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軍用機から撮影した、南シナ海・南沙諸島のミスチーフ礁(2015年5月11日撮影、資料写真)。(c)AFP/RITCHIE B. TONGO〔AFPBB News〕
中国の海洋進出にロケット弾を向けるベトナム 南沙諸島に発射台設置、中国建設の滑走路を射程内に
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47627
2016.8.18 北村 淳 JBpress
ベトナムが南沙諸島のいくつか(少なくとも5つ)の島嶼に長距離ロケット弾発射装置を配備したことが西側情報筋によって確認された。
先月、国際仲裁裁判所が「中国による南シナ海での歴史的背景を論拠にした九段線の主張は国際法上認められない」という裁定を下したにもかかわらず、中国は南沙諸島・人工島での軍事施設建設を完成させようとしている。そのため、ベトナムは自らが実効支配を続けている島嶼環礁の自衛態勢を強化する姿勢を示して主権維持をアピールしているものと思われる。
ベトナム政府や軍当局は、ベトナム軍による南沙諸島へのロケット弾発射装置配備の事実を認めていない。しかしながらベトナム軍指導者は、「南沙諸島はベトナム固有の領土である。自国の主権が及ぶ領域内に、自衛のためのいかなる兵器を配備しようが、それはベトナムにとって正当な権利の行使である」と公式に述べており、新兵器配備を示唆したものと考えられている。
■EXTRA長距離ロケット弾の発射装置を配備か
ベトナムが南沙諸島の島嶼守備隊に配備した発射装置は、イスラエル製のEXTRA長距離ロケット弾を発射することができる地上移動式発射装置と考えられている。
EXTRA発射装置(写真:IMI)
EXTRAを開発・製造しているIMI(Israel Military Industry社)によると、この長射程ロケット砲システムは20キロメートルから150キロメートル先の敵指揮管制センター、補給施設、各種軍事インフラを攻撃する能力に秀でており、命中精度はCEP(半数必中界)が10メートル(発射したロケット弾の半数以上が目標の10メートル以内に着弾する)とされている。
EXTRAは中国軍が保有している各種長距離巡航ミサイルの性能には及ぶべくもないが、ベトナムのような軍事予算が限られている国々にとっては、巡航ミサイルの代替兵器となり得るハイテク兵器である。また、ロケット弾そのものも比較的小型で、移動式発射装置も隠匿性に優れているため、敵の攻撃を受けにくいという利点がある。
ベトナムはEXTRA発射装置を、中国が人工島に建設した滑走路を破壊できる位置に配備したものと考えられている。現時点では発射装置のみが守備隊に配備され、ロケット弾そのものは送り込まれていない模様だ。ただし、戦闘の可能性が差し迫った場合には、2〜3日以内にロケット弾の発射態勢が完了するという。
EXTRAロケット弾(写真:IMI)
■危機に瀕するベトナムの実効支配
ここ2年来、中国は南沙諸島の7つの環礁を人工島化してしまい、そのうちの3つには3000メートル級滑走路まで建設し、いわば“南沙人工島基地群”を誕生させた。
そのため、日本を含む国際社会では、あたかも中国だけが南沙諸島に軍事力を展開させようとしているかのごとく受け止められている。しかし、ベトナム、フィリピン、台湾など中国に対抗して南沙諸島の領有権を主張している国々も、ある程度(決して強力ではないが)の軍事力を展開させて南沙諸島の島嶼環礁を占拠して実効支配を続けている。
南沙諸島に建設された各国の滑走路
たとえば、ベトナム、フィリピン、マレーシアそして台湾も、南沙諸島にそれぞれ1カ所の滑走路を保有している。もちろん、中国の3000メートル級滑走路を有する本格的航空施設(航空基地)に比べれば、それら諸国の航空施設は取るに足らないものである。
また、南沙諸島を構成する数多くの島嶼・環礁・暗礁のうち主要(手を入れれば守備隊などを配置することができる)なものは50カ所程度であるが、それらのうち最も多くの拠点を確保しているのがベトナムである。
しかし、中国による人工島基地群の建設によって、ベトナムが占拠を続けている拠点は、数は多くても中国の強力な軍事力の前には手も足も出ない状況に陥りつつある。そこで、ベトナムは5カ所の守備隊にEXTRAを設置し、中国の人工島滑走路を攻撃できる態勢を固めつつあるわけだ。
■中国は反撃態勢へ
もちろん、ベトナムがこのように強力な自衛態勢を固めようとすれば、それに対応して中国も反撃態勢を固めるのは自然の成り行きである。アメリカのシンクタンクの分析によると、人工島の3カ所の滑走路には、それぞれ戦闘機が少なくとも24機、それに加えて爆撃機や輸送機など大型航空機も数機が配備可能な格納施設が建設されていることが確認されている。
したがって、ベトナムのEXTRAによる攻撃から南沙人工島に建設されている航空施設、研究施設、灯台、それに民間人を守ることを口実にして、人工島基地群に戦闘機や爆撃機を配備することは十二分に考えられる。
航空機や軍艦の配備に加えて数多くの各種長射程ミサイルを保有している中国は、対地攻撃用巡航ミサイルを配備して、ベトナム守備隊がEXTRAを配備する島嶼環礁に狙いを定めるであろう。
■口先だけでは実効支配にならない
ベトナムは、このような中国人民解放軍との軍事的緊張の高まりを前提としてEXTRAを配備し、南沙諸島の自衛措置を強化しようとしているのだ。
島嶼環礁を口先だけで「実効支配している」と言ってみたところで、その実効支配を認めないと主張する相手が軍事的圧力を加えてきた場合には、自らも軍事力による自衛措置を固めなければならない。もちろん、ベトナムと中国の海洋戦力を比較すれば、専門家でなくとも中国が圧倒的に優勢なのは一目瞭然である。しかし、中国による軍事的圧迫に対して、できる限り軍備を強化して、主権的領域を守り抜く姿勢を見せることは、実効支配を維持するための国家としての最低限の責務といえよう。
圧倒的に強大な人民解放軍海洋戦力に、EXTRAのような新兵器を投入してなんとか自衛態勢を固めようとするベトナムの動きに対して、次のように評価しているアメリカ海軍関係者は少なくない。
「アメリカは中国の人工島基地建設を牽制するためにFONOP(「航行の自由」作戦)を小出しに実施したのみで、現在は(自らの空母を防衛するために)戦闘空中哨戒を実施している程度に過ぎない。ベトナムは相変わらず勇敢で、気骨のある動きを見せている」
■冷静と卑怯は違う
もちろん、自らの領土領海を自衛しなければならないベトナムと、国際的な面子を保つために中国の南シナ海での軍事的侵攻政策に異を唱えているアメリカとは、軍事的関与の程度に差が出るのは致し方ない。
しかし、ベトナムと中国、そしてアメリカの対抗構造を南沙諸島から尖閣諸島に移してみると、「自主防衛態勢を固めようとする気骨のあるベトナム」と「結局はアメリカ頼みの日本」という差が如実に浮かび上がる。
冒頭で紹介したベトナム軍指導者の言葉のように、日本の主権が及ぶ領域内に、自衛のためのいかなる兵器を配備しようが、なんらかの設備を建設しようが、それは正当な権利の行使である。そのような自主防衛措置を実施しないことを「冷静な対応」と称して、とどのつまりは日米同盟にすがりつこうというのでは、ベトナムとは対照的に「卑怯で気骨のかけらもない」態度ということになってしまう。
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