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中国、南シナ海領有権否定判決で日米がとるべき姿勢
http://diamond.jp/articles/-/95522
2016年7月14日 田岡俊次 [軍事ジャーナリスト] ダイヤモンド・オンライン
■中国の主張は「地中海はイタリアの
主権下にある」というのと同然
中国が南シナ海の大部分の領有権を主張しているのに対し、フィリピンは「それは国連海洋法条約に違反する」とオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所に提訴していたが、同仲裁裁判所は7月12日フィリピンの主張を認める判断を示した。
訴えの要点の1つは中国が南沙、西沙諸島がある南シナ海を囲うようにU字型に引いた「9段線」の当否だった。これは1947年、当時中国を支配していた蒋介石の中華民国政府が「11段線」を引いて、それに囲まれる南シナ海が主権下にあると宣言したものだ。1953年に中華人民共和国政府がトンキン湾の一部の島をベトナム領と認めて「9段線」になった。
中国では特に宋の時代(10世紀〜13世紀)に南海貿易が盛んになり、南シナ海を多数の大型の中国帆船が往来していたことは事実だが、南シナ海の無人島群である南沙諸島を管理・支配していた証拠はなく「南シナ海の大部分が歴史的主権下にある」との中国の主張は「かつてローマ帝国は地中海を支配していたから、いまも地中海はイタリアの主権下にある」と言うのと同然だ。仲裁裁判所が「中国の主張には法的根拠がない」と裁定したのは当然だろう。
もう1つの要点は中国が満潮時に水面下に没する「低潮高地」(干出岩)を埋め立てて人工島を築き、その周囲を領海や排他的経済水域にしようとしていることだった。中国は「9段線」を宣言はしたものの、現実には南沙諸島では出遅れ、一応「島」と言えそうな12島のうち、ベトナムとフィリピンが5島ずつ、台湾とマレーシアが1島ずつを支配し、それぞれが1つの島に飛行場を造っている。後から来た中国は低潮高地の周辺を埋め立てるしかなかったのだ。
だが海洋法条約13条には「低潮高地は本土又は島から領海の幅(12海里=22km)を超える距離にあるときは、それ自体の領海を有しない」と定められている。仲裁裁判所が中国が埋め立てている岩礁は島ではない、と認定したのも当然だ。
ただ、海洋法条約は第298条で「海洋の境界画定に関する紛争」については、いずれの国も拘束力を有する解決手続きを受け入れないことを宣言できる、としている。
中国は以前からこの条文を基に適用除外を宣言している。だから中国外務省がただちに「仲裁法廷が出したいわゆる判決は無効で拘束力はなく、中国は受け入れない」との声明を出したのにも全く根拠がないわけではないし、仲裁裁判所の裁定を中国に強制する手段はない。
■フィリピンは対話重視の姿勢も
中国にとって外交上は痛手
フィリピンがこの提訴をしたのは2013年1月、親米的なベニグノ・アキノ大統領政権下だったが、今年6月30日に就任したロドリゴ・ドゥテルテ大統領は国内の華人との関係が強く、中国との経済関係や援助を求め、対話を重視する姿勢を示しており、今回の「勝訴」を振りかざすことは考え難い。
とはいえ、中国にとって今回の仲裁裁判所の裁定は外交上の痛手ではあり、それを無視して南シナ海の支配と要塞化を推進することは得策ではあるまい。最大の貿易国として、対外友好関係が必要な中国が近隣諸国や米国との関係悪化を冒してまで、南シナ海の確保をはかる第一の理由は、軍事面から見れば弾道ミサイル原潜の待機水域の確保ではないか、と思われる。
中国は1980年代初期から米国が「夏型」と呼んだ初歩的な弾道ミサイル原潜1隻(射程2000km台のミサイル12基搭載)を持ち、黄海最奥部の遼東湾に配備していた。建造した葫芦島造船所の側で整備に便利だし、当時の仮想敵はソ連だったからシベリア東部の目標に近いという利点もあった。今日、中国は射程約8000kmの弾道ミサイル「巨浪2型」12基を積む「晋型」原潜(8000t)4隻を建造したと見られ、それらは海南島三亜市の基地に配備されている。
遼東湾の水深は25m程の浅さで、「晋型」原潜は全長13mのミサイルを船体内に立てて積むから、船底から司令塔の頂部までの高さは20m以上ありそうだ。黄海北部も浅いから延々と浮上航走しないと出撃できず、丸見えになってしまう。その点南シナ海は深いから海南島の基地から出ればすぐに潜航できる。
だが海南島は前面の海が広く開いているから、航空攻撃を受けやすく、外国の潜水艦の接近も容易だ。このため海南島の南東約300kmの西沙諸島の永興島に3000mの滑走路を造り、戦闘機や対空ミサイルを配備し、海南島の守りを固めてきた。
それには一応の軍事的合理性があるものの、そこから約1000kmも南の南沙諸島に無理をして飛行場を造っても、永興島の戦闘機の戦闘行動半径ぎりぎりで相互支援が難しく、有事の際には孤立しそうだ。
■弾道ミサイル原潜の待機海面として
米国にとって南シナ海は極めて重要
