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日米印合同海軍演習「マラバール2016」。日本の領海に侵入した中国海軍のスパイ艦は合同訓練の情報収集に従事していた(写真:アメリカ海軍)
日本の接続水域と領海を航行した中国海軍の狙い 日米の失策が招いてしまった中国の対日「FONOP」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47149
2016.6.23 北村 淳 JBpress
6月8日から9日にかけて、中国海軍フリゲートが尖閣諸島周辺の日本接続水域内を航行した。そして引き続き15日には、中国海軍情報収集艦(スパイ艦)が口永良部島周辺の日本領海内を航行し、翌日16日には同艦が北大東島周辺の日本接続水域内を航行した。
■統幕長の声明の数日後にスパイ艦が領海に
日本政府は、1回目の事案に関しては外務次官が夜中に駐日中国大使を呼びつけて厳重な抗議を行ったが、2回目と3回目の事案に対してはアジア大洋州局長が駐日中国公使に懸念を伝達するにとどめた。
また、1回目の事案を受けて自衛隊のトップである統幕長は(接続水域内航行よりも日本にとってさらに深刻な脅威である)領海内航行といった事態が生じた場合には、中国艦艇に対して断固たる姿勢で対処すると明言した。この統幕長の声明は、「海上警備行動」の発令を防衛大臣に求め海自艦艇や航空機を出動させて中国艦の日本領海内航行を妨害することを意味する。
しかしながら、このような声明を発した数日後に、中国海軍スパイ艦が実際に日本領海内を航行する事態が生じた。その際、「海上警備行動」は発令されなかったし、海自艦艇や航空機が中国海軍スパイ艦の日本領海内航行を妨げようとする試みもなされなかった。
日本領海を航行した中国海軍東調級電子偵察船(写真:防衛省)
(* 配信先のサイトでこの記事をお読みの方はこちらで中国海軍スパイ艦の写真をご覧いただけます。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47149)
■“虎の威”ではなくなりつつある米海軍
中国海軍スパイ艦が日本領海内を航行する前日の14日、防衛大臣はアメリカ太平洋艦隊のスコット・スウィフト司令官と東京で会談し、東シナ海での活動を活発化させる気配を示している中国海軍艦艇に対して、日米の連携を強化することを確認し合ったばかりであった。
もっとも、スウィフト司令官にとっての「日米連携」とは、「日米共同訓練などをさらに充実させることによって、日米両海軍の連携を強化させ、その結果として中国海軍に対処していこう」といった米軍側の基本姿勢を意味していた。それに対して日本側は、「アメリカ軍という“虎の威”を借りて中国海軍の動きを抑止しよう」といったこれまで通りの期待を込めての「日米連携」であったようである。
しかしながら、南シナ海や東シナ海をもはや“ホームグラウンド”としつつある中国海軍にとって、アメリカ海軍はもはや“虎の威”とは映っていない。
アメリカ太平洋艦隊は、中国海軍を“脅かす”目的を持って空母2隻を中心とする強力な艦隊をフィリピン海に展開させていた。それにもかかわらず、中谷防衛大臣とアジア太平洋海域を統括するスウィフト司令官の会談の直後に、中国海軍のスパイ艦が日本の領海内を航行した。そのスパイ艦は、明らかに日本・アメリカ・インド海軍により実施されていた合同訓練の情報収集に従事していた。
■中国政府を正面切って批判できないアメリカ
日本のみならずアメリカまでもが中国海軍に“なめられた”形となってしまったわけだが、アメリカは中国海軍の日本接続水域内航行や領海内航行に対しては、日本政府の肩を持って中国海軍や中国政府を正面切って批判できないジレンマに直面している。
なぜならば、アメリカ政府は南シナ海において中国をターゲットにした「FONOP」(航行自由原則維持のための作戦)を実施しているからだ。
本コラムで幾度か取り上げたように、アメリカ政府は第三国間の領域紛争には介入しないことを外交鉄則に掲げている。そのため、南シナ海の南沙諸島や西沙諸島に対する中国の領有権主張に直接反対することは差し控えている。その代わりにアメリカ政府は、中国政府の「南沙諸島や西沙諸島の周辺の“中国領海”に接近あるいは進入しようとする外国艦船は、事前に中国政府の許可を得なければならない」という主張に対して、「そのような中国政府の方針は、国際海洋法の大原則である航行自由原則を踏みにじるものである」と主張する。その主張に基づいて、航行自由原則を中国側に遵守させるためのFONOPを太平洋艦隊に実施させているのである。
具体的には、アメリカ軍艦や哨戒機を、南沙諸島や西沙諸島の“中国領海”内の海域や空域を通航させて、中国側を威圧し国際法を遵守させようというものだ。2015年10月、2016年1月と5月の合計3回ほど実施されている。
しかし、中国に対して遠慮がちなオバマ政権は、米海軍などの対中強硬派が主張するように「中国側を威圧して国際法を遵守させる」作戦には難色を示し、「軍事的威圧にはならないように、国際法に則った『無害通航権』を行使するレベルでの示威行動」に限定してしまった。そのため、対中FONOPはさしたる効果を上げていない。
それどころか、中国はこのような中途半端なFONOPを逆手に取り、日米同盟切り崩しの“対日FONOP”を開始した。
■日本政府も国際海洋法を一部制限、口を閉ざす米国
6月9日から16日にかけての中国軍艦の接続水域航行、領海内航行に対して、日本政府は次のような対応を見せた。
(1)日本政府は、少なくとも中国軍艦に対しては国際法上の航行自由原則ならびに無害通航権を国際法上の条件ではなく日本政府の判断のもとで制限する方針である。
(2)それらの制限は尖閣諸島周辺海域では著しく強化され、日本政府は同海域の日本領海内では中国軍艦の無害通航権は一切認めない。
(3)同様に、日本政府は尖閣諸島周辺海域の日本接続水域内では、中国軍艦に対しては航行自由原則をも制限する。
つまり、日本政府が国際海洋法を一部制限する姿勢が明らかになったのだ。
もちろん、これは尖閣諸島の領有権を巡って日中間が紛争中であるために、日本政府が尖閣諸島周辺海域での中国軍艦の動きにとりわけ神経をとがらせている結果であることは、アメリカ側としても十分理解できる。
しかしながら、そのような日本政府の姿勢は、一見したところ、南シナ海での中国政府による国際海洋法の一部制限と類似している。そのため、南シナ海で中国に対して圧力をかけようとしているアメリカ側の「正当化の根拠」と真っ向から衝突してしまう。そもそも南シナ海におけるアメリカのFONOPは、国際海洋法の大原則である航行自由原則を中国政府が認めないことに対抗して実施されているのだ。
だからこそ、南シナ海でのアメリカ海軍のFONOPを苦々しく思っている中国は、日本の接続水域や領海にまで軍艦を乗り入れることにより、日本よりも、FONOPを実施しているアメリカを困惑させようとしたのであろう。
実際に、今回発生した一連の日本接続水域や日本領海での中国軍艦の活動に対しては、アメリカ政府は口を閉ざしている状態だ。
この期に及んでも日本当局の指導者には「“アメリカと協力”して対処策を打ち出す」といった第三者的態度をとる者が見受けられる。しかし、中国が核兵器を持ち出さない限りは東シナ海沿岸域の防衛は日本自身の問題であり、アメリカが乗り出してくる問題ではないことは、アメリカ政府による今回の対応が雄弁に物語っている。
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