとの潜水艦共同開発プロジェクトを推進しており、ますます潜水艦戦力の強化を推し進めようとしている。
そこでパキスタン海軍自身も国産原子力潜水艦の建造プロジェクトを立ち上げた。そして、さらに新鋭潜水艦を手に入れるために中国側との交渉を進め、8隻の元型潜水艦を手にすることになったのである。
■活況を呈しつつある潜水艦市場
現在、東南アジア諸国をはじめ少なからぬ国々の海軍がパキスタン海軍のように新鋭潜水艦を手に入れようと考えている。もちろんそれらの海軍の多くは、原子力潜水艦ではなく通常動力(ディーゼル・エレクトリック)型の、そしてできれば新鋭のAIP型潜水艦を欲している。
しかしながら、そのような潜水艦を自ら建造できる国はそれほど多くはなく、日本、中国、ロシア、ドイツ、フランス、スウェーデン、スペイン、イタリアそしてオランダの9カ国である。(アメリカとイギリスは、現在のところ、原子力潜水艦しか建造していない。)
要するに国際潜水艦市場は売り手市場なのだ。これまでは、ロシア、ドイツ、フランスが潜水艦の主たる輸出国であった。その国際市場に参入したのが中国であり、それこそロシア、ドイツ、フランスなどから入手した潜水艦技術を応用しつつ国産潜水艦技術を充実させて、今度は潜水艦輸出国としての道をスタートさせたのだ。そして、パキスタン海軍とタイ海軍への売り込みに成功し、さらに輸出攻勢に拍車をかけると考えられている。
■国家戦略がなければ潜水艦輸出は成功しない
日本では昨年、日本政府が主導したオーストラリアへの潜水艦輸出が期待されたが、潜水艦どころか兵器システムの売り込みに関して“ずぶの素人”である日本政府が主導したため、売り込みは完敗した(本コラム2016年5月5日「素人には歯が立たなかった国際武器取引マーケット」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46768)。
潜水艦取引の専門家たちの間では、日本参入の当初から「日本の潜水艦はいくら優秀な性能を持っていても、国際取引となると単なる当て馬にしか過ぎないだろう」という憶測が囁かれていた。“業界”の予想通り、385億ドルという巨額の取引を勝ち取ったのは老舗のフランスであった。フランスは数年前からオーストラリアに公私の人脈を構築し売り込み活動を展開していた。
オーストラリアへの売り込みに成功したフランスや、ドイツ、それにロシアといった伝統的な潜水艦輸出国、さらにパキスタンへの売り込みに成功した国際潜水艦市場への新規参入者である中国は、いずれも国家戦略の一環として潜水艦の輸出を推進している。
とりわけ、中国は外貨の獲得という経済的目的以外に、中国海軍戦略の拠点確保という軍事的目的のためにも、タイ海軍やパキスタン海軍への潜水艦輸出に力を注いだ。中国製の潜水艦を手にした海軍と中国海軍は緊密になるだけでなく、売却した潜水艦の訓練やメンテナンスなどのために中国海軍がそれらの国の海軍拠点を利用することすら可能になるのである。
日本政府は、一時の思いつきでオーストラリアへの潜水艦売却を推し進めたようである。しかし、潜水艦という最先端技術と最高機密の塊とも言える兵器を輸出するのは、確固たる国家戦略に基づかなければ成功の見込みはない。
加えて、国際武器取引市場で海千山千のロビイストやブローカーを相手に立ち回れるだけの覚悟とノウハウ、それに人脈を潜水艦メーカーやそれを“指導監督”する日本政府自身が身につけていなければ、とても中国やフランスのように潜水艦の輸出にこぎ着けることはできない。
新鋭潜水艦を欲する海軍は、東南アジアに留まらず、将来的には南米やアフリカまで波及するものと考えられている。日本はせっかく世界最高レベルの潜水艦建造技術を手にしていても、これらの国々に対して戦略的に潜水艦を供給するレースから遠ざかっていると、この分野でも中国の後塵を拝すことになってしまうであろう。
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。