米国は経済関係が極めて重要な中国に対し、Containment(封じ込め)を狙わずEngagement(抱き込み)を目指すことを基本戦略にしているが、同時に将来万が一の対決を視野に入れ、米海軍は中国の弾道ミサイル原潜を撃破する能力を保持しようとしている。
沖縄の嘉手納基地から発進する対潜哨戒機P3Cや新型のP8A、電子偵察機EP3Eなどによる南シナ海の監視を行い、海洋調査船による水中の音波伝播状況のデータ収集も行っている。
対潜水艦作戦ではパッシブ・ソナー(聴音機)で潜水艦の出す音を捉えるのが基本だが、水温や水深、潮流、海底地形などで音の伝わり方は変わるから、日頃精密な調査をしておく必要がある。
また潜水艦を識別するため、個々の艦が出す音を収録し「音紋」としてデータ化しておくことも行われる。それには米国潜水艦が相手の基地近くに潜入し、個々の艦の出港を確認しつつ録音するようだ。
中国側にとってはこれは当然不愉快だから公海上や、その上空でも米側の情報収集活動を妨害しようとし、中国戦闘機が哨戒機に接近して威嚇したり、海洋調査船を中国艦船が取り囲んで進めなくするなどのトラブルが起きている。
2001年4月には海南島の東南約110kmの公海上で、米海軍の電子偵察機EP3Eが中国海軍航空隊のF8II戦闘機と空中衝突し、戦闘機が墜落し操縦士が死亡、偵察機は海南島の中国基地に緊急着陸する事件も起きた。
中国の「晋型」原潜に積む「巨浪2型」弾道ミサイルは開発が難航し、まだ搭載されていない様子だし、最大射程は8000kmとされるから南シナ海から発射しても米本土に届かず、米国東岸を狙うにはアリューシアン列島付近まで進出する必要がある。
だが中国は直接米本土に届く「巨浪3型」ミサイルを開発中と見られ、そうなれば弾道ミサイル原潜の待機海面として南シナ海は戦略上極めて重要となる。
米国はアラスカ沖に弾道ミサイル原潜を待機させているが、ロシアは制海権を取れないから、守りやすいオホーツク海と白海(スカンジナビア半島の北)に隠していた。中国も南シナ海をそれと同様にしたいのだろう。
■日本にとって得策なのは
米中に妥協、和解を求める姿勢
米国は中国の南シナ海での行動を「国際法違反」と非難するが、米国は国連海洋法条約に署名すらしていない。この条約は米国が第2次世界大戦後、当初一方的に行った領海12海里(それまでは3海里)の宣言や、その外側に12海里の接続水域の設定、200海里の排他的経済水域、大陸棚の事実上の領有などを全て公認し、大陸棚の水深も当初は200mまでだったのを、地形によっては2500mまでとするなど、米国の要求をほぼ全て盛り込んだ。
それでも海底油田を狙う石油業界には不満があり、レーガン政権は署名しなかった。日本では「議会の反対で批准しなかった」との報道(7月6日読売新聞朝刊など)もあるが、これは誤りだ。
米国は南シナ海問題について「航行の自由」を掲げているが、米国の商船、漁船が南シナ海を通ることは少なく、米国の言う「航行の自由」は実は「偵察活動の自由」に近い。米国では「南シナ海のシーレーンを通る米国の貿易額は1兆2000億ドルにのぼる」との論も出るが、その大半は中国との貿易だろう。中国が自国にとって重要な商船の航行を妨げたことはないし、将来もまずあるまい。
領海や接続水域であっても外国の艦船の通航は基本的には自由で、民間船舶だけでなく軍艦にも領海の「無害通航」が認められている。
他国の領海を通る際には威嚇的行為や、兵器を使っての訓練、情報収集、漁業などをしてはならず、潜水艦は浮上しなければならないが、沿岸国に許可を求める必要はない。だが中国は軍艦に関しては事前の許可が必要、としている。
米国は南シナ海問題では中国に厳しい姿勢を見せているが、これが全面的対立に発展することは望んでおらず、6月末に始まった環太平洋合同演習(リムパック)に中国海軍を招待し、中国艦5隻が参加している。
昨年10月27日には米駆逐艦ラッセンが南沙諸島のミスチーフ礁から12海里以内を中国に無通告で通り、領海と認めない態度を示したが、その直後の11月3日にはソマリア沖からスエズ運河を通って帰国途中の中国軍艦3隻がフロリダ州のメイポート海軍基地に入港、初の大西洋での米中共同訓練と交歓行事を行った。両国の海軍の要人同士の往来も頻繁に行われている。
米中双方が関係悪化を望まない以上、何かの落し所はあるはずだ。中国が米国に届く弾道ミサイルを搭載した原潜を配備するのは、米国にとり潜在的脅威ではあるとしても、米国が主導して成立した核不拡散条約で中国の核保有を公認した以上、中国が英、仏と同様に4隻程度の弾道ミサイル原潜を持ち、うち1隻を常に海中待機させる最小限度の核抑止力を持つことは容認せざるをえないだろう。
南シナ海の北部、海南島沖の待機海面では米軍は情報収集活動を慎み、一方中国は南沙諸島には戦闘機を配備せず、米軍艦の通航を妨げない、という程度の妥協は可能ではあるまいか。
日本にとっては昨年の輸出の23.1%が中国(香港を含む)向けで、米国が20.1%だから、米中の対立が激化し、双方の経済が麻痺するような事態になれば致命的打撃だ。対立を助長するような行動は百害あって一利もない。およばずながら、米中に妥協、和解を求める姿勢を示すことが得策と考える。
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